返却期限は守りましょう!
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■ショートシナリオ
担当:雪端為成
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月10日〜01月15日
リプレイ公開日:2005年01月19日
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●オープニング
「この時期学生もあまり多くは学校に残っていないでしょうが、少々頼みたいことがあります」
そういってギルドの受付を訪れたのは、20代半ばほどの女性である。
髪をぎゅっと後ろでひとくくりにし、パリッとした服装の身なりの良い女性である。
「私は、ブリジット。ブリジット・ブックスと申します」
きっぱりとギルドの受付に名乗るブリジット。眼差しは厳しくなかなかの女傑のようである。
「私、ケンブリッジの図書館の司書の一人ですが‥‥」
ただでさえきつい視線がさらに鋭さを増す。眼差しはさながら人を石へと変える魔物の睨み。
「‥‥許せないのです」
わなわなと拳を振るわせるブリジット。声はさながら地の底から響く呪詛の声。
「期限までに本を返さない利用者が許せないのですっ!」
思わず声を張り上げるブリジット。はっと気づいて恥ずかしげに目を伏せる。
ぎょっとした様子の受付はしばし依頼人が落ち着くのを待つ‥‥ちょっとビビリつつ。
「‥‥と、ということで私の代わりに期限を超過している人のところに出向いて本を回収していただきたいのです」
ようやく落ち着いたブリジットはかすかに頬を赤らめて言う。
「嘆かわしいことに3人もいるのです‥‥ああ、本がかわいそう! 一日でも早く本を取り返してください!」
さて、どうする?
※期限超過してしまった人たちは以下の3人。
サイモン先生
動物を沢山飼っているフリーウィルの先生、立派な紳士なのだがどこか愛嬌がある。
奥さんと娘さんと動物たちと一緒に郊外の邸宅に住んでいるが、本を借りたことすら忘れている模様。
動物についての本を借りている。
ジャスパー青年
勉強熱心なフリーウィルの学生。19歳の純朴な若者でおっちょこちょいとの噂。
寄宿舎に住んでいる‥‥もちろん部屋はそれなりに汚い。そしてなにやら女性に弱いとか。
古代の伝承についての簡単な本を借りている。
ジョゼフ老人
ケンブリッジの普通の学園にて子供に読み書きを教えて数十年の年老いた朗らかな先生。
娘さん夫婦と一緒に住んでいるが、なにやら最近もの忘れが激しくなったとか。
借りた本は吟遊詩人が残した各地の冒険談。
子供に教えてあげる予定だったのだが‥‥はて、何処に片付けたのだろうか?
彼の部屋はなかなか広い、どこにあるか探さなければいけないだろう。
●リプレイ本文
●青年の災難
「ジャスパーさーん。本返してくださーい。返さないと弁償ですよー。返さないと弁償ですよー」
そう言いながら、ジャスパーの部屋に踏み込んだのはシャルディ・ラズネルグ(eb0299)と数名の冒険者。
依頼を受けた冒険者の半数がジャスパーの寮へと本を取り返すためにやってきた。
ジャスパーの住まいはケンブリッジの学生寮。寮長に依頼を受けた旨を告げるとあっさりと中に入ることができたのだが、ジャスパーの部屋の様子は案の定、悲惨なものであった。
狭い室内に乱雑に置かれたさまざまな物。いつ洗濯されたか分からないような山積みの服。まさに男子寮と言った感じである。
「とっ、唐突にやって来て一体なんなんですか!」
状況の飲み込めて無い様子のジャスパー。それに対して答えたのはナスターシャ・ロクトファルク(ea9347)だ。
「私たちは司書のブリジットに頼まれて本を回収に来ましたの。とっとと本を返しなさい」
「‥‥で、でも大分前に借りた本だし‥‥何処にあるのか分からなくなったんだけど‥‥」
女性に弱い‥‥と言うよりは女性が苦手なジャスパーは高圧的なナスターシャに対して怯えた様子だ。
それを見据えるとびしりとナスターシャが言う。
「部屋を片付けてでも探しなさい。さもなければ、わたしが不必要と思ったモノは全部捨てでも家捜しするわよ」
睨み付ける視線には殺意すら篭っている。そしてとどめの一言。
「貴重な本を返しもしないで粗末に扱うなんて‥‥私は何事も努力しない輩や自分の力量も理解しない分不相応な輩が大嫌いなんです」
少女の冷酷な一言にジャスパーのみならず冒険者も背筋が寒くなったとか。
そして大掃除が始まった。
「‥‥さて。これは汚い部屋ですねぇ。とりあえず片付けないと」
にっこりと笑顔を浮かべてシャルディは言う。良いながらひょいひょいと適当に片付け始める。
「ほらほら、綺麗な部屋じゃないと女の子がお忍びでくることもできませんよ?」
にこやかだが容赦はない。さらにはたまに言うきつい一言に、ジャスパーは凹み気味。
「ブリジットさんが視線だけでひと殺せそうな目でにらんで『絶対に取り返して来い、返してもらうまで帰ってくるな』っていいました、直にでも返していただかないとあとで何されるかわかんないんですよ〜」
続いて御山映二(ea6565)がこっそりと告げる。その時のことを思い出してか怯えたような振りまでしての泣き落とし。
「期限超過だ絶対取り返して来いって厳命されてるんですよ」
にっこりと笑顔を浮かべてずずいと詰め寄る映二。
それでもなおムスっとした様子にジャスパーに映二は最後の手段を取る。
「どうしても返さないなら腕づくにでも取替えして来いって言われまして‥‥」
オーラエリベイションを自身に掛けて、腰の刀に手をかけちきりと鯉口を切る。無害そうな笑顔が逆に怖さを倍増だ。
必殺の気合を感じ取るジャスパー。これを見てやっと片付けを手伝い始めたのだった。
「えーっと、たしか本は茶色の革の装丁でっと‥‥」
ブリジットから聞いた本の詳細を思い出しながら、部屋を縦横無尽に飛びまわって探すのは劉蒼龍(ea6647)。
「‥‥しっかしケンブリッジは荒事が少なくって、身体がなまっちまいそうだぜ」
空中でぱたぱた羽ばたきながら、やる気無く片付けするジャスパーを見据える蒼龍。
「部屋を荒らされたくないなら、早めに本を出した方が良いと思うぜ? 体が鈍ってるし、久しぶりに運動でもしようかねぇ?」
そのまま空に拳を振るい、蹴りを放つ。びゅんびゅん風を切る音にジャスパーは慌てたように作業に戻るのだった。
「おっ! これじゃねぇか?」
二日かかってやっと片付いた部屋の隅で蒼龍がある物を見つけた。古ぼけたかばんの中に本が入っている。
「ああっ! それですそれです!」
涙さえ流して喜ぶジャスパー。よほど映二の脅しとナスターシャが怖かったようである。
「じゃ、これでひとまず一冊目は回収ですね。お疲れ様ですー」
シャルディがとっとと本を持って帰る。そして映二がポツリと一言。
「ふぅ、僕も読んでみたいですね、本‥‥」
●先生の騒動
「ごめんください! ボクぢゃない‥‥私たちは図書館のブックス女史の依頼で延滞本返却のお願いに参りましたー」
ケンブリッジ郊外のサイモン先生宅を訪れたのは4名の冒険者。その中でカンタータ・ドレッドノート(ea9455)がドアを叩いてご挨拶。
「‥‥と言うわけで、奥さんと娘さんも協力していただけますでしょうか?」
ジェシカ・ロペス(ea6386)が事情を説明した後、サイモン先生をはじめ一家総出で手伝っての探索。
こちらでもどうやらサイモン先生の記憶からはすっぽりと抜け落ちてしまっているようで、大掃除の様相である。
こっちの戸棚の中を開け。もしやこの机の裏にと言っては、机をどかし。がさごそがたごと始まったことで、動物たちもなんだなんだと顔を出す。
「ここなんて怪しいですよね」
ジェシカは先生と一緒に本棚の周辺を重点的に捜す。視力に優れ、たくさんの技能を駆使する彼女は効率よく作業をすすめるのだが‥‥なかなか簡単には行かないのである。
「もしかしたら、犬さんや猫さんが持って行ってたりしませんか?」
幾度か依頼でサイモン先生一家と面識のあるキラ・リスティス(ea8367)が尋ねる。
「うーん‥‥めったに書斎に動物たちは入らないけど‥‥もしかしたらあるかもしれないわ」
サイモン先生の娘のダイアナと一緒に寝床の小屋へと行こうとするのだが‥‥どうやら動物たちは遊んでくれるのだと勘違い。
ばぅわぅわぅ、にゃあにゃぅにゃお! あっという間にダイアナとキラは大きな犬と小さな猫たちにもみくちゃにされたのである。
「‥‥あぅあぅ、私も探さなきゃいけないのにー!」
犬と猫の下から声はすれども姿は見えず。それを見ていたのはカンタータ、綺麗な歌声を響かせてメロディーを使う。
ゆったりとした歌にこめられた魔力でじょじょに大人しくなる動物たち。しかし歌を聴いた対象全部を落ち着かせてしまったのか、まったりと犬猫に埋もれながらキラとダイアナものんびりと幸せそうだったとか。
「ほらほら、動物たちと遊ぶのもほどほどにしませんと‥‥」
のんびりマイペースで本を探していたのはエレナ・レイシス(ea8877)。何があったのかとばかりに動物たちを見つめる。
「借りた物は返していただきませんとね」
そして次の日、やっとのことで資料の山にうずもれていた本を見つけた一同。まだまだ仕事は残っているので動物たちともお別れである。
「君は大きくなるとステキなお嫁さんに恵まれますよー」
カンタータはいつの間にか仲良くなった猫のオーランドにそう行ってお別れ。
「また会おうね、ヴィゴ♪」
すっかり仲良しになった猫のヴィゴの背中を撫でてお別れのキラ。
ヴィゴもごろごろと喉を慣らして答える。
エレナもジェシカも犬の頭を撫でて、サイモン先生の家を後にしたのだった。そしてジェシカが疲れたとばかりに呟く。
「次で最後ですね‥‥」
●老人と探索
「図書館のブックス女史の依頼で延滞本返却のお願いに参りましたー」
今回も挨拶はカンタータの仕事。そうして、娘夫婦の協力も得つつ、最後の一冊を探し始める一行。
「あの‥‥なにか本の心当たりはありませんか?」
「おお、お嬢さん‥‥そういえばたしか‥‥」
ジョセフ老人と根気強く話しているのはキラである。しかしどうやらあまり収穫はない様子。
「ふむぅ、本も良いけどのー。やっぱりわしがいままで生きてきて大事だと思うのはのう‥‥」
話は脱線しまくり、本の話は記憶のかなた。やはり一番の強敵であるようだ。
「協力していただけますか? とりあえず一緒にジョセフさんの書斎から‥‥」
娘夫婦と一緒に捜しているのはジェシカであるが、どうもここではない様子。
「パーストでも分かりませんねー」
地道にパーストを使っていたのはカンタータ。しかしその努力も良い結果を出すにはいたらなかった。
映二もエレナもナスターシャも黙々と家の中を探すのだが収穫はなし。そんなとき違うところに目をつけたのが数名。
「一緒に本を探すのに立ち会って貰えますか?」
生徒の一人に同席させて、先生の意地やらプライドに訴える作戦のシャルディ。
「おお、よく来たのう! ‥‥えーっとおぬしの名前は‥‥」
「僕はラックだよ先生! 冒険者の人たちのために本を探すの手伝うんだよ」
「そうかそうか偉いのうルック」
残念なことにあんまり効果は無かったようである。名前間違ってるし。
「なぁ、君たちでこんな話がかいてあった本を先生が読んでくれたことあったか覚えてる奴はいないか?」
生徒たちに向かって聞いているのは蒼龍である。
子供たちはシフールの蒼龍が珍しいのかわいわいと集まって思い思いの声を上げる。
「うん、覚えてるよー」
「あの話面白かったよねー」
「僕なんてパパに読んで貰うために先生から借りたもんー」
‥‥‥‥こうして全ての本が揃ったのだった。
●本は大切に
三冊の本を無事ブリジットに返却し終わって、無事依頼は終了した。
「今回はありがとうございました! これからも手が足りないときは返却遅れの取立てをしていただけますか?」
思いのほか重労働だった今回の依頼。いつの日かゆっくりと本を読めるといいなぁとみんな思ったとか。