研究成果を取り戻せ!

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月20日〜01月25日

リプレイ公開日:2005年01月29日

●オープニング

「‥‥あまり大きな声では言えないのですが、頼みたいことがあります」
 そう言ってギルドを訪れたのは憔悴しきった様子の青年。
 擦り切れたローブに手のインク跡。何処からどう見てもウィザードの卵である。
「実は‥‥私の初めての研究をある人に盗まれてしまったのです‥‥」
 げっそりと頬はこけ、目の下にははっきりと黒いくまが出来ている。
 そして、彼は深々とため息をつくとことの詳細を語り始めたのだった。

「古代魔法語についての簡単な研究で、自分ではなかなかの出来だったのですが‥‥」
 手のひらに視線を落として呟くように言う。
「研究の途中で、同じクラスの人が手伝ってあげると言ってきたんです。‥‥でも、手伝ってもらってしまったのが間違いだったのです」
 頭を抱えるようにして、髪の毛をかき回す。
「彼が手伝ってくれて、最初は非常に助かっていたんです。資料集めや考証にも協力してくれたし‥‥。でも大分中身も纏まったときに、彼が資料と研究内容を書いたスクロールを持ち逃げしたんです!!」
 潤んだ目を上げて懇願するように見つめる。
「彼は僕の研究成果を全部書き写して、自分の物として発表するつもりなんです! 一緒に研究した所為で彼も研究の内容については熟知していますし‥‥」
 ぐっと膝の上で拳を握る。
「僕だって最初は先生に訴えたりしようと思ったんですが、いつの間にか怖い奴らを数人引き連れてて、脅してきたんです!!」
 そして、きっと視線を上げて決意を口にする。
「僕も一緒に研究した仲間と事を荒立てようとは思いません。だからあくまでもこっそりと探してきて欲しいんです‥‥ですがもし争いになるようでしたら‥‥僕が全責任をとります‥‥実は一発横っ面をぶん殴ってやりたいと思ってますから」
 涙目のまま、にっと笑顔を浮かべるのだった。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea0693 リン・ミナセ(29歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea5420 榎本 司(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6386 ジェシカ・ロペス(29歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea7095 ミカ・フレア(23歳・♀・ウィザード・シフール・イスパニア王国)
 ea8751 ヴァイゼン・キント(16歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9335 チュチュ・ルナパレス(17歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0486 グレイス・ストウナー(35歳・♀・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 eb0744 カグラ・シンヨウ(23歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●準備と憶測
「他人の研究盗むたぁ、随分ケツの穴の小せぇコトする野郎だな‥‥まぁ、もしかすると裏が何かあるのかもしれねぇけどな」
 腕組みをして依頼人のエルマーにそう言ったのはミカ・フレア(ea7095)だ。
「共同研究にできない理由があったのかしら? それとも誤解? 同じ古代魔法語を嗜む者として複雑ね」
 いぶかしげに首を傾げているのはチュチュ・ルナパレス(ea9335)。
「オスカー君はエルマー君のお手伝いを頑張ってた。横取りする気なら最初から頑張りやしないわ。だから、エルマー君の心配は誤解」
 そう断言するのはグレイス・ストウナー(eb0486)だ。そしてさらに言葉を言い募る。
「たぶん‥‥エルマー君は文章を書くのが致命的に下手なのかも。でも本人に正直に言う訳にもいかないから、研究をこっそり仕上げてエルマー君の名前で提出してしまおうと考えたんじゃないかしら?」
 しかしこれにはエルマーも反論する。怒りに拳を震わせて。
「確かに今まで一緒に研究してきて、急に私の研究を奪ったのは不思議ですが‥‥文章を書くのが下手だとかの理由で暴力に訴えてまで研究を取り上げたりはしません!」
 やはり話し合っていてもどうしようもなく、真相は本人に聞かなければいけないようである。

「ともかく作戦を。2つの班に分かれましょう。一方はオスカーの家を捜索して、もう一方は手紙でおびき出したオスカーに直接接触するということいいでしょうか?」
 そう提案したのはジェシカ・ロペス(ea6386)。
 それぞれの思惑と推測はさておき作戦は纏まった。しかしエルマーは一点だけ譲らない。
「私は彼と直接会って話を聞きたいですから、待ち伏せする班と一緒に行動します」
 そして、着々と準備は進む。

●手紙と下調べ
「何となくなんですが‥‥何か引っかかるといいますか。研究成果だけを欲しがる方とも思えないですし、何かがあって顔をあわせられずに篭ってるのだとしたら‥‥」
 今回の事件のために、エルマーの研究について聞き込みをしているのはリン・ミナセ(ea0693)だ。
「まぁ、ともかく直接真相を知らなければ分からないからな‥‥とりあえず情報収集だ」
 そう答えたのは榎本司(ea5420)。彼は司のことを兄のように慕うリンと2人で行動しているである。
「そうですね、司さん。やはり基本は話す事‥‥それに尽きますよね。もし、何らかで研究成果が可笑しな事になっていても2人でやればまた取り戻せるのですし」
 司の立案でエルマーの研究にオスカーが関わっていたかをどれほどの人間が知っていたかを聞き込む2人。
 だが分かったことは、ほとんど無かった。一介の学生であるエルマーの研究について知っているのは担当の教師程度である。
 だが逆にそのことで、非常に閉鎖的な状況で今回の事件が発生してることがわかったのだった。
「ふむ、やはり教師に伝えると手紙に書くのが一番効果的なようだな‥‥」
 そして、この情報は他の仲間に伝えられ、いよいよオスカーをおびき出すための手紙が書かれることとなった。

「手紙の内容は‥‥まず、話し合いがしたいということ。次に話し合いの詳細についてだな」
 エルマーに手紙を書かせながら内容を考えているのはカグラ・シンヨウ(eb0744)だ。
「リンと司が言っていたように、本人が顔を見せなければ教師に通報すると書いた方が強制力が増すだろう」
 同じく内容を監督するのはヴァイゼン・キント(ea8751)。
「なるべく離れている場所の方が良いだろうな‥‥」
 ヴァイゼンの意見で場所が決まり、カグラは最後にエルマーに問う。
「やっぱり最初の決意は変わらないのか? 私個人としては、根本的な解決の為にも直接接触する班について貰いたいと思ってるのだが、危険だぞ?」
「ええ、もちろんです。依頼人の私が物怖じするわけには行きませんから」
 そして、手紙は結局ヴァイゼンの手によって届けられることになった。
 エルマーから頼まれた通りすがりを装ってオスカーに手紙を届けるヴァイゼン。その場でオスカーが慌てて文面を確認するのをこっそりと見届けるとヴァイゼンはその場を離れた。
「さて、これで準備は整ったな‥‥」

●捜索と待ち伏せ
 オスカーがその取り巻きと一緒に居る部屋の近くに捜索担当の面々が揃っていた。
 そして手紙に記されてあった時刻まであとすこし。
 すると計画通りオスカーは取り巻きを連れて約束の場所へと移動したのだが‥‥人数が足りない。
 どうやら、2人ほど取り巻きが部屋に残っているようだ。
「よしっ! じゃ、俺は連絡してくるからな! みんな頑張れよ!」
 それを見届けるとミカは連絡役として、弾丸のようにエルマーたち接触する班の元へと飛んでいく。
「あら、オスカー君は論文製作のために残ると思ったのに‥‥まぁ、いいわ。とりあえず論文を探さないとね」
 グレイスがそう言って部屋へと踏み込もうとすると‥‥突然歌いだすチュチュ! どうやら戦闘の緊迫感で狂化したようだ。

 友よ 君求むる夢いずこ
 力を頼むや? ならば遠きに追い求めん
 腕 届かぬ所 冒険者の元
 心に探すや? ならば静かに目を閉じよ
 近過ぎ見えぬまことを見よ
 友よ 友よ
 同じ志もつ者よ

 ‥‥‥突然止まる歌声。何事かと取り巻きたちが部屋の外に出てくる。
「‥‥同志も居ないあたしの身にもなれ! この、おバカの分からず屋! ‥‥シャドウバインディング!」
 狂化して逆立つ髪を振り乱し、深紅の瞳を見開いて魔法を放つチュチュ。見事取り巻きの1人を動けなくする。
「無駄な抵抗はおやめなさい!」
 鋭い一喝とともに矢を足元へと射掛けるジェシカ。それに驚いた取り巻きの元へと間合いを詰めるヴァイゼン。
「眠ってるんだな」
 ダブルアタックでスタンアタックを連続して放ち、一瞬で気絶させる。
「‥‥それじゃ、探しましょうか」
 グレイスが言う。そして数10分後、一行は書きかけの研究を無事に発見するのだった。

 一方その頃、エルマーたちは‥‥。
「一体何の用だ、エルマー! 冒険者を雇うなんて卑怯な奴だな!!」
 怒声を上げるオスカーと取り巻きたち。それに対峙するエルマーと冒険者。
「一体なんであんなことをしたのかもう一度聞きたかったんだ、何故一緒に研究するというのではいけないんだ?」
 エルマーが問いかける。するとオスカーは追い詰められた者の凄惨な笑みを浮かべて答える。
「お前には分かるもんかっ! 無理やりにでも言うことを聞いてもらうぞ!」
 そして、戦いの火蓋は切って落とされた。
「‥‥どうして話し合いができないんでしょうか‥‥ファンタズム!」
 ナイフの幻影を取り巻きの一人の眼前に出現させ惑わすリン。その隙に間合いを詰めるのは司だ。
「手荒なことはしたくなかったんだがな!」
 鞘ごと日本刀を振りぬいて、幻影を飛んできたナイフだと思って一瞬足を止めた取り巻きの一人を打ち据える。
「悪ぃが、俺達もお前らも今回は脇役だ! ちょいと黙っててもらうぜ!」
 連絡係を果たしたミカがそう一喝してファイアーボールの呪文をとき放つ。
 爆風に吹き飛ばされた取り巻きたちをさらにカグラのホーリーが襲い、一人ずつ行動不能にしていった。
 そして、取り巻きは全員行動不能にさせられ、残ったのはオスカーただ一人。

●友情と‥‥
 ちょうどその場所にオスカーの部屋を捜索していた面々が戻ってきたのだった。
 手には、取り返した資料と研究成果を携えている。
 それを見たオスカーはがっくりとうなだれる。
「悪ぃが、エルマーの奴がお前とサシで話したいって言うんでな。‥‥ま、火達磨になる覚悟があるってんなら話は別だが」
 ミカがそういって睨みを聞かせる。先ほどの戦闘力の差も見せ付けられ、観念したかのようにオスカーは呟く。
「‥‥僕は、いつもエルマーに勝てなかった‥‥どんなに努力しても、必ず僕の何歩も前をエルマーは‥‥」
 オスカーはぶつぶつと呟き続ける。
「でも、エルマーさんは共同で研究しようとしたんじゃないですか」
 リンがオスカーに問いかける。するとオスカーは叫ぶように告げる。
「共同じゃない! あくまでもエルマーが主体になんだ!! 僕は所詮補助しか出来なかったんだ!」
 その言葉にエルマーは口をつぐむ。
「一度で良いから、認めてもらいたかったんだ‥‥」
 ‥‥エルマーは何も言わずに立ち尽くすのであった‥‥。

「もう一度、研究は作り直すことにしました」
 結局エルマーは今回のことを表ざたにしなかった。怪我を負った取り巻きも、カグラがリカバーで癒したのである。
 オスカーも罪に問われることは無かったが、学生を続けることが出来るかは本人次第だろう。
「私ももしかするとオスカーを見下してるときがあったのかもしれません‥‥」
 少しだけ悲しそうに告げるエルマー。冒険者の面々もかける言葉を見つけられない。
「‥‥でも、また一緒に研究しないかもう一度頼んで見るつもりです。今度は共同で最初から最後まで全部やってみようかと」
 晴れ晴れとした顔で告げるエルマー。
 結局冒険者たちの働きも無駄ではなかったようであった。