アラン先生の課外授業 〜理論編〜

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月03日〜02月08日

リプレイ公開日:2005年02月09日

●オープニング

「‥‥ここケンブリッジでも武闘大会とやらがあるそうではないか」
 ギルドを訪れたのは、マジカルシードの教師、アラン・スネイブル先生その人である。
「しかし、大概のウィザードはそのような武闘大会などには向かん。腕力、体力ではなく知力、精神力で戦うのだからな」
 とつとつとギルドの係員に告げるアラン先生。
「しかし、だからといってウィザードなどの魔法を扱う者が怠けて良いというわけではない」
 ばさっとローブを後ろに払うとぐっと身を乗り出す先生。
「故に魔法の腕を衰えさせないためにも我輩も課外授業を開くことにした」
 びしりと背筋を伸ばして係員を睥睨する。
「しっかり書き留めておけ‥‥今回は戦闘における魔法についての課外授業を開く。学生以外の参加者にも門戸を広く開くように」
 顎に手を当てて考え込むかのように目を細めてさらに言葉を繋ぐ。
「対人戦などは行わないが、頭はしっかり使ってもらおう」
 そして、かすかに口の端を吊り上げて薄く笑みを浮かべる。
「まず今回は理論だ。各々が持つ技術から導き出した戦術を述べてもらおう。複数で協力することによる新たな戦術なども考えるが良い」
 そしてぐるりとギルドの中を見回す。
「もちろん実習なので報酬は無い、それでもいいなら参加するがいい」
 そして、最後に一言。
「優秀な者が集まることを期待しよう‥‥」

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea2253 黄 安成(34歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea7443 永連 零(26歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8367 キラ・リスティス(25歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea9347 ナスターシャ・ロクトファルク(25歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9520 エリス・フェールディン(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9854 淋 慧璃(33歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0299 シャルディ・ラズネルグ(40歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●議論は躍る
 マジカルシードのとある教室を借りて、議論が行われていた。
「門外からの為、先生の講義は初めてになるはずです。どうぞ宜しくお願いします」
 礼儀正しくお辞儀をして、発言したのはカンタータ・ドレッドノート(ea9455)。
 アラン先生も礼を返し、意見を促す。
「ボク‥‥私は前衛があるという前提で、イリュージョンを工夫してお手伝いできればいいなと思ってます。戦意を挫くことに主眼を置いてメロディーの使用も出来るのですが、メロディーに関しては事前に範囲内で対象の選択が出来ないという指摘をもらっていますし、もちろん自覚もあります」
 ちらりと今回の議論に際して、他人の魔法の弱点などを指摘をしていたナスターシャ・ロクトファルク(ea9347)に目をむけるカンタータ。
「例えば撤退を呼びかけてお友達も帰ってしまわれては困りますからね」
 それを聞いてアラン先生も頷く。
「確かにそのとおりだ。だがメロディーは魔法の技量の他、歌の技量も問われる魔法だ。それにイリュージョンも強力な効果を持つ魔法だ。魔法の精度の上昇とともに戦略の幅も増えるのだから努力を忘れないように」

 続いて発言したのはシャルディ・ラズネルグ(eb0299)である。アラン先生とは同じ地の精霊魔法を修得する身。議論にも力が入るようである。
「私の戦術としてはフォレストラビリンスで敵の足止め、プラントコントロールで相手の行動阻害・後衛位置からの近接格闘、レビテーションと優良視覚で遠距離偵察をしたりできます。レビテーションで敵の視覚外に移動しておきプラントコントロールやフォレストラビリンスを使うことで相手を恐慌状態に陥らせることも可能でしょう」
 そこで、ふと問いかけるシャルディ。
「イリュージョンとフォレストラビリンスを併せてみると効果的かと思うのですが‥‥」
「精神に影響を与える魔法を重ねることは可能だし、確かに効果的だ。だが、フォレストラビリンスには仲間をはじめ術者自身も影響を受けることを忘れてはいけない」
「はい、わかりました。私はプラントコントロールの強みは運用の幅広さであると思います。攻撃戦力が必要なら枝で攻撃し、敵の魔法使いが厄介なら根を操り行動不能にすることができる。この運用の柔軟さは他の魔法に追随を許さないと思っております。ただ、使用するフィールドに制限があるのが最大の弱点ですね‥‥そういえば、落葉は対象外なのでしょうか?」
「プラントコントロールの魔法が影響を及ぼすのは生きた植物だけだから落ち葉は操作できない。それに一度に扱えるのは一対象だけということも忘れてはいけない」
 そこで言葉を切るアラン先生。
「しかし、特定環境に特化するという考え方は評価に値しよう。万能の魔法使いなんぞは存在しないのだから」
 そう言って、アラン先生は鷹のマント留めをシャルディに渡すのだった。

●前衛と魔法
「わしは今回この議論に前衛の意見も必要だと思って参加したのだ。自分が考えている魔法とのコンビネーションを教え合う良い機会だと思ったしの」
 そう言うのは黄安成(ea2253)。
「まずはブラックホーリーだの。相手に隙を生ませるための威嚇・牽制攻撃として。もしくは後衛に回った場合に仲間を援護する支援攻撃に使用する」
「ふむ、前衛が遠距離攻撃の手段を持っていることは効果的だろうな。ただしブラックホーリーの威力の低さを忘れないことだ」
「‥‥了解した。それにもう一つはリードシンキングだの。今は接触でしか使えないのじゃが、そのうち遠距離で使えるようになって相手の攻撃を先読みするために使いたいと思っているだがのう」
 ここで口を挟むナスターシャ。
「前衛が魔法を使う場合は高速詠唱が欠かせません。詠唱時間や詠唱中の無防備さなどの欠点ですし、高速詠唱が無いのであれば事前準備が出来る魔法を補助に据えた方が効率的です」
 臆面も無くずかずかと意見するナスターシャに台詞を奪われて、憮然とするアラン先生。
「ミス・ロクトファルクが代わりに先生をやるかね? ‥‥リードシンキングはあくまで表層の意識を読むものだから、眠っている者や意識のない相手には仕えないことを覚えておくがいい」
 頷いて最後に戦術について安成が述べる。
「自分のような前衛が攻撃を仕掛け後衛側が最後の一撃を魔法で掃討。もしくは、後衛が魔法で相手の戦力を大幅に削り残った者を倒すために前衛側が追い討ちをかけるというのがシンプルで最も使いやすいのではないかの」
「ふむ、基本的な戦術ではそのとおりだろう。メンバーが違えば作戦には多くの選択肢があるのだ。魔法について前衛が学ぶことも重要である記憶しておくように‥‥」

 そして、次に発言したのはどこか緊張気味の永連零(ea7443)だ。どうやら厳しいアラン先生が苦手なようである。
「えっと、私の場合はオーラパワーについてだね。効果については他の人が説明してたと思うけど‥‥」
 促すようなアラン先生の厳しい視線に気づいて、精一杯頭を捻る。
「‥‥この魔法、発動の瞬間、術者が淡いピンクの光に包まれて見えるんだ。だったら、暗闇で敵の目を引き付けるようなことをすることもできるよ。そうしたら、戦術の幅が少し広がる時もあるとおもう。あと、ファイターや浪人など魔法がつかえなくて魔法武器しか効かない相手に苦労する人達にも付与してあげる事が出来るし‥‥」
 それを聞いて、アラン先生は感心したかのように目を細める。
「ふむ、それはなかなか貴重な意見だ、ミス永連。魔法は発動時に目に見える効果を及ぼす場合が多い。このことに留意しておかないと、足元をすくわれることになるだろう。だが逆にミス永連のように利用することも出来るだろう。この意見は評価に値する‥‥」
 アラン先生は生徒の間を歩いていき、彼女の机にぽとりと船乗りのお守りを置く。
「オーラの修得も忘れないように」

●教科は狂化?
「今回は依頼なので私の理論を通すのは我慢します‥‥」
 苦々しげに呟いて、意見を言い始めたのはエリス・フェールディン(ea9520)。錬金術をこよなく愛する彼女らしい発言である。
「私はエリス・フェールディンと申しまして、錬金術の教師をしております」
 すっくと立ち上がって、近くに立っていたアラン先生に握手を求め、アラン先生も不承不承ながらそれに応じたのだが‥‥その結果エリスは狂化する。
「わたくしは錬金術、射撃術、おまけとして本当は魔法ではないのですが、一般的に云う魔法によるコラボレーションによる戦闘方法についてですわ、おっほっほ!」
 髪を逆立て瞳を赤く染めたエリスに一歩引くアラン先生。
「まず錬金術で人に有害な液体を用意するのですわ! そしてそれをサイコキネシスで浮かせて投げるのですわ! これで相手は物理的なダメージと毒によるダメージの双方のダメージを受けると云うわけです! おーっほっほ!」
「‥‥まず第一に有毒な物質を用意するのは、錬金術師としての高い能力が要求されることと、魔法によって投げたとはいえ射撃の技能が必要だということ‥‥」
「魔法ではありませんわっ! サイコキネシスは、物が落ちる方向を逆転することで動かせているもので、決して魔法ではないのですわ!」
 呆れたようにアラン先生が見ていると、今度は淋慧璃(ea9854)が発言する。
「あたいは、武道家だから、オーラだ。まぁ、あたいはオーラパワーしか使えないから、これの有効利用方法について説明するな」
 そういって、何処からか訓練用の人形にぼろぼろの鎧を被せたものを持ってくる。後ろでは狂化中のエリスの高笑いが聞こえるが、一同はあえてこちらに注目。
 オーラパワーを付加し、強烈な踏み込みとともに、素手で鎧に一撃する慧璃。するとぼろぼろの鎧は砕け木製の人形にも拳が突き刺さる。
「これで、通常の武器が効かないアンデッドの鎧も破壊できるぞ」
「攻撃が効かないアンデッドには実体を持たないものが多いが‥‥」
 呆れ顔でそう指摘したアラン先生に対して、慧璃はきょとんとするとにかっと笑ってぽんと肩を叩いてしまう。
「おぉ、そうかそうだよな! ‥‥(ぽんと叩いて狂化)‥‥先生って頭いいんだねぇん♪」
 唐突に色気を振りまき始めた慧璃にからまれて、アラン先生は珍しくため息をつくと一言。
「‥‥サイコキネシス」
 達人の腕前を持つアラン先生は、慧璃の頭が冷えるまで空中に浮かしていたり。
 そうして、やっと落ち着いた2人のハーフエルフは‥‥
「すいません、以後気をつけます」
「ごめん、先生」
「‥‥魔法以前にハーフエルフの諸君は狂化とうまく付き合うことも大切だ。心しておくのだな‥‥」
 心なしかアラン先生も疲れた様子であった。

●学生の本分
 続いて意見を述べ始めたのはナスターシャである。他人の魔法に注釈を加え、いろいろとアドバイスしていたようであるが‥‥。
「私は個人でなら高速詠唱のストーンウォールを敵と自分の間に作り、攻撃から身を護ったり足止め、または倒す事で相手を押しつぶす事を基本とし、パーティ戦では味方が危険だと思えば味方を護るようにストーンウォールを発動させ、囲まれそうな場面で敵の前にストーンウォールを張り足止めをしたりと個人戦術を全体に適応する形をとります」
「ふむ、しかしストーンウォールの射程が3メートルだということを忘れてはならん。味方に使用する場合前衛が対象ならば、前線に居るということになるからな」
 先生の言葉に対して、自信たっぷりに答えるナスターシャ。
「はい、分かってます。そして自分戦術の利点はパーティの構成や戦闘方法にあまり左右されず、臨機応変に適応させる事が出来る点で欠点は術の発動を高速詠唱に頼る分、術者にそれなりの技量を求める点です」
「‥‥まずそこまで自信過剰なのは好ましくない。敵が飛行できる場合や土が無い状況での戦闘ならストーンウォールは意味を成さないからな」
 さらに低く囁くように難点を指摘するアラン先生。
「ストーンウォールは初級で使ったのならば高さ1メートル。接近した相手の前に立てても、通常攻撃は上を通過する可能性がある。高速詠唱で専門クラスの魔法を行使出来るようになることが課題だ。あえて他人の魔法の欠点を指摘せずとも、各々は理解している。人に一言言う暇があればさらに努力することだな」
 冷徹にそう言うとアラン先生は次の生徒へと向き直る。

 最後に発言したのはキラ・リスティス(ea8367)だ。
「‥‥魔法は使う私よりも詳しい人がいるみたいですしこれに関しては殆どいりませんね」
 まずは憮然としてナスターシャを一瞥するキラ。
「まずライトニングアーマーは自衛のために選び学んだ魔法です。この魔法の問題は狭い場所、密集状態ですと味方にダメージを与えかねないところですね。リカバーをかけてもらった相手にダメージなんてことになりますし‥‥」
「あ、ライトニングアーマーを活用する為にはホイップがあるといいと思うんです」
 カンタータがそう意見し、それに頷いて無言で先を促すアラン先生。
「もう一つはヘブンリィライトニングですが、指摘されたとおり使用条件の厳しさが問題ですね。それでも精度さえ上げれば、限定下に置いてとても強い魔法となると思われます。ウェザーコントロールやレインコントロールを使える人の協力が有ればさらに使いやすくなりますし‥‥」
 そして、ふと顔をほころばせて照れくさそうにキラは言う。
「‥‥戦闘と関係ない使用法として、肝試しなどでは自然の効果音として使えますね。とても疲れますが」
 意表をついた意見にアラン先生も面白いと思ったのか目を細める。
「あとはスクロールです。プラントコントロールやムーンアローのスクロールを持っているのでヘブンリィが使えない場合は多少はカバーできると思われます」
「確かにヘブンリィライトニングは使用条件が厳しい魔法だ。だがそれをどうすればクリアできるかを考えているのは評価に値する。それにウィザードの強みとしてスクロールの使用を挙げた点も評価しよう」
 無言でキラに、ファー・マフラーを渡すアラン先生。そして、顔を上げると全員に対して言う。
「いろいろな意見を聞いて分かっただろうが戦術は千差万別だ。まずは自分の弱点を自覚するように。冒険者として活動する諸君が、一人で冒険に赴く機会は少ないだろう。他の人とどう協力できるかも留意して置くがいい」
 さらに厳しい顔つきで続ける。
「学生の諸君は自分が学生であるということを忘れないように。たとえ冒険者であろうともモラルとルールは存在するのだ。今回の講義で得たことを糧にこれからも努力するように」
 これにて授業は終了。参加者の面々が多くを得たことを期待しよう。