森の暴君

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月13日〜02月18日

リプレイ公開日:2005年02月23日

●オープニング

 ぐるるるるるる‥‥
 唸り声をあげて彼は身を起す。
 彼の脳裏を占めるのは、たった一つの感覚。
 焦がすような飢餓感。
 今年の冬は餌が足りなかったのだ。
 のっそりと斜面に空いた洞穴から外に出る。
 森はひんやりとして、自分以外の存在は見当たらない。
 食べ物が必要だ‥‥一刻も早く。
 肉。血の滴るような生の肉。新鮮で暖かい肉。
 ふと風に乗って聞こえるのは、声。
 ああ、よく森に迷い込んでくる脆弱な種族だ。
 普段の彼なら見向きもしない。
 奴らは遠くから自分を見かけただけで逃げていくからだ。
 しかし今日は違う。
 身を焦がす焦燥感。圧倒的な飢餓感。
 獲物はすぐ近く‥‥あとは大きく振りかざした右手を振りぬくだけ。

 そして、森の暴君は飢餓感を鎮めるために動き始めたのだった。

「今回の依頼は、森で熊を退治するってだけだ」
 ギルドの係員が冒険者たちにそう告げる。
「しかし、舐めてかかるなよ? 熊は近くの住民にはヌシとして恐れられてるどでかい熊だ」
 若い冒険者を脅かすようににやりと係員は笑う。
「グレイベアと呼ばれる凶暴な熊だ。別名グリズリー‥‥今は冬だし特に気が立ってるからな。生きて帰って来いよ」

 さて、どうする? 

●今回の参加者

 ea0909 アリティシア・カーザンス(20歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1003 名無野 如月(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4823 デュクス・ディエクエス(22歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8234 梁 明峰(39歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8316 アクア・ラインボルト(36歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea8893 レックス・エウカリス(28歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9462 霞 遙(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb0826 ヴァイナ・レヴミール(35歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

アルマ・カサンドラ(ea4762

●リプレイ本文

●準備は万端
「‥‥大熊ですか、この時期に活動してるなんて聞いた事もありませんが‥‥恐ろしく飢えているでしょうね。冒険者を雇ったのは正解でしょう。さ、被害が出ないうちに何とかするとしましょうか‥‥」
 そう言ったのは霞遙(ea9462)。今回彼女の仕事は熊に対する罠の作成である。
「1人じゃ大変だろ? 指示してくれりゃ簡単な事くらいできるだろうから、穴掘りとか‥‥なんか雑用ぽい事があったらどんどん言いつけてくれて良いぜー」
 そう遥に声をかけたのはレックス・エウカリス(ea8893)。罠作りを手伝っているようだ。
 罠の内容は、主に二つ。鳴子と落とし穴である。
 とりあえずロープと木で工作に長ける遥が鳴子を作り、落とし穴を掘る指示を出している。
「森の中‥‥俺、あんまり良く分からない‥‥迷子にならないように‥‥」
 罠作りの最中に周囲の警戒をしているのはデュクス・ディエクエス(ea4823)。
 森のそばにあった古びた炭焼き小屋の周囲を拠点として熊をおびき寄せる作戦のため、周囲の警戒に余念が無いようだ。
「名無野姉さま、手伝いは‥‥」
「あん? とりあえず手は足りてるよ」
 答えたのは名無野如月(ea1003)。煙管をくわえたまま、ざっくざっくと土を掘り返している。
 そうこうして、足をはめるだけのいくつかの落とし穴と、鳴子が完成した。
 一方小屋へ向かう途中で一軒の農家から鳥を数羽譲り受け、内蔵と血を囮とするための準備は万端である。
 罠を作り、罠の周囲に血と肉を撒いて、匂いでおびき寄せる。
 準備は整った。あとはグリズリーが現れるのを待つだけであった。

●決戦前の一休み
「熊殺し、か‥‥。むふふ、燃えるではないか‥‥!!」
 凶悪な熊との対決に心躍らせているのは如月。熊を待つ間に小屋の中で暖をとりつつ、紫煙をくゆらせている。
「保存食ばかりじゃ味気ないし‥‥道具も有るし‥‥簡単な料理を作ったわ」
 そういって、簡素な料理を振舞っているのは梁明峰(ea8234)だ。
 外は寒いが小屋の中は暖かい。さらには優れた腕を持つ明峰の料理によって一同は英気を養うのであった。
「これで熊来るかなぁ? お肉美味しそうに焼けてるけど‥‥。食べちゃいけないんだよね‥‥がまん、がまん‥‥え、食べていいの?」
 余った肉を焼きながら、それを振舞われて美味しそうに頬張っているのはアリティシア・カーザンス(ea0909)。
 とても幸せそうな顔で肉を齧っているが、いつでも戦えるように体を温め準備には抜かりが無い。
 そうして、数刻ゆったりと英気を養う一同。交代で眠りにつきいつでも飛び出す構えである。
 そして、朝方。遠方からかすかに鳴子の音が響いてきたのであった。
 仕掛けた鳴子のうちどれかになにかがかかったのだろうか‥‥。
 即座にブレスセンサーを唱えるアクア・ラインボルト(ea8316)。魔法によって対象の大きさを知り、アクアは一言言い放つ。
「‥‥来たわ」
 かくして戦いの火蓋は切って落とされた。

●暴君との決戦
 がさがさと茂みをかき分け姿を現す一頭の巨大な熊。灰褐色の毛皮に覆われた3メートルもの体躯は凄まじい威圧感である。
 まさしく森の暴君にふさわしい威容。準備を整えた一同も気合が入るのであった。
「これで準備は万端だ‥‥頼んだぜ」
 前衛の如月とデュクスにバーニングソードを付与したのはレックスだ。
 間髪おかず小屋から持ち出した燃え盛る松明の炎をファイヤーコントロールで操る。
「ようし‥‥さっさと終わらせて、熊鍋で一杯やりたいものだな」
 にやりと笑みを浮かべて、日本刀とライトシールドを構える如月。
「梁兄さま‥‥名無野姉さま‥‥いきます」
 ちゃきりと日本刀を構えて、距離を測るデュクス。
「詠唱中はアタシが守ってやるよ。コッチに注意をひきつけないとね‥‥」
 拳を構えて、後ろのウィザードたちをかばうのは明峰である。
 グリズリーと冒険者たちの距離は大分近づいてきている。くまは冒険者たちに気づいたようで、警戒しながらも血の匂いと肉が気になっているようだ。
 ずんっ! 足が一つの罠に嵌る。だがしかし、対して傷を負うことなく足を穴から抜いて、怒りのうなり声を上げるグリズリー。
 さすがに短い期間ではそこまで大きな落とし穴は掘れなかった様であり、落とし穴はどうやらグリズリーの怒りに火をつけただけのようである。
「‥‥来るよ、そろそろ。気を引き締めていこ?」
 詠唱を開始したのはアリティシア。そして、最初の一撃を放つ!
「ウォーターボム!!」
 高速で飛翔する水球は狙い通りグリズリーに直撃する。‥‥が、グリズリーはかすり傷程度にしか感じてないようである。
 ぐるるるるるるる‥‥
 さらに怒りを膨らませて、一歩一歩近寄ってくるグリズリー。
 戦闘開始!!

「みんな気をつけて!! いくわよ‥‥ライトニングサンダーボルト!!」
 射線に仲間が居ないことを確認して雷撃を放つアクア。しかしこの雷も軽傷程度しか与えていない!
「ちぃ! きかねぇ!」
 操る炎をぶつけて見るも、大した効果をあげてないために、悔やんでいるのはレックスだ。
「落とし穴に落ちれば多少は動きが鈍ります‥‥私が注意を引きます」
 分身の術を使い幻影を出現させたのは遥。さらに疾走の術で速度を上げてグリズリーの眼前に躍り出る遥。
 ぐるるぅぉぉおおおおお!!!!
 後ろ足でしっかと大地を踏みしめ、両の腕を振るうグリズリー。しかしその一撃は遥の幻影をすり抜ける。
 その隙に手裏剣を放ち、注意を引く。
「あなたに恨みはないのですが‥‥危険と知って放置もできません。‥‥覚悟を」
 爛々と輝く狂獣の瞳にひたと視線を止めて、遥はもう一方の手裏剣を放ち誘導する。
「んもー、ちょっとは大人しくしててよね!!」
 効果が薄いとは知りながら、誘導のためにウォーターボムを放つアリティシア。
 ぐるぅぅぅぅぉお!!
 邪魔な羽虫を振り払うかのように、腕を振り回し、近づける隙を与えないグリズリー。
「‥‥これで‥‥どうだ‥‥」
 すっとグリズリーの後背に回り込み、一瞬の隙に斬りつけるデュクス。
 しかし、その一撃はグリズリーの爪にがっきと阻まれ、危うく回避する羽目になる。
「ふん、かかって来な!!」
 すっと前に躍り出たのは如月。盾を構えてカウンターの構え。
 ぐぅぉおおお!!!
 なめるなとばかりの右腕の一撃を辛くも受け流す如月。
「ちぇすとぉぉぉ!」
 返す刀で切りつけるが、カウンターを使用してもまだ浅い! 中傷の傷しか与えられず、続く左腕の一撃をまともに受けてしまう!
「ぐぅっ!」
 一撃で中傷を負い、弾き飛ばされる如月。しかしそれを追いすがろうとしてグリズリーは再び落とし穴に踏み込んでしまう。
「いまだっ!!」
 苦し紛れに振り回す腕をかいくぐり接近する明峰。両拳でスマッシュによって威力を増したダブルアタックを放つ!
 見事グリズリーの胴に深々と突き刺さる拳を覆う龍叱爪。さすがのグリズリーも連続で攻撃を受け苦しがっている。
「これで‥‥終り!!」
 日本刀を大上段に構えたデュクスが高々と掲げた刃の重さを生かして、グリズリーへとスマッシュEXを叩きつける!
 ぐぅるるるるぅぉぉおおおお!!!
 森に響くは暴君の雄叫び。度重なる攻撃に瀕死の傷を負った森の暴君は、さらに与えられる連続攻撃の前に、なす術も無く倒れるのであった。

●戦いの後は
「‥‥ちょっと動かないでください、名無野姉さま」
 応急処置をしながら如月に言うデュクス。
「いててて‥‥しかし、これで私らも熊殺しだよな♪」
 嬉しそうなのは如月。
「この結果なら問題ないはずだな」
 地に伏した巨大なグリズリーを見下ろして呟くは明峰。
「やっぱり人と接触するのを避けると戦闘ものの依頼になっちまうよな‥‥」
 緊張覚めやらぬのかやれやれと嘆息するレックス。
「この称号が手に入ればあたしもいち冒険者として伝説が!!」
 嬉しげに叫ぶのはアリティシア。
 派手な伝説ではないだろうが彼ら冒険者の歴史にはしっかと刻まれたであろう今回の熊退治であった。