●リプレイ本文
●実力を示そう
「一番手はそこのバードかね? 一体どういった手で我輩を感心させてくれるのかな?」
しかめっつらしく告げたアラン先生。一同は校庭にて、各自さまざまな用意をしてきたようである。
「では私から‥‥インビジブル」
そう唱えて、姿を消したのはシアン・フューレ(ea1925)。このまま刺すのが彼の戦法のようであるが‥‥。
「私は応用の利く変わった魔法の方が好きだしね‥‥その一例を見せてあげるよ」
声はすれども姿は見えず。どうやら何か悪戯をするようだ。
「あっ! 誰かが肩を‥‥」
驚きの声を上げたのはエレナ・レイシス(ea8877)。どうやら、後ろから肩を叩かれたようだ。
「‥‥こういう風に、姿を消して忍び寄るのが私の戦法だよ‥‥」
再び静かに動く気配。どうやら今度はアラン先生の方へ行こうとしているようだ。
背中に近づこうとして‥‥アラン先生がはずして投げつけたマントに包まれていく手を阻まれる。
「‥‥確かに、ある程度脅威とはなるだろう。だが探知系の魔法には通用しないこともある。‥‥それにたとえ透明化していようと、直感に長けるものには看破される」
マントの形に浮かび上がるシアンの肩をばしりと叩くアラン先生。どうやら、消えた瞬間からバイブレーションセンサーを発動していたようだ。
「‥‥以上が私の戦い方。魔法のデメリットや視覚以外の点を上手くカバーするのが目標かな。時間を稼いでくれる前衛や、天候を操作できる人がいるとありがたいね」
「忍び足などを修得するのもいいだろう‥‥」
そして、次に立候補したのはエレナだ。
「私は正確にファイヤーバードで攻撃できるかというものでいきたいと思います」
そういってファイヤーバードの詠唱を始めるエレナ。
木製の的をあらかじめ用意して、地面に立てた杭に固定してそれを目標とするようだ。
「‥‥では、いきます。ファイヤーバード」
その身に炎を纏い空を舞いはじめるエレナ。派手さではなかなか比類しがたい魔法だけに、一同は息を飲んで見守る。
そのまま、一直線に空気を切り裂き的に体当たりをすると、的は砕け散る。一撃しただけで、魔法はとけ地に降り立つエレナ。
「強力な魔法だが‥‥持続時間の短さがまず問題だな」
厳しく言うアラン先生。さらに続けて‥‥。
「それに今回は的が動かない目標だったからいいものを、ファイヤーバードの命中力には術者の格闘技能が影響するため、非力なウィザードには両立が難しい魔法だ。使うのなら心して腕を磨くように」
何処までも厳しいアラン先生なのであった。
「では次は私が‥‥私が出来るのはオーラパワーだけだから」
そういって、木製の訓練用の人形に歩み寄るのは永連零(ea7443)。
肩をくるくる回すと、すっと構えを取りまずは魔法効果無しで拳を振るうのである。
右正拳から左の連撃、前蹴りに廻し蹴りから流れるように後ろ回し蹴り。次いで棍を手に取ると、びしびしと的確に人形に打ち込んでいく。
「次はオーラパワーで‥‥」
まずは拳にオーラパワーを付加して、拳を一閃。人形が軋む音で一撃の威力が増しているのが分かる。
次いで武器に魔法をかけ、今度も連続して人形に打ち込む。木っ端が舞い散りこちらも威力が高まっている。
「あとは光の実験なんだけど‥‥」
そういって全員を木陰に集める零。そしてとりあえずオーラパワーを発動すると‥‥。
術者の零の体が淡いピンク色の光に一瞬包まれるだけである。闇夜では目立つだろうが、それほど強い光ではないようだ。
「ん、私はこれで終りだね」
「じゃぁ、次はわしの番だな」
そう言って前に出たのは黄安成(ea2253)。なにやらアラン先生に的の人形を飛ばしてもらうように頼んでいるようだ。
「では、いくぞ‥‥」
「では、こちらも‥‥ブラックホーリー!」
サイコキネシスによって飛来する人形にブラックホーリーをぶつける安成。間髪おかず人形をスープレックスで投げ飛ばす。
「このようは使い方の他にも、ブラックホーリーを相手の手前に打ち込んで怯ませたり‥‥」
そういいながら、地面に投げ飛ばした木製の人形に組み付いてホールドをかける。
「組み付いてリードシンキングで尋問するのも可能だの」
「ふむ、確かに魔法との効果的な組み合わせではあるな。ただ、格闘行動中に同時に魔法を使うのはほぼ不可能だ。ホールドなら相手が抵抗して来ないとも限らないから、それを押さえつけながらのリードシンキングの通常発動は不可能だと思っておくのだな」
こうして4人の実践は終わり、なかなかに満足そうな表情を浮かべるアラン先生であった。
●土と木と
「よろしくお願いいたします」
一礼して進み出たのはシャルディ・ラズネルグ(eb0299)。場所は丈夫な木々が生い茂る木立の中である。
「今回はまずプラントコントロールによる戦闘を実演してみます。普段よりMPを多く消費しても魔法は成就させてみせます」
どうやら的を投げてもらって、どれだけ打ち落とせるかを試すようである。
そして、的を投げる前にアラン先生が一言。
「初級と専門のプラントコントロールの差は植物を操れる範囲が拡大するだけだ。遠くの植物を操ろうと思わない限り、初級で十分にことは足りる」
そして、シャルディがプラントコントロールを唱え、木々がざわめき始める。
「‥‥お願いします!」
零や安成が的を放り投げると、シャルディがそれを次々に木々の枝で打ち払おうとする。
一度に動かせる枝の数は10秒で3回。枝による攻撃のため、素早いとは言いがたいが、しっかりと的を打ち払っていく。
「‥‥ではナスターシャさん、お願いします!」
そういうとナスターシャ・ロクトファルク(ea9347)がストーンウォールを発動する。
「3本の根を束ねて攻撃してみます!」
ばきばきと音を立てて根が隆起すると、大きくしなってからストーンウォールへと一撃を放つ。
びしぃ!っと鋭い音とともに、大きく石の壁にヒビが入る。しかし、破壊するには至らない威力のようだ。
その様をみて、無言で先を促すアラン先生。なかなか使い道には満足しているようだ。
「次は、理論で思案した連携魔法です。用途は頭目のいる小集団との戦闘を想定し、士気低下・指揮不能状態に陥らせることを狙いとしました‥‥。先生どうでしょうか?」
こんどはシャルディのフォレストラビリンスとカンタータ・ドレッドノート(ea9455)のイリュージョンの連携を試すようだ。
幻覚を見せられたのは零。どうやら鼠の大群がやってくる幻影を見ているようで、それを慌てながら説明している。
「‥‥まず、プラントコントロールは、幅の広い使い方を研鑽しているようだな。それに、フォレストラビリンスとイリュージョンもなかなか考えた使い方だろう」
そこで言葉を一度切るアラン先生。
「しかし、効果範囲内のものを堂々巡りさせる魔法だが、こちらがもしも視認されているときにそれを妨害するほどの能力はない。正面からの戦闘での使い道ではなく、こちらが姿を隠した状態で威力をはっきするだろうな」
「では、次に私が‥‥」
次はナスターシャ。木製の人形を下草の生えている土の場所に置くと、行動に入る。
「ではまずは、プラントコントロールをスクロールで‥‥」
スクロールを読み上げるナスターシャ。一度発動を失敗してから、二度目で成功。6割の成功率ならその程度である。
すると、下草が人形に絡みついて動きを止める。
「次は足元を狙ってストーンウォールで転倒させ‥‥」
すると、アラン先生がばっとローブをひるがえして、ナスターシャに一言。
「ストーンウォールなどの魔法は、効果を表す位置がしっかり確認できなければいけない。が、この場合足の下は確認できないため足の真下に発動することは出来ないのだ。足のすぐ近くに発動するしかないな」
「‥‥はい、分かりました」
そして、ストーンウォールを発動するナスターシャ。
「そして、止めとしてストーンウォールを相手の上に倒します」
草に絡みつかれた人形に向かってストーンウォールを倒すナスターシャ。壁は人形の足元を巻き込むようにして崩れ、人形の下半身は完全に土に埋まってしまう。
「ストーンウォールは使い道の豊富な魔法なので、精進するように」
やはりなかなかアラン先生からお褒めの言葉を貰うのは難しいようである。
●決闘ゲーム?
「引き続き宜しくお願いします」
「視覚に影響を与える魔法って結構ありますよね。なので、そういった場合を想定した実践です」
カンタータとシャルディ、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)はどうやら、お互いに魔法の掛け合いをするようだ。
「ではまず私から、一回目はこのように」
お互い距離を置いて立つと、それぞれが準備をする。
そしてソフィアは目隠しをしたまま、バイブレーションセンサーを発動する。
すると同時に相手の2人の行動は‥‥。
「宜しくお願いします」
そういって声はかけるも、その場を動かないカンタータ。
「レビテーション」
魔法を唱えて、バイブレーションセンサーを回避するシャルディ。
「感知できません‥‥この場合私はこの場から逃げます。私が動くことで相手の動きを誘い探知、また相手の近接攻撃・魔法効果範囲からの脱出するのが目的です」
本来ならば魔法が通用しなく窮地であるはずだが、その場合も対処を考えてあることは評価できるようで、軽く頷くアラン先生。
「私は戦闘において、負けないこともまた重要だと考えます」
「たしかに死んでしまってはそこで終わりだ。逃げるのも作戦のうちだろう。では次の手を見せてもらおう」
「はい、分かりました」
そういって、再びバイブレーションセンサーを唱える。
今回はカンタータが違う行動をとる。
「宜しくお願いいたします。では、今回は‥‥」
そういってカンタータは防寒具を脱ぐと、あえて動いて自らの居場所を知らせる。
それを感知したソフィアは‥‥。
「そこです、アグラベイション」
ずんと体に重みを感じるカンタータ。しかし、防寒具を脱いで身軽になっていたおかげで魔法を唱える余裕はぎりぎりであるようだ。
「今度はこちらの番です‥‥誘わん。彼の人を一時の夢へ。イリュージョン」
「‥‥幻影だとはわかっていますがすごいです‥‥桃の薫りが‥‥」
そしてその隙にカンタータがソフィアに近寄ると、すっと手を伸ばし抱きつくようにして目隠しをはずす。
「‥‥以上です。アグラベイションの利点は行動を抑制する事で、相手の戦術の幅を狭める事にあると考えます。その場に留まり戦うも逃げるも、有利に運べますしね」
「私はこのほかにも声色を使う戦術も使ってみたいと思っています‥‥『我輩の言うことが聞けんのかね?』とかもっと工夫を凝らしてみたいですね」
ソフィアはそういって微笑み、カンタータはアラン先生の声色を真似て悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「‥‥なかなか手が込んでいて、見るべきものがなかったとは言わないが‥‥まだまだ改善の余地はあるな」
どうやら、今ひとつ生徒を苛めきることが出来ずアラン先生は苦々しげな表情。
こうして学生たちは少しずつ強くなっていくのである。