●リプレイ本文
●恋の行方は?
「この辺りで白い大きな犬を見ませんでしたか?」
マイペースにショーンの行き先を聞き込んでいるのはエレナ・レイシス(ea8877)。
今日も今日とて足を使って根気良く聞き込みを続けているのであった。
今日の聞き込み場所はケンブリッジの南側の住宅街。大きなお屋敷が立ち並ぶ一角をとことことエレナは歩く。
「なかなか見つかりません‥‥犬って結構すばしっこいから大変ですね」
特に当ても無く色々なところを探すエレナ。すると夕方先のほうにちらりと白い犬の影。
「あ、あれは‥‥」
それはとある大きなお屋敷の近く、エレナは見失った犬の影を追いかけて歩を進めるのであった。
一方その頃、サイモン先生の家にて。
「初めまして! 僕はマジカルシード所属だけどサイモン先生のお噂は聞いてます。犬や猫をたくさん飼ってるんですよね。」
サイモン先生に話しかけているのはマクシミリアン・リーマス(eb0311)だ。
「ふむ、私のことを知っていると‥‥見たところ君も動物好きのようだな」
「はい。僕、犬好きなんです。犬っていうか狼なんですけどね。僕のうちの近くの森に狼が住んでて、それがすっごく賢くて‥‥ってこんな話はどうでも良いですよね」
すいませんと謝るマクシミリアンに笑顔を向けるサイモン先生。
動物好き同士共感する物があるようだが、ふと思い出したようにきっと顔を引き締める。
「ともかく、今回はショーンの相手を探してくれ。しっかり頼んだぞ」
かくして、各々独自の技を駆使して行動を開始するのであった。
●探索は犬と猫と一緒に
「サイモン先生、イアン君の手を‥‥いえ、お鼻を貸していただけないでしょうか?」
そうサイモン先生に言ったのはキラ・リスティス(ea8367)である。
どうやら以前サイモン先生からの依頼に参加した折に、交友を深めた友の力を借りる作戦のようだ。
「ああ、イアンを連れて行くのか‥‥別に構わないぞ。おーい、イアン!」
サイモン先生が呼びかけると、のしのしとゆったり歩いてくる白いワンコの姿が。
サイモン先生の家に住まう犬の4兄弟のうちで、一番のんびりしてるイアンはどうやらキラがお気に入りのようで、近くに寄ってくるとべたっと伏せて尻尾をぱたぱた。
どうやら撫でてて欲しい様子のイアンの背中をわしわし撫でながらキラはサイモン先生に言う。
「イアン君にショーン君の匂いを追ってもらってショーン君を探そうと思っているんです」
いつの間にやら猫のヴィゴが寄ってきて、イアンの背中によじよじ登ると、キラが撫でて整えた毛並みをむにむに肉球で押して乱してしまうのであった。
なでなで。むにむに。なでなで。むにむに。キラは暫くの間仕事のことを忘れてしまったとか‥‥。
ついでにサイモン先生も後ろの方でにやけまくっていたことは言うまでもない。
「お宅のショーンは台所の方から出て行きましたか? それとも廊下を通っていきましたか?」
サイモン先生の家にある鉢植えに話しかけているのは、シャルディ・ラズネルグ(eb0299)である。
「台所」
グリーンワードをつかって植物との会話能力を得たシャルディは家中の植物にショーンの行方を聞いてまわっていた。
こうすることで、家のどこを通って外に出ているのかを知るのが目的であるようだ。
次は台所においてあった小さな鉢植えに話しかけるシャルディ。
「ショーンは何処を通って外に出ているのですか?」
‥‥すこしして、シャルディがキラを呼ぶ。どうやら抜け道が見つかったようである。
「どうやら、ここから外に抜け出してるみたいですね」
示したのはサイモン先生の家を囲む塀の一部。地面の下に大きな穴が掘られている。
「そうですか‥‥では、イアン君に匂いを追ってもらいますね。イアン君、案内してくださいね」
キラの言うことが分かったのか、わふっと一吼えするとイアンは穴にもぞもぞ潜り込む。
キラとシャルディは門を出て、回り込むとイアンの先導にしたがってショーンを追うのであった。
「ところで、シャルディさん。私自信がないんですけど、扉はしっかり閉めましたでしょうか?」
「ああ、猫たちがでたら外に出たら大変ですからね。しっかり閉めたと思いますよ」
「それでしたら、安心ですね。どうもありがとうございました」
‥‥にぁー
と、小さな猫の鳴き声が。見るとシャルディのマントにしっかりとつかまるようにしてヴィゴがついてきたようである。
「‥‥ヴィゴ君、ついて来てしまったんですね‥‥しかたないですし、一緒に連れて行きましょう♪」
「そうですね、ならどんどん行きましょう」
そういってところどころで木にショーンが通ったかを尋ねながら進むシャルディと、肩にヴィゴを乗せて、ショーンに引っ張られるようにして進むキラの2人はショーンを追いかけたのだった。
●2人の追跡者
「蔵王さん、どうやらショーンは向こうの赤い屋根の方向に行ったようですよ」
出入り口をシャルディが見つけたのを聞いて、そこを監視していたのは蔵王美影(ea1000)とマクシミリアンだ。
「そっか、ありがとね♪ こういうのって楽しそうだよね。じゃ、おっ先に〜」
そういってからぼむんと煙を上げて忍術を使う美影。そのままショーンが走り去っていった方向に向かって駆け出す。
常人の倍以上の速度で道をはしり、常人離れした跳躍力でかるがる塀を飛び越える。
音も立てずに、ケンブリッジの裏道を縦横無尽に駆け巡る美景。壁を蹴り、時には屋根の上を走りぬけ、忍者としての本領発揮である。
「僕も負けてられませんね‥‥」
そういって物陰に隠れるマクシミリアン。数秒して現れたのは一匹の立派な大鷲だ。
くちばしには不釣合いなことに服を包んだ布包みをくわえ、大きく羽ばたくと悠々と空へと舞い上がる。
そして、空中から猛禽類の優れた視力でショーンを見つけると、矢のような速度で追いすがるのであった。
途中屋根の上を音も立てずに駆け抜け、家々の間を飛び渡る美景の横に並ぶようにして舞い降りるマクシミリアン。
「ん、キミはマックだね? 大鷲に変身するなんてかっこいいねー♪」
「‥‥そろそろ地上に降りて、犬に変身しないといけないんですけどね」
くわえた荷物とくちばしのせいで少し発音しにくそうに答えるマクシミリアン。
そして、数分後。大きな狼のような犬と忍術の切れた美景は、こんどは匂いでショーンを追い始めるのだった。
「ねぇマック。乗ってもいい?」
どうやらさっきから狼犬に変身したマクシミリアンをじっと見てたのは、背中に乗れないかどうか考えていたようだ。
「‥‥あんまり力強くないですし、すぐに変身しなおさないといけないですから‥‥」
「そっか、おっけ〜。 またの機会にするよ〜」
そんなこんなでこっちの2人組みもショーンを追いかけていくのだった。
●恋の行方は‥‥
ちょうど一同がそろったのはとあるお屋敷の庭である。そして、そこで見たものはショーンともう1匹の美しい犬の姿。
ちなみにマクシミリアンは変身を解いて今はいつもの格好である。ミミクリーによって犬の身体能力は使えても犬独自の知識である吼え声による意思疎通や美醜の判断が行えなかったからである。
そこにいた犬は見事な毛並みの美しいお嬢さんである。金の長い毛が陽光に美しく映えている。
そして、誰の目から見ても明らかなのはショーン君がその娘の虜であるということであった。
ぅわふっ!(千切れんばかりに尻尾を振ってお嬢さんを見つめるショーン)
‥‥‥‥‥(ちらりと一瞥しただけで、マイペースにお散歩を続けるお嬢さん)
わぉぅん!(どうやら家からくわえて来たらしい大事な骨をぽとりと前において尻尾を振るショーン。贈り物のようだ)
‥‥‥‥‥(つーんと我関せずといった感じのお嬢さん。尻尾を揺らしもせず、骨に見向きもしない)
ぅぅぅぅ?(耳をぺたりと寝かせるショーン。頭を下げて、受け取ってくれないの? とばかりに上目遣いをしている)
‥‥ぐるる(もう来ないで、とばかりにのどの奥でうなり声をあげると、くるりと背をむけて立ち去る相手のお嬢さん)
くぅん‥‥(連日のアタックにも一度も振り向いてもらえず、どうやら贈り物も受け取ってもらえなかった様子である)
とぼとぼとサイモン先生の家に帰るショーンを一同は見送るしかなかったのだった。
「きっと今回の恋も、君のためになると思うよ! 僕もそんな恋がしてみたいな。‥‥できるかなぁ」
家でしょぼくれてるショーンを励ますマクシミリアン。すでにどういう状況下はサイモン先生に報告済みである。
サイモン先生もショーンの恋は報われない片思いだったことを知って、複雑な表情である。
「もうショーンも年頃なんですから。恋もするでしょうし、こういう経験もするでしょうね」
人生経験が人一倍というか三倍ほどあるエルフのシャルディは微笑ましげにショーンを見やってひとこと。
「えっと‥‥今回は残念だったですけど、次にはきっといい相手がみつかります! 元気出してくださいね」
ぎゅっとショーンの首に抱きついて、わしわし撫でながら一生懸命励ますキラ。
ショーンもありがとうとばかりにキラの頬を舐めるのであった。
「うーん、仔犬がもらえるかもって思ったんだけど、今回は残念だったね、ショーン」
仔犬ができたら譲ってもらおうとサイモン先生に頼んでいた気が早い美景はちょっと残念そうだ。
「でも、またいい相手が見つかったら教えてね。お祝いしに来るからね♪」
ぱたりぱたりと力なく尻尾を振って一同に感謝を示すショーン。その目には光る物があったとか。