●リプレイ本文
●試合の前に
依頼の初日、早速模擬戦が行われる運びとなった。
東軍と西軍に分かれて打ち合わせと準備を進める冒険者たち。高まる期待と緊張。依頼人も楽しそうな表情だ。
「楽しみじゃのう‥‥こんなに心が躍るなんぞ一体何年ぶりかのう♪」
「ええ、技量の高い人も多いですし、それは凄い闘いになると思いますよ」
ロイドマンの横で盾を構えているのはミィナ・コヅツミ(ea9128)。シーン・オーサカとともに解説をしているようだ。
「ロイドマンさんも一応何があるか分かりませんから、これをもっていてくださいね」
ミィナはロイドマンにガディスシールドを渡すと離れて対峙しはじめた冒険者たちを見やる。闘いの舞台はロイドマンの屋敷の裏手の開けた庭。あまり手入れされていない草地である。
ロイドマンと2人の護衛は一帯が見渡せるように少し小高くなったところに。
「衣装としていかがででしょう?」
ミィナが取り出すのはさまざまな装備品。目立つために装備することをロイドマンに薦めるが、ロイドマンは心ここにあらず。わくわくと目を輝かせて今か今かと闘いの開始を待っている。
そんな中で罠を作っているのはルカ・レッドロウ(ea0127)だ。
先ほどまで師匠の燕紅狼にしごかれていたようであるが、今はひたすら簡素な罠を作っている。
猟師としての知識を活かしているのだが、いかんせん猟師の技能がそれほど高くないため出来るのは簡単な罠だけ。
足を引っ掛けるように草を結んだり、ロープを張る程度。後衛を守るようにいくつか仕掛け、味方にその位置を教える。
ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)は依頼人から材料をもらいとあるものを作っていた。
石を両端に結びつけたロープ。投げつけることで相手の動きを束縛する武器ボーラなのだが‥‥少々猟師としての技量が足りない。
ボーラを自分で作るためには猟師として専門的な知識が必要になるだろう。なので今回はスクロールと格闘に頼る戦術を取ることにするしかないのであった。
やがて準備は整った。
「さて諸君‥‥闘いを見せてもらおうかのう♪」
嬉々として告げるロイドマン。それに答えてミィナが笛を手に取る。
「はい、それでは‥‥はじめっ!」
高々に響き渡る笛の音が戦いの始まりを告げた!
●熱き戦い
戦場にて対峙する二つの集団は双方同時に動き出す。
東軍ではマナウス・ドラッケン(ea0021)とルカが前進。にやりと笑みを浮かべながら2人は呟く。
「さて、やるからには勝ちたいね。どれほどいけるかは知らんけど」
「一対一は避けないとねェ。狙いはあの油断ならねぇ血気盛んな色男だぜェ」
ユイス・アーヴァイン(ea3179)は後方で待機。こちらは非常にマイペース。
「はりきって派手に行きましょ〜」
アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)は敵軍に対して直角に走り出すと森の中に隠れ愛馬を呼ぶ。
「私は遊撃で動きます。‥‥百魔狩りが一人『麗艶なる女狼』アレクセイ・スフィエトロフ参ります!」
愛馬アリョーシカに跨ると、西軍の前衛との衝突を避けて横から後衛を突こうと一気に突進を始める。
西軍も動く。後衛のゼファーはスクロールを広げ、ネイ・シルフィス(ea9089)は精神を集中。
「いきなり派手にやらせてもらうよ‥‥名付けて、トリニティライトニング!! 合わせるんだよゼファー」
「ああ、この機会にいろいろと試してみないとな」
そしてその2人を守るようにして立つは、ガフガート・スペラニアス(ea1254)。
傍らにラージクレイモアを突き立て、武器を構えて防御の姿勢。
「ふむ‥‥何ぞ楽しめればよいか‥‥まずは敵の魔法使いから落としてもらって構わんかの? 何ぞワシの天敵でな」
そして野太い笑みを浮かべて告げる。
「遠慮は要らん。ルクス‥‥踏み破れ」
声をかけられた前衛の2人もじりじりと進み始める。ルクス・ウィンディード(ea0393)とアトス・ラフェール(ea2179)。
マナウスとルカが近づくのに合わせてゆっくりと間合いをはかる。
「ま、今回はスタンアタックは使っちゃまずいわな。あーあ、まったく、加減するのも疲れるよ」
「まずはホーリーフィールドを張ります。一撃ぐらいなら持つはずですから」
そして距離が縮まり戦端が開かれる。
始まりは雷鳴。空気を切り裂き戦場に轟き渡る三条の雷光。
ネイが連続して高速詠唱によって放ったライトニングサンダーボルトとゼファーのスクロールである。
雷撃はそれぞれユイスとマナウス、ルカに向けられている。
「うわぁっ! あんまりイタイのイヤですから〜」
ユイスは雷撃を喰らってしまい、なんとか抵抗して軽傷に抑えるが服がところどころ焦げ付いている。
「効かないなっ! 並みの魔術師ぐらいの抵抗力はあるんでね」
雷を真正面から受け切り疾走するマナウス。抵抗力にものをいわせて雷撃を受けきる。
「くっ! これくらいじゃまだまだだぜィ。勝負してもらうぜルクス!」
ルカも雷撃を浴びるも速度を緩めずルクスへと一直線に突進しながら懐のナイフを投擲する!
鉄扇とナイフを構えて疾走してくるマナウスと刀の柄に手を置いたまま距離を詰めるルカ。
それに対してロングスピアの先端を低く構えて待ち受けるのはルクスだ。
そこにルカの投擲したナイフが飛来する。真っ直ぐルクスのもとに飛んでくるナイフを見据え、しかしルクスは余裕の表情。
するとナイフは空中で見えない壁に阻まれる。同時にあらかじめ張られていたホーリーフィールドが崩れ落ちる!
「さすがに初級程度の結界では瞬く間に破壊されますね。さて、お次は‥‥」
続いて牽制のホーリーを唱えてから剣を取るアトス。果敢にもルカとぶつかり合う。
そして彼我の距離は零となり、響くのは幾重もの剣撃。
「正々堂々とやろうじゃないか。来いよルクス」
クッと笑みを浮かべてルクスを挑発するマナウス。手にはナイフと鉄扇を構えている。
「弓兵風情が! 剣士の真似事とはな!!」
ルクスの神風の突き! それをマナウスの鉄扇で打ち払う! しかしルクスの攻撃は止まらない。
「たわけ、弓兵風情が接近戦を挑んだな!!」
さらに全身のばねを使って高速の打突。先ほどよりさらに速度を増した一撃を辛うじて受けるマナウス。
残像を残さんばかりの速度で繰り返される致命の一撃をしかしマナウスは烈火の気合で弾き、払い、受け流す!
永劫に続くかと思われる一瞬、ルクスの一瞬の行動の停滞を見逃さない。
「これでっ!」
死角から放たれたのはマナウスのナイフ。奇襲の一撃を避けるのは至難の技だ!
しかし辛うじてマナウスは槍を引き戻しナイフを打ち払う! その技術は巧緻にして精妙。
だがナイフの一撃もあくまでも次なる一撃のための伏線だった。
その一瞬の隙に間合いを詰めたのはルカ。腰の刀に手を置いて、姿勢を低くして接近。
「相手してもらうぜィ!」
そして裂帛の気合とともに居合い一閃。ブラインドアタックが無いために目にも留まらぬ神速の一撃というわけには行かないが、一転して今度はルクスが守勢に回る。間合いを取ろうにも連撃を捌くのが精一杯だ。
「ちぃ! さすがだな」
しかしさらにルクスへと追撃しようとするマナウスを妨害したのは今までルカと剣を交えていたアトスだ。
オフシフトを交えて、距離を置く闘い。しかし技量において勝るマナウスの攻撃で傷を負うアトス。
しかしなんとその2人を巻き込むように雷撃が放たれる!
「‥‥やはり私では‥‥そういえば、ネイには気を付けるんだったな。わっ、どこ狙っている! 早速来たか」
ネイの放った不意打ちの雷撃。電撃はアトスを掠めてマナウスに直撃。
しかしその隙に放たれたマナウスの鉄扇の一撃でアトスはダウン。
しかしマナウスも浅からぬ傷を負ってしまったのだった。
一方その頃、西軍の後衛に襲い掛かる一騎。
「これでもくらいなさい!」
一直線に襲い来るのはアレクセイ。狙うは西軍後衛のゼファーとネイである。
しかしその前に立ちはだかるのはガフガートだ。それに向かって騎乗からアレクセイが短剣や手斧を投擲する。
「‥‥何ぞそのような技ではわしの防御は破れんぞ!」
武器を一閃、空中で全て打ち払われる武器たち。効果が無いと分かるや否やアレクセイは馬から飛び降りる。
「ならばこれでどうですっ!」
壁であるガフガートを沈めようとスタンアタックの構えのアレクセイ。しかし彼女は後衛の魔法使いを甘く見ていたのかもしれない。
「模擬戦だからって、手加減しないよ!」
詠唱無しに放たれる風の刃が二閃! 高速詠唱によるウインドスラッシュだ。
アレクセイはガフガートのところにたどり着く前に力尽きたのだった。
そして、前線ではついにひとつの決着が。
「もらったぜィ!」
地面すれすれに回し蹴りを放つのはルカ。刀を納めて放った低空の蹴りはついにルクスの体勢を崩す。
「これで終りだっ」
その隙にマナウスが鉄扇で一撃。これにてルクスは退場である。
「‥‥ていうか、さ。もちっと手加減しようよみんな‥‥」
ばったりと倒れたルクスは呟く。そしてルクスが倒れたのを見て動いたのはガフガート。
「やれ‥‥出るしかあるまいか」
武器を重量級のラージクレイモアに持ち替えて2人に対峙するガフガート。
マナウスのナイフをミサイルパーリングで弾き、接近してくる2人に牽制の一撃。
地面に向かって武器の重さを乗せたスマッシュEX&バーストアタックを放つ!
踏み固められた地面が内側から爆発を起したように弾け飛ぶ一撃に思わず距離を置く2人であった。
「凄まじい破壊力じゃのう‥‥」
固唾を飲んで闘いの趨勢を見守っていたロイドマンに降り注ぐ土くれ。それをミィナが盾で防御する。
「無造作に受けて戦っているように見えますが、みんな一撃の威力は凄いのです。使い慣れた武器だからなんとか受けていられるのですよ」
闘いの模様は移り変わる。ゼファーと対するはルカ。
ゼファーの蹴りを後ろにスウェーして回避するルカ。ルカも刀を抜かずに拳と蹴りの応酬する。
回避力で勝るゼファーに、格闘技能で勝るルカ。ミドルキックを掲げた膝で受け。回し蹴りを回し蹴りで迎撃。
しかし、ルクスとの闘いで披露したルカがついに体勢を崩す。
「これで終りだっ!」
ミドルキックを受けられた勢いで足を振り戻し、軸足をそのままに逆サイドからの後ろ回し蹴りを放つゼファー。
この一撃はルカの脇腹にめり込みついにルカもダウンだ。
魔法使い同士の戦いも凄まじい。
高速詠唱によるウインドスラッシュを連続して放つネイとユイス。
同じタイミングで放たれた風の刃は時には相殺し、時にはお互いを切り裂いている。
そしてネイの魔力が先に突きかけ次が最後の一撃。成功率で勝るネイが若干有利のようだが、魔力ではユイスに分がある。
「ライトニングサンダーボルト!!」「ストーム!!」
荒れ狂う暴風にネイはその身を翻弄され、なすすべなく地に伏すが、自らの放った雷が確かにユイスを直撃したのを確かめる。
「舐めるんじゃないよっ!」
「あたた‥‥やっぱりイタイのはイヤです〜」
そして最後に残ったのはガフガートとマナウス。
「良くぞここまで耐えたもんだのぅ、じゃがここまでじゃよ!」
鉄扇しか持たないマナウスに向かって巨大な剣を振りかぶるガフガート。スマッシュの一撃を放つ!
「ちっ! ここまでか!」
受けようと構えた盾代わりの鉄扇ごと弾き飛ばされるマナウス。
これにて戦闘修了。
●試合の後
「これほど見事な闘いを見たのは初めてじゃ! また頼んでみたいのう〜」
楽しげに一同を労うロイドマン。ルカの提案で宴会が行われている‥‥もちろん全員の傷を癒した後でだが。
「この模擬戦で自分がいかに非力なのかを思い知らされました。もっと鍛えなければ‥‥まぁ、とにかくお疲れ様でした」
負傷者を回復させながら挨拶しているのはアトス。
「ふふふふ〜いい勝負でしたね〜」
ロイドマンとチェスをする約束を取り付けたとかでなぜか楽しそうなのはユイス。師匠のクララ・フォーハンスから小言を貰ったようだが全然気にした様子は無い。
「‥‥んー、まだまだですねぇ。精進しないと」
悔しそうに言うのはアレクセイ。しかし、勝ち負けを引きずっているものは誰一人居ない。
「皆のお陰だよ。嬉しいよあたしは!」
ネイが歓声を上げる。そして勝者も敗者も宴会で大騒ぎ。闘いの疲れを癒すのであった。