●リプレイ本文
●司書と妖精
その日冒険者たちはブックス女史の案内の図書館へと来ていたのであった。
「今回も宜しくお願いしますね」
深々と頭を下げてお辞儀をするカンタータ・ドレッドノート(ea9455)。礼儀正しい彼女にブックス女史も礼を返す。
「今回は、ピクシーがでたとか‥‥」
「ともかく毎晩毎晩かってに本が動いたりして迷惑してるんです! はやくどうにかしてください!」
‥‥ブックス女史はかなり興奮している。やはり本好きな人間にとって本はなによりも大事なようである。
「ピクシーはそんなに珍しい妖精じゃないわよね〜」
ピクシーについて話し始めたのはミカエル・クライム(ea4675)。
「ピクシーは地のエレメントね‥‥大きさは30センチぐらいで赤毛と団子鼻が特徴ね♪ 陽気で悪戯好きで‥‥」
モンスター全般についての知識を持つミカエルにとってピクシーは対して珍しいモンスターではなかったのだ。
「‥‥現れるのは夜みたいだから、待ち伏せすればー‥‥」
「それはそうと、ミカエルさん」
「はい?」
突然ブックス女史に話しかけられてきょとんとするミカエル。
「ミカエルさんは炎のウィザードだそうですね?」
「はい、そうですけど?」
「‥‥くれぐれも館内で炎の魔法なんて使わないでくださいね?」
ミカエルはケンブリッジでもそれなりに名の知られた冒険者。ブックス女史も見知っていたようで釘を刺したようだ。
「‥‥はい、気をつけます‥‥」
何を馬鹿なと笑い飛ばす‥‥にはブックス女史はあまりにも真剣で迫力があり、いつも元気なミカエルも気圧されてしまったようである。
「そういえばブックスさん、仕事中に手伝いが欲しいとか呟いたことはありませんか?」
ふいに尋ねるカンタータ。バードの彼女は精霊についての知識がある。
「そういわれても‥‥でも、いつも忙しい忙しいとかは仕事中に言ってるかもしれないですね」
「もしかすると‥‥そのピクシーは単純にあなたの手伝いをしようとしてるのかもしれないので、もし会っても強く迫らないでいただけませんか?」
「‥‥二度と同じことしないならいいですけど‥‥」
「なにか物をあげてお礼をしたら満足して、もう手伝おうとはしないかもしれませんし、お願いしますね」
「‥‥本のためなら‥‥」
本がやっぱり大事なブックス女史であった。
●張り込みと捜索!
「今回の依頼は、全く錬金術と関係ないです」
エリス・フェールディン(ea9520)は錬金術関連の本を見て回りながら、一人呟く。
少しばかりやる気なさそうなのはやはり錬金術が関わっていないからであろうが‥‥仕事はきっちりやっていた。
「しかし、どうやら夜までは暇なようですね‥‥」
ブックス女史から聞いたところ夜にしか出ないようなので、とりあえず図書館で読書を満喫するエリスである。
「刻を見守る月よ。見守りし、刻の流れを今我に示せ‥‥パースト!」
パーストを使っていつ頃ピクシーがやってくるのかを探していたのはルナ・ローレライ(ea6832)。
その目に浮かぶ光景は、やはり小人がちまちまと本を運んでいる様子。悪意は感じられないのであった。
「小さな小さな主人公はいったい何をもとめているのでしょう‥‥」
ほうと息をついて、考えにふけるルナ。彼女も夜になるまで本を読むようだ。
「妖精さんについていろいろ見聞を調べておきませんと‥‥」
童話の本を楽しげに眺めるルナ。もしかすると今回のピクシーも歌になるときがくるのかもしれない。
「妖精さん♪ 妖精さん♪ ハニーミルクは好きかな〜♪」
一人マーケットへと向かうのはファム・イーリー(ea5684)。自作の歌を歌いながら上機嫌にお買い物である。
買い求めたのは新鮮なミルクと蜂蜜。なんとブックス女史が経費を出してくれたのであった。
どうやら図書館に出没する妖精とお友達になりたいらしいファム。明るくお店の店員さんに説明したらおまけしてくれたとか。
そんなこんなで、図書館での作戦決行は真夜中。
図書館に集合する一同。バードが沢山集まったことで、まるで演奏会のようであった。
●真夜中のコンサート。
「話し合いで解決できればいいんだけど‥‥言葉通じるかな〜?」
モンスターの中には人の言葉を喋れないものも多いことを知っているミカエル。疑問は最もであるが‥‥。
「あたしはテレパシー使えるから大丈夫〜♪ お友達になれたら良いな〜」
ファムの頼もしい言葉。どうやら問題はないようだ。
一方物陰に潜むのはピクシーの居場所を探る役目の冒険者たち。
ブックス女史に話しかけていたのは、エリスだった。
「バイブレーションセンサーというのは‥‥」
錬金術のレクチャーの真っ最中。正しいかどうかはさておいて、その熱意の凄まじさは本への情熱で燃えるブックス女史と共通するものがあるようだ。
「もし、錬金術関係の本に悪戯するなら‥‥」
ざわざわと髪の毛が逆立つように怒るエリス。狂化一歩手前でブックス女史もなだめているのであった。
「毛布の準備はこれで問題ないな‥‥でも他に魔法を使うかもしれないし、気をつけないとな」
おびき寄せる予定の場所である、バードたちの周囲の石畳の廊下に毛布を敷いているのは斬煌劉臥(eb1284)だ。
優れた視力を持つ劉臥は、監視係である。
そして作戦の真骨頂。バードによるメロディーの演奏が始まった。
♪ 来ませ来ませり その手を休め〜 歌にあわせお話しましょ〜 ♪
バードの歌う歌は唯の歌ではない。カンタータの歌う歌にはそばによって行きたくなる魔力が含まれているのだ。
思わず隅っこに居たブックス女子もふらふらと近くに寄ってきてしまう。
カンタータとファム、それにルナの三人がさまざまな歌詞で歌うのだが、なかでも一番はなんとファムだった。
元気な歌詞と陽気な動きに一段優れた歌の力。これにはピクシーも抵抗できないだろう。
♪ 妖精さん♪ 妖精さん♪ どこにいる? おっ友だちになろぉ〜♪
♪ 出ておいでぇ♪ 出ておいで〜♪ おいしいハニーミルクもあるよぉ〜♪
傍らのテーブルにはハニーミルク。飲食厳禁の館内だが特別にブックス女史が許可してくれたのだ。
一方その頃、バイブレーションセンサーを使用していたエリスは地面から湧き出るように現れた一つの反応に気づいた。
「‥‥そこの妖精さん、図書館で遊んではいけません」
びくっと驚く小人さん。件のピクシーはびっくりするとぴゅーっと走って逃げていく。
しかしその先には毛布がしいてあり、得意のアースダイブが使えない。
「おっと、ここまでだ。悪戯したらちゃんと反省しないとな」
暗がりからのしのしと現れたのは劉臥だ。ピクシーの行く手をふさぐ様に立ちふさがるとさらにバードたちの方に誘導する。
きょろきょろ見回すピクシーはふとかすかに聞こえた歌声に引かれるようにふらふらと歩いていくのであった。
そこにテレパシーで語りかけるファム。
「お友達になろ♪ 一緒にハニーミルク飲も♪」
わーいとばかりにぺたぺた走っていくピクシーであった。
●結末は‥‥
車座になって集まる冒険者とブックス女史。そしてその真ん中に件のピクシーが正座して座っている。
ちっちゃなカップにハニーミルクをもらってご満悦であるが‥‥
「ピクシーさんは悪戯をしたかったんですか?」
やっぱり礼儀正しく問うカンタータ。しかしピクシーはきょとんとしている。
「えーっとね、キミは遊んでたの?」
再びテレパシーで問いかけるファム。するとピクシーは首をぶんぶんと振る。
「それではブックスさんのお手伝いをしていたのですか?」
ルナがこちらもテレパシーで問うと、今度はピクシーぶんぶか頷く。
「やっぱり手伝いがしたかったんだね〜‥‥どうしてそう思ったの?」
ミカエルの問いをルナが通訳すると、ピクシーはぴっとブックス女史を指差して、顔をしかめてみせる。
どうやらブックス女史の真似をしているようである。
「なるほどな、ブックス女史が大変そうに作業してるのを見て手伝ってあげようって思ったのか?」
劉臥が問うとぶんぶか頷くピクシー。役に立ったかな? とばかりに笑顔を向けるピクシー。
「やはりお手伝いがしたかったみたいですね」
「‥‥‥‥」
ルナにそういわれて懲らしめてやろうと待ち構えていたブックス女史は複雑な表情である。
「お礼をしてあげませんと‥‥」
カンタータにそういわれて、しぶしぶ頷くブックス女史。
「‥‥ありがとう。助かったからこれをあげますね」
身に付けていたリボンをくるくると腕に巻いてあげるブックス女史。
契約があったのかどうかは知らないが、ピクシーはぺこりとお辞儀するとたったか走り去っていったのだった。
その嬉しそうな後姿を見て、ブックス女史もやっと表情を緩めたのだった。