へっぽこ騎士と訓練!
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■ショートシナリオ
担当:雪端為成
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月04日〜04月09日
リプレイ公開日:2005年04月13日
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●オープニング
騎士にはさまざまな能力が必要とされる。
剣の腕前はもちろん、馬の扱いに社交界での礼儀作法。それにもちろん知性も必要とされるのだが‥‥
「いいって、ねーちゃん! 別に助けなんて必要じゃねぇって!!」
「つべこべ言わずについていらっしゃい! 騎士になると決めたのでしょう? 弱音を吐くんじゃありません!」
情けないことを言っているのはまだ幼さの残る少年。年のころは13,4ほどだろう。
くすんだ金髪のくせっ毛と好奇心で輝く青い瞳が元気のよさを象徴しているようだ。
一方少年の耳を引っ張って来たのは凛々しい女性。年齢は20前後で、少年の言葉から分かるとおり姉のようである。
腰までの長い金髪と深く澄んだ碧眼の美人で、非常に礼儀正しく楚々とした立ち居振る舞いがその人柄を表しているようだ。
「今日相談に参りましたのは、弟のことです」
ヒルダと名乗った姉は礼儀正しくお辞儀すると、受付に対して依頼の内容を語り始めた。
ちなみに横に座っている弟の名はマリウス。ぶんむくれたまま、そっぽを向いている。
「実は‥‥近々マリウスは馬上槍試合に参加する予定なんです。とは言っても同じぐらいの年のフォレスト・オブ・ローズの学生と模擬戦をするだけなのですが‥‥」
そこまでいってほうと嘆息すると、頬に手を当てて困ったようにマリウスを見やるヒルダ。
「マリウスはあまり一生懸命に練習をしないので、今ひとつ成績が振るわないんです。やはり私のように身内がきつく言っても甘えがあるようで‥‥」
マリウスの方は、ちらりとも視線を向けずに壁を睨みつけたままむくれっぱなしだ。
「なので、今回はさまざまな経験が豊富な冒険者の方々に教えを請いたいと思いまして、依頼を出そうと決めたのです」
きっと顔を上げるヒルダ。見れば彼女も隙のない身のこなしであり、帯剣しているところから見るに騎士としての訓練をつんでいるに違いない。
「試合の内容は馬上槍試合と剣による決闘です。宜しくお願いしますね」
「ねーちゃん、やっぱりいらねぇって。俺一人でもちゃんと訓練できるから‥‥」
「いいえ、毎回毎回そう言ってサボっているじゃないですか! 今のままでは駄目なのです。立派な騎士になるためには‥‥」
再び姉弟喧嘩が始まり、ギルドの受付はやれやれと依頼を羊皮紙に書き始めるのであった。
さて、どうする?
●リプレイ本文
●飴と鞭の訓練!
「あら、可愛い男の子。お姉さんが優しく教えてあげましょうか〜?」
にこにこと満面の笑みを浮かべてマリウスに語りかけたのはレン・タツミ(ea6552)だ。
マリウス少年とて多感な少年。綺麗なお姉さんから優しくされて嬉しくないわけが無い。
しかし現実はそんなに甘くないのだ‥‥。
乗馬に並足をさせるマリウス。それを腕組みして見るレン。
「なぁレン先生! 馬だってこれぐらい乗れるんだぞ!」
「ふ〜ん‥‥所詮はその程度なんだ」
ぐさっと痛い一言。最初は優しかっただけにマリウスはショックを受けた模様である。
次いで剣の訓練。びしばし木剣で打ち合う先生と生徒。
「ほ、ほら! 剣は結構得意で‥‥」
「‥‥でも結局は負けるのが恐いんでしょ〜? だらしないわね〜。勝負から逃げてる時点でもう負けたようなものなのにね〜」
ぐさぐさっ! っと抉るような一撃。ぱりーん少年の中でいろいろ壊れる音がした。
‥‥たとえば綺麗なおねーさんに対する幻想とか。
「修練まで他人に頼るようじゃあ見込み無いわよ? ‥‥ま、後は本人のやる気次第だけどね」
普段は上品に振舞うのだが、にっと意地の悪い笑みを浮かべてぽんとマリウスの肩に手を置くレン。
「‥‥じゃ、続きやりましょう〜。徹底的にその怠け根性を叩きなおしてあげるわっ!」
「わー!! もう勘弁して〜」
この特訓がマリウスのトラウマにならないことを願うばかりである。
「やっぱり一緒に訓練した方がはかどるよね」
レンとマリウスの訓練に付き合って校庭を走ったり、剣を振り回していたのは同じ年頃のエリシア・リーブス(ea7187)。
ちょうどエリシアは、弓の訓練中。マリウスは後ろでそれをじーっと見ている。
エリシアは集中して弓を引き絞ると、矢を放つ。風を裂いて飛ぶ矢は見事的に命中する!
「‥‥僕はどちらかと言えば弓の方が得意なんだよね〜」
ちょっと照れたように振り向いてマリウスを向くエリシア。どこかのんびりとしたエリシアをマリウスは驚いたように見るのだった。
いろんな先生・先輩が入れ替わりでマリウスと特訓し、エリシアも一緒に訓練に参加する。
得意分野の違いはあれど、やはり訓練仲間との連帯感が生まれるのだった。
一緒に校庭を走りこみながらふとした会話。
「なぁ、エリシア‥‥訓練って大変じゃねぇ?」
「うーん、大変だけど‥‥やっぱり強くなりたいから」
「そんなもんかなぁ‥‥」
「それに‥‥腕が上がったのが分かるのは楽しいし。目指すものは違うけどさ。こういうのは同じだと思うんだ」
そういうエリシアの横顔を眩しそうに見るマリウスであった。
●騎士とは?!
「君はまずその甘え心を治さないといけないと思いますよ」
きりっとマリウスをたしなめているのはマカール・レオーノフ(ea8870)だ。
しかしもちろんマリウスは反発する。
「べつに甘えてなんかいねぇよ! 自分がやることぐらい自分で決めるんだよっ」
「‥‥ふぅ、いいですか? このままでは従士の仕事すら出来ませんよ? そんなことでは騎士なんて夢のまた夢です」
噛んで含めるように言うマカール。そうして、さらに厳しく、あくまで上品に続ける。
「それに、その言葉遣いもいけませんね‥‥騎士にとっては礼儀作法も必要です」
「俺だって、ちゃんと社交界に出たら言葉遣いぐらいちゃんと‥‥」
なおも言い訳しようとするマリウスに対して今度はルーウィン・ルクレール(ea1364)がしかりつける。
「‥‥家族が甘えさせすぎたのかもしれませんね」
家族を引き合いに出されて、むっとむくれるマリウス。
「そういえば私は知人からある話を聞いたことがあります‥‥キャメロットに愚かな貴族の息子がいたそうで‥‥」
マリウスに語るルーウィン。さすがのマリウスもめずらしく真面目に聞いている。
「‥‥そんな駄目な男になりたいのですか?」
マリウスはむっつりとむくれながらも真面目に訓練をはじめたのだった。
「いいですか! 集中です‥‥ほら、右手だけじゃなくて全身に気を配る!」
びしりと隙を見せるマリウスを打つのは剣の訓練中のルーウィン。
「ルーウィンさんの方が強ぇえんだからずりぃじゃねぇか!」
「ほら、言葉遣いに気をつけて!」
「‥‥ルーウィンさんの方が強いんですから勝てないのは当たり前だ‥‥だと思います」
横で見ていたマカールに言葉遣いを直されながら文句を言うマリウス。
そんなマリウスを見てルーウィンが一言。
「たとえ実力差があっても‥‥負けるのは悔しくないのですか?」
「‥‥ん‥‥もう一回だ」
無言で訓練に戻るマリウスであった。
「じゃ、行きますよ‥‥本気で突くので気をつけてくださいね」
それぞれ馬にまたがるマカールとマリウス。お次は馬上槍試合の訓練のようだ。
距離を置き対峙する2騎の騎士。合図とともに一直線に相手に向かって疾走を始める。
お互いに鎧を身に付け、ランスを構え距離は見る見るうちに縮まっていく。
相手を突こうとマリウスが構えた瞬間、一瞬背筋が凍えるような気配を感じ取る。
マカールがマリウスを試す意味で本気の一撃を放とうとし、その殺気を感じたのだ。
恐ろしくなり体は逃げそうと反応する。しかし生来の負けん気ゆえかマリウスは気丈にも突き返そうとするのだった。
それを見て、マカールはうまく手加減をして、胸の装甲のど真ん中を突きマリウスを馬上から弾き飛ばす。
そうして地面に転がったマリウスの下へと馬から下りて歩み寄り、助け起こしながら声を書けるのだった。
「多少の怯えは見えたものの、気迫だけはありますね‥‥でも、まだまだです」
まだ見込みがあると思ったのか柔らかい笑みを兜の下で浮かべて言うマカール。
「さて、どんどん慣れてもらいましょう。もう一本行きますよ」
褒められて一瞬嬉しそうな顔をしたマリウス、しかしやはり訓練は厳しいようであった。
●剣の意味は‥‥
「ヒルダ殿、折り入ってお願いがございます。マリウス殿の真意を確かめるために、我らの人質になったふりをしてほしいのです」
「そういうことなら是非協力させてください。マリウスの一番の問題はあの甘えだと私も思いますし」
マリウスの姉のヒルダと話しているのは尾庭番忠太(ea8446)。どうやら一芝居打つようである。
そしてマリウスが木剣を握り訓練しているところに現れた一行。どうしたのだろうと不思議そうな顔をするマリウス。
「マリウス君、君には、“剣を持つ者”としての自覚が欠けている様に思えてなりません」
小坂部小源太(ea8445)から突然そういわれて、ビックリするマリウス。呆然としたままだ。
「そこで私は君に問いたいと思います」
小源太はそういうと、すらりと刀を抜きマリウスに突きつけ、その後ろでは番忠太が大ガマを呼び出し、さらにナイフをヒルダの首筋に突きつける。
「なっ!! ‥‥なんで姉ちゃんを捕まえるんだっ! 姉ちゃんを放せ!」
「ええ、答えを聞いたら話しましょう」
刀をびしりとマリウスにむけて言う。
「あなたは“剣”を取って闘いますか? それとも泣いて許しを扱いて騎士になるのをやめる事を誓いますか?」
小源太には剣の腕でも到底敵わないことをマリウスは知っていた。
さらには姉の前には巨大なガマが鎮座していてとてもじゃないが勝機なんて一切無い状況である。
しかし、マリウスは心配げな姉を見て、木剣を構えたのだった。
「それでは、その決意を試させていただきましょう‥‥アッシュエージェンシー。その少年に襲い掛かれ!」
つかみ出した一握りの灰は瞬時に小源太と同じ姿をとり、刀を振り上げると、マリウスへと歩み寄る。
マリウスは目に見て分かるほど震えている。膝もガクガクと振るえ、剣先もめに見えてゆれている。
しかし‥‥
「う‥‥うわぁぁぁぁぁああ!!」
叫びながら木剣を振り上げ、真っ向からアッシュエージェンシーで作られた分身へと切りかかる!
そして、その剣先が分身に触れた瞬間分身は元の灰に戻ってしまうのだった。
「‥‥君の決意は見届けました。剣を持つことの意味を忘れないで下さい。それが“剣を持つ者”の資格なのですから」
そっけなく小源太はしりもちをついて呆然としているマリウスとそこに駆け寄ったヒルダに向かって言う。
そして、さっと踵を返すと去っていき、番忠太もあとに続こうとして‥‥
「マリウス殿、小源太様は、志しをもって剣を振るわれる“志士”。それゆえ貴殿の所業を聞き、この様な行いに及んだしだい。どうかご容赦願いたい」
そういって頭を下げて去っていくのだった。
あとに残ったのはマリウスとヒルダ。
マリウスは何かを確かめるように強く木剣の柄を握り締めるのだった。
●依頼を終えて
「‥‥‥ありがとうございました」
依頼は今日で終わり、冒険者たちはマリウスとの別れを告げる。
たとえ短い期間だろうと、厳しい先生や‥‥もっと厳しい先生との訓練はしっかり記憶に残ったことだろう。
「お互いに頑張ろうね‥‥また会おう!」
ぎゅっと握手を交わすエリシアとマリウス。
マリウスは共に高め合う友とたくさんのものを得たのだった。