●リプレイ本文
●先輩と後輩・図書館にて
「わーい、今回はおにーさんがエリンと一緒に勉強してくれるんだね♪」
「ああ‥‥だが、困ったことに僕は古代魔法語を専攻していないんだ」
ひよっこウィザードのエリンと一緒に図書館で挨拶しているのはファラ・ルシェイメア(ea4112)。
クールな表情を崩さずにさらりとのたまうファラにエリンはビックリ。
「えぇっ! じゃあ、誰がエリンに勉強を教えてくれるの?」
「‥‥教えてもらうんじゃなくて、一緒に勉強するんじゃなかったかい? というわけで、エリン。君が僕に教えてくれないかな?」
「うう、でも〜‥‥」
「でもも何もないだろう。いいかい? 人に物を教えるのは難しいし、付け焼刃の知識なんかじゃ無理だ」
こくこくと頷いてファラを見あげるエリン。
「ただ、人に教える方が上達するし、集中できるだろう。僕を飽きさせずに、どれくらい面白い講義をしてくれるかな?」
そこでじっと年少のエリンにじっと視線をあわせて、ほんのかすかに笑みを浮かべるファラ。
「エリン先生。つまんない授業をしようものなら、僕は容赦なく居眠りするよ。だけど、人に教えられるくらい理解が深まれば‥‥試験恐るるに非ず、さ」
「‥‥‥‥うん、分かった! エリン頑張っておにーさんに教えてみるね」
にぱっと微笑んで意気込むエリンであった。
「でね、この記号は人で、この記号と組み合わせると高貴な人って意味になると考えられてるんだよ♪」
「ふむ、じゃあこの記号の連続はどういう意味になるのかな?」
「う‥‥え、えーっと、まだわかんないから、一つずつ調べて訳してみるね‥‥」
わざわざ写本を借りてきて、どっかと机の真ん中に置いてわいわいと勉強する2人。
ちょっと迷惑そうに司書の女性がこちらを見ているが、人が少ないこともあって、黙認されているようだ。
「ううーん、やっぱり沢山あるから全部覚えれないよぅ‥‥」
むーっと頬を膨らませてぶーぶー文句を言うエリンに対して、ファラが言う。
「試験の点数は良くても悪くても、やったことに無駄は無いよ。僕は、結果は必ずついて来るものだと思ってるから‥‥」
「ん‥‥もうちょっと頑張って見るね♪」
やはり励まされると明るい顔を見せるエリンだった。そして、お昼近くになって‥‥
「さてと、そろそろ休憩を‥‥エリンもずっと篭もりっぱなしで疲れたんじゃないかい?」
「ううん、そんなことないよっ♪ 意外に人に教えるのって楽しいもん」
と、言ったときにエリンのお腹からぐぅ〜っと可愛い腹の虫。
「‥‥‥えへへ」
「あー‥‥ちょうどお昼時だし、ちょっと何か食べに行こうか?」
「うん! えへへ、エリンヨーグルトが好きなの〜」
がっしと手を掴まれてずるずると引っ張られていくファラだった。
そうして、食堂へと向かいながらファラは一人思う。
「またお金を貯めて、遊びに‥‥じゃない、勉強しに来るよ。ここが僕の母校だからね」
遠くに見える学校。ケンブリッジは常に彼のことを待っていることだろう。
●必殺技!?
「おう、また会ったのう! 今度もまたおぬしと手合わせさせてもらおうと思ってのう」
にっと笑って長身の女性剣士のルカにそういったのは、黄安成(ea2253)だ。
「ああ、今回も相手してくれるのか。ふふ、相手にとって不足はないね」
「じゃ、早速相手させてもらおうかの‥‥さぁ、かかってくるんじゃ♪」
さっそく距離を置いて対峙する二人。
安成は六尺棒を後ろでに構えると、前に出した手でくいくいと手招きをして不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、それじゃお言葉に甘えて‥‥」
訓練用の木剣を手にしてすっと構えるルカ。牽制するかのように安成が振り回す棒の一撃を避けつつ隙をうかがう。
「ふむ‥‥やはり、新技はなにかをオフシフトの回避と組み合わせた技かね?」
「さて、どうかな? ‥‥じゃ、こっちから行くよ!」
といって、間合いを詰めると、横薙ぎの一閃。それを安成は棒を立てて受け止める。
「ほっ♪ なかなかやるのう‥‥じゃが、これでどうじゃ?」
剣を弾き返しながら、足を狙ってトリッピングを一閃する安成。しかしその一撃をひらりとかわすルカ。
なんと相手の一撃を飛び越えるようにしてジャンプしながらその棒を足で踏みつけたのだった!
そして勢いを殺さずに相手の首筋目掛けて剣を一閃。ぴたりと喉元に剣を当ててにやりと微笑むルカだった。
「‥‥っとと、腕を上げたのう‥‥1本取られたわい」
からからと笑いながらちょっとジジくさい口調の安成。
「ま、覚えたのは相手の攻撃にあわせてのカウンターだから‥‥今みたいにうまく決まればいいんだけどね」
そんなことを談笑してると、もう一人の人影が。
「では次は、私が相手になります」
現れたのはルーウィン・ルクレール(ea1364)。
今の戦い方を見て戦術を決めたようである。格闘能力で勝るルーウィンは防御を固めて一撃を当てる戦法で行くようだ。
「それでは、もうひと勝負。よろしくお願いしますね」
そして訓練を終えて。
「いい練習になりました」
そういって汗を拭うルーウィンと、なにやらルカと話し込んでいる安成。
「やはり回避力を磨くのは手数を減らして相手の攻撃を受けるよりは良いかものう」
「ああ、だけど回避をあげてると、格闘の腕がどうしても疎かになるしな‥‥バランスが大事かもな」
「そうだのう‥‥しかし今回も良い練習になった! のうルカ。いつもこんな風に練習しているのかね?」
「ああ、大体一人で型の練習とか、走りこみをしてるな」
「やはりこのような訓練は相手がいたほうがいいんじゃないかのう? わしでよければ相手になるがのう」
「ん、確かに相手がいるといいかな‥‥たまに相手してくれると嬉しいな」
「ああ、ならまた腕試しでもしようぞ♪」
こうして生徒たちは腕を上げていくのであった。
●春の薬草とり
「3人も協力していただいて、非常に感謝しております。それでは参りましょうか♪」
裾をつまんで優雅に一礼したのはリュネだ。柔和な微笑を顔一杯に浮かべている。
「あ、‥‥丁寧にどうもありがとう‥‥今日は宜しくお願いしますね」
アリア・シャングリフォン(eb1355)が答えて一礼。
続いて行くのは寡黙なエレナ・レイシス(ea8877)、こちらもたおやかな女性である。
そして、その後ろを大きなバスケットを背負っててくてくついていくのはケンブリッジでもまだ珍しい服装の男であった。
「ふむふむ‥‥この背負子をこの国では“ばすけっと”というのだな‥‥まさかこれに入りきらないほど摘まんだろう、いくらなんでも‥‥」
彼は西伊織晴臣(eb1801)。陰陽師というはるか東洋のウィザードである。
アリアが人間の男性が苦手と言う性格を考慮して、後ろをのんびりと歩く晴臣。
年のわりには若々しいその顔に微笑を浮かべ楽しそうに歩く晴臣であった。
そして数刻後、ハーブが群生しているとある草原にやってきた一行。
「天気が良くて、助かりましたね」
薬草をぷちぷち摘みながらアリアに語りかけるエレナ。
「え、ええ‥‥そうですね‥‥心地よい季節になってきましたし」
「この季節はケンブリッジでは、特に気持ちのいい季節だと私は思っているんですわ♪」
そういって楽しそうにハーブを探すリュネである。
「あ、やっぱり、街から少し離れると結構いろんなのがありますね?」
「そうですわねぇ‥‥ここはもとから群生していたセージのようなハーブのほかにも、チコリなどのハーブも植わっていましたから‥‥もしかすると誰かが世話をしていたのかもしれませんね」
そんな風に会話しながら、ほのぼのと薬草を摘む女性陣。一方薬草をためつすがめつ眺めているのはやはり晴臣であった。
「‥‥どうやら知識が無いのは僕だけのようだな。よい機会だ、勉強もさせてもらおう」
そういって、てくてく女性陣の方にやってくる晴臣。するとなにやら警戒して少し身を引くアリア。
「ああ、これは失礼‥‥ところでリュネ殿‥‥“はぁぶ”とは一体どんなものなのだ?」
「あら、説明もしませんで失礼いたしました。薬草や香草の中で特に香りの高いものをハーブと呼ぶんですの」
「ほうほう、いろいろ種類があるみたいだが‥‥たとえばこの奇妙な花のはぁぶはいったいなんというのですか?」
「これは確かチャイブスですよ、晴臣さん。‥‥そうですよね、リュネさん?」
晴臣が示したのは小さなピック色の花を球状に咲かせている細長いハーブだ。それをみてエレナがリュネに問う。
「ええ、そうですね‥‥サラダに使ったりして、食欲を増す効果があるんですわ」
なんだかちょっと遠いところからうんうんと頷くアリア。やはり晴臣を警戒しているようである。
初対面であからさまに警戒されてちょっとビックリしてる晴臣。アリアはきっと学校でもなかなか大変に違いない。
「え、えーっと‥‥ところで、摘んだハーブでハーブティをつくって見るのはいかがでしょうか?」
「ええ、もとよりそのつもりでしたし‥‥皆さんには今日摘んだカモミールティーでも‥‥晴臣さんにはちょっと変わったチコリの根で作るチコリティーなんてどうでしょう?」
にっこりと微笑んで告げるリュネ。ケンブリッジの学生ならではの楽しみといえるだろう。
●貧弱騎士と騎士を夢見る少女、そして先輩騎士の訓練の日々
「初めまして、FOR所属のラス・カラードと申します。よろしくお願いします、ライオネルさん」
「ほう、君も騎士なのだな! 私の訓練に付き合ってくれて感謝しよう」
ちょっぴり偉そうなライオネルに挨拶をしているのはラス・カラード(ea1434)だ。
そして、ちょっと微笑むとラスは言う。
「先の依頼には目を通させていただきました。あのような事の起きないよう、あなたの心を健全な方向へ進ませる為にも尽力させていただきます」
「は‥‥ははは‥‥まぁ、よろしく頼むよ‥‥」
冷や汗たらりのライオネルであった。
そして、訓練には少々不似合いな少女が一人。
「ライオネル先輩が最近は素行が良くなったとお聞きしたので確かめに来ました! 本当に訓練を頑張りたいというのでしたら、出来るだけお手伝いしましょう♪」
歯に衣着せぬすぱっとした言葉はキラ・リスティス(ea8367)。
練習用の木剣をもってやる気満々である。彼女はなんとウィザードでありながら、武術の腕を磨きたいと思っているというちょっとした変り種。
しかし、その言い分にもふさわしく、なんと格闘の腕も磨いているという若干15歳の魔法使いであった。
「‥‥き、君はこの前の電撃の‥‥あ、ああ。訓練の手伝いはぜひともよろしく頼みたいものだな♪」
ちょっと何か思い出したライオネル先輩であったが、やはりちょっと偉そうである。
「しかし君のような少女が騎士の訓練についてくることが出来るのかな?」
ちょっと女性の前では良いかっこしいのライオネル先輩。さて、どうなることやら。
そして、一時間後、準備運動をしたりちょっと走ったりしたあと、型にあわせて素振りの訓練。
一回、二回、三回、四回、五回‥‥。
「ちょ、ちょっと待ってくれないかね? 今少々肩に違和感が‥‥」
なにやら早くもいいわけモードのライオネル。
六回、七回、八回‥‥。
「素振り100本ぐらいが適当でしょうか? 大した数ではないですし、一緒に頑張りましょうね」
悪意の欠片すらなくさくっとクリティカルなキラ。健康的なキラの笑顔にライオネル先輩も思わず歯をきらりーんと微笑み返して‥‥あ、ゼーゼー言ってる。
九回、十回‥‥
「‥‥な、なぜ私がこんなことをやらねばならんのだー!!」
ぺたっと座り込んで、勝手に素振りをやめてしまうライオネル。こうして見るとかなりのへたれっぷりである。
「素振り十回で音を上げてしまいましたか‥‥これは心身ともに鍛える必要がありますね」
ぎろりとラスが一睨み、そして追い討ち。
「まだまだこれからですよ。さ、立ってください。目標はとりあえず百回です。頑張ってください」
ぽむと肩を叩いてグットラックをかけるのはせめてもの情け。ただし殆ど効いてない様にしかみえないが。
「タオルと水桶はここにおいておきますから。それと水差しはこっちのを使ってくださいね」
甲斐甲斐しく手伝うキラ。もちろん自分の分の素振りはさっさと終わらせている。
「‥‥リスティス嬢‥‥私よりも先に終わるとは‥‥‥」
がびーんと効果音を付けたくなるような顔で唖然、というか非常に情けないライオネル先輩であった。
「あとすこしやったら休憩してお茶にしましょう。早く終わらせないとお茶冷めちゃいますよ♪」
さらっと言うキラ。もちろん一片の邪気もなく瞳もきらきら純真無垢である。
「そうですねぇ、腕立てもう1セットだけにしましょうか」
自分もさくさくトレーニングしながらいうラス。余裕綽々の先輩である。
「‥‥‥‥ふ、私にとってこれぐらい‥‥‥(泣)」
見るも無残にへろへろなライオネル。明日はどっちだっ!!
しかしそんなこんなでみっちりと訓練は続き、いよいよ最終日。
「99、100っ!! はぁっ! はぁっ‥‥100回はできるようになったぞ!」
ずいぶんと遅い上達のライオネルだが、彼としては格段な進歩である。
「これで訓練は終りにしましょうか。短い期間でしたが訓練初日の時よりたくましくなられましたよ」
「ふむ、私とてやるときはやるのだ‥‥これぐらい造作もないことだったがな」
ふんぞりライオネル。まぁ調子にのってる彼をみて、ラスも笑みを浮かべている。
「それではお別れですが‥‥これからも訓練を怠らないようにしてくださいね。それでは、あなたにセーラ神の御加護があらん事を‥‥」
神聖騎士らしく別れを告げるラスにちょっとばかり表情をひきしめるライオネル。そして最後はもう一人。
「私も昔は神聖騎士になりたかったので、先輩は今実際に騎士として頑張れる立場にいるのですし、頑張って欲しいと思います!」
「そうであったか‥‥ふむ、本気を出せば私の力はこの程度ではないが、もうちょっとしっかり訓練をやるのも悪くないとは思った‥‥世話になったな」
ライオネル先輩が礼を言うなんてことは明日は槍が降るかもしれない。
しかしそれに対して、キラは一言。
「一緒に頑張りましょうね♪」
はてさて、ライオネルがキラに勝てる日が来るのだろうか?