●リプレイ本文
●片隅の会話
「あ‥‥リュネさんまたお会いしましたね」
ぺこりとお辞儀して言うのはアリア・シャングリフォン(eb1355)だ。
「あら、アリアさん、その節はお世話になりました♪ アリアさんも入学式のパーティに参加していらしたんですね」
「え、ええ‥‥このようにしっかりしたパーティもいいものですよね」
「そうですね。でも、私じつはこっそりやるお茶会みたいなパーティの方が好きなんですよ」
ふふっと笑って答えるリュネであった。
「そうですね‥‥最近は特に過ごしやすい季節で‥‥あ、この前リスを見かけたんですよ♪」
「そ、そうなんですか‥‥春ですね‥‥」
「ええ、私のように薬草などを専門としていると特にありがたい季節ですね。アリアさんは最近何をしていらっしゃるのですか?」
「あ‥‥私が最近精霊碑文を勉強していまして‥‥」
「あら、そうなのですか‥‥とても難しいと聞いていますわ」
「は、はい‥‥でも、私のおじいちゃんが得意としていたので、私も修得しておきたかったのです‥‥」
「それは立派な志ですわね‥‥頑張ってくださいね♪」
そんなこんなで会話は踊る。
男性が苦手なアリアは男性に対して警戒していたようだが、先生も多数出席している入学式でそのような行動をとるものはもちろんいなかった。
なのでアリアは何事も無くパーティを終えるのであった。
「あ‥‥リュネさん、今日はありがとうございました‥‥」
「こちらこそありがとうございました♪ またお会いしましょうね」
これもケンブリッジの平和な一こまである。
●春ならでは‥‥
「ふむ、ライオネルがまたよからぬことをしているかもしれんが‥‥」
と、遠くでなにやら妙な格好の人物に声をかけているライオネルを横目で見つつ、黄安成(ea2253)はとある人物を探していた。
入学式なら他の学生もいるだろう。フォレスト・オブ・ローズの生徒はもちろんのことフリーウィルの生徒もちらほらと。
と、その中を闊歩するのは珍しく制服を着こんだ長身の女ファイター。
「や、ルカ。久しぶりだの」
「ん? ああ、安成か! こんなとこであうなんて珍しいな♪」
心なしか上機嫌の女性は安成の訓練仲間のルカ・ホークスである。
「安成とは同じ学校だけど、なかなか訓練のとき以外は会わないもんな‥‥それで今日は何をしてるんだ?」
「ああ、親しい者でも居らんかなと思ってのう‥‥そこにちょうど良くおぬしが通りかかったというわけじゃな」
「なるほどね‥‥しっかしやっぱり私にはこういう場所は苦手だな‥‥どうにも堅苦しくってね」
「ふむ‥‥わしもこういう場所は苦手での‥‥なにせ酒に弱いからのう」
「ああ、それはいつぞや酔拳だ酔棍だのを訓練でしてるときに見て知ってる♪」
くくっとのどの奥で笑うルカ。ルカもどうやら親しい人間に会えて緊張が解けたようだ。
「それじゃ、せっかくだしちょっと付き合ってもらおうか♪ この前あの先生の技を見たんだけど‥‥」
「ほうほう、あの人は剣技に格闘を混ぜるからのう。なかなか興味深いんじゃが‥‥」
訓練仲間の2人はいつものように色気の無い話をするのであった。
はてさて、これから一体どうなるのだろうか‥‥。
●騎士たちの一幕
「ライオネルさんは反省したのかな‥‥」
そんなことを考えながら横目で会場のライオネルを眺めているのは、ルーウィン・ルクレール(ea1364)だ。
そんなルーウィンに声をかける人影がふたつ。
「あ、あの方があのときの‥‥」
「ああ、それならば挨拶しなければ‥‥あの、ルクレールさんですよね。この前はお世話になったそうで」
深々とお辞儀するカップルは、依頼人としてルーウィンと縁のあったダンとエセルである。
「これはご丁寧にどうも。あれから何事もありませんでしたか?」
「ええ、それはもちろん。ライオネルさんもなにやら反省したのか付き合いやすい人になりまして」
笑みを浮かべて言うエセルとその彼氏ダン。ダンもにこやかに話しかける。
「すぐに依頼のお礼をしっかり言うことが出来ませんで‥‥本当にありがとうございました」
「いえいえ、気になさらずに‥‥そういえばドイツ語が得意だそうで」
「ええ、そうですが‥‥」
「じつは私最近アラビア語を習い始めましてね。語学を修得するときにいい方法などがありましたら‥‥」
「ああ、それなら‥‥確か同じクラスのあの方はアラビア語を勉強しているとか‥‥やはり一緒に勉強する人がいると違いますから」
騎士たちの和やかな会話。やはりパーティではしっくりと来るようだ。
「たまにはこんなパーティも楽しいものですね」
ルーウィンが言う。彼の胸にはダンからもらったマント留めが光る。
生徒同士の交流と協力。これもまた楽しみの一つである。
●先生と司書と迷惑騎士と
「やや、これは異国の美しい方っ!! ようこそおいでくださいました♪ ささ、こちらへこちらへ〜」
大仰な身振りで一礼するのはもちろんライオネル。外見だけは決まっているのでなかなかのホスト役なのだが‥‥。
「‥‥褒めていただいて光栄なのだが、僕は一応男だ。それともこちらでは男同士で褒めあう風習でもあるのかな?」
「はっはっは、このライオネルに任せておけば、此度のパーティもばっちり! ささ、この水晶のペンダントなどきっと似合うと‥‥‥‥ってぇ、男ぉっ!?」
「もちろん男だ♪」
にっこりとちょびっと邪悪な笑みを見せるのは西伊織晴臣(eb1801)。
ライオネルはびしっと硬直。差し出したペンダントも所在なさげである。
「ふむ、貴殿がライオネル殿だな。なかなか楽しい御仁だ♪ せっかくであるし、今日はえすこーとしてもらおうかな」
「いや、私はエスコートするなら女性の方が‥‥」
「やはりこちらの牛乳入りの茶はなかなか‥‥おお、ライオネル殿、そちらのけぇきを取っていただけるかな?」
「‥‥けぇき‥‥うう、蜂蜜入りのこちらでよろしいかな?」
「んむ、異国の菓子もなかなか‥‥(もふもふ)‥‥美味しいものだと♪ ライオネル殿もお一つどうかな?」
「‥‥いただこう‥‥(観念した様子でケーキをもふもふ)」
「おお、あそこにいるのは確かユルドゥズ殿だったかな、せっかくの機会であるし挨拶に行かねば♪」
「! では私はこれで‥‥」
「せっかくだし、一緒に行こうではないか♪ ささ、行くぞライオネル殿〜 我が祖国ジャパンでは行動の遅い男は嫌われるのだぞ」
なんとなく怪しいこと良いながらライオネルを引っ張っていく晴臣。
ライオネルも大人しくついていくしかないのだった‥‥がんばれライオネル♪
「あちらにおられるのが我が師アラン先生、そしてあちらが図書館司書のブックス女史です。私はあのお二人と歓談しようと思うのですが‥‥」
「私もご一緒してよろしいでしょうか? ケンブリッジに詳しそうな方にお話を伺いたいと思っていまして‥‥」
「ああ、そういうことでしたら、是非に♪ 紹介いたしますよ」
「それでは宜しくお願いしますね」
ゆったりと会場を歩きながら会話しているのはシャルディ・ラズネルグ(eb0299)とユルドゥズ・カーヌーン(eb0602)だ。
そして、たまたまとある机で杯を傾けていたブックス女史とその近くでなぜかクッキーをじーっと見つめているアラン先生の所に近づく二人。
「アラン先生にブックスさん、いつもお世話になっております」
ぺこりとお辞儀のシャルディ。その横でユルドゥズも礼儀正しく一礼する。
「こちらは最近ケンブリッジにいらしたカーヌーンさんです」
「はじめまして。今日はケンブリッジのことをいろいろ聞きたいと思いまして‥‥」
「ふむ、我輩はマジカルシードで教鞭をとるスネイプルだ‥‥」
「あら、はじめまして、カーヌーンさん‥‥ケンブリッジに来たのなら是非図書館にはおいでくださいね」
やっぱり無愛想なアラン先生と、心なしか上機嫌なブックス女史であった。そして歓談のはじまりはじまり♪
「‥‥そうだ。実はですね、先生のご指導のおかげで新たなる魔法を修得することができました♪ ‥‥サイコキネシス」
ふよふよと卓から飲み物を浮かび上がらせると、グラスも浮かばせゆっくりとワインを注ぐシャルディ。
「ふむ、研鑽は欠かしていないようだが‥‥サイコキネシスの効率から言えばグラスを浮かすのではなくグラスに注ぎ終わってからグラスを取り上げた方が‥‥」
やはりお説教のアラン先生である。
「カーヌーンさんはラテン語が専門なのですか‥‥それはすばらしいですわね。クレリックの方々の中には優れた本を残す方もいらっしゃいますし、学術言語として広く使われていますものね」
「はい、まだイギリス語はそれほど得意ではないのですが‥‥」
こちらは言語の話題である。そしてケンブリッジの話題もちらほらと。
「ケンブリッジにはどのような施設があるんですか?」(頬に手をあて首を傾げてユルドゥズ)
「うーん、地下水路は複雑怪奇な迷宮でして、ここの地下にも広がっていますよ♪」(足で土をぽんぽん踏みながらシャルディ)
「もちろんそれは図書館ですっ! 今度是非借りに来てくださいね」(ちょっと顔が赤いブックス女史)
「‥‥薬草園‥‥」(ぼそりとアラン先生‥‥誰も聞こえなかったとか)
「そういえば昔、北方の民に伝わる伝承を書いた珍しい書を読んだことがあるのですが‥‥ブックス女史は興味ありますか?」
「ええ、不完全な写本なら見たことが‥‥」
「じつは45年ほど前に、しっかりした本を読んだことがありまして‥‥」
「アラン先生は主にどんな研究をしていらっしゃるのですか?」
「‥‥最近は弟子のミスタ・ラズネルグやもう一人の弟子に手伝ってもらいながら、魔法戦術論や戦略‥‥あとは専門として植物学であるな‥‥」
「それは面白そうですね‥‥」
そして、他の冒険者たちも集まりさらに話は盛り上がる。
「ミスタ・ラズネルグ‥‥このハーブワインは我輩が作ったのだが、ハーブの種類が分かるかね?」
「えー‥‥レモンバームに‥‥‥かすかにセージもですか?」
「ふむ、さらにはマロウもはいっている。まだまだ精進するのだな‥‥」
「あら、西伊織さん。隣のお方はどなたでしょうか?」
「カーヌーン殿、こちらはケンブリッジでも顔の広いライオネル殿だ♪ せっかくだから話でもと連れてきたのだ」
「は、ははは‥‥宜しくお願いするよレディ♪」(そつなくかっこつけ)
「それはわざわざご丁寧に(ぺこり)」
「おや、西伊織さん。こちらが私の師のアラン先生で‥‥」
「ふむ、ミスタ・ニシイオリ‥‥オンミョウジとやらの魔法のシステムについて聞かせてはもらえないかね?」
「ええ、はじめまして‥‥えー我々陰陽師は月と陽の魔法が‥‥」
「あ、西伊織さん、その節はお世話になりまして♪ こちらのハーブティなどいかがです?」
「ああ、リュネ殿! これはご丁寧にどうも〜」
「カーヌーン嬢よ! 私はぜひ貴殿の故郷の話が聞きたいものだなぁ」
「ライオネルさん‥‥ここはあなたがケンブリッジについていろいろ教えてあげるのが良いかもしれませんよ♪」
ライオネルにささやくシャルディ。ハーブティを飲みつつアラン先生と話す晴臣。
ユルドゥスはライオネルの話を微笑みながら頷いて、会場には穏やかな笑い声と心地よい喧騒。
入学式を迎えた生徒たちはみな楽しい時間を過ごしたのだった。
たまにはこうして羽を伸ばすのも楽しいものである。