迷惑な歌
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■ショートシナリオ
担当:雪端為成
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月11日〜11月16日
リプレイ公開日:2004年11月17日
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●オープニング
「‥‥頼みごとがあるんだが‥‥」
顔をしかめてギルドに現れたのは一人の壮年の男。
なにやら頭痛に耐えているような表情を浮かべている。
難しい顔をしたまま、首を振って男は口を開いた。
「実は‥‥うちの酒場に居座ってる一人のバードをどうにかして欲しいんだ」
「何かそのバードが迷惑でも?」
ギルドの係が尋ねると、困った風に頭を掻くと、依頼人はこう答えた。
「迷惑といや迷惑なんだが‥‥そうとも言い切れないから困ってるんだよな‥‥」
この依頼人の名はジェイムズ。元冒険者でとある酒場の店主だという。
事の発端はつい先日、流れのバードが酒場に現れたことであった。
そのバードはこざっぱりとした緑の服に長く伸ばした金の髪が良く映える美貌の青年で、この酒場で歌わせて欲しいと言ってきたのだ。
バードの名はルーファス、竪琴と歌が得意だそうだ。
とりあえず腕前のほどを知ろうと、その酒場の常連とともに一曲聴いてみたのだが‥‥
その歌がとんでもなくひどいものだったのだ。
音程はばらばら。竪琴もへろへろ。リズムもあっていなくて、とにかく音痴!!
ジェイムズは慌てて止めようと思ったのだが、そこで初めて他の聴衆の様子がおかしいことに気づいた。
全員がうっとりと歌に聞き入ってるのだ。
そう、ルーファスは歌にメロディーの魔法を乗せて、音痴なのにも関わらず歌をうまいように思わせていたのであった。
抵抗が出来なかったものは歌に聞き惚れてしまうため、酒場には客も増え店主としては嬉しいことなのだが‥‥
やはり魔法で客を引き寄せるのはまずいと思うし、さらに言うと店主のジェイムスは抵抗出来てしまったため、下手な歌を毎日聞く羽目になってしまったのだ。
「ってことで、依頼は‥‥ルーファスの歌をどうにかして欲しいんだ。これ以上あんな歌を聴いてたらおかしくなっちまうぜ」
依頼人のジェイムズはやれやれと溜息をつくと、困ったように冒険者たちを見るのだった。
さて、どうする?
●リプレイ本文
●Prelude 【前奏曲】
依頼の最初の日、店主のジェイムズに招かれて酒場のカウンター席に座っていたのは4人の冒険者だった。
「魔法も技術の1つではあるんじゃが‥‥音痴のせいで店長が苦しんでおるというなら何とかせねばの」
そう言ったのは、筋骨隆々な壮年のドワーフのガンド・グランザム(ea3664)である。
民族舞踊の踊り手にして「愛の精神」を世に広める愛の伝道師であるらしい。
「う〜ん‥‥私もバードとはいえ本業じゃないですから偉そうなことは言えませんけれど、迷惑掛けるのは駄目ですよね」
ルーファスが酒場に登場するのを待ちながら、ジェイムズに言ったのはシータ・セノモト(ea5459)だ。
カフェの店主としてたくさんの人間を見てきた彼女はルーファスがどういった気持ちでいるのかを気にしているようである。
「ちょっと気に入らないのよ、音痴でも竪琴が下手でもいいの。でもね、ズルはいけないわ。然も知っていてやるって根性が曲がってるじゃないの。これはもう懲らしめ以外ないでしょ?」
すこし薄暗い店内でも明るく燃え立つように見える赤い髪を振って怒りを表しているのはアルラウネ・ハルバード(ea5981)であった。
情熱的な踊りを踊る彼女は、ルーファスのやり口を卑怯だと思って憤慨が収まらないようである。
「魔法を使い歌を聞かせる行為は同じバードとして許せませんわ。懼れる気持ちはわかりますがならば何故人前に立つのでしょう。一度修行し直す方が良いかと思います」
そういって、アルラウネに同意したのはバードのリューン・シグルムント(ea4432)である。
リューンとアルラウネの二人は、ルーファスに対してなにか作戦があるようだ。
そうこうしているうちに、やっとルーファスがやって来た。
酒場の常連たちから起こる拍手に会釈をして端の席に着くと竪琴の一つを取って、一礼をして聴衆に向き直った。
●Concerto 【“競奏”曲】
ルーファスは、竪琴を構えて精神を集中させる。
すると一瞬ルーファスの体が柔らかい銀の光に包まれメロディーの魔法が発動し、そこで演奏が始まったのである。
しかし冒険者たちは誰一人として、メロディの効果を受けなかった。
シータはレジストメンタルを自分にかけていたし、他の面々も無事に抵抗することが出来たようである。
そして責め苦ともいえる歌が終ると、すっくと立ち上がったのはアルラウネであった。
「アナタの噂を聞いてきたの、私を情熱的に躍らせてちょうだい?」
にっこりと微笑んでアルラウネがルーファスに言うと、ルーファスは喜んでと頷いて、竪琴を爪弾き始める。
その演奏にあわせてアルラウネは舞い始めるのだが、聴衆はアルラウネの華麗で情熱的な踊りに目を奪われた。
弾むように軽やかに、ときに激しく穏やかに舞うアルラウネ。
客が固唾を飲んで踊りに釘付けになっていると、そこで唐突にルーファスの演奏が止まってしまった。
未熟なルーファスの腕では、アルラウネの踊りについていけなかったのである。
しかしメロディによってルーファスの演奏の腕前に疑いを感じていない酒場の客たちは怪訝そうにするばかりだった。
するとアルラウネはリューンを呼んで、リューンと一緒に演奏をしようと提案したのだった。
その提案に賛同して今度こそはとアルラウネの歌に必死であわせて演奏するルーファス。
しかし、今回はリューンが同時にメロディの魔法を使っていたのである。
リューンのメロディにこめられたより強力な力によって、客たちにかけられたルーファスのメロディの効果は力を失い、曲が終わると客たちはルーファスの演奏のあまりの酷さにざわつき不満の声を上げたのだった。
すると、ざわつく中でリューンが竪琴を軽く爪弾いた。
とたんに静まり返る店内。
そして、今度はリューンとアルラウネの二人によって『本物』の演奏が始まったのである。
リューンが爪弾くのは情熱的で切ない曲。
アルラウネの卓越した踊りに合わせてリューンが滔々と歌い上げる。
緑生い茂る枝葉は幾重にひろがるも
幹となる樹はただひとつ
流れゆく河は幾筋もひろがるも
母なる海はただひとつ
月の光は陽の光にはなれず
陽の光も月の光にはなれず
廻る輪の真実は求めて止まず
ただ道が示されるだけ
ゆきましょう
懼れずに 怯まずに
ゆきましょう
掴むため 貴方のために
こうしてその日は大盛況のうちに酒場は店を閉めたのだったが、店内から客が消えた後、店内に残っているのは愕然としているルーファスと冒険者たちであった。
●Etude 【練習曲】
「私は自分に自信がなければ舞台に立たないわ、その自信はね、積み重ねて得てきたものなの。見せ掛けではないわ、それでは良心が痛むもの。踊りにも精細を欠いて、それでは自分が許せないわ」
自分の本当の腕前が客にばれてしまい、呆然としてるルーファスにきつい口調でアルラウネが言う。
「さっきのお客様の反応が本当の反応です。現実を見据えないと何も始まりませんよ?」
優しい口調だが、厳しい現実を突きつけるリューン。
二人の責めるような口調に顔を上げようともしないルーファスに、二人を制してガンドが声をかける。
「ちと言いすぎじゃないのかね、お二人さん? ま、音楽を愛するものにはお前さんの行為は許し難い行為なのかも知れないがの」
そう言って、ぽんとルーファスの肩に手を置くと、続けて励ますようにガンドは言葉を繋ぐのだった。
「しかしおぬしの歌はギルドに依頼を出してでも何とかしたい程という者がおる。せめて文句は言われない程度の実力をつけてみる気はないかの?」
「‥‥‥‥‥‥‥しかし‥‥」
まだ納得できないようなルーファスの様子に、とりあえずこれ以上言っても今は無駄であると考えてリューンとアルラウネ、ガンドの三人はひとまず酒場を後にした。
そして、最後に残ったシータが今度はルーファスに声をかけたのだった。
「‥‥あなたは歌に対してどんな想いがあるの?」
優しくシータが問いかけると、ぽつりぽつりとルーファスは語り始めるのだった。
初めは歌を歌うのが好きで吟遊詩人になったこと。
しかし、現実は腕が悪ければ見向きもされず、いくら努力しても誰も聞いてくれなくなってしまったこと。
そして、いつしか歌を真剣に歌おうと努力することを止めて、魔法に頼るようになったこと。
長い時間をかけて、シータはルーファスの想いを聞くと、ふいにルーファスと一緒にセッションしてみようと誘ったのだった。
「しかし、あなたもさっき僕の歌を聞いたでしょう? 凄い音痴で‥‥」
「ルーファスさんにとって本当に大事なのは何なのか‥‥一度何も考えずに歌ってみれば分かるかもしれない。恥ずかしいかもしれないけれども、今なら私以外に聞いている人はいないし。だから、ね?」
シータにそう言われると、ルーファスはゆっくりと竪琴を構え歌い始めるのだった。
それにあわせて、まだまだ拙いシータのオカリナの音が響く。
ルーファスが歌うのは一番最初に覚えた素朴な故郷への想いを綴った歌。
歌い終わったルーファスの顔に迷いは無かった。
そうして、次の日から短い特訓が始まったのだった。
●Ensanble 【合奏曲】
ガンドはルーファスにとことんリズム感の練習を叩き込んだ。
ガンドの踊りに合わせて演奏することから、一緒に躍ったりしながらリズム感を体に覚えさせるのである。
ついでに聴衆を楽しませるという『愛の精神』についても熱く語るのだった。
リューンは竪琴の演奏と歌を基礎から教えなおす。
丁寧に優しく教えるリューンによって、ルーファスは何かコツを掴んだようである。
練習でなかなかうまくいかないルーファスをシータが励まして、アルラウネはルーファスがいない間酒場の踊り子として代理を務めていたのである。
そして、あっという間に最終日がやって来たのだった。
「ルーファスは皆により良い音楽を聴いてもらう為に頑張っておったのだ、なので今日はその成果を聞いてもらいたいのじゃ」
全員が揃って酒場に現れ、ガンドが酒場の客に語りかける。
しかし今まで魔法によって騙されていた客たちはいまだ疑うような視線を投げかけているのだった。
そして、演奏が始まる。
曲は最初の日にルーファスが弾いた踊りのための曲。
ルーファスとリューンが歌いながら竪琴を奏で、ガンドとアルラウネが情熱的に踊り、シータがオカリナで彩りをくわえる。
まだまだルーファスの歌と演奏は拙く、不完全なものだったが何より変わったのはルーファスの表情だった。
前と違い今はより良い音楽を聴衆たちに聴いてもらって喜んで欲しいと思う吟遊詩人の顔である。
そして、演奏が終わり一礼をしていたルーファスが恐る恐る顔を上げると、酒場の客たちは暖かい拍手を送ったのだった。
「愛の精神を忘れるでないぞ!」
酒場から去りぎわにガンドはルーファスに言う。
「歌うこと自体はとても素敵なことだと思うから‥‥その気持ちは大切にして欲しいな。これから頑張ってね。また会える日を楽しみにしているから」
シータがそう言うと、ルーファスは目を潤ませて頭を下げたのだった。
これからも頑張りますと、ジェームズに言うルーファスの声を後ろに残して冒険者たちはその酒場を後にするのだった。