●リプレイ本文
マジカルシードの小さな教室に人影が五つ。小さな卓を囲んで座っている。
卓の上には乱雑に置かれた様々なものが。羊皮紙に描かれた地図や城の平面図、兵士を表す木の駒に大理石のチェス。
「さて、人数は少ないがその分君たちの意見が洗練されていることを願うぞ‥‥」
じろりと一同を見回すのはもちろんアラン先生。こつこつと神経質に机を指先で叩きながら、視線を向ける。
視線の先は、アリア・シャングリフォン(eb1355)だ。
すると、アリアはびくっと身をすくめる。
人間の男性が苦手なら来なければいいと思うのだが‥‥ともかく授業には参加するようだ。
そして、苦手苦手といってびくびくされて、もちろんアラン先生は面白くない。
いつもよりさらに怖い顔でぎろりとアリアを睨みつけると、無言で意見を促す。
「こ‥‥今回はスクロールを使った戦術について最低限お話しようと思います‥‥」
「ふん‥‥最低限と。ならばその最低限の意見にせいぜい期待してみよう」
「‥‥え、えっと‥‥作戦の詳細ですが‥‥まずインフラビジョンによる魔法の付加の後、シャドゥフィールドを展開して、暗幕を張ります」
無言で促すアラン先生。
「‥‥それに乗じて、ライトニングトラップを設置し、15mの暗幕を超えられそうになったらストームで押し返し、進行を阻害‥‥」
「‥‥まず、いくつか勘違いを正しておこうか。インフラビジョンによっても真の闇を作り出すシャドゥフィールドの中を見ることは出来ない」
こつこつと机をたたく音が響く中、生徒たちは緊張の面持ちで先生の言葉を待つ。
「ライトニングトラップを内部に設置するのは誰でも思いつくだろうが、もう一ひねり欲しいところだな‥‥では、自分の案の欠点を述べてみろ」
「は、はい‥‥魔力消費の激しさや、暗幕内で敵の個別認識などが不可能になるという点‥‥それに、ストームなどの発動タイミングの難しさでしょうか‥‥」
「ウィザードたるもの自身の魔力の残量には気をつけるのは当たり前のことだ。スクロールに頼るのは危険だな」
うんうんと頷き、ある者は羊皮紙に羽ペンでかりかりとメモを取る。
「そして、シャドゥフィールドの使い道についてだが‥‥あれは光を通さない空域と捉えて、遮蔽に使うことも考え付くべきだな」
さらに言葉は続く。
「それに、シャドゥフィールド自体を囮として使うという考え方もできるのではないかね?」
「えっと‥‥それはシャドゥフィールドを関係ないところに設置する事で、それに敵の意識を向かせるということですか?」
答えたのは弟子の一人のキラ・リスティス(ea8367)である。
「そういうことだ。中が見えないという事は、誰かが隠れているかもしれないと思わせることも可能ということだ」
そしてさらに議論が高まる。
「それでは、高位のウィザードが集まると何が出来ると思うかね?」
「はい、横一列にウォールホールを展開する事で騎兵の無効化を狙えると思います」
答えたのはバルタザール・アルビレオ(ea7218)だ。戦争には反対の平和主義者だが、知的ゲームは嫌いではないらしい。
「ええ、機動力と突破力の阻害ですね。ストームやトルネードによっても戦線の突破・停滞を望めるかもしれませんね♪」
シャルディ・ラズネルグ(eb0299)も、同じ意見を述べる。
「落とし穴に落とすことで兵自体にダメージを与えることも出来ますし、最前線を崩すことは混乱に繋がります」
「範囲魔法は味方をも巻き込むことがありますし、この場合は相手の騎兵に対してこちらが防衛側で陣を敷いてるときの対処法になりますね。双方が騎兵でぶつかり合うときは使えませんから」
キラも議論に加わる。そこで、アラン先生から新たな議論提議。
「ならば、攻城戦や篭城戦になったとしたらどうするかね?」
ざっと地図が描かれた羊皮紙を広げ、それを指差して問いかける。一番手はキラのようだ。
「攻め手ならば月夜の晩限定になりますが、ムーンシャドゥによる進入などは有効だと思います。なんと言っても情報収集と得た情報に基づいて相手を制するのが大規模戦闘での定石だと思います」
きりっと言うキラは知能戦タイプのようである。情報戦の重要性を示唆するのに、かすかにアラン先生も瞠目する。
「デュアラブルセンサーによって、城の脆弱なところを探すのもいいですね。攻め手なら弱点を探し、守り手なら補修すればいいですしね」
地のウィザードらしいシャルディの意見である。
「空から攻めるのはどうでしょう? シフールによって構成された部隊が遠距離魔法のスクロールをサイレンスをかけられた状態で無音で攻めるのです」
かなり具体的な部隊案を述べるバルタザールだが、もちろん議論も起こる。
「サイレンスの影響下なら聞くことも出来ないので、意思の疎通が出来ないと思うのですが‥‥発動タイミングを合わせたりするのが難しくなると思います。それにサイレンスは影響時間が短いのも問題だと思います」
風のウィザードであるキラが問題点を指摘。シャルディは腕を組んで考えていたが代替案を思いつく。
「迎撃を抑えるためには、夜間での襲撃とかはどうでしょう? ムーンアローならば必中ですが‥‥威力が問題ですねぇ」
「その場合は、広範囲に影響があるファイヤーボムなどの使用も考えるべきだな‥‥」
アラン先生も議論に加わる。心なしか楽しそうなのはきっと気のせいである。
「アイスコフィンを防御壁として使うのはどうでしょうか? 建物ごと内部の人を凍りつかせてしまえば堅牢な壁にもなります。扉にかけるとなかなか破れなくなりますし」
「‥‥ふむ、アイスコフィンをそこまで巨大な対象にかけるのは難しいかもしれん。それにアイスコフィンは一つの対象しか指定できない魔法のだから、扉は氷に包まれるがその周囲の壁は凍りつかない。扉を固定する方法がないと強固な壁にはならないな」
つっこみは忘れないアラン先生だった。続いてキラが戦術論をのべる。
「私がもし指揮官なら‥‥テレスコープによる戦況判断ですね。視界が通常に戻るまで術者が無防備になるので守りが必要になりますが」
「ふむ、戦況判断か‥‥長期戦などでは必要になるかもしれんな」
「長期戦などではほかにも天気の影響などもあるのではないでしょうか? ヘブンリィライトニングなど特定魔法が使用できないなどの弊害や、単純に士気への影響もあるでしょうし」
「なるほど‥‥士気という面では考えませんでしたねぇ。キラさんは情報収集の方法についていっていましたが、その情報を伝達するのに、リトルフライとヴェントリラキュイの併用で耳元に伝えるというのもいいと思いますよ」
なかなか議論が白熱しているようである。
「篭城戦の守る側だとしたら、私はここの門をわざと開けて、そこに敵を誘い込んでライトニングサンダーボルトですね」
城の平面図を指差しながら議論を続けるキラ。答えてシャルディ。
「なるほど、魔法の効果範囲の形に誘い込むわけですね。ならば私はクエイクで城自体を外部から攻撃ですね♪ 攻城兵器と一緒につかっても効率が良いですし」
「城壁に梯子をかけて登ろうとする場合はどうでしょう?」
問うアリアに答えたのはバルタザールだ。
「その場合は、サイコキネシスによって重いものをぶつけるのが使えるんじゃないでしょうか?」
「なら対抗策としてクエイクやストームによって城壁の上の魔法使いを転ばせるのもいいかもしれませんね。詠唱の妨害は効果的ですしね」
「それなら私は、建物にも完璧に効果を及ぼすグラビティーキャノンで城壁を破り範囲魔法を中にというのはどうでしょう? 情報収集が確実でないと危険ですが‥‥」
「ウォールホールでもいいかもしれませんね」
キラが答えるとアリアも別の意見を述べる。
「伏兵に備えてブレスセンサーなどは生存率を高めるのに役に立ちますよね‥‥やはり士気や心構えは大事だと思います」
「ミス・リスティスは戦術よりも戦略の方が意見が出しやすいようだな‥‥」
そういってアラン先生がキラに大理石のチェスを渡す。戦略を学べということだろう。
「シフールの奇襲部隊は魔力の消費量と持てる重量の制限が問題でしょうか‥‥言いたいことが多くて足りません‥‥」
「ミスタ・アルビレオは部隊編成の意見が興味深いと言えなくもなかった‥‥」
同じようにチェスを渡すアラン先生。
「改善点は多いですね‥‥」
アリアがそういうのにシャルディも頷く。
「魔法というのはそれこそ千変万化の応用法がありますから話し足りませんね。またこういう機会が欲しいですよ♪」
これからもアラン先生との議論が続くようであった。