●リプレイ本文
●囮作戦開始
「ケンブリッジに来てはじめての依頼がちんぴらの更生とは‥‥この国にもちんぴらがいるんですね‥‥」
呟いたのは大宗院透(ea0050)。はるかジャパンよりやってきた冒険者であるが‥‥少々勘違いしているのかもしれない。
今回の敵は不良学生であって、人々に仇なす無頼の徒ではないのだが、さてどういう手で更生させるのかはなはだ不安である。
彼は今ケンブリッジの学生食堂にてお昼の最中。そして、同席する人が2人ほど。
1人はルフィスリーザ・カティア。制服を着こんでおっとりのんびりぽややんなお嬢様といった風情である。
「まったく、弱いものイジメとは感心しませんね‥‥」
もう1人、透の言葉に相槌をうったのはユエリー・ラウ(ea1916)。
こちらもきちっと着こんだ制服やら、高価そうな持ち物やらのおかげで一見どこかのお坊ちゃま風だ。
「さて、囮にうまく乗ってくればいいのですが‥‥」
食堂の一角にいかにも世間知らずと言った感じで陣取る一団。彼らは囮である。
最近幅を利かせている不良集団がいつもたむろしている場所に近いところにわざと陣取っての囮は果たして効果が‥‥。
「おうおう、にいちゃんたち、ここいらは俺たちの優先席なんだぜぃ?」
ばっちり効果有り、というか引っかかる不良どもがお馬鹿である。
何が楽しいかげらげらと笑いあいながら、変な顔して睨みつける不良たち。俗に言うガン付けである。
それに対して、優雅に視線を向けるユエリー。口を刺繍入りのハンカチーフでこしこしと拭い、一言。
「ああ、それは失礼いたしました。すぐにどきますからどうぞご容赦を‥‥」
「ああん? そんな事ですむと思ってんのかよぅ! 席の使用料を置いていきな〜!!」
馬鹿丸出しであるが、不良たちは真剣そのもの。顔をぐいと近づけて、上目遣いでぎろりと睨みつける。
相手に恐怖を与えるためのものなのだろうが‥‥モンスターを相手にする冒険者たちには所詮こけおどし。
ちなみに、周囲から生徒の影は消えている。
巻き込まれないように避難しているのだろうが‥‥そんなときに、唐突に浪々と響き渡る声がする!
「ひとぉぉつ!! 昼間の治安を脅かす!」
どどん!! 効果音つきで表したいほどの登場。逆光を背に現れたるは大きな人影。
「ふたぁぁつ!! 不良は決して許すまじ!」
びしぃ!! と指を突きつけて大きく一喝! さすがの不良たちもあっけに取られている。
「みぃぃっつ!! 皆まとめて鉄拳制裁!!」
拳をぐっと握り締め、不良たちの前にずだんと飛び降りる。ちなみに今まで名乗りの最中は机の上だったのだ。
「フリーウィルの鋼鉄番長、鉄劉生ここに参上!!」
マントをばさりと翻し、現れたのは鉄劉生(ea3993)だ。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!」
とくに呼んだ覚えはないが、現れたのは小さな影。
「悪党倒せと轟き渡るっ!」
びしりとポーズを決めて、パタパタと飛んできたのは一人のシフール。
「良い子の味方、りりかる☆シャンピニオンちゃん参上〜〜!」
空中できめっと決めポーズするのはシャンピニオン・エウレカ(ea7984)。
可愛くウィンクなんかするもんだから、不良どもはますます唖然呆然。
「は、はんっ! たかがシフール‥‥」
そこまで言おうとした首領格のロームにぼふっ! っと袋が命中。小麦粉だらけでまっしろけである。
「自分より腕っ節が弱そうな相手ばっかり、集団でかかるなんてカッコ悪いゾ! そんなんじゃ彼女もできないんだから! そりゃ女の子は危険な香りの男にはときめくけどね、弱い者いじめのヘタレはダメなのよっ」
むきーとばかりに一気にまくし立てられて、不良どもは返す言葉もないようだ。
そこで思い出したかのように言葉を繋ぐ鋼鉄番長。
「ということで、迷惑者のお前たちに挑戦を申し込むっ! いろいろ競技に参加してもらうが、勝ったら一人につき5Gくれてやるぜ! 挑戦受けるか?」
「へっ! そんなみえみえの手に引っかかるかっ! 付き合ってられるかよぅ」
といって逃げようとするロームと不良ども。そこで、今までじーっとしていた透が、
「抵抗しても無駄です‥‥やっぱり、ちんぴらには実力行使‥‥“更生”は“こうせい”‥‥」
無言でするりと近寄ると、スタンアタック一閃。「むぅん」と呻いてあっさり気絶するローム。
そのまま全員もちろん捕まって、やっぱり無理やり対決の場に連れて行かれる不良たちであった。
●更生の攻勢♪
それぞれの不良が担当する冒険者のところへ連れて行かれ‥‥とある教室では、お説教タイムである。
「‥‥二度と迷惑青年にならないよう、言い聞かせなければいけませんね。ええ、もう二度と迷惑行為をしたくならないように」
こほんと咳払いをしてから、すっくと前に立ったのはバルタザール・アルビレオ(ea7218)。
「ではまず、あなたたちがしていたことがどんな罪にあたり、それに対する罰がいかなるものか教えてあげましょう」
「うるせぇな! んなこと聞きたくねぇんだよっ」
「‥‥専門レベルのファイヤーボムって、当たると痛いでしょうね。治療棟にどれくらいいないといけないかなぁ‥‥(ぼそり」
「‥‥べ、べつに大して悪いことしてねぇじゃねぇか‥‥」
「ほほう‥‥大したこと無いと‥‥人に迷惑をかけてその程度の自覚しかないのですねぇ」
そして地獄の数時間が始まったのである。
無視する、もしくは反論すれば‥‥即座にツッコミ、言い返すことすら出来ない。
「金は借りただけだって!」「じゃ、今すぐ返しなさい(さらり」
泣いて嫌がっても、淡々と説教は続き、いつしか不良1号もぐったりである。
「そういえば、キャメロットの冒険者ギルドでは‥‥『村人の迷惑になる物』の討伐依頼が時々あるんですよ‥‥良かったですね。問答無用で退治されなくて」
とどめにぼそり、すでに反論の気力も無い不良であった。
「さて、キミはゲームは得意かい? ‥‥なら少々金を賭けてやってみようじゃないか」
スタンアタックの昏倒から覚めてから、ベアータ・レジーネス(eb1422)とゲームする羽目になったのは不良2号。
とりあえず木のトランプを使ってギャンブルの真っ最中である。ちなみに実力はほぼ互角。
「なかなか勝負がつかないね‥‥それなら決着はチェスでつけようか。キミが勝ったらこっちの金を全部‥‥でも、もしキミが負けたら‥‥」
そういってバルタザールに借りたチェスを出して、
「そうだな‥‥君たちがなんで同じ生徒たち、それも裕福そうな人たちを狙って悪さをするのか。その理由を教えてもらう、というのはどうだい?」
「へ、そんな事でいいなら、早速やろうじゃねぇか!」
チェスが得意と見えて、不良2号は調子にのっている。するとベアータは目を細めて、さらりと付け加える。
「今君が約束を破らないように呪いをかけたから」
こっそりヴェントリラキュイを発動。ぎょっとして不良は、
「へっ! そんなの嘘に決まってるじゃねぇか!! なんか証拠でもあんのか?」
『‥‥この声が聞こえないのかい?』
ぼそりと耳元で聞こえる陰々たる声。目の前のベアータは唇すら動かしていない。それを見て不良はがたがたと震えだしたのだが‥‥
「それでは、ゲームを始めようか」
容赦ないベアータ、もちろん時々耳元で囁くのを忘れずに。
そんな状況で、不良が勝てるわけはなく、結局呪いの一言にびびりまくった不良からベアータは不良の生い立ちから、悩み事まで一切合財聞き出すことになるのだった。
「そんなところも読めないのですか? ‥‥いったい今まで何を勉強してきたのですか」
速読対決を持ちかけたのはユエリー。しかし、不良3号はもちろん敵うべくも無く、すでに勉強会である。
「まだそこまでしか進んでいないのですか‥‥いいですか、あとで説明してもらうのでしっかり読みなさい!」
泣く泣く読み進める不良3号。この経験が元で彼が後々勉強に目覚めたとか‥‥。
「はい、読んだ内容のテストしますからね! ‥‥そこ綴りが間違ってますよ!」
たおやかに見えて、結構厳しいユエリーであった。
「あなたたちはは憤りを発散する場所がないから、不良になるのだと思います。その憤りを錬金術を学ぶことで自然の摂理を理解して発散させればいいのです」
力説しているのは、エリス・フェールディン(ea9520)。どうしてそういう理屈になるのかはいまだ不明である。
「いいですか、錬金術は最高の学問です」
「ああん、そんなもん別に興味ねぇよ」
不良4号、禁句を言ってしまい‥‥末路は推して知るべし。
「‥‥そんなもん‥‥錬金術をそんなもん呼ばわり‥‥(ぷち)」
何かが切れたようで‥‥狂化するエリス。
「それならば! 力ずくでも学ばせてさしあげますわ。学べばきっと素晴らしさに気づくはずですわ! お〜っほっほっほっほ!」
「うわっ! こいつ怖ぇっ!!」
とっさに逃げようとする不良、しかしそんなにエリスは甘くない。
「逃がしませんよっ!(ローリンググラビティで椅子やら机ごとどかーん)、錬金術は最高なのです!!(サイコキネシスで机をぶん投げ直撃)」
物音に気付いて見に来た透が止めるまで、エリスが大暴れしたのは言うまでもないのであった。
「また会ったのう、ローム。組み手の相手をしてもらおうかの」
黄安成(ea2253)が素手で首領格のロームに向き合う。対するロームも、
「へ、あんたもなんでこんなことに付き合うんだ‥‥」
「お前さんは、まだ騎士として立ち直れると思うからじゃのう‥‥行くぞローム」
だっと地を蹴ると間合いを詰めて、ロームに痛烈な拳の一撃を見舞う。
拳と蹴りの応酬が続く。ロームの一撃を軽やかに回避して、足払いをかける安成。攻防を繰り返しながら安成は言う。
「お前さんは自分が何故騎士を目指したのか覚えておらんのかっ!」
なんとか足払いを避けて、反撃の拳を放ちながらロームは、
「おれは決められた道を進むのが嫌だったんだ!」
その拳を手のひらで受け止めて、ぎりぎりと握り締めながら安成。
「ならば、ただ単に反発しているだけでは新たな道が開けないことになぜ気付かんのだっ!!」
拳を受け止めたままどすっと逆の手を一閃。拳がみぞおちを深々とえぐり、ロームは地に膝をつく。
「今からでも、遅くはない‥‥人を傷つけるのではなく守ることが騎士なのではなかったかの?」
その声を聞きながらロームは意識を失ったのだった。
●そして、大団円?
「不満があるんなら、いつでも聞いてあげるからね♪ りりかる☆シャンピニオンちゃんは良い子の味方だから!」
なぜか人生にへこたれた様子の不良はエリスにこっぴどくやられた後だったとか。
「ときには話し合いをすることも大事ですから‥‥ゲームでの発散もいいですけどね」
ベアータはにっこり笑って、チェスをバルタザールに返す。
「初めから錬金術を学んでいれば不良になどならなかったでしょうに‥‥」
真偽のほどは定かではないが、錬金術で更生したのは確かだ。トラウマになってるかもしれないが。
「さて、お前ら! お互い全力で戦ったんだ。もう不良行為なんてする気ないだろ」
答えないがどこか憑き物が落ちたような顔の不良。
とりあえず、同じことはしないだろう‥‥今回の事でだいぶ懲りたようである。
「それじゃ、みんなで夕日に向かって叫ぶぞっ!!」
自ら料理に腕を振るい、振舞ったあとに熱血!
これぞ不良の更生方法‥‥効果のほどはなぞであるが、連帯感は生まれそうである。
こうして、ロームたち不良は二度と同じことはしなかったのであった。