●リプレイ本文
地下闘技場は緊張感に満ちていた。
そこに集った冒険者は8人。当初の予定から2名欠員があったものの戦意は十分、準備万端である。
決まったルールは単純明快。半々に分かれての紅白戦で、先に敵全員に重傷を負わせた方が勝ちである。
闘技場に下りて対峙する双方のチーム。
壁面にはところどころ煌々とかがり火が焚かれ、場内を明るく照らしている。
闘技場をぐるりと囲むように設けられた観客席を闘技場からうかがい知ることはできない。
しかしおそらくこれから始まる戦いを楽しみにしているたくさんの観客がいるのだろう。
そして4人ずつ対峙する紅白両陣営。
それぞれが獲物を手に、淡々と闘いの開始を告げる音を待っている。
‥‥が、その前に舌戦が始まった。
「‥‥オイてめぇ、女に囲まれてるからってデレデレしやがって!」
大きな声が響く。声の主はクリムゾン・コスタクルス(ea3075)だ。
にやりとおかしそうに笑みを浮かべ、ヲーク・シン(ea5984)に対して声を飛ばしたのである。
「‥‥ふっふっふ〜ハーレムこそ我が望み〜♪」
なんと、ヲークたち紅組はヲーク以外全員女性で逆紅一点のヲークの鼻の下は既にびろーんと伸びまくりである。
「気力充実、戦意向上、欲望暴発♪」
微妙に言っちゃいけないこと言ってる気がしないでもないが、ともかくヲークは上機嫌。
‥‥心なしか紅組の女性たちの視線が冷たいのはきっと気のせいだ‥‥ということにしておこう。
「そんなに腑抜けてっとあんたのアレをちょん切っちまうからな!!」
そんなヲークを見て、クリムゾンがびしっと怖いことを言う。ちょびっとヲークも青くなったのであった。
‥‥頑張れヲーク、クローニングがあるぞ♪(そういうことではない)
さて舌戦も終り、いよいよ静かな緊張が高まる闘技場。
お互い口を開かず、瞬きも堪えて今か今かと闘いの始まりを待つ。
そしてついに‥‥
ごぉぉぉーーーーーん!!!
闘いの始まりを告げる古びた鐘の音が響きわたり‥‥
闘いが始まった!
先手を取ったのは紅組のクリムゾン。ぎりぎりとロングボウを引き絞り狙いをつける。
狙う先はスクロールを広げているゼファー・ハノーヴァー(ea0664)だ。
「まずは、ひとり潰させてもらうよっ!」
スクロールの使用より一瞬早く矢が解き放たれ、一直線にゼファーの元に向かうが‥‥
「そう簡単にはいかないわよ! 女の勘を甘く見ちゃダメよ♪」
矢を受けとめたのはレイナ・フォルスター(ea0396)のシールドソードだ。
クリムゾンの放つ殺気にいち早く感づき、ゼファーを守るために移動してきていたのである。
そしてゼファーのスモークフィールドのスクロールが発動し、お互いの陣営の間に濃い煙が発生してお互いを覆い隠す。
レイナに声をかけるゼファー。
「‥‥助かった。‥‥っち、ファイヤートラップのスクロールを使ってる暇は‥‥」
急いでスクロールを持ち替えるゼファー。
展開は予断を許さない状況になった。
なぜなら完全に視界が煙で埋まり、逆に何処から相手が出てくるか予想がつかなくなったからである。
そうすれば、視界を遮られた白組がとるべき手段はただ一つ。強行突破である。
紅組は煙から出る白組の面々を待ち構え、煙からわずかに距離を置く。
先陣をきって煙から飛び出したのはルクス・ウィンディード(ea0393)。
おそらく開始直後から全力疾走で敵陣を目指したのだろう。一番先に煙を抜けてやって来たのだ。
「ちっくしょー! 蒼司の奴と協力する計画が台無しじゃねぇか!! だが行くしかねぇんだよ!」
ヲークが放ったダーツを身に受けながらも煙を割って敵陣に飛び込む。
ヘビーヘルムを脱いでもなお重装甲のルクスにはダーツは全く刺さりもせず、その漆黒の鎧の表面で虚しく跳ね返るだけだ。
するとそこに立ちふさがったのは夜桜翠漣(ea1749)である。
「あなたの相手は私です‥‥」
走ってくるルクスの前にすっと立ちふさがり、左半身を前にしてすっと構えて‥‥ちょいちょいと手招き。
「かかっておいでなさい」
「はっ! 相手にとって不足はねぇ、俺の一撃を受けて見な!!」
走りこむ勢いのままにチャージング。初撃から急所狙いの必殺の突き!
当たれば風穴が開く豪速の一撃を‥‥翠漣はたった半歩の動きで回避してのける。
ルクスが右腕で繰り出した槍の一撃を、そのさらに右側に一歩踏み込み伸びきる槍を逆にさかのぼるかのごとく一歩間合いを詰めて‥‥。
「はっ!」
ずどんと地を打つ震脚! 槍を右手で制しつつ猛烈な踏み込みで、左の掌打を打ち込むのだが‥‥
がつんっ!!
ルクスは身体を強固な鎧で覆っているため、流石の一撃も内部まで衝撃を伝えることは出来ない!!
炯炯と瞳を光らせ、その一撃を見据えるルクス。
「はんっ! その程度じゃきかねぇよっ!!」
連続して繰り出される蹴りも拳も鎧と盾に阻まれて殆ど効果がなく、その攻撃をあざ笑うかのように槍を引き戻したルクスは、
「行くぜっ!」
槍をしならせて、渾身の振り下ろし。並みの相手なら体が右と左に真っ二つになるような一撃を放つ!
「そんな攻撃には当たりませんよ」
しかしひらりと紙一重の差で間合いを見切り、それをかわす翠漣。
一撃必殺の攻撃を紙一重でかわすのは技量の高さゆえ。必殺の攻撃をかわし続けるのは並みの精神力ではないだろう。
だがそれはルクスも同じ。鎧で守られてるとはいえ、翠漣の一撃は紛れも無く強烈。
時には受け、時には盾で払いのけ、甘んじて鎧で受けることもしばしば。お互い決め手に欠き、攻守を入れ替えては幾度も応酬しあうのだった。
一方、遅れて煙を抜けたアリエス・アリア(ea0210)とクリムゾン。そしてシュナイアス・ハーミル(ea1131)。
ちょうど両チームとも三対三で対峙するのだった。
「楽しませてもらうぞ!!」
ジャイアントソードを振りかざし、轟風とともに叩きつけたのはシュナイアス。相手はヲークだ。
うなりを上げる剛剣の一撃。その攻撃はとてもナイフでは凌げるようなものではなかった!
「ちっ! これじゃまずい!」
達人の域に達するシュナイアスの一撃は容赦なくヲークの体を切りつけ傷を負わせる。
しかしまだヲークは倒れず起死回生のために苦し紛れにナイフを投げつけるのだった。
「こころで終わるわけにはいかないんだよ!」
ナイフをシュナイアスが受け生じた一瞬の隙をつき、後ろへと下がり、自分の荷物からクレイモアを取り出そうとする。
その背中に向けてシュナイアスがスマッシュを放ち、さらにヲークの体は血にまみれる。
さらに止めの一撃と再度スマッシュを放つのだが‥‥
がきんっ! と音を立てて、ジャイアントソードが受け止められる。
「‥‥血だらけなのはお洒落じゃないな!」
ヲークがクレイモアを振りぬき仕切りなおす2人。技能ではヲークが数段有利なのだが、傷のせいで実力はほぼ互角。
剣戟の応酬が始まった!
「‥‥まずいわね‥‥」
呟いたのはレイナ。その体はところどころが血に濡れていた。
太ももや二の腕をざっくりと切り裂いているのは矢傷である。
クリムゾンが連続して放つ矢はもちろんのこと、アリエスが放つ矢の技量が卓越していたのだ。
銀と通常を黒く塗って使う準備までしてきたのだが、混戦に近くなってはただただ撃つのみである。
弓兵2人の白組に対して傷付いた紅組のレイナとゼファーができることはただ前進あるのみ!
レイナはシールドソードで矢を防ぎつつ、突進しその後ろを追うように両手に鬼神の小柄を持ったゼファーが続く。
「もうここまできたら怖いものなんて無いわっ!」
飛んでくる矢を恐れず突進するレイナ。狙いはクリムゾンだ。
「間合いに入られるなんて不覚だねっ」
レイナは後数歩でクリムゾンまで届く距離。するとクリムゾンは矢を投げ捨てるとにやりと笑いながらレイナを見据える。
「っ?!」
何を考えているのかと不安に思うレイナだったが、ここはもう攻撃するしかない。
そして、シールドソードを振り上げると、助走の勢いのまま一撃!
「そんな攻撃には当たらないね!」
ひらりとかわしてレイナとすれ違うクリムゾン。すぐさま振り向いて対峙したレイナは‥‥
「なっ‥‥それはゼファーのスピア!」
「正解っ! あたしはアーチャーじゃなくてファイターなんでねっ!」
そして横薙ぎに払われたスピアの一撃でレイナはノックアウトとなるのだった。
一方ゼファーは両手に鬼神の小柄を持ち、じりじりとアリエスとの間合いを計っていた。
アリエスの矢をかわすことが出来れば勝機を見出すことが出来るのだが‥‥
「‥‥はっ!」
ゼファーは片手の鬼神の小柄を鋭く投げつけると身を低くして、一気に間合いを詰める。
相手が撃った矢をなんとか凌げば次の矢を準備している間に近づくことができるのだが‥‥
なんと、投げはなった小柄をよけもせず、肩口に受ける!
ぐさりと小柄は突き刺さり、傷口からはアリエスの髪と同じ赤が流れ出す。
しかし、アリエスは矢を放たず、ついにゼファーが間合いに飛び込む!!
「‥‥チェックメイトです」
ぴたりとアリエスは矢をゼファーの額へと向けて構えを崩さない。
「‥‥ふむ、届かなかったか‥‥やれやれ、修行が足りなかったかな」
ぽろりと手に持った鬼神の小柄をゼファーが離して、降参とばかりに両手を挙げる。
するとアリエスが女性と見紛うばかりの顔をほころばせて言う。
「私も、少しだけですけど強くなりたいと思ったんです。以前、私には誰も手を差し伸べてくれなかったけど、今は、私が手を差し伸べる人になりたいですから。差し伸べる手が其処になければ、私がその手になるまでですから」
矢を照準するのをやめてアリエスが立ち上がる。
これで決着の趨勢は決したのである。
翠漣対ルクス戦‥‥。
軽いながらも攻撃を当て続ける翠漣がわずかに有利に闘いは動いている。
「ああ、当たらねぇ!! こいつでどうだっ!!」
流石の両者もつかれが見え初め、続く翠漣の一撃でついにルクスの足元がふらついたのだが‥‥。
「ほい、そこまで。あんたも2人同時に相手はできねぇだろう?」
クリムゾンがスピアを翠漣に突きつけて言うと、
「‥‥そうですね、残念ながらどうしようもないようですね」
「‥‥もうちょっと早く加勢に来てくれてたら‥‥」
そういうとルクスはがしゃんっ! と音を立てて仰向けにひっくり返ったのだった。
がきぃん!! とジャイアントソードをクレイモアで受け止めるヲーク。
「そろそろ動きが鈍くなってきたんじゃないか?」
傷からは血が流れ赤く染まったヲーク。体力もそろそろ限界だ。
「ヲークさん、そこまでです。決着はもうつきました。わざわざ重傷を負わせることはありません」
矢でぴたりと狙いをつけたアリエスがヲークにそういうと、
「‥‥ふぅ、これでハーレムも終りか」
ふっと苦笑を浮かべて、降参とばかりに手を上げ‥‥そのままばったりと倒れ付す。
勝ったのは白組。本当にぎりぎりの勝負だった。