●リプレイ本文
●わがまま騎士と先輩騎士2人
「元気だったようで何より、今回もよろしくお願いしますね」
「‥‥まあ、お姉さんには暖かく見守っていてもらいましょう」
「‥‥よろしくおねがいします」
マカール・レオーノフ(ea8870)とルーウィン・ルクレール(ea1364)が相手するのは、過保護なお姉さんが標準装備のマリウスである。
ふてくされたようにむすっとしているが、一応ぺこりとお辞儀する。
14歳になったばかりのマリウスから見ると、大分先輩の騎士2人が相手であるし、少々緊張しているのかもしれない。
ちょっと離れたところから、じーっと姉のヒルダがみているのも先輩騎士の2人は苦笑するのだった。
しかし、苦笑してばかりも居られない。ということで今回は馬術の特訓である。
マカールもルーウィンも馬術に関しては専門的な技術の持ち主。先生が2人に生徒が一人という感じであった。
「マリウス君。馬の世話は君が自分でしているのですか?」
「ん、俺も一応してるけど、大体ねーちゃんがしてくれるぞ」
ぽんぽんとマリウスの馬をチェックしながらマカールが言う。
‥‥マリウスの頼りない言葉に2人の先生は再び苦笑である。
「‥‥いいですか。馬は非常に頭が良いのです。だからしっかり世話をしてあげないと信頼してもらえませんよ」
自分の愛馬の首筋を撫でながら言うマカール。
「まあ、今までが今までだったのでしょうし‥‥でもお姉さんに頼ってばかりではいけませんね」
厩舎の出入り口辺りをうろうろしている姉のヒルダにちらと目をやって言うルーウィン。
「‥‥わかったよぅ。じゃあどうすれば良いんだ?」
こんな調子で一緒の訓練は続く。
「はい、そこで止まって‥‥しっかり馬に言うことを聞かせられないといけませんよ」
馬場で並んで馬を歩かせつつ、指示を飛ばすマカール。
「そこで飛び越えて‥‥ふむ、結構腕が上がりましたね」
障害物を飛び越える訓練でたまには褒めてあげたりするルーウィン。
どかどかと蹄の音を立てて、馬を走らせたり、悪路を走る方法を身に付けたり。
「背筋を伸ばして! 早駈けのときでも背筋は正しておいた方がいいんですよ」
ある日、マカールの提案でフォレストオブローズの学生が良く使うルートで少々遠くまで馬で走る。
「‥‥よっと‥‥そんなこと言われないでも分かってるよっ」
まだまだ口応えするものの、先輩2人からびしばししごかれて、マリウスもなかなかさまになってきている。
「さてと‥‥そろそろ一休みしましょう! 休憩を取ることも必要ですよ」
ルーウィンが馬上からそう声をかけ、小川が流れる草原で一向は足を止める。
馬を手近な木にくくりつけ、しばしの休憩。川のせせらぎと暖かな日差しが心地よい。
‥‥と、やっぱり後ろからついてきたのは姉のヒルダだ。なんと手には大きめなバスケットを持っている。
「あ、ねーちゃん! 何しに来たんだよぅ!」
「あなたのことが心配だから見に来たんじゃないの! ‥‥レオーノフさんにルクレールさん、どうもありがとうございます」
口を尖らせて抗議する弟をさらっといなして、ぺこりとお辞儀するヒルダ。
バスケットを開けて、パンやビスケットなどを取り出して、にわかにピクニック。
「‥‥ん、このケーキはなかなか‥‥」
ヒルダは実は家事も得意。お手製のケーキにマカールも満足のようだ。
「さてと‥‥もうすこしいってみましょうか」
しばらくしてルーウィンが言う。訓練はまだまだ続くのである。
●学園に響く音色
「〜♪ 春の女神の歌声響く〜♪」
ケンブリッジの小さな広場。少しずつ強さを増す日差しの下でリュートをかき鳴らしているのはティナティナである。
即興でその音楽にあわせて竪琴を爪弾いているのはリューズ・ウォルフ(ea5382)だ。
そして、もう1人。言葉の通じない異国だというのに飄々としているシャンピニオン・エウレカ(ea7984)。
実戦で腕を上げようとシャンピニオンが許可を取ってきて街頭で連日演奏会である。
「五月の風は女神の吐息〜♪」
ちょっとどうかと思うような歌詞だけど、ティナティナは大真面目である。
しかしまだ修行中の身であるティナティナの音楽。観客の受けも非常に“微妙”である。
しょぼんとするティナティナ。
「ん〜‥‥やっぱり演奏がもっとうまくないといけないのかな‥‥それとももっと派手に‥‥」
そのまま数曲演奏したあとに、最後にリューズが一曲演奏することとなった。
どことなくがっくりしているティナティナを見やって一言。
「音楽は技術や外見じゃなくて一番大事なのは心。心を伝えたい言う心が一番大事だって思う‥‥」
そして竪琴をゆっくりと爪弾き始める。
リューズが奏でるのは優しい音色。例えるなら恋人のために窓の下で毎夜奏でる小夜曲。
感情のこもった美しい調べは心に直接響くような素晴らしい音色だった。
そして、ところ変わって食堂に集まっている3人。話題は様々のようだ。
「んー歌詞に異国の言葉を入れたら良いんじゃない?」
ゲルマン語でティナティナに話しかけているのはシャンピニオン。
なにやらヒンズー語の簡単な単語なんかをティナティナに教えているが、この間ティナティナが通訳代わりである。
シャンピニオンもイギリス語を覚えるともっと楽になるかもしれない。
ティナティナは吟遊詩人を目指しているだけあって、語学は勉強中らしい‥‥それはさておき。
「バードは恋愛に一番敏感じゃないといけない職業だと思う‥‥」
リューズが言う。するとティナティナがずぃっっと身を乗り出して、目を輝かせる。
「‥‥ということは、リューズさん。お相手がいるの?」
きらきらと好奇心とかに満ちているティナティナの瞳。やっぱりこの手の話は大好きなようだ。
「‥‥ええ、実は‥‥」
そんな話をしながら、反省会である。
そして次の日も、ティナティナとリューズの演奏が続く。
ティナティナも恋を知れば吟遊詩人として更なる一歩が開けるかも?
●剣士と忍者と武道家
「今回は負けんからのぅ」
ルカと組み手に取り組んでいるのは黄安成(ea2253)。トリッキーな動きの拳法に磨きをかけているようだ。
掌を鞭のようにしならせて横からの打撃を放つ安成。身を沈めてかわすルカ。
安成の技にも見慣れてきたルカだが今日は少々一味違うようだ。
「さて、これをさばききれるかの?」
かすかに笑顔を浮かべて言う安成。攻撃の手を休めず、右に左に蹴りと拳を放ち続ける。
「ふっ‥‥隙ありっ!」
ルカの気合とともに振り下ろされる訓練用の木剣。酒に酔ったのかふらりと安成の体勢が崩れた隙を見逃さない。
しかしその隙は囮であった。
ぐらりと体を前に倒しながら懐にもぐりこむようにしてすれ違い地面を前転して相手の背後を取る安成。
ぽとりと手からナックルを落とすと、相手の腕を引き足を払いながらスープレックス!
「っ! しまっ‥‥」
なんとか受身を取るものの、土の上に投げ飛ばされて一瞬動きが止まったところで後ろから腕を回してホールド。
ぽんぽんとルカがギブアップのタップをする。
「ふむ、これで一勝じゃ♪」
非常に爽やかな訓練の風景である。
てくてくとルカが小道を歩く。人気の無い道を一人肩で風を切りながら。
するとずぼっと道端の土の中から大宗院透(ea0050)が躍り出て、ハリセンを掲げて攻撃するっ!
ぎりぎりなんとかその攻撃をかわすルカ。透は何も言わずに去っていく。
また違う時間には、別人に成り代わって接近してだまし討ちをかける透。
これぞ忍者の本分といった攻撃方法である。実はルカに自分なりの戦闘訓練をするということで、これも訓練なのだ。
そして、ケンブリッジの食堂にてルカ、安成、透の三人がちょっと息抜きしながら会話中。
「それにしても、面白い戦い方だ‥‥なんていうんだったかな?」
「忍者とは西洋で云うレンジャーの特殊なタイプです‥‥」
「ふむ、だまし討ちや忍びよりが得意なんだったかの」
「誰もが真っ向から勝負してくれるとは限りませんし‥‥研究して、相手の弱点を付くことが卑怯だとは思いません‥‥。それを卑怯と云って、自分の行為を世間的に無理やり正当化しようとする方が卑怯だと思います‥‥」
きっぱりと反論する透。自分の職業と仕事に対して誇りがあるのだろう。
「さて、これからどうしようかのう?」
安成が問うと、透がぽつり。
「“次週”の授業も“自習”だそうです‥‥」
「‥‥ふふっ」
‥‥駄洒落に対しても並々ならぬ熱意があるような徹に対して思わずルカも笑みをこぼしたのだった。
●迷惑騎士とお勉強。
「‥‥私は今精霊碑文学を勉強しているのですが‥‥まずはじめに普通の語学からですね。あ、そこスペルが間違ってます」
羊皮紙を前に、かりかりと書き取りの練習をしているのはライオネル。
先生役は、エレナ・レイシス(ea8877)のようだ。
「人に教えることから学べることも多いですし‥‥あ、そこは定冠詞です」
「うう‥‥本気を出せばこの程度の問題なぞあっさりと‥‥」
イギリス語に堪能なエレナからびしばし教えを受けるライオネル。騎士足るもの知性も必要である。
と、そんなところにやってきたのやエリス・フェールディン(ea9520)だ。
「本当は全員に錬金術の素晴らしさを伝えたいのですが、今回は諦めます」
といって、錬金術を教える気満々のエリス、その瞳に篭る熱意にライオネルもちょいと腰が引けている。
「それではまず最初は物質の組成から学びましょう。錬金術で得られるものとして‥‥」
そして数時間後。
「いいですか、このような過程を通して精製することによって‥‥」
「‥‥‥zzzzzzz」
なんとライオネル、薄目を開けたまま寝ているようだ。
これを見てちょっとムカッと来たエリス。思わず起こそうと手を伸ばして‥‥やっぱり狂化。
「錬金術について学ぼうというのにその態度は一体なんですか。わたくしの話が聞けないんですの?!」
「‥‥はっ! 私は別に寝てないぞ‥‥ってぉぉわあ!!」
と、いつものごとく暴走しようとして‥‥
「はい、そこまで」
いつの間にかすぐそばにいたエレナが借り物のスリープのスクロールでエリスを眠らせる。
ぽてりと眠りにつくエリス‥‥その口が小さく呟く。
「錬金術を学んでくれる方が増えるといいのですが‥‥」
‥‥理由はいわないが、それはなかなか難しいことだと思われる。
とまぁ、迷惑騎士とまけず劣らずな活躍を見せながらも勉強は続く。
はたしてこんなのでライオネルが立派な騎士になれるかどうかは謎である。