●リプレイ本文
●遠足はお菓子とともに
「今回もケーキを焼いてきたんですが‥‥」
人間用のケーキに加え、動物たちが食べられるようなケーキを自作して持ってきたのはマカール・レオーノフ(ea8870)。
「僕も果物やおやつを持ってきたんですけど‥‥」
ミルクの入った容器に果物なんかを少々持ってきたのはマクシミリアン・リーマス(eb0311)。
「猫たちへのおやつはやはり魚だろう♪ ちょっと分けてもらってきたんだが‥‥」
保存用の干したお魚の切れっぱしを持ってきたのは西伊織晴臣(eb1801)。
「‥‥そういえばチーズはおやつに入るんでしょうか? あ、犬用の骨もありますよ」
学食から仕入れて来たのか、お菓子や飲み物を用意してきていたのはキラ・リスティス(ea8367)。
驢馬や馬に、山と詰まれたお菓子や食料。はたして消費しきれるのだろうか。
「ちょっと準備しすぎてしまったのでしょうか‥‥」
どうしましょうといった風に眉根を寄せるキラに対してダイアナは言う。
「あら、確かに凄い量‥‥でもまぁうちの子達は食いしん坊ですから、きっと無くなると思いますよ」
とりあえず全部持っていくことになったようである。
動物たちは非常に嬉しそうであった♪
‥‥もちろんビリーが晴臣の驢馬の背に積んだお魚に突進したのはいうまでもない。
そして目的地に向かう道すがら、話は弾む。
「ダイアナさん、お久しぶりですね。お会いしたかったです‥‥もちろん、ショーン君達ともです」
「あら、カラードさん。わざわざご丁寧にどうもありがとうございます。ショーンたちも喜ぶと思いますよ」
ダイアナに親しげに話しかけたのはラス・カラード(ea1434)だ。
なにやら秘めた思いがあるようだが‥‥ショーンら動物たちに加えて今回は父親も目を光らせている。
ということで当たり障りの無い話題から。
「それにしてもいい天気になってよかったですね」
「ええ、本当に良かったです。ショーンなんかは雨が嫌いで」
「それにしても、動物たちはみんな遊びたくてうずうずしてるみたいですね」
「そうですね‥‥みんな揃って外でおもいっきり遊べるのは久しぶりですから」
ショーンの首輪の紐を握りつつ微笑を浮かべるダイアナ。
「こうして見ていると関係ないのかもしれないと思いますね。血の違いも、種族の違いも」
ふと呟いたラスの言葉にダイアナは何も言わずに、ただショーンを見やるのだった。
「ああ、これぐらいの枝ならちょうど良さそうですね」
行く道すがら枝を物色していたのはマカールだ。手ごろな太さの枝をぼきっと折って表面のヨゴレを払っている。
「‥‥それはなんに使うのですか?」
エレナ・レイシス(ea8877)が尋ねると、マカールはにっと笑顔を浮かべ枝を隣に居たクリストファーの前で振ってみせる。
クリストファーは目を輝かせて、しっぽを千切れんばかりにばたばた。
「こうやって‥‥遊ぶんですよ♪」
ぽーんと枝を放り投げると、クリストファーは一直線の棒を追いかけて、地面に落ちた棒をぱくっと加えて戻ってくる。
しっぽぱたぱた、もう一回もう一回と枝をマカールの足元に置く。
「ま、続きはついてからにしましょう」
クリストファーの頭をわしわし撫でながらマカールが言うと、エレナはその様子を見て、
「なんだかクリストファーも幸せそうですね」
構ってもらうのが好きなクリストファーにはとっても楽しい瞬間らしいのである。
「余ったこのけぇきでも食べるといい。‥‥ジャパンの菓子が手に入ればいいんだがなぁ」
なぜか遠くを眺めて遠い目をする晴臣の隣で、もりょもりょケーキをちぎって口にしているキラ。
「ところで晴臣叔父さ‥‥晴臣兄さん。なぜ肩の上にビリーがしがみ付いているのでしょう?」
キラの横にはゆったり構えたイアンと足元をちょこちょこヴィゴが行く。
晴臣の後ろにはリヴが追いかけ‥‥そしてキラの言うとおり肩の上からはみ出しつつビリーが乗っている。
「‥‥いや、先ほど魚の切れ端を上げたら、それ以来乗っかっているのだ」
にゃ〜‥‥もっとくれといっているのだろうか。
なにはともあれ、のんびりと一行は目的地に着いたのだった。
とりあえずダイアナとサイモン先生をはじめ皆で準備しつつお茶会の始まりである。
引率としてのサイモン先生は、一行から少し離れたところでちょびっと寂しそうにしていると‥‥
「生物学を学ぶ事で視野が広がるかもしれません」
話しかけているのは錬金術師のエリス・フェールディン(ea9520)だ。
ということで、しばし生物の話。そんなエリスを眺めているのはアミィ・エル(ea6592)だ。
一人でいるアミィのもとにたまに動物がやってくるが、アミィは優しく諭して追い払ってしまう
そんなアミィを不思議におもったのか、エリスが話しかける。
「あなたも錬金術に興味がおありですか?」
もちろん話題はやっぱり錬金術なのだった‥‥。
と、エリスに対して反撃するアミィ。
「一つのことばかりにこだわっているのは良くないことですわよ」
「なっ! ‥‥錬金術は万能なのです! だから錬金術さえ極めれば‥‥」
「錬金術で私の過去を消せるのかしら?」
ふと投げかけられた言葉に返す言葉を失うエリスであった。
そしてそのまま踵を返すエリスの後姿を見て、アミィは、
「元気にしてるようで何よりですわ」
と呟いたのだった。動物たちとは関係のないドラマが繰り広げられたのだった。
そしてもうひと波乱。
「みんなはしゃいでいますね。とても楽しそうだ」
元気いっぱいに遊ぶ動物たちを見ているのはラス。なにかとダイアナの近くにいるようである。
「やっぱり、大きくてもまだまだ子どもなんですね‥‥」
「僕もとても楽しいですよ。特に、こうしてダイアナさんとお話しているときは‥‥」
「あら、そう言ってくれると嬉しいですね♪」
バスケットからお弁当を準備しつつ答えるダイアナ。その後姿に向かってラスが呟く。
「‥‥‥好きですよ‥‥」
「ええ、私も動物たちが本当に大好きです♪」
‥‥なんというか、非常に前途多難である。ちなみにサイモン先生はそのやり取りを遠くから睨んでいたのだった。
「もう、冬毛は全部抜けてるんですね」
「ええ、この子達は暑がりですから、気をつけてるんですよ」
クリストファーをモフモフモフモフ撫でながらマカールがダイアナに言う。
「毛の流れと逆にブラッシングするといいそうですよ」
毛が逆立つようになでられて、クリストファーも幸せそうな表情である。
「それじゃ、クリストファーを借りますよ。走り回ればストレス解消間違いなしですし」
クリストファーが棒をくわえて早く早くと催促する。それにたいして苦笑を浮かべマカールがついていくのだった。
ショーンとカールと一緒に居るのは1匹の堂々たる狼だった。そしてその狼が、
「‥‥元気でした?」
人の言葉でしゃべった。マクシミリアンがミミクリーで変化した姿だった。
ただ、形は変えれても心まで犬になったわけではないので、意思の疎通はできないが‥‥そこはダイアナの通訳である。
『元気〜♪』『うん、まあまあ』
答えるカールとショーンの意思を伝えるダイアナ。大きな狼と2匹の犬が伏せてわんわん会話してるのはなかなか不思議な様子である。
「‥‥この前あったときは、遠くからだったから‥‥って、いててっ! カール、かまないで!」
親愛の情からかじゃれあってかぷかぷ噛み付くカールとマクシミリアンが追いかけっこするという一幕もあり。
そして、どことなく大人びたショーンに向かってマクシミリアンが問う。
「‥‥ショーンくん、その後、これはって思うお相手は見つかりましたか?」
きゅぅ〜〜ん‥‥尻尾を丸めて耳まで伏せて。上目遣いになってしまっているショーンであった。
翻訳せずとも言いたいことが分かるような目つきでマクシミリアンを見るショーン。
いわないでくれよぅ〜という感じの視線。どうやらまだ心の傷はいえてないようだ‥‥。
「今は見つからなくてもそのうち良い相手が見つかりますよ♪」
そしてぐいぐい頭を押し付けてショーンを励まして、
「それじゃ、一緒に果物やベリー類を探しましょう♪」
そうダイアナに通訳してもらって、お土産用の果物を取りにマクシミリアンを含めた2匹と1人はたったか走っていくのだった。
こちらはのんびりお茶会組。キラにダイアナにエレナに晴臣が木陰でお茶なんかを飲みながら歓談中である。
「新入生の方々もそろそろ学校になれて来てるころでしょうか‥‥」
「そうですね、フォレストオブローズの新入生の方たちは、ビアス先生の訓練が大変だーなんていってましたわね」
「マジカルシードでもアラン先生なんかが既に恐れられています‥‥いい先生なんですけど」
のんびり新入生の話題を切り出すエレナに答えるダイアナ。どこかがっかりしながらキラも言う。
女性3人のイギリス語の会話を必死で聞き取っているのは晴臣だ。いまだイギリス語は勉強中らしい。
「そうだ、晴臣兄さん。ジャパンのことについて教えてもらえませんか?」
「ん? ジャパンのことか‥‥それじゃ去年の夏に江戸であったことなんかどうだろうな。‥‥まぁ、僕は見聞きしただけなんだが」
膝の上で丸くなって寝ているリヴの背中をゆったり撫でながら晴臣が語るのは江戸に現れた凶悪な狐の妖怪について。
そしてすぐそばで晴臣からもらったお魚をたらふく食べてビリーもおなかを見せて眠っている。
「ジャパンにはそんな大きな狐が出るんですか‥‥毛皮の手触りが良さそうですね」
ぴったりと横に寄り添っているイアンの白い毛を撫でながら、まだ見ぬ異国に思いを馳せるキラ。
「‥‥そういえば晴臣兄さん、陰陽寮のある京都から来たのではないのですか?」
「ああ、こちらに来るためには一度江戸まで出ないといけなかったからな。今のはそこで聞いた話だ」
すると今度は晴臣が逆に聞き始める。
「こちらでは、そういった話は?」
「そうですね‥‥ここケンブリッジにモンスターの大群が押し寄せたことが‥‥」
ダイアナが物々しく語り始めると、怖かったのかヴィゴがキラのひざによじよじ上っていくと丸まってしまった。
そして、のんびりと時間が過ぎて、話はいろいろな話題に渡る。
キラはふと目に付いた薬草に関して。
「晴臣兄さん。この前アラン先生からとある薬草について教えていただいて‥‥そこにある小さな草なんですけどって、カール君食べちゃダメですっ!」
ぱくっと指差された草をかじってみたカールはびっくりした様子。
「そういえば騎士学校の授業で‥‥」
そしてキラの質問にダイアナが答える。
「ええ、あの時期は剣術の修行が中心になりますから‥‥」
「やはり武士とこちらの“ないと”というのは大分違うんだな」
そういってひょいっとビリーを持ち上げる晴臣。のたーっと伸びきたまま場所を移されるビリーであった。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうものである。
今回の遠足もまた同じ。そして楽しかったかどうかといえば‥‥犬たちが尻尾をちぎれんばかりに振りながらキロに付くようすで十二分に分かるものであった。
そしてダイアナが冒険者に向かっていく。
「本当に今回はありがとうございました。また一緒に遠足にでも行きましょうね♪」
動物たちも思い思いの方法で喜びを表現したのだった。