●リプレイ本文
●お勉強の文学クラス
「騎士の卵に特別授業ねえ、人に物教えたりはやった事ねーんだけど‥‥どうしたもんかな」
これから授業を始める前に、ひょいと教室をのぞいて呟いたのはハルト・セイラン(ea8957)だ。
「ま、やるしかねーか‥‥地下水路にいたローバーの話しでもすっかなあ」
どうやら決心を固めたようである。そして、すたすたと教室に踏み込むと‥‥
わっ! っと上がる歓声と、ハルトを見つめる沢山の純真そうな瞳、瞳、瞳!
「あー‥‥俺はハルト・セイランだ。今日は地下水路で遭遇したとあるモンスターの話をしようと思う」
そして肩口で切りそろえられた銀の髪を揺らし、ハルトはゆっくりと話し始めた。
「‥‥そのときローバーの触手がこっちに向かってするすると音も無く伸びて‥‥」
どきどきわくわくといった雰囲気で話に聞き入る生徒たち。
「そこで俺はライトニングサンダーボルトをだな‥‥」
やはり文学クラスとは言え、冒険談は嫌いではないようで生徒たちは楽しそうである。
そして、いろいろ脚色‥‥もといドラマチックに盛り上がった話が終り、生徒たちを眺めてハルトが言う。
「でだ、何が言いたいかって言うだ、本や何かでモンスターの種類とか特徴を知っとくのも大切だって事だ」
生徒たちもうんうんと頷く。
「たとえ文学クラスとはいえど、もしかしたら誰かを守るために剣を取らなきゃいけないこともあるかもな」
静かな声で訥々と語りかけるハルト。
「そんなときに、剣がきかねーとかオーラ使わないと拙いとなったら守ってる奴まで危ない目に遭う事になる」
ぶっきらぼうな口調の中に、わずかに混じる真剣さ、生徒たちも真面目に聞いている。
「だけど多少なりと相手の事を知ってたら違ってくるだろ?」
冒険者として実際戦うものだけが持つ言葉の重みであった。
そして、ハルトは生徒たちのお礼の言葉を背に受けて教室をあとにするのだった。
「皆さんも知っているアーサー王のお話を使って、ちょっとむずかしい文章の書き取りを練習しましょうね」
生徒たちにイギリス語を教えているのはエレナ・レイシス(ea8877)だ。
題材は騎士たちの物語を集めたもの。新しい本のようで生徒たちの人気も高いイギリス騎士団や円卓の騎士たちについての逸話もいくつか載せられている。
しかしやはり当代の王にしてすでに伝説の人でもあるアーサー王が一番人気のようで‥‥。
「大人のために書かれた騎士の話もありますから、難しい言葉も沢山あります。なので、まずは話の大筋を理解してから本を読んでみましょう。‥‥カンタータさん、よろしくお願いします」
エレナが教室の外に呼びかけると、入ってきたのはカンタータ・ドレッドノート(ea9455)だ。
「ごきげんよう♪ 今日は皆さんにアーサー王の小さな頃のお話をするためにきました」
その言葉にわっと湧く教室。やはりアーサー王はヒーローのようである。
「それでは今日はアーサー王がまだ君たちと同じぐらいの年だったときのお話から‥‥」
わいわいとざわめいていた生徒たちもどきどきと話を待つ。そして、カンタータは落ち着いた声で吟じ始める。
「あれはまだ王になる前、幼きアーサー王がいまだ自らの出自をしらずエクトル卿に育てられているときのことでした‥‥」
声色を変えて、何役もこなすカンタータ。生徒たちも引き込まれるようにして聞いている。
「そして、キャメロットで行われた馬上試合の日に、アーサー少年は剣と出会うのです。その剣には『この剣を引き抜くものこそ、イングランドの正当なる王である』と記されていて‥‥」
話は続く。
「しかし、統一王ウーゼル・ペンドラゴンの死後王位についたアーサー王を認めない者たちもいました。『どこの馬とも知れぬ奴に王位を継がせるわけには‥‥』」
声色を駆使した物語は臨場感に溢れ、エレナも一緒にわくわくと聞いている。
「そこでアーサー王は魔法使いマーリンの助言を受け、聖剣エクスカリバーを探しに出発するのでした」
そしてにっこりと微笑んで、ぺこりとお辞儀するカンタータさん。そして‥‥
「続きはまた明日。皆さんもアーサー王から騎士として大事なもの、知恵・勇気・信頼などを学んでくださいね」
そして、言葉を切ると優しく言うカンタータ。
「きっと若い皆さんにも大事な事だと思いますよ」
するとエレナが立ち上がって、ぱんぱん手を叩いて生徒たちを促す。
「さて、楽しいお話を聞いたところで、続きをやりましょうね」
はーいと返事をする生徒たちであった。
「マジカルシードだけではなく、フォレストオブローズの方にも錬金術の素晴らしさを体験して頂くよい機会です」
いつにも増して気合の入ってるのは、もちろんエリス・フェールディン(ea9520)だ。
そして、開口一番生徒たちに言い放つっ!
「学問と云うと、文学や魔法と云う分野に思われがちですが、錬金術こそが、世界の文明の発展に必要な学問です。あなた方が、これから国の発展を担うのですから、錬金術の知識なしでは語れません」
断言である‥‥が、ちょっと今回は敷居が高かったようである。
「錬金術ってなんですかー?」
「あ、俺聞いたことある〜えっとえっと、いろいろ混ぜたりするやつ〜」
「‥‥あ、あの‥‥錬金術そのものについて説明をしたいのですが‥‥」
わいわいがやがや、ちょっと錬金術は生徒たちの興味をひきつけるのには魅力不足だったようである。
「錬金術はさまざまな可能性を持っているのですが‥‥」
わいわいがやがやどやどやばたばた‥‥生徒たちはあまり聞いていない様子。
まぁ、エリスも少々青筋がでそうだが、まだまだ狂化には程遠い‥‥ようでよかった。
そして、何も説明できないまま時間は過ぎて‥‥ため息とともにエリスが言う。
「この国の将来が‥‥心配です」
どちらかというと錬金術の将来だろうが‥‥まぁ、騎士が皆錬金術に詳しいのもそれはそれでイギリスの将来が心配である。
●戦学クラスはスパルタに?
「ノルマンから来た腐女子でファイターです、気軽にミリーって呼んでね」
‥‥ふじょしってなぁに? という声が聞こえた気がするががそこはさらっと流して講義を始めたのはミリランシェル・ガブリエル(ea1782)。
そして、どさどさと実際の武器を取り出して見せるミリー。剣に槍に斧に‥‥
「基本こそ奥義です。最強であり、最重要であるが故に基本です。訓練をする時は、それを念頭に置き励みましょう」
そういって武器を見せながら、解説を始めるのだった。
「槍は身の丈や間合いの狭さを補い、剣よりも力強い一撃を可能にしますし、扱い易さと汎用性においては剣が、破壊力においては、やはり斧が秀でいます」
彼女なりの解釈での武器の解説。まだ武器に触れた機会は少ないとはいえ、そろそろ武器による訓練も始まろうというフォレストオブローズの騎士の卵たち。
真面目に頷きながらミリーの説明を聞いている。
「派手な技などは確かにカッコイイかもしれませんが、基礎をおろそかにすると死に近づく。疲弊し判断がつかなくなった時、身に馴染んだとっさの体の動きが明暗を分けることだってあるものです」
そんなことを言いながら、今度は実際に武器を手にとらせて延々と基礎の大切さを説くのであった。
「握りをしっかりすることも大切ですからね。モーニングスターで多勢の海賊をぶちのめしたのも、基本が出来ていたからこそですしね」
線の細い少女に剣の握り方を教えつつ、妙に体が密着しているのは‥‥何故だろう。
そんなことを言いながら、視線はお坊ちゃまお嬢様然とした、紅顔の美少年やら深窓の令嬢に釘付けである。
「1人ぐらいお持ちかえりしても‥‥いや、1人といわずにクラス全員でも‥‥は! 何でもないですわー。おほほほ〜」
ビアス先生にじーっと見つめられて、慌てて取り繕うミリーであった。
「さて、前回はパーティの中での騎士の役割分担と援助の方法などについて話しましたが、今日はこの前の話に出てきたモンスターについて話したいと思います」
いかにも先輩らしい感じで講義しているのはマカール・レオーノフ(ea8870)だ。
「皆さんは、前に話した敵の種類を覚えてますか?」
しゅたっと手を上げた賢そうな男の子がアンデッドです、と答える。
「そうですね、そのアンデッドには騎士が使うオーラが効果を発揮する、というのは説明しましたが、今日はすこし違った話です。少し難しいかもしれませんが‥‥」
そういって、生徒たちの顔を眺め、大丈夫そうだなと考えたのか笑みを浮かべて言葉を繋ぐ。
「冒険者に限らず騎士になった場合、アンデッドと戦うことがあるかもしれませんが‥‥忘れないで欲しいことがあります」
訥々と若い騎士たちに伝えるマカール。
「たとえモンスターとは言えど、アンデッド系のモンスターは生前は人間だったものもいるので、死者を悼む気持ちを忘れないで欲しいのです」
そう言い終えると、表情を明るくして告げるマカール。
「さて、難しい話はここまでにして模擬戦でもしましょうか♪」
その言葉を聞いてわっと子どもたちは歓声を上げたのだった。
ロングロッドを構えたマカール、対するは剣を構えたアクアレード・ヴォロディヤ(eb0689)である。
「本当に戦っているところを見て、何かわかるものもあるかもしれませんしね」
ぞろぞろついてきた生徒に向かって微笑むマカール。
「得物の違う者同士の戦い方を見せてやろう。しっかり見とけよ〜」
そういうとダッと踏み込んで横薙ぎの一撃を一閃、それをなんなく受け止めるマカール。
体力に優れるマカールが終始優勢に戦いは運ぶが、ディザームの隙を伺い、逆転を狙うアクアレード。
エンペランの剣技を駆使して、受けあるいは交わす騎士同士の戦いを生徒たちは真剣に見入っている。
そして、アクアレードの一撃をロングロッドを立てて受け止めたマカールが返す一撃でアクアレードの剣を弾き飛ばす。
おおーと歓声が巻き起こるのだった。
「まぁ、剣の腕も大事だが‥‥騎士ってのは、剣術の強さで格付けするもんじゃねぇ。剣を抜かずに事を収める、器のデカさも必要ってこった♪」
模擬戦のあとに教室に戻って、今度はアクアレードが講義中である。
「たとえば、街中で悪者がいたからっていきなり剣を抜いたら危ないだろう?」
うんうんと生徒たちが頷く。
「だから、たとえば武力を使う以外にも物事の解決方法は身に付けておくべきだからな。それじゃあ‥‥」
ぐるりと教室を見回してからアクアレードは、
「自分ひとりしかいなくて、誰かを守らなきゃいけない。そんなときに戦いを挑まれたらどうする?」
生徒たちへと質問した。すると、何人もの生徒がはい、はいっ! と手を上げて答えるのだった。
「それじゃ、その対応の仕方をやってもらおうか。俺が悪者役をやるから、お前は騎士として行動してみろ」
わいのわいの言いながら授業が進むのであった。
「今日はよろしくお願いいたします」
ふかぶかと礼をして生徒たちを見たのは桐生和臣(eb2756)。
生徒たちは珍しい格好をした和臣を見て、ざわざわとざわめく教室。生徒たちは好奇心できらきらと目を輝かせている。
「僕はサムライで、その中でも『中条流』という流派の剣術を使います」
あまり上手ではないイギリス語で訥々と語る和臣の話を生徒たちはじっと静かに聞いている。
「皆さんも知っていると思いますが、ケンブリッジでも武道大会が行われています」
生徒たちは和臣の持つ日本刀などに興味津々な様子。
「そこでの失敗談をお話しましょう‥‥守備を重視して両手に盾を持ったのは作戦としては成功したのですが‥‥」
荷物の中から盾を取り出し生徒たちに見せる。
「しかし、攻撃方法にフェイントアタックを選んだのは失敗でした‥‥皆さんはフェイントアタックというのは知っていますか?」
「こうげきするときに変化をつけて、こうげきを当たりやすくする技〜」
「そのとおりですね。ただし攻撃は当たりやすくなるのですが‥‥敵に与えるダメージが減ってしまうのです」
ふむふむと、頷く生徒たち。
「ともかく、若いうちは基礎から固めるのが大事ですからね。さて‥‥なにか質問はありますか?」
授業もひと段落‥‥と思いきや、
「わーい、その剣見せてー♪」
わらわらと集まる生徒たちに和臣は苦笑を浮かべて刀を見せてあげるのだった。
まだまだ子どもっぽい生徒たちだが、未来を担う騎士たちである。
短い間だったが、冒険者たちからいろいろなものを学んだようである。