【自学自習の時間】 フットボールの悲劇?

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月05日〜07月10日

リプレイ公開日:2005年07月16日

●オープニング

「私と一緒にフットボールの練習をしないかね?」
 ギルドを訪れたのは迷惑騎士のライオネルだが‥‥いつもの身だしなみはどこへやら、全身ぼろぼろである。
 髪の毛には葉っぱが絡まり、膝は土で汚れ、どことなくげっそりしているようだ。
「はっはっは、最近フットボールが楽しくてね‥‥思わず練習に身が入ってしまうのさ」
 その割には、瞳の奥になぜか救いを求める犬のような光が‥‥
 と、そのとき
「あ、いたいた。おーいライオネル、早く来いよ〜。こんなとこで何してるんだ?」
 ギルドの入り口をひょいと覗いてライオネルに声をかけたのは、なんとフリーウィルの女剣士ルカだ。
「ラドクリフキャプテン怒ってたぞー。トレーニングサボってあいつはどこに行った〜!! ってね」
 にかっと笑顔を浮かべると用は済んだとばかりにくるりと踵を返して去っていくルカ。
「ははは〜、すぐ行くとキャプテンに伝えてくれたまえ〜」
 笑みを浮かべてルカに答えるライオネル。そしてルカが去っていくのを見届けると‥‥
「‥‥あー‥‥私たちと一緒に訓練なんぞしないかね?」

 ‥‥実はというと、ライオネル先輩はちょっと困った状況にあったのである。
 ラドクリフは体育会系の騎士。バトルフットボールなんていうルール無用のフットボールチームのキャプテンをやっていたりする。
 そして少し前、ライオネル先輩も冒険者たちといっしょにバトルフットボールに参加する機会があったのである。
 そしてそこで、これでもかとへっぽこなプレイのライオネル。
 同じ騎士として情けないと言われ、ラドクリフにつかまりみっちり絞られる日々なのであった。

「‥‥あー‥‥一緒に訓練さえしてくれればいいのだっ! お願いだから参加してくれ〜」

 さてどうする?

●今回の参加者

 ea0023 風月 皇鬼(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea8367 キラ・リスティス(25歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea9520 エリス・フェールディン(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0299 シャルディ・ラズネルグ(40歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「おお、きてくれたのか諸君っ!!」
 出迎えたのはライオネル先輩。満面の笑顔である。
 場所はとある運動場。後ろの方ではバトルフットボールのチームの面々が思い思いの訓練に励んでいる。
「おい、ライオネル。その人たちは?」
 声をかけたのは、キャプテンのラドクリフ。やって来た冒険者の面々を見てライオネルに尋ねる。
「ああ、この方たちは私と一緒に練習したいとのこと。ぜひともキャプテンじきじきに‥‥」
「ふむ、なるほど。ならライオネルと一緒にびしばしやらせてもらおうかな♪」
 冒険者をスケープゴートにする作戦。早速失敗である。
「まぁ荒っぽい訓練も全部試させてもらうが‥‥よもや自分だけ楽しようなんて思ってるんじゃないだろうな?」
 ぎろりとライオネルを睨みつけたのは、風月皇鬼(ea0023)、なかなかの迫力である。
「め、めめめめ滅相も無いっ!! ははは、一緒に練習を頑張らせてもらうに決まっているではないかー♪」
 前途多難である‥‥。

「あの、ライオネル先輩‥‥」
「ん? なにかね、キラ君」
「前回の試合の事で‥‥ありがとうございました、とっさに動けなかったので、あのままでしたら直撃を受けていました」
 ペコリと頭を下げて丁寧に礼をしたのは、キラ・リスティス(ea8367)だ。
「ははは、あの程度のことならナイトとして当たり前のことをしたまでだ♪」
 さらりと髪の毛をかきあげて言うライオネル。顔面ブロックも彼にかかれば騎士のたしなみらしい。
 そんなキラちゃん。実はライオネル先輩のためにキャプテンのラドクリフに進言をしていた。
 理由は‥‥ライオネル先輩がかわいそうだから。
 年下の女の子にそんな風に見られているとは、かなり情けないライオネル先輩である。
「あの、ラドクリフさん‥‥きつく絞るだけではへろへろになって続かないのではないでしょうか?」
「ふむ、ライオネルのことか‥‥」
「もう少し練習を緩めて、徐々に練習量を増やしていく方がいいのではないでしょうか?」
 そう聞いてラドクリフキャプテンは渋い顔。そして、遠くで練習中のライオネルを指差して一言。
「たしかに、体力がついてこないんなら、練習量の調整はするんだが‥‥見れば分かるようにあいつは、精神をまず鍛えなきゃいけないと思うんだ」
 遠くのライオネル先輩。きょろきょろ辺りを見回して、こっそりと練習の手を抜いている。
 しかも、懐から櫛を取り出して、髪型をセットしているではないか‥‥。
「だから、まず最初は性根から叩きなおそうかと思ってるのさ」
「‥‥それはまぁ‥‥そうですね」
 流石のキラもこっそりため息をついたのだった。

「さて、日頃の研究による運動不足を解消することにしますか」
 エリス・フェールディン(ea9520)が、そんなことを言いながらジョギングしている。
 なかなかマイペースに訓練を進める魔法使いの横で‥‥やっぱり今日も、ライオネル先輩がぐだぐだしている。
「ほら、ライオネルさん。リフティングを20回続けるまで休憩無しですよー♪」
 皮製のボールをてんつくてんつく蹴り上げながら言っているのはシャルディ・ラズネルグ(eb0299)だ。
「ふ、まだコツを掴んでいないだけさっ、すぐに休憩だから準備しておくのだー」
 一回、二回、三回目でぽてんころころ。‥‥いそいそボールを取りにいくの繰り返しのライオネル。
「ふむ、なかなか難しいものですねぇ‥‥サイコキネシスを使えば簡単でしょうけど、それじゃ身につきませんしね」
 すでに10回以上続くようになったシャルディが、ぽんぽん蹴りながら言う。
「皆さん頑張ってくださいねー。食堂から特別にベリーの蜂蜜漬けをもらってきましたから♪」
 なんだかマネージャーな感じのキラが、リフティングをする一同の横で、水とベリーを準備して待っている。
 そして、先に終わったのはもちろんシャルディだった。
「それでは、お先に失礼します、ライオネルさん♪ ‥‥ふむ、疲れたあとの甘いものは疲れが取れるものですね〜」
 ぽてんころころ‥‥拾って蹴る蹴る。ぽてんころころ‥‥繰り返すうちに背中が煤けてきたライオネル先輩。
 そこに近づくキラ。肩をぽんと叩いて一言。
「後もう少しですから、頑張ってくださいね‥‥なくなっちゃいますよ?」
 女性の前ではかっこつけることが本能に刻まれたライオネル先輩。
 滂沱と涙を流しながら、ひたすら練習したのはいうまでもない。

「何か、効率性に欠けます。基礎訓練なら、個別にプランを組んだ方が宜しいですし、チームワークならもう少しミーティングで戦法を考えてからするべきです」
「ふむ、たしかに君の言うことにも一理あるな‥‥」
「これは錬金術の研究にも言えることです」
「‥‥‥そ、そうなのか‥‥」
 エリスとラドクリフキャプテンの会話はさておいて。

「では、私のキーパーの練習に付き合って‥‥って、皇鬼さんもですか?」
「ああ、砂袋を蹴っていたら、あっさり破けてしまったんでな」
「‥‥えー、私に直接当てないで下さいね?」
 ライオネルとシャルディのシュート訓練に乱入したのは皇鬼だった。
「では、俺からいかせてもらおう‥‥せぃっ!」
 ずどんっと形が変わるほどの強さで皇鬼に蹴られたボールはシャルディが反応できないほどの速度で飛んでいく。
「あんなの当たったら、骨が折れてしまいそうですね‥‥」
「それでは、次は私の番で‥‥てぃ」
 ぽすん、てんてんてん‥‥ぱしっ。へろへろで蹴られたボールは、シャルディの真正面へ転がり普通にキャッチ。
「はっはっは、なかなかシュートというのは難しいものだなぁ‥‥」
 ラドクリフキャプテンがいない自主練習の時間なので、手を抜きまくっているライオネル。しかし、そう簡単には行かないのだった‥‥
「自分の分を超えた訓練は怪我をするだけだから、全てこなすのは不可能かもしれない‥‥だがな、手を抜いているだけなら話は違う」
 ぽむとライオネルの肩に手を置いたのは皇鬼。ぎりぎりぎりと肩を掴む。
「いや、別に手を抜いているわけでは‥‥ってイタタタタタタっ!!」
「鍛錬の喜びに目覚めるまで、しごかせたもらおうか‥‥まずはランニング軽く10キロからだな」
「いーーやーーだーー!! そんなに走ったら死んでしまうっ!! たーすーけーてーー‥‥」
 遠ざかる声。がっしりと襟首をつかまれてライオネルは地獄の訓練へと旅立っていったのだった。

「‥‥‥訓練してましょうか、キラさん」
「‥‥‥そうですね、シャルディさん」
 ライオネルの姿が見えなくなるまで見つめていたシャルディとライオネルは、しばらくしてから訓練をはじめる。
「‥‥ライオネル先輩、大丈夫でしょうか‥‥」
「まぁ、死にはしないでしょうし♪」
 がんばれライオネル‥‥元はといえば自分のへっぽこさが原因なのだから自業自得なのだが。

 ちょっと離れたところで、訓練中のエリスと外の選手たち。
 珍しく女性との訓練のため鼻の下の伸ばす選手もいて、タックルなんかでちょっかいをかけて‥‥彼は後悔することになった。
 競り合いの最中、どんと肩が触れて‥‥エリスがぷっちり狂化で大暴走である。
「‥‥おっほっほ! わたくしに勝負を挑むとはよい度胸ですわ! サイコキネシス〜!!」
 どかどか飛来するスペアのボールの雨に打たれた彼は、ひっそり引退を考えたとか。
 閑話休題。

 いつもの簡単な基礎訓練をしているのはキラとシャルディ。ボールをおたがいにパスしている。
 と、そこにラドクリフキャプテンが帰って来た。
「ん? ライオネルはどうしたんだ?」
「‥‥ライオネル先輩は皇鬼さんに‥‥」
「ええ、どうやらしごかれているようです‥‥と、戻ってきたみたいですね♪」
 ちょうどやって来たのは、なんというかぼろぼろになったライオネル。
 走りこみやら、ボールを受ける練習やらでへろへろである。
「‥‥ああ、ラドクリフキャプテン‥‥今日は本気で練習しました〜」
 そして、ぱったりと倒れこむライオネル。さすがに今日は堪えたようだが‥‥シャルディがそこでにこりと微笑む。
「おお、こういうときこそ魔法の出番ですね〜♪ プラントコントロール!」
 倒れこんだライオネルの周りの芝がうねうねと動くと‥‥なんとライオネルをくすぐる。
「‥‥‥く‥‥ぐ‥‥くっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
 笑い転げるライオネル先輩、笑い声が高笑いなのは気合の力かもしれないが、ともかくじたばたしている。
「おお、さすがライオネルさん! まだ笑い転げるだけの体力をお持ちなのですね〜♪ キャプテ〜ン、まだ逝けそうですよ〜?」
「ふむ、そうみたいだな。おいライオネル、あともう一セットいつものやるぞー」
「‥‥‥‥ラズネルグ殿‥‥」
 恨みがましい目つきでシャルディを見るライオネル‥‥だけどそれににっこりと笑顔を返してシャルディが言う。
「ライオネルさんに頑張ってほしいからです。‥‥べつに面白そうだからじゃないですよ?」
 とってもお茶目なシャルディであった。

「さて、よい運動をしました。さぁ、帰って研究をしますか」
 魔法で吹っ飛ばすのを含めていい運動をしたのかもしれないが‥‥ともかくエリスはマイペースに。
「まぁ、それなりに頑張ったかね‥‥これからも鍛錬は怠るんじゃないぞ」
 にやりと微笑んで肩に手をぽんと置いた皇鬼。
 ライオネルがびびりまくっていたのは気のせいだっ!
「運動不足の解消にはなりました♪ またよろしくお願いしますよ〜」
 にこにことシャルディ。その柔和な微笑が‥‥ライオネルにとっては悪魔の微笑みに見えたとか。
「ライオネル先輩‥‥無理しないで下さいね?」
 唯一心配しているのはやはりキラ‥‥
「うう、キラ君。君だけが私の気持ちを分かってくれるのだ〜」
「ちょっと可愛そうですもんね」
 ‥‥ぷっすり会心の一撃である。
 ともかく、根性が叩き直るのはまだまだ先のようだが、経験は積んでいるようなライオネルであった。
「よし、ライオネル! あと三周走るぞー」
「‥‥いーーやーーだーーー!!!」
 ライオネルはいつになったら立派な騎士にになるのだろう?