●リプレイ本文
●ニクシーが待つ泉へ
「腕試しのつもりで参加したけど‥‥大丈夫かしら? 最近ケンブリッジはきな臭いし、この手の依頼といい‥‥」
一同に言ったのは功刀衣流華(ea0195)だ。
「そうですね‥‥何が起こっているんでしょうね」
答えたのはセラフィマ・レオーノフ(eb2554)。ちょっと不安げな顔をしているのは今回の囮役に志願したせいかもしれない。
「まぁ、とにかくニクシーをしっかり退治してから、ですね‥‥あ、衣流華さんそっちいったらみんなと離れてしまいますよ〜」
さりげに迷子になろうとしている衣流華を引き止めたのはシャルディ・ラズネルグ(eb0299)だ。
そして、師である今回の依頼主アラン先生に問いかける。
「それで‥‥アラン先生。ニクシーの特徴などは‥‥」
「そうですよ先生、せめて、ニクシーの生態とか能力とか教えてくださいよぅ」
インデックス・ラディエル(ea4910)もアラン先生に詰め寄っていうのだが‥‥
「‥‥もとより個体数が少ないらしくそれほどニクシーについては知られていないのだ‥‥水の精霊魔法を使うことなどだろうが‥‥そこの妖精に聞いた方がいいのではないか?」
指さしたのは前方を飛ぶディナ・シーのポップである。そしてポップはとある女の子との語らいの最中であった。
「にゃははー。ねーちゃん、綺麗な黒髪だな〜♪」
キラ・リスティス(ea8367)と仲良く話していたようで、パタパタ飛びながら髪の毛にじゃれ付くポップ。
しかしどうやらおふざけが過ぎているようで‥‥
「ああ、リボンを引っ張るのは‥‥ポップ君、ちょっとぐらいの悪戯ならいいんですけど‥‥」
そしてにっこりと笑みを浮かべるキラ。ちょっとだけ師のアラン先生と同じオーラが見えたとか。
ポップもぎくっと動きを止めてあははーと冷や汗をかきながら笑顔を浮かべていたのだった。
「ポップくん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど‥‥あ、これでもどうぞ♪」
甘い味のする保存食を差し出しながら尋ねたのはシャルディ。古代のメダルをお詫びにと、キラに差し出していたポップが動きを止めてシャルディを見る。
「おお、ありがとー!! (もそもそ食べながら) それで一体何が聞きたいの?」
「ええ、ポップくんはニクシーは見ましたか? どんな攻撃をして、どれくらいの数いたのかとかわかりますか?」
「えっとえっと‥‥水かきがあったっ! あとはーあとはー‥‥」
なかなか情報を聞き出すのが難しい様子である。そしてポップと一同が押し問答している間‥‥
「すみませんがポップくんの相手は他の方に‥‥先日ピクシーの相手をしたばかりですし」
そういって、ちょっと離れたところにいるのはアディアール・アド(ea8737)だ。そしてふと隣に居たアラン先生に話しかける。
「あ、初めまして。最近寄らせて頂いている園芸部の皆様から、先生の噂はお伺いしています。すばらしい薬草園をお持ちだそうで、今度よろしかったら見せて頂けませんか?」
シャルディやキラから話を聞いたのだろうかアディアールがアラン先生に言うと、
「ふむ‥‥君も植物が専門のようだな。まぁ、機会があるなら来るがいい。我輩の弟子のキラかシャルディが案内してくれるだろう」
と、戦闘のまえのひとときの雑談に花が咲いたりしたのだった。
●いざ決戦!
「さて、そろそろ見えてくると思うが‥‥」
アラン先生がいうと行く手に見えたのは大きな池だ。どうやらそこにニクシーが潜んでいる様子だ。
「おう、みんな頑張ってね〜♪」
ポップがぱたぱたと飛びながらそんなことを言う。すると衣流華が、
「戦闘のときに邪魔したらいけませんよ? そんなことしたら‥‥対いたずらっ子用のこの鞭が‥‥」
ぴゅぃっとアラン先生陰に隠れるポップであった。
池からおおよそ15メートルほど離れたところで静かに待機する一同。
一同の中心にはダークを地面に突き刺して祈りを捧げるキラがいた。
ダークにはエレメントの行動を阻害する結界を張る力がある。まずはその結界の準備である。
「‥‥終わりました。これで大丈夫なはずです」
すると続いてウインドレスのスクロールを読むキラ。これもまた敵の魔法に対しての備えである。
魔法が成功すると風にざわめいていた木々が音を立てないほどのまったくの無風になる。
いよいよ作戦の開始である!
「カモメ〜、かもめ〜、拙者は、かもめぇ〜♪ 今日は、釣り日和ぃ♪」
謎の歌を歌っているのは葉霧幻蔵(ea5683)だ。呼び出した大ガマをおとりとしてニクシーを吊り上げる作戦である。
「ガマといっしょに囮です! むしろ釣りの餌です! ええもぉ、覚悟はばっちり‥‥てかやっぱり怖いですー!」
シルバースピアを布でかくして何気なくさりげなく池に近づくセラフィマ。軽装で無防備に池に近づく彼女‥‥その勇気は賞賛に値する。
それも全ては味方のバックアップを信じているからである‥‥そしてセラフィマに気付いたのか、水面から姿を現す人影があった。
ざばぁっと水を掻き分けて出てきたのは4匹のニクシー‥‥碧色の肌をした美しい女性で水かきのついた掌をぐぃっと伸ばしてセラフィマと大ガマに掴みかかった!!
どうやら話し合いの余地はないようだ。その目は爛々と殺気を帯び、目の前の獲物に襲い掛かっていく!
「薬草取りに来ました‥‥って、やっぱり怖いですっ!!」
ばしっと手をはらって振りほどこうとするも、多勢に無勢で足首をつかまれてしまう。
「ああ、シャルディさん〜あとは任せました〜!」
セラフィマはちょっぴり大ピンチである。
一方の大ガマはというと‥‥水に引きずり込まれておぼれかけていた。
ぷくぷく沈み行く大ガマ。
「ニクシー、憎くはないでござるが“かもめのゲンちゃん”に免じて逝くか、拙者にお持ち帰りされるでござる‥‥といいたいところであるがお持ち帰りはやっぱり遠慮願うでござる」
真顔できっぱりと言う幻蔵。すると引きずり込まれていく大ガマに次々と水草や水際の植物が絡みつく!
「引き上げますよっ‥‥えぃっ!」
アディアールのプラントコントロールによって引きずりあげられた大ガマには2匹のニクシーがしがみ付いていた。
「さあ、今がチャンスですっ!」
アディアールのプラントコントロールは今度はニクシーを草の戒めによって縛り付ける。
すると水から引き上げられて、結界に囚われた二匹のニクシーは恨めしげに冒険者たちに殺気に満ちた視線を向ける。
「総攻撃ですね〜 チャンスですっ!」
びしびしっと鞭で衣流華が攻撃すれば、
「本当は生き物とかをむやみに傷つけたくないのだけれど‥‥」
十字を切って許しを請うと、ホーリーを唱えるインデックス。
「お持ち帰りする気が起きないでござるー!!」
ちょっと私怨の混じった幻蔵は、大ガマでのぶちかましによってニクシーをはたき飛ばすのだった。
そして場面は引きずり込まれそうなセラフィマへと戻る。
足をがっしりと引っ張られるセラフィマの腰辺りに太い蔓が撒きつく。
シャルディによるプラントコントロールによって周囲の植物がつぎつぎとセラフィマを引き戻し、ついでに水の中からニクシーすら引きずり出す。
「さぁ、いまですよキラさん!」
シャルディが引きずり出したニクシーを縛り付けると、ライトニングアーマーの雷光をまとったキラの鞭がニクシーを一撃する!
「えぃ! アラン先生に迷惑をかけた報いです!」
電撃をおびた一撃は、大ガマの攻撃に勝るほどのダメージをニクシーに与えるのだった。
「‥‥騎士がここで役に立たなくてどうします! 突貫です!」
ようやくニクシーから逃れたセラフィマは、すぐに気合を入れて槍をびしっと構えると、それで果敢に1匹のニクシーへと挑みかかる。
キラの鞭が縛り上げているニクシーとは別のニクシーに布をつけたままの槍で一突き。
槍は狙い過たず布を切り裂いてシルバースピアはざっくりとニクシーを切り裂くのだった。
プラントコントロールの補助により双方2匹ずつをしっかりと受け持っているのだが‥‥一匹が水から上がりながら魔法を唱えるのを防ぐことは出来なかった。
そのニクシーは冒険者たちに手を向けると、アイスブリザードを唱える!
手から噴き出した強烈な吹雪。かなりの威力を誇るはずのその吹雪も‥‥ウインドレスの効力にはばまれて半分の威力しかないのだった。
マントをひるがえしたり持ち前の精神力で軽減したりと、軽傷を負う者すら殆ど居ない。
今回は完全な作戦勝ちである。
一体、また一体と倒されてついに最後の一体は木々の枝に攻撃されて、鞭の乱打と大ガマの突進。槍の一撃であっさりと倒されたのだった。
●そして池のほとりにて
「どうやら、ニクシーには魅了の能力はなかったみたいですね♪ あったらもっとてこずってたのかもしれませんねぇ‥‥」
静かになった池のほとりでそれぞれ思い思いに休息しながら、そういったのはシャルディだ。
囮となったセラフィマの頭を撫で撫でしながらシャルディは回りを見回す。頭をなでるには少々大きい気がするが、セラフィマはにこにこと笑っている。
「どうやら、これ以上ニクシーは居ないようですね‥‥周りの木々もそういってますし」
地道に木々に聞き込みをしていたのはアディアールだ。
「大した怪我も無くて良かったです‥‥でも争いを防げませんでした。主よ、私、なんだか無力です。修行不足ということなんでしょうか‥‥」
怪我をした者の治療を終えたインデックスがそうつぶやいて聖書をめくる。
「ニクシーは金髪の美女と聞いたのに‥‥碧の肌‥‥」
なんだかダメージを引きずっているのは幻蔵だ。ポップに肩をぽむぽむ叩かれて慰められている。
「あの‥‥私はアラン先生のお役に立てたでしょうか?」
おずおずとキラが問えば、アラン先生は渋々、
「ふむ‥‥まぁ、我輩の手を煩わせることもなかったから、ある程度役に立たなかったわけではあるまい‥‥」
そういってキラの頭に乗った草の葉をぽんぽん払うアラン先生。この言葉は彼なりの冒険者たちへの褒め言葉であろう。
「あ、アラン先生。時間があるのなら‥‥その薬草の採取地とかを見せていただけないでしょうか?」
アディアールがアラン先生に話しかけると、
「なんだかピクニックみたいですね♪」
セラフィマがそういってにっこりと笑みを浮かべたのだった。
「みんな、ありがと〜! こんなに強い冒険者たちがたくさん居るんだったら安心だ♪」
ポップがみんなに金を渡しながら言う。感謝の気持ちがこもった金の小さな塊である。
「‥‥じつは‥‥いま僕たちの国は大変なことになってるんだ。王様と王妃様は捕まっちゃったし‥‥」
そしてポップは顔をあげて言った。
「また助けてくれる?」
まだまだ妖精王国の物語は終わらないようである。