●リプレイ本文
●第一訓練 回避で走・投・滑?
「‥‥軽くヤバい」
なんて言いながらお腹の肉をちょいとつまんでみたのはローランド・ユーク(ea8761)。
「酒場に引きこもりでそろそろお腹の肉が目立ち始めた今日この頃‥‥ちくしょうっ、ショートな服が着れないじゃないかっ! 特訓だぁ!」
そう一念発起したとか。そんなこんなの悲喜交々で妖精の思惑も交差しながら訓練が始まるのだった。
「それではお願いしますね」
そういってきりりと表情を引き締めた女性は薊鬼十郎(ea4004)だ。
ケンブリッジはフリーウィルの制服に身を包んだ和風の楚々としたお嬢さんである。
そして彼女の周りを囲んでいるのは他の冒険者たち、手には小石などを持ち鬼十郎へと狙いを定めている。
「本当によろしいのですか?」
尋ねたのはヴェルディア・ノルン(ea8937)だ。育ちが良い彼女は他人に石を投げつけることに抵抗があるのかもしれないが‥‥
「ええ、訓練ですし、よろしくお願い致します」
にこりと鬼十郎は微笑んで答えたのであった。
「じゃ、行くぜ」
「それでは行きます」
その言葉で最初の訓練が始まった。鬼十郎が主導の回避の訓練である。
ローランドやルーウィン・ルクレール(ea1364)が次々に小石を投げ始める。
それを鬼十郎は走りぬけながら、避ける避ける!
疾駆する速度を緩めることなくひょいひょいと体勢を変えたり、跳躍する事でつぎつぎと飛来する小石を回避するのだ。
多少なりとも走ってることにより回避の技量に悪影響があるのだろうが‥‥一向に小石はあたらない。
なぜならば、一つは他の冒険者たちのなかに投擲が得意な者がいなかったから。
もう一つの理由は、鬼十郎自身の卓越した回避の技量のためであった。
そうして暫くひょいひょい避けた後で‥‥。
「それでは次の訓練にうつりましょうか」
次の訓練が始まるのだった。
「準備はこのような感じでよろしいかな?」
桐生和臣(eb2756)がそういって、石畳の上に油を流す。
さすがケンブリッジというかおあつらえ向きに綺麗に磨き上げられた石畳を見つけてそこを使わせてもらうことにしたようだ。
水を通さないように隙間なく作られていることからなんらかの魔法の訓練などに使われたのだろうが‥‥それはさておき。
「それじゃ、まずは俺からだな」
鬼十郎の回避訓練油床編。一番手はローランド。なぜか彼は椅子と机をどこからか持ってきてそこ座ると‥‥びしっとコインを投げる!
まぁ、踏ん張りの利かない体勢から投げられたコインは、てんで見当違いの方向に飛んでいってしまい‥‥
「一つハズレだな‥‥てぃ!」
これまたなぜか引率者ビアス先生がびしっと木剣でローランドに一撃。
「っっ〜〜ぅぅ、イテェ! それじゃもう一回っ!」
‥‥結局ローランドがこしらえたのは、背中の痣だけだったとか‥‥。
「では、二番手は僕が。よろしくおねがいしますね、薊さん」
丁寧に一礼して和臣が挨拶をする。そして取り出したのは鞭であった。
「鞭ですか‥‥では、よろしくお願いしますね」
鬼十郎も一礼して、奇しくもジャパン人対決と相成ったのである。
「せぃ!」
鋭く一閃する和臣の鞭。威力を犠牲にして、命中力を高めるためにフェイントアタックを使う和臣。
複雑な軌道を描いて、鬼十郎へと伸びる鞭は‥‥辛うじて鬼十郎に回避されたのだった。
しかし、足場が踏ん張りの利かない油であることによって、かなり行動に制限を受けている様子の鬼十郎。
「これは‥‥なかなかつらいですね。回避時重心移動訓練になる‥‥かな?」
卓越した回避の技術を持っていて、冒険者としての経験も和臣に比べればかなりの差がある鬼十郎。
しかし状況がその差をひっくり返すこともありえるようで‥‥
「しまったっ! ‥‥きゃっ!」
何度かの攻防の末、どさっと言う音とともにしりもちをつく鬼十郎。
彼女の腕にはぐるぐると和臣のホイップが巻きついているのだった。
「これで訓練になりましたでしょうか?」
全力を出し合った晴れやかな笑みを和臣は浮かべるのだった。
●第二訓練 格闘術で組み打ち!
「それでは参ります」
しばしの休憩の後、今度は模擬戦の訓練が始まった。一番手は鬼十郎対ヴェルディアだ。
そういってヴェルディアは間合いのそとから対峙していた鬼十郎に向かって大きく木剣を振りぬく。
すると、その剣閃は風を切る刃となって、鬼十郎へと牙を向いたのだった。
「ソニックブームですか、なかなかやりますね」
といいつつも、ひらりとかわす鬼十郎。やはり冒険者としての経験に格段の差があるのだ。
しかし、ヴェルディアの顔には曇り一つなく、にこにこと柔和な微笑を浮かべている。
先輩冒険者の胸を借りて、自分の技を磨くという気持ちで訓練に励んでいるのであった。
「まだまだいきますよ」
そういいながら相手を中心に弧を描くように移動して、さらにソニックブームを放つヴェルディア。
鬼十郎も回避の訓練だとばかりにひらりひらりと綺麗に回避に専念し、さながら舞踊のような訓練は暫く続くのであった。
「次はこの武器でいってみますか‥‥」
独自の間合いによる変幻自在の攻めを誇る中条流を学んだ和臣が選んだ武器はロッドだった。
対するのはローランド。木剣を堂々と構え、なかなかの迫力なのだが‥‥模擬戦開始直後にそれは起こった。
「‥‥おい、そのロッド、ヒビ入ってねえ?」
「え? 可笑しいな、さっき僕が見たときは‥‥」
「隙ありッ!!」
‥‥びしりと腕を軽く一撃するローランド。なんというか策士である。
「え、ええっ! 今のはずるいんじゃ‥‥」
「ふっ、これも戦いだぜ?」
にやりとニヒルな笑みを浮かべるローランド。
相手を変えるたびに相手を真に迫った嘘で騙し、勝ち星を重ねていく。
‥‥ある意味、他の冒険者が騙されにくくなるということに貢献しているのではないだろうか?
「あ、先生。お疲れ様ッス! ‥‥隙ありぃっ!!」
なかなかに個性的な一種の必殺技である。
●第三訓練 総合力で鬼ごっこ?!
「それでは私が鬼をやろう‥‥」
ルーウィンが鬼を買って出て、最後に鬼ごっこが始まった。
それなりの年齢の冒険者たちがそろって鬼ごっこというのはなかなかに奇妙な光景であったのだが‥‥
「不穏な事件が起きてますけど、私達までその雰囲気に囚われる事なんて無いと思います。だから訓練は明るく愉しくしましょう。愉しければ飽きませんし、深く学びたくなりますもの」
とは、鬼十郎の言である。
回避に特化し、人を殺めることを良しとしない活人の剣技。それを学ばんとする彼女はあくまでも真剣であった。
「ちっ! 次こそ‥‥」
チャージングすら使用して突進するルーウィンを綺麗にかわして、カウンターでその足を狙う。
見事な技量で連携を仕掛ける彼女の動きに迷いはなかった。
実現不可能かもしれないその尊い目標へと、彼女は一歩一歩近づいているのかもしれない。
「ほらほら、俺を捕まえてごらんよぉ」
とても楽しそうに走っていったのはローランドだ。どうやら、鬼に追いかけられている用だが‥‥
「そこまでだっ!」
がっしりとルーウィンにつかまり鬼は交代。童心に帰っていたあまり、行動が単純だったのかもしれない。
そして、鬼となって標的を探すローランドなのだが‥‥その顔が悪童のような悪戯っ子の笑みを浮かべる。
「大変だぁ。生徒がゴブリンに襲われたぞ!!」
そんなことを大きな声で叫ぶ! すると心配したのかひょっこりと数人が顔を出してしまう。
そして、それ目掛けて一目散に駆けていくローランドだが‥‥ぎゃくに鼻の下を伸ばしすぎて油断したのかヴェルディアのソニックブームで撃退されたりしている。
どんなときでも生き残るしたたかさと悪知恵の働き。これもまた冒険者の戦い方である。
敵が常に正々堂々と挑んでくるとは限らない‥‥そんなときに彼のその頭脳は活きるのかもしれない。
‥‥まぁ、もちろん今回はそれほど活きず、人騒がせな嘘のせいでビアス先生のお説教が待っていたのだが。
静かに忍び歩きで木々の間を進んでいるのは和臣であった。
「おそらくこちらの方は鬼の盲点となるはずで‥‥」
忍び歩きに兵法の心得。持てる知識や技能を最大限に利用するのは冒険者の持つべき資質である。
もちろん技能を生かすためにはその技能を伸ばすことを怠ってはならず‥‥
ガサガサガサッ!
「むっ! 見つかったかっ!」
一直線に逃げさる和臣を、その茂みを木の上から拳からソニックブームを使って放った衝撃波で揺らしたヴェルディアが見ていた。
こうやって自分の持てる技能を活かし、思いもつかないような使い方を考え出すのも重要な能力である。
訓練で、それぞれはかなりの成長を遂げたのではないだろうか。
「うん、みんな凄いと思うよ‥‥これだったら僕たちを助けてくれるかも!」
依頼人のガストン・ビアス先生とその横を飛ぶ小さなディナ・シー。
「‥‥占領されてる僕たちの国を救ってくれるかな‥‥」
冒険者たちに小さな妖精たちは最後の希望を抱いているのかもしれない。