バカップル撲滅! 『伝説の木の下で』編

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月18日〜09月23日

リプレイ公開日:2005年09月29日

●オープニング

「あーもー腹立つったりゃありゃしないっ!」
 どすどすと床を踏みしめながらギルドにやってきたのは、30前後の女性。
 豪奢というより悪趣味の領域のド派手な衣装に身を包み、全てが平均値の二倍ほどある体躯を怒りに震わせているようである。
「ねえそこのあなた、聞いてくださる? 最近私の家の近くの森にカップルがたくさん現れるようになりましてねぇ」
 脳天から突き刺さるような甲高い声で、延々としゃべり続けるそのマダム。さすがの受付もげんなりとしている。
「そうそう、それでわたくしが流行のドレスを買いに出ましたところ、やっぱりいつものとおり‥‥」
「あー‥‥お話中失礼ですが、依頼の内容をお聞かせ願いたいのですが‥‥」
「あら、いけない。大事なことを忘れていたわね。わたくしのことはミス・ロザーリナと呼んでくださいな」
「‥‥ミス?」
 未婚の女性を指すその言葉があまりにも似合わなかったのかボソリと口に出した受付。
 するとぎろりとロザーリナの視線が彼を一喝、その視線になにかを感じたのか哀れな受付はぶるぶると震えだす。
「ともかくっ! わたくしのお屋敷の近くにある瀟洒な森に、それはそれは立派な大木があるのですわ」
「はぁ、木があると」
「今までは静かな森だったのに‥‥最近になって急にカップルがぞろぞろと来るようになったのですわっ!」
「はぁ‥‥カップルが‥‥」
「そもそも最近のカップルは見境なく手を繋いだり、その‥‥せ、せせ‥接吻したりで、羞恥心が欠如してるのですわ、わたくしは常にお父様から高貴な女性は慎ましやかでなくてはならずと‥‥」
「はぁ‥‥」
 滝のごとく切れることなく延々と放たれるマダムの甲高い声を聞いていて、なんだか朦朧としてきた受付である。
「なんでも、その大木の下で‥‥愛を誓えばその愛は永遠に続くとか、そんな噂話がまことしやかに流れているのですの!」
「むぁー‥‥」
「聞いた話ですと、どこかの吟遊詩人が作った作り話とかで、わたくしえらく迷惑しているのですわっ! 軽々しく付き合うだのなんだのという今の若者に比べて、わたくしは今まで自分を磨き続けて、いつの日かわたくしのこの高貴さにつりあうような殿方が現れるのを、ひたすらに待っているというのに(延々とエンドレス」
「ぽー‥‥」
「ということでっ! ともかく迷惑なカップルたちを追い払って欲しいのですわっ!! あなた聞いてるのっ!」
「‥‥にゅぁー‥‥って、はぅあっ!! は、はい。聞いてましたよ! ‥‥えーっと、伝説の木がどうかしたとか‥‥」
「もう一度最初から説明するからしっかり聞きなさいっ!!」
 噂では気絶する者まで出たとか。
 なにはともあれ、カップルたちに社会の厳しさを教えるという依頼。

 さぁて、あなたならど・う・す・る?

●今回の参加者

 ea1314 シスイ・レイヤード(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea2929 大隈 えれーな(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9412 リーラル・ラーン(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1793 和久寺 圭介(31歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2204 江見氏 喬次(31歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb3483 イシュルーナ・エステルハージ(22歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●作戦その1 女装で接近?
「あいつら‥‥別世界にいってるしな‥‥まあ独り身には辛いな‥‥」
 ぼそりぼそりと呟くのは、バカップルたちを遠くから眺めているシスイ・レイヤード(ea1314)。
 くくくと含み笑いを浮かべるシスイ、なんとその出で立ちは明らかに女性である。
 もとより女性的な顔立ちを相まって、中性的で妖しげな容貌である。
「それじゃ‥‥久しぶりにやるかな‥‥だてにワザは鍛えてない‥‥」
 何のワザを鍛えるているのかは知らないけれど、にんまりと邪悪な笑みを浮かべる彼‥‥いや、今は彼女であった。

「うーん、まだかなぁ‥‥」
 人待ち顔でぼんやりと立ち尽くしている純朴そうな青年。どうやら恋人を待っているようだ。
 もちろん一緒に木のご利益に与ろうという魂胆だろうが‥‥今日彼は、かなり不幸な目に遭うのであった。
「あら‥‥人を待っているのかしら?」
 妖しげな声にビクッと振り返る青年。男とも女とも取れない声で妖しく囁かれればだれでも吃驚するだろう。
「は、はい‥‥そうですけど?」
「まだ少し時間は‥‥あるかしら? ‥‥もしよければ、少し‥‥付き合ってくれないかしら‥‥」
 そんじゃそこらの男より高い背の妖しげなエルフからの流し目。なんというか青年は圧倒されている。
「え、ええ? で、でも彼女が‥‥」
「‥‥断るの? こんな綺麗な美女と一緒に歩けるなんて‥‥役得じゃない? ‥‥優越感を感じたくないの?」
 たしかに周りからの視線は集まっている。まぁ、奇異の視線が半分ということはさておいて確かに目立っているようだ。
 自分で美人と言っているのはすさまじい自信だが、そのまま青年に一歩近づいてにこりと笑みを浮かべる。
 なにも言い返せずにぱくぱく青年が口をあけていると‥‥
「ねえ、何してるのよっ!」
 もちろんタイミングよく彼女登場。
「い、いやこれは‥‥この人が急に‥‥」
「そんなこと言っても誤魔化されないわよ! あんなに接近して!!」
 とたんに喧嘩騒ぎ。それを尻目にさっさとその場をあとにするシスイ。素早い。
「‥‥ふぅ、久しぶりにこれをやると疲れるな‥‥まぁ、これで静かになるだろう‥‥この場所も」
 本人が楽しんでいるように見えたのだがそれはさておき、噂話の種はまかれたのである。

●成功? 失敗? 実力行使!
「バカップルを懲らしめるには、相手を幻滅させればいいのですよ」
 イシュルーナ・エステルハージ(eb3483)が言う。確かにそれもいい手である。
「江見氏さんは別にカップルが羨ましいとか何とかの感情は持ち合わせてねーですけど、基本的に他人の不幸は蜜の味ですからにゃ〜。張り切っていくぜぃ」
 なんだか妙な口調でやる気があるのだか無いんだか‥‥こちらは、江見氏喬次(eb2204)。
 イシュルーナの作戦は男の方を危機的状況に陥れて、そこで男が尻尾を巻いて逃げ帰れば女が幻滅するだろうというもの。
 しかし街中では暴走馬は危なすぎるし、なにかちょうど良い危険は無いものか‥‥とイシュルーナはひらめいた。
「でさ、この前も‥‥(いちゃいちゃ)」
「えーそんなの信じられなーい(べたべた)」
 ムカつくバカップルの前に立ちふさがったのは、依頼人のミス・ロザーリナだった!
「貴方たちっ! 公衆の面前でそんなくっついて恥ずかしくないんですのっ!?」
 男だけじゃなく、女の方まで全速力で逃げ出しましたとさ。
 ‥‥なかなかうまくいかないものである。
「相手の情けないところを見せてあげればいいと思ったのですけど‥‥でも、ここには近づかなくなるでしょーか」
 とりあえず成功しているようであった。

「動物の死骸‥‥は流石にダメって止められたのにゃ。まー、毛虫は沢山集まったから問題ないぜぃ」
 依頼の木上によじ登っているのは喬次だ。手には毛虫入りの袋。
「あ、いたいた‥‥なんかいい感じなのだにゃ。ではでは、毛虫攻撃の前に、動きを止めさせてもらうですたい」
 こっそりとシャドウバインディングを発動して、女の方の動きを止める喬次。
「‥‥あれ、なんか急に動けなくなったんだけど‥‥きゃぁぁぁぁぁ!! 毛虫がっ!」
「うわぁぁ、なんでこんなにたくさん毛虫がっ!  わぁぁぁ」
「ええええ、私をおいて独りだけで逃げる気?! ひどーい!!!」
 と、さりげなくカップルの絆にヒビを入れまくることにも成功している喬次であった。
「そろそろ見つかったらやばいですにゃ」
 そういってインビジブルのスクロールを使う喬次だったが‥‥流石にちょっと荷が重かった。
「うげぇ、これは動きにくいですだよ‥‥このままじゃ落ちるんだぜぃ!」
 ぎゅーっと枝にしがみ付いたままの喬次は、イシュルーナに救出されるまでそのままだったとか。
「この方法なら、幻滅させることが出来るみたいですね。いい薬です」
 毛虫攻撃で亀裂の入りまくるカップルたちを見て、どうやらご満悦の様子のイシュルーナであった。

●愛憎劇!?
 とあるお天気の日の昼下がり。陽気に浮かれたのか、どこもかしこもカップルだらけであったそんな日。
「君とは‥‥もう終りなんだよ」
 物憂げな表情の偉丈夫は和久寺圭介(eb1793)だ。
 長い黒髪をふぁさりとかきあげながら、酷薄そうな笑みを浮かべて彼は言う、
 その前に立っているのは、大隈えれーな(ea2929)だ。
 ついさっきまで親しげに会話をしていた2人の間に緊張が走る。何事かと周りのカップル彼らを見ているところで‥‥
「え‥‥何? 私っ、何か嫌なことした? ねぇ答えてよぉっ。はっ、まさか私が正義のヒロインだからっ!?」
 嗚呼、彼女の魂の叫び(?)は悲しげに響き渡る。わなわなと肩を震わせて、目に涙さえ浮かべてえれーなは叫んだ。
 そんな彼女に冷笑を投げかけると、圭介は冷たく言い放つ。
「‥‥どんなに愛し合っても、愛というのは意外に脆いものだよ」
 冷たく鋭い言葉の刃は、さながら氷で作られた日本刀。なぜか周りのカップルもおちつかなげにそわそわしている。
 と、そこに現れたのは新たな人影、おどおどとリーラル・ラーン(ea9412)が歩み寄ってくると‥‥
 (とてとてとてと歩行→木の根っこにつまづく→どちゃっ! と顔面からコケる)
「うう、痛いです‥‥」
 不思議系ドジっ娘の登場である。そして転んだリーラルに手を差し伸べるのは圭介。
「ああ、大丈夫かいマイハニー‥‥さぁ、僕の手を取って」
 きらんと歯を耀かせるおまけ付きである。
「私が任務の間に、こんな女と‥‥耳ね? この女の長い耳がいけないのね‥‥?」
 ぎりりと歯軋りの音を響かせながら、耳を引っこ抜かんばかりにわきわきと手を構えるえれーな。
 鬼気迫る演技である‥‥たぶん演技である‥‥演技かな‥‥演技だといいなぁ。
「ふっ、嫉妬は見苦しいよ‥‥君とはもう終わったといっただろう」
 ぎゅうと肩さえ抱き寄せながらのたまう圭介。ちなみにリーラルの視線は上のほうに向いている‥‥妖精さんを探しているっぽい。
 それに答えたのは、怨々と地の底から響き渡るような声。うっすらと笑みさえ浮かべて笑い声を上げるえれーなだ。
「‥‥うふ、うふふふ‥‥この女の耳をむしって、あなたを殺して私も死ぬっ!!!」
 きしゃーという感じで、突進するえれーな、疾走の術をつかって尋常じゃない速度の突進である。
 さりげなく圭介はリーラルをとき放つと、なぜかリーラルはふらふらとなにかを追いかける。
「伝説の木の妖精、キノシタさんはいらっしゃいますか〜。是非お会いしたいのですが〜」
 そしてどちゃっとコケた彼女の上をとんでもない速度で追い抜かすえれーな。
「逃ぃ〜がぁ〜すぅ〜かぁ〜!!」
 阿鼻叫喚の地獄絵図である。
 それを尻目に、圭介は独り場を離れる‥‥にやりと笑みを刻みつつ。
「全ての恋人達が、全ての人間に祝福されると思ったら大間違いだよ」
 くすくすと不幸を微笑む彼だからこそ色事師の演技ができたのだろう。
「さて、あのお嬢さん方にはあとでお茶でもごちそうしないとな‥‥」
 やっぱり色事師としてもなかなかのものであるようだ。

「ああ、気付いたら圭介さんもいません‥‥木の下で愛の成就を誓おうと思いましたのに〜」
 リーラルなりの迫真の演技で泣き崩れる。よよよとハンカチをかんでいるところなんかちょっと芸が細かい。
「耳か〜! 長い耳のどこがいいんじゃ〜!!!」
 すでにキャラが変わってしまっているえれーなはカップルを追い散らすことに一生懸命だった。
 そんなこんなで、だれもこの木の周りには近づかない上に、多くのカップルたちに再起不能な心の傷を与えた一行であった。

 そして後日談。
「世の男性は貴方の魅力に気付いてないだけだ‥‥」
 なんと圭介が依頼人のミス・ロザーリナに対してこんなことを言っている。艶やかな笑みのおまけありだ。
「‥‥ああ、貴方は分かってくださるのね‥‥」
「ま、早く素敵な殿方を見つけることだな」
「そ、それじゃ‥‥貴方なら」
「私は遠慮しとくがね」
 ミス・ロザーリナの言葉を遮って止めを刺す圭介。どこまでも罪な男であった。