【妖精王国】ゴグマゴクの丘での戦い

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月20日〜09月25日

リプレイ公開日:2005年10月01日

●オープニング

 ゴグマゴクの丘と呼ばれる場所がある。妖精王国がある東の森の南方にあるその丘で、怪しげな影がうごめく。
 丘の中央には古びた祭壇。一度は封じられた巨人たちの遺物。
 丘の周りに転がる巨岩はよく見ればうずくまる巨人の姿。怨念が満ちる寂寥とした丘。
 丘の上空に広がる怪しげな燐光。響く古びた鐘の音。轟く呪文の声。
 どうやら妖精王国をつつむ騒乱は、まだまだ終わらないようだ。

 ケンブリッジの冒険者ギルド、クエストリガーにて。
「ええ、緊急の依頼なんです」
 表情を引き締めて冒険者たちへと通達するのは受付の女子生徒。
「妖精王国からの依頼でして、妖精王国の騎士団からの要請があったそうです」
 そこまでで一度言葉を切り、緊張した表情を見せる娘。長く続いた妖精王国の一件も徐々にその終りが見えてきた。
 だからこそ、事件は佳境へと向かい、危険度が増しているのがひしひしと感じられる。
「妖精王国の件で、巨人族ゴグマゴクの生き残り、ギャリー・ジャックを追撃した依頼がありました」
 事件の首謀者であるギャリージャックを倒した冒険者たちの活躍は耳に新しい。しかし‥‥
「はい、やはり死体が消えたことからも推測されたのですが‥‥ギャリー・ジャックはまだ生きているようです」
 落胆のうめき声がそこかしこから聞こえる。
「妖精王国からの報告では、現在王国の南方にあるゴグマゴクの丘と呼ばれるところでギャリージャックが確認されたとのことです」
「確認された‥‥というと」
「ゴグマゴクの丘は妖精王国の魔術師グランタがその昔、巨人族ゴグマゴクを岩に変えて封じた場所と言われています。そこでギャリー・ジャックは何らかの儀式をしているらしいのです」
 ざわざわとその情報に一同はざわめく。
「ということで、依頼の内容です。続く作戦を円滑に進めるための露払いをしていただきたいのです」
「つまり、最終的な決戦に向けて敵を減らすということか‥‥」
「はい、その通りです。かなりの戦力が確認されているので注意してくださいね」
 そして一言付け加える。
「妖精王国の件が片付かないと、ハロウィン祭りも中止になりかねませんし‥‥頑張ってくださいね」

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea0425 ユーディス・レクベル(33歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea0582 ライノセラス・バートン(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7234 レテ・ルシェイメア(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8877 エレナ・レイシス(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「騒動もいよいよ大詰めのようですね‥‥一刻も早く決着を付けて、東の森を自由に散策したいものです」
 東の森で静かに歩きながらアディアール・アド(ea8737)が言う。
 周囲の様子を慎重に確かめながら、3名の冒険者はそっと辺りをうかがうのだった。
「しかし、強敵と戦わなければならないのに、この人数‥‥少し不安ですね」
 そう呟くのはレテ・ルシェイメア(ea7234)だ。
 今回の彼らの仕事は、ギャリージャックの部下であるモンスターたちの排除。
 本隊が円滑に進めるようにするための露払いである。
 しかし、確認されている敵の戦力に対して、こちらはかなりぎりぎりの人数であり、レテの不安は最もであった。
「しかも、私には、直接的な攻撃能力がありません‥‥歯痒いですね、本当に。私が騎士かウィザードなら、もっと役に立てたでしょうか」
 悔しげに呟くレテはバード。確かに直接攻撃よりは援護を得意とする職業である。
「そんなこと無いですよ。私たちは出来ることを全力でやりませんと」
 そう答えたのはエレナ・レイシス(ea8877)。にっこりと微笑むと油断無く視線をあたりに向ける。
「私だって余り戦闘でお役に立てる魔法は持ち合わせていないのですが‥‥できることをやりましょう」
 アディアールもレテを励ます。奇しくも三人ともエルフであり、見かけの若さからは想像もつかない時間を生きてきているのだ。
「‥‥そうですね。ええ、私にも出来ることはありますね」
 そう答えて前を向くレテ。そう、彼らにはやるべきことがあるのだ。

「‥‥露払い、か」
 そっと呟いたのはユーディス・レクベル(ea0425)。彼女はライノセラス・バートン(ea0582)とともに後衛組より少し先行していた。
 体には即席のカモフラージュ、泥や葉を衣服につけて保護色としているのであった。
 2人は、木々の陰や岩場の死角を利用して、密かに行動していた。
「‥‥しくじったっ! なんて言いたくないから慎重にいかないとね‥‥」
「ええ、あくまでも俺たちは伏兵ですから‥‥そろそろ丘に近くなってきましたし、気をつけませんと」
 ライノセラスも冷静に応える。2人はちょうど良さそうな倒木の陰に隠れると、ひっそりと息を潜める。
 ユーディスが見たところ地形と踏み荒らされた痕跡からみて、この辺りは頻繁に敵たちが通るようにであった。
 なので、このままこの場所で隠れることにする2人。
 隠れたまま相手をやり過ごして後衛が敵をひきつけたところで不意打ちをするという作戦なのである。
 少ない人数で自分たちの倍ほどの敵を蹴散らすための苦肉の策。しかし、取れる策のうちでは最善の策だったのかもしれない。
 ‥‥‥‥そして、その結果はあとすこしではっきりする。
「はぁ‥‥うちのベリーさんは元気にやってるかな‥‥」
 ユーディスが思いを馳せるのは、ケンブリッジの厩舎で大盛りの餌をぱくついてるであろう驢馬の相棒について。
 となりで息を潜めるライノセラスは‥‥静かに精神を集中していつでもオーラ魔法を使えるように準備するのだった。

 がさがさと草を掻き分けながら進む一団。
 ギャリージャックに与する邪悪な妖精たちであった。
 赤黒く染まったとんがり帽子を被る老人の姿はレッド・キャップ。背を丸め手には犠牲者の血で汚れた斧を持っている。
 老婆の姿はブラック・アニス。無害そうな姿だが、鋭く伸びた爪やその殺気に濁る目つきがその真意を告げる。
 周りにふらふらと付き従うのは赤い服と帽子のファー・ダリッグ。妖精らしい小さな姿だが、しわくちゃの容貌でにたりと微笑む様はかなり不気味である。
 そしてそのレッド・キャップが2匹、ブラック・アニスが2匹、さらにはフォー・ダリっグが7匹という大団体。
 ぞろぞろと群れながら周囲を警戒する魔物たち。彼らは決戦は間近に迫っているためかなり殺気だっているようだ。
 そのとき、距離をおいて人影がすっくと立ち上がった。
 その数たった3人。斥候役であろう戦闘のレッド・キャップがぎゃうぎゃうと叫び声をあげてそちらを指し示す。
 距離はおよそ10メートルほど。きっと魔物の一団を視線で射抜いているのはレテだ。
「ギャリー・ジャックの悪巧みもこれまで。ゴグマゴクに相応しいのは永劫の石の檻。グランタの遺志は引き継がれます‥‥未来の彼方まで!」
 凛と響き渡る声。レテの発した裂帛の宣戦布告。その言葉と共に、彼女は印を組みながら魔法を唱え始める。
 ファー・ダリッグたちは何を言われたのか分かっていないだろうが、立ちはだかっている3人のエルフが敵であることは理解できたようだ。
 ぎゃーぎゃーと醜い雄叫びをあげながら突進するファー・ダリッグたち。
「美しい森を返してもらいます‥‥貴方たちはここには相応しくない」
 静かに告げられたアディアールの声。その言葉が終わると共に、ファー・ダリッグたちの足元から木の根が飛び出す!
 足をひっかけられ、あるいは絡みつかれて歩みを止める数匹の邪悪な妖精たち。
「木々を傷つけないためにも‥‥最初から全力で行かせてもらいます! ファイヤーバード!!」
 その横を飛び出す一つの影。全身に炎をまとい、燃える鳥となって戦場をかけるのはエレナだ。
 突進してくる一団に向かって真っ向から飛行して、相手の一群を一気に突っ切る!
 一瞬にして4匹のフォーダリッグが火の鳥の一撃を受けて弾き飛ばされる。
「‥‥同士討ちでもしていなさいっ! コンフュージョン!」
 レテが魔法を唱える。指に嵌る大粒の宝石をたたえた指輪がきらりとひかり魔法を助ける。
 専門のコンフュージョンでも、一度に混乱させられるのは一体だけだ。そしてファー・ダリッグの一体に無事魔法が成功する。
 突如同士討ちをはじめたファー・ダリッグ。しかしその横で、ファー・ダリッグの一匹がレテを指差して何事か唱える。
 同時に近づいてきていた一匹のブラック・アニスがレテに向かって魔法を唱える。
 それぞれ使用したのはイリュージョンとディスカリッジ‥‥しかし魔法は効果を発揮しない。
「‥‥私にはその手の魔法は効きませんよ」
 レテはあらかじめ自分にかけたレジストメンタルの効果で精神系魔法の効果を一切受けないのであった。
 驚愕に歪む醜い老婆の顔。ブラック・アニスは忌々しげに顔をしかめるのだったが‥‥
「そこまでだよっ!」
 音も立てずに忍び寄ったのはユーディスだ。
 気合と共に突き出されたのは、勝利のルーンが刻まれた魔法の剣。ライノセラスのオーラで強化された鋭い刃は深々とブラック・アニスを傷つける。
 魔法を使ったせいで反応が遅れたブラック・アニスはとっさの事で反応できない。
 その隙を逃さずユーディスは連続して斬りつけると、ブラック・アニスはどさりとくずおれる。
 しかし、その瞬間、
「あぶないっ!」
 響くレテの悲鳴。後ろから迫っていたのは、レッド・キャップの斧の一撃だ。
 しかし、ユーディスは危なげなくその一撃を回避する。バックアタックを修得している彼女にとっては造作もないことである。
「アンタ達にも都合があるんだろうけど、こっちにも譲れない都合があるんだっ! 逃がしはしないよっ!」
 怒気とともに繰り出す一撃。斧と剣が火花を上げた。

 そしてファイヤーバードとプラントコントロールでファー・ダリッグたちを撃破していたエレナとアディアールであったが、ついにファイヤーバードの効果が切れて、地に膝を着くエレナ。
 もちろん敵も馬鹿ではない。その隙を狙ってエレナに殺到するファー・ダリッグとレッド・キャップであったが‥‥
「終りにしましょう。あなた方の野望がかなうことはありません‥‥」
 手にした長大な刀を構えてそういったのはライノセラス。はるか異国の刀が妖しく光る。
 そのまま横薙ぎに一閃! 既にファイヤーバードの一撃で傷を負っていたファー・ダリッグはたったの一撃で斬り飛ばされてしまう。
 しかしファー・ダリッグを盾にしたレッド・キャップが接近し、ライノセラスに攻撃する。
 そしてライノセラスはエレナの前に立ちはだかりレッド・キャップの斧の一撃をそのまま受ける。
 がんがんと振り下ろされる斧。しかしその刃が深手を負わせることはなかった。
 オーラの力で防御力を高めたライノセラス。斧の猛攻を受けきると、今度は自分の番だとばかりに刀を構える。
「‥‥これで‥‥」
 刃が一閃。
「終りです‥‥」
 剛風と共に振りぬかれる巨大な刀。斬馬刀と呼ばれ、馬すら両断するという刀の一撃はレッド・キャップを切り裂き一撃で勝負をつけてしまう。
 重傷を負ったレッドキャップは満足に動くことも出来ず、続く攻撃であっさりと息絶えたのであった。
「一匹も逃がしませんよ」
 再び炎を纏ったエレナが逃げようとするファー・ダリッグを追跡する。
 そして、ライノセラスは斬馬刀を構えると、こんどは一匹残ったブラック・アニスへと向かう。
 すでに、ファー・ダリッグはほとんど片付き、ブラック・アニスにできることはあがくだけであった。

 横に振るわれた斧の一撃。あごを引いてそれを回避すると前髪が数本斬り飛ばされる。
 危うい攻防に息を飲むユーディス。皮袋に入れた水晶のダイスがきんっと涼やかな音を立てる。
「これでも、喰らいな!」
 すぐさま、突きと払いを巧妙に混ぜた連撃をレッド・キャップに叩き込む。
 喉元に突き込まれた刃が引き戻されると、ゆっくりと倒れ伏すレッド・キャップ。
 長い時間にも感じられた一瞬攻防はこれにて幕を閉じたのだった。

 ファイアーバードの一撃が逃げようとしていたファー・ダリッグを直撃し、ちょうど魔法が切れたので地に降り立つエレナ。
 木の枝で絡めたブラック・アニスを高々と持ち上げ地面に叩きつけたのはプラントコントロールによるアディアールの一撃。
 そして、森はもとの静けさを取り戻す。
 戦闘は終り、無事依頼をこなすことが出来たのであった。

「‥‥あの子、無事かな‥‥」
 戦闘の後、ふと空を見上げて呟いたのはユーディス。
 思いは、同じ空の下で戦っているであろう甥っ子のことらしい。
「早く森に平和が戻ってくるといいのですが‥‥」
 戦闘の途中で傷付いた木に気をかけているのはアディアール。
「無事終わって何よりですね」
 ぱちんと刀を鞘に締まったライノセラス。
 豪腕の一撃がそこかしこに刻まれているのに目をやってそっと刀の柄に手を置く。
「お役に立てたでしょうか‥‥」
 エレナが呟く。火の魔法には相性が悪い場所であったが、なんとかなったようだ。
「‥‥無事、全てが片付くといいのですが‥‥」
 レテが呟く。季節はそろそろ秋であった。