黒の鎧

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月18日〜10月23日

リプレイ公開日:2005年10月29日

●オープニング

「お願いします、兄を救ってください‥‥」
 ある日、ギルドを訪れたのは真っ赤に目を泣き腫らした女性であった。
「‥‥‥‥死してなおさまよい続ける兄を助けてください」
「死してなお‥‥ということは、お兄さんは‥‥」
「はい、冒険者だった兄は一年ほど前に行方不明になったのですが‥‥」

 彼女は語る。
 冒険者として自らの力を弱い者たちのために振るう兄は彼女の自慢だったのだと。
 しかし、兄はその優しさゆえに命を落とすことになった。
 小さな村からの依頼で、モンスターを倒すために山奥へと向かった兄は二度と帰ってこなかった。
 いつも必要最小限の報酬でいいと、笑顔を浮かべ楽しそうに冒険の話をしていた兄。
 ちょうどその冒険に向かう前の日に、新品の鎧を磨いていた兄。
 しかし彼女は兄のその最期も、兄らしい別れだと思っていた。
 そして一年が過ぎて、彼女は知り合いの冒険者から噂を聞く。
 不思議なアンデッドの噂。そのアンデッドは森の中をうろつき決して森から出ようとはしないらしい。
 まるで何かを探しているかのように、うろうろと彷徨うその戦士。
 近くにある村には一切被害は出ていないが、目撃した狩人はその姿に覚えがあったという。

 目撃された森は、兄が最後に向かった依頼の場所。
 その戦士が身に付けているのは、ブラック・アーマー。
 兄が妹に自慢していた新品の鎧と同じものだった‥‥。

「たった3人で森へと向かった兄たちは、どうやら全滅したとのことです‥‥」
 気丈に振舞う依頼人。しかしその顔には心労が色濃く影を落としている。
「依頼の目的であったモンスターは倒されているそうで‥‥村からは私に連絡がありました」
 兄は連絡先として妹のことを告げていたらしい。
「どうか、死してなお依頼を完遂しようとして、森を彷徨う兄たちを救ってあげてください‥‥」
 深々と頭を下げる女性。その俯いた顔から一滴の涙が落ちた。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea0582 ライノセラス・バートン(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7398 エクリア・マリフェンス(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0276 メイリア・インフェルノ(31歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0606 キッシュ・カーラネーミ(32歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb3449 アルフォンシーナ・リドルフィ(31歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

チカ・ニシムラ(ea1128)/ シュラ・ロイヤルナイツ(eb3213

●リプレイ本文

●村にて
「では、グレンさんたちを見かけたのは森の東側ですね」
「ああ、川が流れているんだが、前はそこの近くでオーガを目撃したんだ」
「ということは、一年前にオーガがでたのとほぼ同じ場所にグレンさんたちはいるということですか‥‥」
 村にて目撃者の狩人に話を聞いているのはライノセラス・バートン(ea0582)だ。
「それでいつ頃ですか?」
「ああ、東の森は薄暗いんだが‥‥ちょうど帰り支度を始めたところで、日が傾き始めるちょっと前だったはずだ」
「その森の広さはどれくらいなのですか?」
 続いて質問したのはエクリア・マリフェンス(ea7398)だ。
「そうだな‥‥ここから真っ直ぐ歩いて3時間ぐらいで着くところで、狩場の外縁部分だから結構広いな」
 探索のための情報収集に余念がない一同であった。
「案内を頼めません? やはり森に慣れている人がいると心強いんだけど?」
 キッシュ・カーラネーミ(eb0606)が目撃者の狩人に尋ねる。
「ああ‥‥流石にずっとは無理だけど目撃したところの近くまでは案内出来ると思う」
 こうして、村の狩人を伴い冒険者たちは森へと踏み込んだのだった。

●冒険者たちの想い
 東の森へ着き、数刻の間探索を続けたのだったが、最初の一日は痕跡を見つけることができなかった。
 一行は、少し道を戻り安全だと思われる場所で野営をすることにしたのである。
「今日は時間が足りなかったので奥まで進むことが出来ませんでしたが、明日はもう少し東の森の奥に進んでみましょう」
 エクリアが言う。彼らは森に対しての土地勘があるエクリアを先導として行動していたのであった。
 日は既に沈み、肌寒い秋の森の中で彼らは焚き火の周りに座っている。
 焚き火を囲み、静かに休息している一同の表情は一様に真剣なものであった。
 同じ冒険者に刃を向けなければいけないという苦悩か。
 それとも、同じことが自分の身に起こりうるという不安か。
「‥‥アンデッドと化してまで森を守ってるとか‥‥でも、そんなわけないですよね」
 ぱちぱちとはぜる焚き火の明かりを受けて呟いたのはメイリア・インフェルノ(eb0276)。
 アンデッドは生前の思いを受け継ぐこともある。それは妄執かもしれないが、強い思いが残るのだ。
「とはいえ元々冒険者です、少しくらいならお話が通じるかもしれません‥‥試してみる価値はあると思うんですけどね」
 やはり最後の最後まで希望を捨てたくないと思ってしまう‥‥それは聖職者としての顔を併せ持つ神聖騎士だからなのかもしれないが。
「あたしだったら、骨と腐肉になったみっともない姿、いつまでも晒していたくないから、さっさと倒して欲しいって思っちゃうかもね?」
 自嘲的な笑みを浮かべて言ったのはキッシュだ。しかし少々過激な言葉をとがめるものはいない。
「彼らの姿は、あたし達冒険者ならいつでも起こり得る可能性のひとつだわ‥‥彼らの勇気と尊い意志は、あたし達が覚えていないとね」
 訥々と言葉を繋ぐキッシュ。ある者は無言で頷き、ある者は思いを馳せるかのように目を伏せる。
「‥‥彼らのためにも戦わなければいけないのかもしれないな。もちろんイルマのためにも‥‥」
 アルフォンシーナ・リドルフィ(eb3449)が応えて言う。
「‥‥イルマの心の傷は、時が癒してくれるのだろうか」
 出発する前に悲痛な表情で依頼をしたイルマの顔を思い出したのか、ぐっと拳をにぎるアルフォンシーナだった。
 しばらく、会話も無く静かに時間が過ぎていくのだったが、ふと声が上がる。
「‥‥やっぱりブラック・アーマーはあたしが引き取ろうと思ってるんだけど、どうかな?」
 ネフィリム・フィルス(eb3503)が言う。
「戦士グレンの誇りと魂を受け継いで、彼の鎧と共に戦うことで供養としたいんだ。妹さんには兄を誇りに思っていて欲しいしね」
「いいんじゃないかしら? 味気ないかもしれないけど、有効活用したほうがいいと思うしね」
「ええ‥‥ネフィリムさんのような人が持っていただいた方が、きっとグレンさんも喜ぶでしょうし」
 キッシュとメイリアがネフィリムの提案に応え、他の面々も静かに同意する。
 こうして、決戦の前夜は静かに過ぎ去っていくのであった。

●遭遇、そして‥‥
「‥‥どうやらここが通り道のようですね」
 木に目印をつけながら森の中を探索していた一同は、エクリアのその言葉に足を止める。
 見れば獣道のように何かが通った跡が、それも何度も何度も同じ道を通っているのか、しっかりした跡が残っていた。
「あら‥‥足跡もありますね」
 メイリアが指出示したところにはくっきりと靴の跡が残っていた。
「こっちからやって来てるみたいだな‥‥足跡をさかのぼるように進んでみよう」
 同じところを何度も同じ足跡が踏み固めている。
 それは即ち、死してなお同じ場所をなんどもぐるぐると回っているということである。
 一同は、足跡を遡るようにして静かに進み‥‥。
「しっ! どうやらついに来たみたいよ」
 一番最初に木々の間に見え隠れするその姿を見つけたのは視力に優れるキッシュだった。
 がちゃがちゃと音を立てて進む3人の死者がついに木々のあいだから姿を現す。
「もうオーガはいないのですよ。ですから、静かに眠ってください!」
 メイリアが呼びかける。しかし、死者たちの眼窩はただただ虚ろで、近くに現れた生の気配に反応するのみであった。
「‥‥やはり無理でしたか。ならせめて‥‥同じ冒険者である私たちの手で地に還してさしあげます‥‥」
 一歩一歩鈍重な歩みで距離をつめる死者たちを見据え冒険者たちは、それぞれの武器を構えるのだった。
 そして、ついに戦いが‥‥いや、弔いが始まるのだった。

「こんな姿になっちゃう前に知り合いたかったわね、貴方たちとは‥‥」
 悲しげに笑みを浮かべるキッシュ。そして呪文を唱える。
「氷雪に抱かれ 深淵の眠りに沈め――アイスブリザード!」
 木々を巻き込んで轟々と吹き荒れる氷雪の嵐。
 しかし木立を真っ白に染め上げる吹雪の中でも死者たちは何の痛痒も見せず近寄ってくる。
「全力で戦うこと‥‥それがアンデッドになってなお、依頼を遂げようと彷徨う彼らへの礼儀だ」
 静かに意識を集中させるのはアルフォンシーナ。オーラソードを使って半透明の剣を生み出しその刃を掲げる。
「‥‥彼らの魂が救われることを切に祈る‥‥」
 彼女の前に立つのはリック。横薙ぎに振るわれた剣の一撃を掲げたライトシールドで押し返しながらオーラソードで一撃を浴びせる。
 死者は何の反応も見せずに、すぐさま反撃に移るのだが、そこに飛来したのはメイリアのブラックホーリーだ。
「もう彷徨わないでいいんですから‥‥」

「すぐに解放してあげますから‥‥」
 エクリアが静かに呟く。そして呪文を唱え印を組み唱えたのはライトニングサンダーボルト。
 一直線に伸びる雷光がマーティとグレンをまとめて貫くが、やはり少々ぐらついただけで歩みは止まらない。
 そしてそれぞれの前に立ったのは2人の騎士だ。
「もうあなた達は十分に自分を責め、苦しんだ。だから、安息の眠りを得ていいんだ」
 ライノセラスが巨大な刀を掲げて言う。オーラパワーによって燐光を帯びるその刀はグレンの剣の一撃を弾き返す。
「貴方の妹‥‥イルマ嬢は、兄である貴方を誇りに思っていましたよ。だからこそ貴方の今の姿を憂いているのです」
 切り結びながらライノセラスは一言でも多く妹の思いを兄へと伝えようとする。
「あんたたちの戦いはもう終わったんだ! もう休んでもいいんだから‥‥」
 マーティと、ときにはグレンと剣を交えながらネフィリムが言う。
 彼女はただただ打ち込まれる剣の一撃を盾で受け、その不浄な生を終わらせるべく攻撃を加えていくのだった。

 そして生と死の双方に分かれた冒険者たちの戦いは長くは続かなかった。
 速度で圧倒的に劣る死者たちの攻撃にしぶとく耐え、魔法の補助を受けつつ攻撃を重ねる冒険者たちの前に死者たちはなす術も無かった。
 1人、また1人と倒れ、最後に残っていたのは黒き鎧に身を固めたグレンただ1人。
 そして、最後の一撃はネフィリムの剣によってもたらされたのだった。
「‥‥これで、あんたの戦いも終りだよ。ゆっくりと休んでな‥‥」
 重さで加速された上段から一撃は、ついにグレンに永遠の眠りをもたらしたのであった。

 冒険者たちは、3人の亡骸をその場所に葬ることにした。
 3人を称え、その死を追悼の文句が書かれた布に亡骸を包み、最後まで彷徨った森に埋める。
「死者と成り果てても、冒険者としての使命を果たそうとした方々の魂に永遠の安息の眠りが訪れることを願います」
 エクリアの竪琴の調べに乗せた鎮魂歌が森に響き渡る。
 そして、墓標の代わりとしてそれぞれの剣を残し、冒険者たちは帰路につくのだった。