●リプレイ本文
●孤高に‥‥
「絵とかって苦手だけど、頑張って描くぜ」
沢山のにわか画家に混じって筆を握っているのは、伊達和正(ea2388)。
どうやら、風景画を描いているようだ。
周りには、やはり同じようにたどたどしく絵を描く人たち。楽しみとして絵を描いている人たちがほとんどである。
「‥‥お、夕日が出てる。描いてみよう」
二枚目は夕日。
「星が綺麗だな‥‥でも星を書くのは難しいな」
三枚目で苦戦である。
絵を描くこと自体を楽しむ、これもまた写生会の目的の一つである
そしてもう一つの目的。モデルとして個性を発揮している冒険者もいる。
「踊って居れば、あたしって結構幸せだから」
そういいながらただひたすらに舞っているのはアリシア・ファフナー(eb2776)。
彼女はモデルとしては上級者向け。なにせ止まることを知らず、ただひたすらに躍っているからだ。
ジャパンの巫女の衣装をわざわざ借りて、緩やかにして優雅な舞を続けていた。
慣れない衣装にも関わらず、裾を翻し袖をなびかせ、生命力の躍動をそのまま舞として表すアリシア。
「こうやって踊っていると、いつもと違って、草や木や風や大地と一体化して気がするのよね。ああ、あたしって本当に踊るのが好きなんだわ♪」
本人も幸せそうである。
●シルヴィアとステラ
「藍染で‥‥この柄とこっちの柄のどちらかしらね」
「ふむふむ‥‥たくさんあるんだな‥‥」
「ねえ、こっちの柄はどうかしらね?」
「んー、藍色に銀で鳥の意匠か。似合うと思うぞ」
着物を選んでいるのはステラ・デュナミス(eb2099)とシルヴィア・エインズワース(eb2479)だ。
ああでもないこうでもないと悩み始めて早数刻。
やっと決まったようである‥‥そして、店員に着付けて貰うステラ。
「それにしても‥‥着物の着かたっていろいろ手順があるのね。帯もなんだか窮屈だわ」
「それは仕方ないんじゃないかな?」
ぎゅっと帯を締められて眉をしかめるステラを見てくつくつと笑いながらシルヴィアが答える。
そして着付けがすんだステラを見て、
「ふむ、ステラさんの銀の髪に良く似合ってるぞ。そういえば、西洋人と着物の組み合わせはそれ自体珍しいんだな」
しげしげと見つめながら言うシルヴィアに、ステラはすこし頬を染めるのだった。
「まずは水辺だな。秋の草木が背景に入るなら、なおよろしい」
難しげな顔をしてシルヴィアが言う。キャンバスと絵の用具を抱えていっぱしの絵師といった様子だ。
「あら、ここならいいんじゃないかしら?」
小さな支流のふちに降り立つステラ。裾を手で押さえてかがみこむと、手を水に浸す。
「やっぱりそろそろ水も冷たいわね。どうかしら、シルヴィアさん」
すっと立ち上がり振り返るステラ。するとシルヴィアが、
「今のポーズ良いな! こう、自然に振り返った瞬間という感じで」
「そ、そう? ‥‥こんな感じかしら?」
「ん〜‥‥もうちょっと視線は上で、足は引いて‥‥うん、いい感じ」
ぴたっとポーズをとったステラを前にして、シルヴィアが絵を描き始める。
「‥‥西洋の技法で、東洋の題材か。ステラさんの魅力を秋独特の美しさと品格の中で活かして‥‥」
絵筆を手に、さらさらと手を動かすシルヴィア。貴族としてのたしなみで覚えた美術とはいえ、なかなかの腕前だ。
「ん、戦うだけが戦士ではない。いいものを作るから期待しているのだぞ」
にこっとわらってモデルのステラに行ったシルヴィアにステラは、
「良い絵を期待しているわ。頑張ってね」
微笑を浮かべて返したのであった。
●おっとりさんが2人
「それでは、この着物を借りますね」
「はい、青地に紅葉の柄の着物ですな。その‥‥いいにくいことなのですが、くれぐれも取扱には注意をお願いします」
「ええ、もちろんです。それではまた‥‥」
といって歩き出そうとするリーラル・ラーン(ea9412)。
(てくてくてく → ぐらっ → びたんっ)
しかしまとわりついた裾に足をとられたのか、3歩目で躓き入り口の柱にびたんっと頭をぶつけるリーラルであった。
‥‥本人は何事もなかったかのようにてくてく歩み去るが、後ろで店員が青い顔をしていたとか。
「実は絵描くの初めてやねんな。ウチ。何描こか‥‥」
ぶちぶち呟きながら歩き回っているのは藤村凪(eb3310)だ。
そんな風に考え事をしながら歩き回っていたら‥‥朝から場所を探していたのに、いつも間にやら昼も過ぎていたりして。
しかし、凪はさらっと6時間経過したことにはかまいもしない。
「ふむ、何気ない場所に咲いとる花でも描いてみよか。ほな。写生会の間がんばろー」
おーっとのんびり1人で気合を入れるのだった。なかなかののんびりさんである。
そして、お絵かき開始。
「間違うても、気にせんで心のおもむくまま線を引くと。ま、先生もおるし大丈夫やろ」
かきかき、ぺたぺた、ぬりぬり‥‥
と、その背後に忍び寄る影が。
「‥‥ここに精霊さん描いたらどうですか?」
「うわっ! いきなりなんやねん!」
ひょっこり現れたのはリーラル。精霊さんが描きたいらしい。
「吃驚したで、ほんまに‥‥って、どこに行くんや」
「ええ、もう少しモデルに使ってくれる人を探そうかと〜」
「なるほど、気ぃつけえや〜‥‥って言ってるそばからっ!」
ふらふら歩き出して水溜りに突っ込みそうになるリーラルの帯をばしっと捕まえる凪であった。
「水溜りで転んでこそ水のウィザードなのですよ」
「って、こけたら弁償せなならんやろ。ところで、おやついるか?」
なぜか腰掛けてくつろぎモードの凪とリーラル。おやつタイムだったりする。
「ま、ええわ‥‥せっかくやし、モデルやってくれへん?」
「ええ、いいですよ。どんな絵を書く予定なんですか?」
そう問われて凪はしばらくあたりを見回し、
「そうやな。季節の花とか『日常』の風景の中でのリーラルさんがええやろ」
そういって、凪は筆をとる。少々拙いモデルと絵師はのんびりと作業を始めたのだった。
●画家と麗人
「以前はお世話になりました。今回はこの着物を貸していただきますね」
礼儀正しく六右衛門に挨拶をして、着物を手に取ったのはフィーナ・ウィンスレット(ea5556)だ。
手にした着物は、黒地に白で桜の意匠の華麗な着物である。
「その柄じゃったら‥‥この市松柄の帯とこの簪でどうかのう?」
銀細工に黒漆というなかなか華麗な簪を差し出す六右衛門。フィーナはそれを受け取ると、
「ええ、とても素敵だと思います。それではお借りしますね」
さて、ところ変わって絵を描く準備をしているのはモサド・モキャエリーヌ(eb3700)。
冒険者としては駆け出しだが、画家としてはそこそこの腕を持つ彼は、わざわざフィーナをモデルに指名したのだ。
実はフィーナは国中に知れ渡る名声を持ち、曰く聖母や麗人などと様々な呼び名で知れ渡っているのだ。
「まだまだ未熟な腕ですが、精一杯描かせていただきますので、よろしくお願い致しますね」
「いえ、こちらこそよろしくお願いしますね」
と挨拶もそこそこ、早速作業に入るモサド。椅子に腰掛けているフィーナを描くようである。
「イギリス一の美人に選ばれたフィーナさんの内面の美しさを描けたらいいのですが‥‥」
「あら、私はあくまでもキャメロットで選ばれただけですし‥‥イギリス一だなんて恐れ多いです」
と、談笑などしつつ写生会は進む。ちなみに画家はモサド以外にも結構な数が集まってきているようだ。
やはり、有名であることが影響しているようだが‥‥その緊張をほぐすことも考えてモサドは話しかける。
「緊張せずに普段どおりの気持ちでかまいませんよ」
「普段どおりですか‥‥やはりモデルはなれないと恥ずかしいですね。‥‥そうだ、モサドさん」
「はい、なんでしょうか?」
「うまく絵を描くコツとかはあるんですか? 画家を生業としているそうですが」
「そうですね。まずは対象をいろいろな角度から見てみることでしょうか。そして、いいなと思ったところから気ままに絵に描いていくのがいいと思います」
周りの素人絵師たちも頷いていたりする。
「絵というものが気軽に出来ることなんだと思うことが上達のコツかもしれませんね」
会話を重ねながら、筆を走らすモサド。微笑を浮かべるフィーナの表情を精緻な筆使いで描く。
「さて、こんな感じでどうでしょうか?」
黒の着物に鮮やかな銀の髪。陰影をはっきりと描いた丁寧な絵が其処にはあった。
こうしてモサドの手によって描かれた一枚は、なかなかの人気を集めフィーナはますます名声を高めたとか。
●情熱と妖艶と‥‥
「そう、そのまま! ‥‥うんうん、横の男の子、いい感じよ〜♪」
あばら家の中で檄を飛ばしているのはポーレット・モラン(ea9589)。
「はは、気合入ってるな。しっかし、丁度いいのがあってよかったよな」
モデル役はフレイア・ヴォルフ(ea6557)。彼女は今日は着物姿なのだが‥‥普通の着物ではないようだ。
黒地に緑を基調として、霞の意匠。裾を豪奢に鮮やかな緑と白が縁取り鮮烈な印象を与える着物である。
そして、黒と緑の着物に映えるようなフレイアの鮮烈な赤い髪。
金の派手な簪に、着崩した着物、はだけた胸元から除く白いさらし。すさまじく鮮烈な印象を与えるモデルである。
「前回優勝者のモデルをやるからには頑張らないね‥‥でも、この姿を恋人に見せられないのが残念だよ」
あばら家の中で中央にはフレイア。なにやらポーレットいわくコンセプトは『女賭博師、妖しく艶笑む』らしい。
しかも周囲の手持ち無沙汰なモデルや絵描きをかき集めて、手伝いまで頼んでいる強引さである。
「あ、そこのハンサム君! 私の後ろの椅子に座って!」
「ん? そんなところに座らせてどうするんだ?」
「そして、フレイアちゃんはこの子を見る! 獲物を狙う狩人の目でね」
「えぇ?! ‥‥んー、難しいねぇ。しかも動かないってのが難しいんだよね」
こんな感じで、ポーレットが大量に注文をつけながら自在に絵を描いていく。
「で、化粧とかはこれでいいのかい?」
「うーん、もうちょっときつめな方が良いかな? 眦をもっと強調して‥‥」
「えぇ、そんなに肩を出すのかい?」
「うん、そうよー! 白い肩も白い腿‥‥周囲を黒く厚塗りして、妖艶なキモノビジンよっきゃー!!」
テンションはまたしても飛んでいったようである。
そして、数日後。依頼の最終日に、やっとひと段落着いて。
「んー、体がこったねぇ‥‥ああ、紅葉が綺麗だし、猟日和だねぇ」
ぼきぼきと体をほぐしながら、山の方向を見つめるフレイア。
「で、どんな感じに完成しそうかい?」
「そうねー‥‥薄暗い賭場の男たちは1人の女に釘付け、だが女賭博師の瞳は獲物を狙う狩人のよう‥‥」
「ほうほう、妖しい感じだね」
「‥‥官能的な動きは妖しの舞姫サロメを思わせる。二色に濡れる瞳は1人の男で止まる。‥‥今宵の獲物は貴方らしい‥‥って感じかしらね♪」
「‥‥それはなんだかすごいな。ま、完成して何よりだ。描いてくれてありがとな」
フレイアはにっこりと笑みを浮かべると、ポーレットの頬にキスを残して歩み去ったのだった。
もちろんポーレットはうっきゃーっと喜んでいたとか。
そんな感じで冒険者たちの芸術の秋の一幕は終わった。
ちなみに、ポーレットの絵はあまりに淫靡すぎるということでお蔵入り。
その後教会に懺悔のために駆け込むシフールの絵師がいたとかいなかったとか。