強欲の報いは‥‥
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■ショートシナリオ
担当:雪端為成
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月28日〜11月02日
リプレイ公開日:2005年11月07日
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●オープニング
「ふん、まったく埃っぽいところだ‥‥」
のしのしとキャメロットのギルドを訪れたのはでっぷりと太った壮年の男であった。
豪華というよりは明らかに成金趣味の衣装に身を包み、脂っこい顔にさも迷惑そうな表情を浮かべている。
「わざわざ冒険者風情に依頼を頼まねばいかんというのは、まったく下らんな」
ぶちぶちといいながら、勝手に椅子に腰掛けると後ろについてきていた老人が受付へとやってくる。
「ええと‥‥依頼をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
偉く腰の低い老人である。対して受付が、
「はい、もちろんですよ。一体どのような依頼が?」
「ええ、実は最近旦那様が‥‥ああ、旦那様は貴金属関連の商売で手広く成功を収めていらっしゃいますグドフリー様と申しまして‥‥」
「その旦那様が?」
「はい、最近郊外に別荘をお買い上げになったのですが、実はその別荘にはちょっとした問題が‥‥」
「問題ですか‥‥冒険者の力が必要なところを見ますと、モンスターの類ですね?」
「ええ、その通りなのです。その‥‥夜になると出るのですよ」
「でる‥‥ってお化けとかですか?」
「はい、旦那様が泊まりこんだときには、白い人影が3、4つほど見られたそうで‥‥」
「なるほど。でも、あらかじめ分からなかったんですか? そんなのが出るならあらかじめ分かりそうなものですが」
「‥‥その、実は旦那様が非常に安いということだけで買い上げまして、持ち主は数年前に亡くなっていたのです」
「はぁ‥‥誰から買い上げたんですか?」
「持ち主の親族らしいのですが‥‥聞いたところでは持ち主とは仲が悪くて、そのまま放置していたらしいのです」
「なるほど。それで‥‥その出る白い影の正体にあてとかは無いのですか?」
「はい‥‥その、もとの持ち主は大変強欲な方で、死ぬまでその家を離れなかったとか‥‥辺鄙なところにあるのですが、流行り病が流行ったときに親族まとめて死に絶えてしまったそうで」
「そうなのですか‥‥それなら、化けて出るのも分かりますね」
「はい‥‥」
後ろでは旦那様とやらが、息をするのも面倒だと言った面持ちでふんぞり返っている。
「それで‥‥実はお願いがあるのです」
おずおずとその老僕が受付に言う。さっきよりも幾分声を落としてひっそりと。
「その、報酬についてなのですが‥‥必要経費以外は物で払いたいのです」
「物、ですか。まあ、たまにあることですし問題ないと思うのですが、どうしたのですか?」
「‥‥非常に申し上げにくいのですが、我が旦那様は非常にその‥‥お金に関して厳しい方でして」
「ああ、なるほど」
「それで‥‥8人の冒険者を雇うに当たって、くじ引きのようにして物品を報酬代わりにしたいのです」
「くじ引きですか?」
「‥‥はい、報酬として渡す皮袋には指輪が入っています。半数が精霊によって祝福された高価な指輪で、残りの半数は質素な金の指輪です」
「ああ、なるほど‥‥それはまた奇妙な報酬ですね」
「なので、なにとぞよろしくお願い致します‥‥」
ふかぶかと頭を下げる老僕、その髪の毛が真っ白なのは年のせいだけではないようだった‥‥。
さてどうする?
●リプレイ本文
●道中にて
「‥‥なんつーかあの依頼人の態度、あれが人に物を頼む態度かっつーの。なぁフレア?」
「まあ、確かにそうですけど、依頼を受けたからには果たさなければいけませんよね」
会話の主はどうやら知己らしいグラディ・アトール(ea0640)とフレア・レミクリス(ea4989)だ。
「ま、それはわかってるさ。それにこれから行く屋敷にいる霊はそれ以上に強欲っつー話なのな」
やれやれとばかりにグラディが肩をすくめると、フレアがふふっと微笑む。そしてふと愛用の薙刀に視線を落として、
「そういえば幽霊がでるんでしたね。私は幽霊と戦うのは初めてなのでどう対処したらいいのか‥‥」
そういうと、薙刀と手に持ったシルバーナイフを見比べる。銀のナイフはちっぽけで頼りなく見えるようだ。
「まあでも、死んでもこの世に留まり続けるってのは苦しいだろうし、あまりいい事じゃねぇよな。ここは僕らがなんとか成仏させてあげないとな」
それを見て励ますように言うグラディだった。さて一方他の冒険者は、
「相手は幽霊ですもんねぇ。確か普通の武器は効かないんですよね」
ぼやいているのは凍扇雪(eb2962)。こちらも愛刀をしまって慣れないレイピアを装備している。
「やっぱりレイピアって余り使い心地が良くないんですよねぇ‥‥実体を持たないものも斬れる日本刀が欲しいですねぇ〜」
武器をしっかり準備するのも依頼の成功のためには重要だ。そして魔法について心配する者も。
「レイスにブリザードが効くのはいいんですけど、範囲攻撃なのが心配ですね。アイスコフィンが効けばいいんですけど、実体無いから望み薄だし‥‥」
「コアギュレイトは精神を持たないアンデッドにも効くそうですが、実体がなくても効くのでしょうか‥‥」
エルマ・リジア(ea9311)とフレアが心配そうに首を傾げる。これは実地で試すしかないだろう。
そして、一同は依頼にある館へとやってきた。
「この館に彷徨える者たちがいるのですね。色々と理由があって、現世に彷徨い出てくるのは理解出来ますが帰るべき場所へ戻れるようお手伝いしましょうか」
古びた屋敷を眺めて、決意を口にするのはエクリア・マリフェンス(ea7398)。
「神に仕える者の端くれとして、不浄なる亡者をあるべき場所に帰さなくてはなりませんからね」
剣の柄に手を置いて、館を見据えているのはヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)。
人に害を及ぼすアンデッドとは言え元は同じ人間。それぞれの決意はかすかなリとも悲壮さを帯びるのだった。
まだ日が高く昇っている。一同は、昼の間に館の中を探索することにしたのか、館へと踏み込んだのだった。
「‥‥ホラーハウスより、本物の幽霊屋敷の方が怖くないってのは、何故なんだろ‥‥」
ぽつりと呟くユーディス・レクベル(ea0425)。冒険者らしい豪胆な気構えである。
そして探索が始まった。
●館にて
「かなりボロボロだな‥‥荒れ放題って感じだぜ」
正面の扉を開けるとそこにはホールが。手入れされていない館の様子をみて雷電飛燕(eb2463)がそう呟いた。
ぞろぞろと連れ立って、冒険者たちは屋敷の探索を始める。
薄暗くかび臭い館の中をうろうろと見て回る一行。やはり昼間は幽霊が出現する様子はないようだ。
壁の様子を確認しながら明かりを置く場所を探すユーディス。
「ふむふむ、こういう構造か‥‥ここにだったらランタン置けそうだな」
廊下に置かれた小さな机の上の埃を払ってランタンを置いてみながら確認する。
「書斎の隣が寝室ですね。たしかここにも幽霊が出たとの事ですし‥‥」
壁の飾台にうまくロープを引っ掛けてそれにランタンを吊るすエクリア。
「どうやらこの屋敷自体に執着しているみたいですね。それほどに妄念が強いとは、よほど強欲なのでしょうか‥‥」
館の様子を見ながら、この屋敷の持ち主について聞いた話を思い出しているのはヴァレリアだ。
そして、ランタンを随所に準備して、夜に備える冒険者一行であった。
そしていよいよ夜が来る。
今回冒険者たちは幽霊たちをおびき寄せるための集団と待ち伏せする集団に分かれるつもりのようであった。
「よし、これで明かりは全部つけたよな。でも、やっぱりランタンだけだと薄暗いよな‥‥」
煌びやかな宝剣を手に持ち、別の手ではランタンをかざしてグラディが囮チームを先導する。
「何かをとれば強欲な館の主どものことだし、出てくるかもな‥‥どこかに丁度いいもん無いかねえ?」
飛燕が壁にかかったぼろぼろの絵なんかを物色しながら言う。
「金になりそうなものは全然ありませんね。まあ、あの強欲な依頼人なら既に片っ端から持って行ってるんでしょうね」
はあとため息をつくのは雪。なにかいいものがあれば報酬の足しに、という思惑がはずれて消沈気味である。
そして囮班がやってきたのは寝室。金にはならない小物類が散らばっているので、それを手にとっておびき出そうという魂胆のようだ。
「まさに幽霊の一本釣りといった感じですね‥‥幽霊さーん、これもらっちゃいますよー」
雪が古びてところどころかけてはいるが高価そうな飾台を手に取る。
「出てくればいいんだがな‥‥しっかし、本当にこんなんで効くのかな?」
飛燕は拳と片足に銀のネックレスをまいていた。幽霊に対するための備えのようだ。
そして、数分。遠くから響くような声が聞こえてくる。
ぉぉぉぉぉぅぅぅん‥‥‥
「どうやら来たみたいだな‥‥」
グラディと剣を構えると油断なくじりじりと後ろに下がり始める。
部屋から外に出て、一回のホールに繋がる階段へと近づいていくのだが‥‥
ぅぅぅぉぉぉぉぉおおおおおおんん!!!!
部屋の床をぐわっと突き抜けて、二つの青白い影が躍り出た!
青白い炎に縁取られているような影はレイスだ。
現れたのは骨のようにやせ細った老人と、炯々と瞳を耀かせて躍りかかってくる壮年の男である。
「俺が相手だっ!!」
牽制のための飛燕の一撃は、老人をしっかりと捉え銀の鎖を巻きつけた蹴りはその体を突き抜ける。
すると、手ごたえはないものの、老人は苦しみ怯んだように暴れまわる。
「効いてるみたいだな‥‥」
「とりあえず引きますよ!」
雪がレイピアで壮年のレイスを牽制しつつ、徐々に本隊がまつ階下のホールへと急いで退避する。
そこに声が響く。
「こっちです! ライトニングサンダーボルト!」
唱えたのはエクリアだ。後ろから追いすがろうとしていた老人のレイスに真っ直ぐに伸びた雷がホールから突き刺さる。
ぐぅぅぉぉぉおぉ!!
魂消るような悲鳴を上げて、レイスは空中を旋回すると、さらに壁からずずずと二つの影が。
「わんわんわんっ!!」
「こっちね、グラーティア! アイスブリザード!!」
ホールへと繋がる廊下の暗がりから躍り出たのは老女のレイス。そこに愛犬の助けを借りたエルマが魔法を叩き込む。
轟々と狭い通路を吹き荒れ老女は悲鳴を上げて暴れ狂う。
そこにさらに女性のレイスが加わりついに総力戦である。
そのときには既に、一同はホールに集合し固まって陣形をつくり準備は万端だ。
「あっ、グラディさん傷を‥‥今リカバーをしますから」
「ん、ありがとうな。フレアだけは絶対に守る、そう約束したからな‥‥」
グラディはレイスの接触により傷を負っておりそれを治療するフレア。
「来たねっ! 相手してやるよっ!」
勝利のルーンを掲げた剣を振りかざし、叫び声と共に飛来してきた老人のレイスに切りつけるのはユーディス。
「これでも喰らいな‥‥せぃっ!」
飛燕は、目にも留まらぬ速さで蹴りを繰り出し、その一撃を受けた壮年のレイスは一際大きな叫び声を揚げると消えていく。
「ブリザード行きますよ!」
「はい、よろしく頼みましたよ〜」
エルマが声をかけ、レイスの攻撃を体で盾としてパーティを守っていた雪が引き、魔法での一撃。
巻き込まれて徐々に力を失うレイスたちに、冒険者たちの怒涛の攻撃が突き刺さる。
「ここはもうあんたたちの居場所じゃないんだっ!」
宝剣で老女のレイスを切り払うと、老女の霊は解けて消え、
「その動きを束縛します! コアギュレイト」
フレアの気合と共に、女性のレイスがフレアの目前でぴたりと静止し、
「亡者は居るべきところへ速やかにお帰りなさい! ピュアリファイ!」
その魔法を受けたレイスは浄化され、体の末端から空気に溶けるようにして消えていった。
そして、最後に残る老人のレイスが意味不明の叫び声をあげて一同に襲い掛かるのだが、
「終りですよ」
レイピアを操って、レイスをつらぬく雪。その一撃で老人のレイスも消えて言ったのだった。
●依頼終わって
依頼人は戦闘の跡が残る館に憤慨したそうだが、それはさておき。
各人にはそれぞれ指輪が入ってる皮袋が渡された。
「金の指輪ですか‥‥」
一番最初の袋を選んだヴァレリアは金の指輪を掌に載せて、館の亡者たちに思いを馳せる。
彼女が自ら心を込めて、死者の冥福を祈ったのだから、彼らも二度と彷徨うことはないだろう。
「今回の依頼もいつの日か悲しい物語になるかもしれませんね‥‥」
竪琴を爪弾いているのは三番目の袋を選んだエクリア。彼女も金の指輪を手にしたようだ。
「こういうのってわくわくしますよね‥‥わ、水妖の指輪だ」
四番目をあけて、ほほんと指輪を見つめているのはエルマだ。愛犬のグラーティアも指輪とじーっと見つめていたりする。
「何がでるかな‥‥ん、金の指輪か。風精の指輪だったら、神様の忠告かとも思ったんだけどね」
五番目の袋を開けて苦笑しているのはユーディスだ。どうやらなにか思い出があるようだ。
「これか‥‥使い道があるかな」
六番目の袋を開けて、首をかしげているのは飛燕。
「ま、当りでしょう」
雪は袋から出てきた風精の指輪をピンと指で跳ね上げると、パシッと掴む。
そして‥‥
「ちょっと着てくれないかな‥‥渡したいものがあるんだけど」
「はい、いいですよ?」
グラディがフレアに言う。
グラディの袋には地魔の指輪、それをグラディをフレアに渡す。
それに対してフレアは自分の袋に入っていた金の指輪をグラディに渡す。
指輪を渡しながらしどろもどろになりながらグラディは何かをフレアに伝えたようだ。
ただその言葉は風に消え、我々には聞こえなかった。
こうして、依頼は無事に終わったのだが、新たに様々なドラマが生まれたようであった。