最後の宴?!
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■ショートシナリオ
担当:雪端為成
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月16日〜11月21日
リプレイ公開日:2004年11月24日
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●オープニング
「一つ頼みたいことがございますの」
そう言ってギルドに訪れたのは、40歳半ばほどの身なりのいい女性だった。
その上品な雰囲気のふくよかな女性はアマンダと名乗った。
そして、ギルドの受付に向かってこう言った。
「実はわたくし‥‥大酒飲みの夫をどうにか更正してあげたいと思ってるですの」
具体的な内容はというと―――――
彼女の夫はアンソニーという商人である。
働き者の夫なのだが、一つだけ問題点があった。
それは無類の大酒呑みであるということだ。
別に酒乱というわけでもないが、とにかく飲む量が多い。
酒には全然酔わないこともあって、尋常じゃない量を飲むのだ。
その所為か、最近体の不調を時々訴えるようになった。
年齢の所為もあるだろうが、アマンダは少々心配らしいのだ。
しかし、ただ酒を止めさせるでは収まらないのが今回の依頼のポイントである。
アンソニーは今まで何度も酒を止めると宣言してきた。
そして、その宣言の通り短期間の禁酒はするのだ。
しかしまたすぐ酒を飲み始めてしまうのが悩みのタネである。
しかも、禁酒の前には最後の酒だといって必ず大宴会を開くのも金銭的に大変なのである。
「‥‥ええ、また主人が禁酒宣言をいたしましたの。でも、きっと今回も効果が無いと思うんですの‥‥」
眉をしかめてアマンダが嘆息する。
「それで今回は一つ手を打ってみようと思いましたの」
アマンダは急に顔を上げて、ぐるりとギルドを見回した。
「わたくしはじつは元冒険者ですので、今回の断酒の宴には何人か冒険者を招こうと思っておりますの‥‥わたくしの紹介ということで」
自信満々のアマンダに恐る恐るギルドの受付の青年は尋ねる。
「‥‥それで冒険者たちにはどんなことを?」
わが意を得たりとばかりに微笑むとアマンダは言った。
「夫が酒を二度と飲みたくなくなるような行動をしてもらいたいですの。酔って暴れるとか、変な癖があるとか…お願いできますかしら?」
さて、どうする?
●リプレイ本文
●宴会前夜
宴会の前の晩、依頼人とともに冒険者たちは明日からの打ち合わせをしていた。
「いくら酒の奇行であっても、他人事では効果は薄い。そこで僕は奥方に協力を頼みたい」
ふっと意地の悪い笑顔を浮かべて、依頼人に切り出したのはキース・レッド(ea3475)だ。
「やはり飲酒を害悪だと知ってもらうには、自分の飲酒が他人の命を奪いかねないというのを見せ付けるのが一番だね」
「しかし、御主人を禁酒させるには、度を過ぎたお酒は毒であると自覚して頂く事が何よりなのではありませんか?」
頬に手を当てて首を傾げながらそう反論したのはジゼル・キュティレイア(ea7467)である。
彼女はイギリス語が喋れないために、会話はほとんど通訳してもらっていた。
「わしも個人的にはご主人自身に倒れてもらうのが効果大じゃと思うがの〜」
ジゼルの通訳をしながら軽く眉を寄せてそう言うのはユラヴィカ・クドゥス(ea1704)。
「‥‥でもやはり奥方に倒れる演技をやっていただくことで飲酒が害悪であることを実感させるべきでは?」
そう言ったのは琥龍蒼羅(ea1442)である。
「奥さんが醜態を見せるってのはどうでしょう? 振りだけでもしたら旦那さんも引くんじゃないでしょうか」
「お得意様も結構いらっしゃるので、醜態というのはすこし‥‥‥‥」
紅双葉(ea4011)の提案は残念ながら通らなかったようだが、徐々に作戦は形を成していく。
大きく分けて作戦案は二つ。
スリープを使ってアンソニーに自分が酒で倒れたと錯覚させるか。
はたまた周囲の人間が倒れる演技をすることで酒の実害をアンソニーに見せ付けるのか。
「題して、『天国と地獄』作戦‥‥なんてね」
キースはそう作戦を評し、アマンダも作戦に協力すると決めたようだ。
そしていよいよ宴の当日がやって来たのであった。
●大騒ぎの一日目
「さあさあ、冒険者の皆さんもどんどん飲んでくださいな!」
件のご主人、アンソニーは最初っから上機嫌で、冒険者たちに酒をすすめている。
奥さんから冒険者たちを知り合い兼宴会の盛り上げ役と紹介されたようでなかなか上機嫌の様子。
酒場の一角を借り切っての大宴会、あまり飾らない雰囲気のせいか早々と出来上がってしまう者もいる様子であった。
「アンソニーさん‥‥あなたなかなかいい男ですね」
長い前髪のしたからじぃっと視線をアンソニーに送っているのは双葉だ。
酔っているせいか男も女も関係無く絡んでいるようであった。
初老のアンソニーよりよっぽど良い男(と女)がいるように思うが、依頼のことが頭にあるせいか絡むのはアンソニーのみ。
それに目を留めたのはラルフ・クイーンズベリー(ea3140)なのだが‥‥こちらもそろそろ出来上がってきたようだった。
「ほらぁ、だめですよぅ? アンソニーさん困ってるじゃないですかぁ」
小首を傾げて優しく双葉に語り掛けるのだが、上気した顔と良いなにやら色気が漂っている。
「ん、あなたもかわいいですね‥‥ほらほら、もっとたくさん飲みなさい」
ちなみにラルフもれっきとした青年であるのだが線の細さと儚げな外見も相まって、どうやら双葉の好みのようだ。
そして双葉は目標をラルフに移し、いろいろな酒をどんどん飲ませ始めるのであった。
進む酒宴に干される酒盃、酔いつぶれる客は数知れず、冒険者たちも程よく出来上がってくる。
そんな中双葉は無防備なラルフの様子にひそかに目を輝かせると、突然ラルフの服に手をかけて脱がし始めたのだった。
その様子を見てやんややんやとはやし立てるほかの客たちや蒼羅やキースら冒険者。
「ん〜? もしかして、剥かれてたりしますかぁ? ‥‥って! いやぁーん!」
とろんとした目で呆けていたラルフも服を剥がれると叫びを上げながら服をかき集め、なにやら呪文を唱え始める。
酔っていてもしっかりと効果を発揮したリトルフライの魔法でふわりと浮かび上がると、そのまま酒場の梁の上まで飛び上がってしまった。
一方当の双葉はまったく酔った様子を見せていなかったものの、いつのまにか机に突っ伏して寝息を立てている。
そんなこととは露知らず、梁の上まで避難したラルフは、魔法の効果が切れてやっと自分の状態に気づいたようである。
「うえ〜ん‥‥降りられない‥‥」
しかも下を見下ろしてたくさんの人が見上げているのに気づきさらに大声で泣きはじめるのだった。
「‥‥仕方‥‥ありませんね‥‥」
そう呟きながら梯子を持ってきてラルフを下ろすのを助けようとしているのはオフィーリア・ベアトリクス(ea1350)だ。
どうやら二人は知り合いのようで給仕に変装して手伝いをしていたオフィーリアは梯子を上り、ゆっくりと一緒に降りたのだった。
まだ怖がっている様子のラルフをオフィーリアが無言で撫でるとラルフは嬉しそうに抱きつきながらキスをし、緊張の糸が切れたのかそのままで眠り込んでしまう。
そんな喧騒と大騒ぎの中、アンソニーは苦笑いを浮かべるしかないのだった。
●盛り上がりの二日目
次の日はアンソニーの屋敷の庭を使ってのティーパーティーが行われた。
今回芸達者な冒険者が集まったようで、それぞれの芸を披露して客たちの目を楽しませていた。
空をも舞台として華麗な舞を見せているのはユラヴィカだ。
異国の舞を披露しながら身を翻すたびに頭を飾るティアラが陽光に映え、そのたび客たちは歓声を上げるのだった。
もう一人踊りを躍っているのはジゼルだ。
優美な舞と神秘的な瞳が人目を惹きつけ、一層酒宴を華やかにしているようだった。
ちなみに踊りの伴奏をしているのは蒼羅である。
和装で竪琴を構え、本職顔負けの演奏を披露している姿もこれまた注目を集めているようだった。
そうして、今日は和やかに宴席は進んでいく。
ユラヴィカとジゼルは占いの結果だとして主人に酒を飲み続けると体に障ると忠告したのだが、主人はその結果を笑い飛ばし、ついに冒険者たちは作戦に移ることを決意するのだった。
占いを終えたユラヴィカが今日も給仕を勤めているオフィーリアの元に近づきこそこそと耳打ちをする。
「そろそろお願いできるじゃろうかの?」
そう言ってこっそりと指差したのはティーパーティーなのにも関わらず昼間から飲んでいるアンソニーだ。
オフィーリアはスリープを使って体調を崩したと思わせる作戦に乗り気ではないようで、しぶしぶといった様子でスリープを放つ。
すると、良い気分でアンソニーは急激に睡魔に襲われて机に突っ伏してしまうのであった。
うまく言ったのを見て、ここぞとばかりに冒険者たちは騒ぎ立てるのだった。
「ご主人、今さっき倒れたのも、最近体調が悪いのも飲みすぎのせいではないか?」
そういって、アンソニーに禁酒を勧める蒼羅なのだが、アンソニーは今日は体調が悪かっただけだと頑として譲らない。
『ご主人、酒は百薬の長と言いますけど、どのような薬も過ぎれば毒ですよ』
ジゼルはユラヴィカの通訳の元助言をするのだが、結局聞き入れてもらえないのであった。
●いよいよ三日目
最後の日はアンソニーの屋敷の中で豪華なパーティーが行われていた。
双葉の故郷である華国の正装に身を包み、今日はオフィーリアも蒲公英色のドレスで参加している。
「ううっ、僕お酒飲んでから双葉さんに何かされてから記憶が無いよ!? ‥‥何したんだろう」
不安げな様子で一日目の様子を聞いてまわっていたラルフは、ふとオフィーリアに目を留めた。
どうやら、オフィーリアは酒に弱いらしく、一杯飲んだだけで酔っぱらってしまっているようだった。
「‥‥‥‥あつい」
ごそごそとドレスの胸元をはだけようとするオフィーリア。
「うわわわ! オフィーリアさん、ダメだよぅ!」
そう言ってオフィーリアを止めにかかるラルフ。
すると、オフィーリアはラルフに抱きつくと先日のお返しとばかりにキスの嵐。
オフィーリアに秘めた思いがあるラルフは目を白黒させながら硬直するほか無かった。
しかし暫くするとオフィーリアは、急に笑い声を上げてぱったりと寝てしまったのである。
するとちょっと残念そうなラルフと寝てしまったオフィーリアの元にキースがやって来た。
作戦では今日はアマンダの方を眠らせる予定である。
キースはオフィーリアを揺り起こすと、スリープを奥さんにかけるように言うのだが、オフィーリアは寝ぼけているようで最初のスリープはなんとラルフを対象にしてしまった。
幸せな気分のままくたりと寝てしまうラルフ。
もう一度スリープをかけると今度は対象がうまくアマンダに定まり、ぱたりと倒れるアマンダ。
力のある双葉がアマンダを支えゆっくりと長椅子に寝かせると、かつて無いほどアンソニーは狼狽を見せるのだった。
「ご主人、奥方はあなたに付き合って酒を飲んだせいでこんな目にあってしまっているのですよ?」
「このまま飲み続けると、奥さんもご主人も体に障るじゃろうよ。ご主人も奥さんに辛い思いをさせたくは無いじゃろう?」
キースとユラヴィカが口々に言うと目を覚ましたアマンダも体調を崩した風に演技をし、アンソニーは無言で考え込む。
ようやく、飲酒の恐ろしさがすこしは身にしみたようである。
眠りから覚めたラルフが呟く。
「あぁ、お酒って怖いよね‥‥」