芸術のために! −ミノタウロス編−
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■ショートシナリオ
担当:雪端為成
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 30 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月01日〜06月08日
リプレイ公開日:2006年06月09日
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●オープニング
穏やかな春の日、久しぶりに活動を再開した冒険者ギルドでの出来事。
冒険者たちへの依頼をしにやってきた男の第一声はなかなかに奇妙なものであった。
「私をミノタウロスのところまで連れて行ってくれっ!」
「‥‥私の名前はオーガスタス。彫刻を生業としている者だ」
口ひげを生やした厳つい男はそう名乗ると、依頼の内容を切り出した。
「実は今、次なる作品の題材に困っていてな。彫刻の依頼主からの希望は、力強い作品なのだが‥‥」
年のころはおそらく30前後、その年齢でそれなりの後援者がいるということはそれなりの腕の持ち主であるということなのだが‥‥。
「こう、筋骨たくましい男なんぞはたくさんいるのだが、たまには違うものをモデルにするのもよかろうと思ってな」
そして彼はずしっと重い音を立てて金貨の詰まった袋を机の上に置くと言い放った。
「冒険者の諸君には、私を護衛してミノタウロスの近くまで連れて行ってもらいたい。戦闘の様子が是非見たいので、戦闘中も近くに居させてもらうぞ!」
ギルドの話では、幸運にもちょうど同時期にミノタウロスに関する情報が寄せられていた。
場所は、キャメロットから一日ほど行ったちいさな農村の近郊。
数度の目撃情報があるがまだ直接的な被害は出ていないため、まだ依頼にはなっていないようである。
しかし、ミノタウロスといえば歴戦の冒険者でも油断すればタダではすまない強力なモンスター。
そのためギルドがミノタウロスの被害が出る前にその脅威を取り除こうとするのは必定である。
こうして、偏屈な彫刻家、オーガスタスの依頼は無事出発する運びとなった。
‥‥おそらく、普通に退治するよりも苦難が付きまとうことは想像できるのだが‥‥
さて、どうする?
●リプレイ本文
●ファーストインプレッション
「私はフェザー・フォーリングと申します。以後お見知りおきを」
「これはこれはご丁寧に。こちらこそよろしく頼むぞ」
上品に挨拶をしているのはフェザー・フォーリング(ea6900)。碧の髪を掻き上げつつ彼はさらに続けた。
「そしてこちらは『妹』のレイニーでゲフッ!」
「いい加減その紹介はヤメロッ!!」
きりもみしつつ飛んでいくフェザー。彼を蹴り飛ばしたのは飛来した桃色の影だ。
華麗なドロップキックを見事に兄に決めたのは、一見可憐な少女なレイニー・フォーリング(ea6902)だった。
「俺は妹じゃねぇ! 男で弟だ!」
ぜはぜは息を切らせてレイニーは言う。フェザーに良く似た、しかし幾分女性的な容姿のレイニーが荒っぽい言葉で言い募るのを、オーガスタスは目を丸くして見つめていたのだが‥‥。
「‥‥俺はレイニー、そこに居るフェザーの『弟』だ。よろしくな」
「妹よ‥‥兄は悲しいぞ」
「まだ言うか、この口はっ! いっつも俺の服を女物にすり替えやがって!!」
げしげし兄を蹴飛ばすレイニー。こうしてオーガスタスを置き去りにフェザーはぼろぼろになっていくのだった。
「ミノタウロスですか‥‥私も見てみたいですね♪」
「だろう? モチーフとして非常に優れたモンスターだと思うんだが‥‥」
オーガスタスに詰め寄られて苦笑を浮かべているのは学者然としたシャルディ・ラズネルグ(eb0299)。
「まぁ、私の興味は博物学的なものなのですが‥‥」
「ミノタウルス‥‥悪魔とどっちがマシかしらねぇ?」
シャルディの言葉にそう答えたのは凛々しいファイターの女性、ロヴィアーネ・シャルトルーズ(eb2678)だ。
「しかし、芸術家ってのも厄介だねぇ? わざわざ危険なところに行くんだからね」
ロヴィアーネの言葉に頷くシャルディ。
ともかく、オーガスタスと6人の冒険者はミノタウロスが見かけられたという村へと向かうのであった。
●村にて
「牛の化けもんを見たのは、北の岩山の近くまで行ったときだな。多分山のどっかにすんでるんじゃねぇのかなぁ?」
「なるほど‥‥ありがとうございました。あ、これは薬草ですので怪我の時などにすりつぶして塗って使ってくださいねー」
猟師から情報を聞いて、お礼にと薬草を手渡しているのはアルノール・フォルモードレ(ea2939)。
どうやらミノタウロスの目撃情報は村の北にある岩山に集中しているようであった。
「それじゃあ、俺は先に山の方を偵察してくる」
ケイン・コーシェス(eb3512)がセブンリーグブーツの紐を硬く締めながら一同に言う。
これからはいくつかのグループに分かれての行動である。
「それでは、私もついていくことにしよう。一緒に妹のレイニーもグフッ!」
「だーかーらー弟だって言ってるだろっ! ああ、俺もついていくぜ」
ケインと連れ立って岩山への偵察に向かうのは2人のシフール。機動力重視のグループ分けである。
グリーンワードで植物から情報収集しているのはシャルディとアルノールのウィザード2人。
「牛の化け物を見たことはありますか?」
「‥‥あります」
「ミノタウロスはどっちへ歩いていきますか?」
「‥‥東」
ロヴィアーネが依頼人を護衛しシャルディとアルノールは協力してミノタウロスの行動経路を把握していくのであった。
一方そのころ、ケインとフォーリング兄弟はというと‥‥
「どうやらここが奴の通り道のようだな‥‥フェザー、近くにミノタウロスの姿は見えるか?」
「姿は見えませんね。おそらく先にある洞窟をねぐらにしているのでしょう」
宙を舞いながらフェザーが言うと、一緒に飛び上がったレイニーもきょろきょろと周囲を見回しながら警戒する。
「森に入られると厄介だからな‥‥洞窟から誘い出してここら辺で罠にはめた方が良さそうだな」
「ああ、その方法が一番確実そうだな‥‥よし、そろそろ戻ろう」
こうして一行は合流し、いよいよミノタウロスとの戦闘の時がやってくる。
●遭遇と挑戦
「ああ、いよいよミノタウロスを見ることが出来るのかっ!」
「良いですか、あまり近づきすぎないと約束してくださいね?」
興奮するオーガスタスに釘をさすアルノール。さらにはフェザーも作戦開始を前にオーガスタスに注意を告げる。
「下手に動き回ると、これが張り巡らされていますから、動かないでくださいね。動くと命の保証が出来ませんので」
手にした小石を放ると魔法の罠が雷を吐き出す様を見て、流石のオーガスタスもかくかく頷くだけであった。
彼らが待機している場所はミノタウロスの巣穴と思しき洞窟から少し離れたところ。
彼らは囮役となったレイニーの合図を待っていた。
数刻の後、轟音と共に下から上へと雷が駆け上った! レイニーのライトニングサンダーボルトによる合図だ!
「ウォールホールっ!」
アルノールが魔法によって穴を開ける。ただし地面に垂直に、つまり即席の落とし穴を作ったのだ。
「ライトニングトラップっ!」
フェザーが張り巡らせるのは雷撃の罠、不可視の罠がミノタウロスの通り道に張り巡らされる。
そしてついに‥‥岩山の影から姿を見せるフェザーとその後を追いかけてくるミノタウロスが!
魔物は一直線に罠へと誘導されていくのだった。
ミノタウロスの足元で弾ける雷。ライトニングトラップである。
仕掛けられた罠がことごとく炸裂し、ミノタウロスの体を雷で焼くのだが‥‥
「ほとんど効いてないっ!?」
突進の勢いが止まらないミノタウロスを見て思わず声を上げるフェザー。
しかしまだまだ手は打ってある。
突然ミノタウロスがつんのめった。そこにはアルノールが仕掛けた落とし穴が。
「さぁオーガスタスさん、今がチャンスですよー。我が意思に従え草木たちよ‥‥プラントコントロールっ!」
「木々よ我が敵を束縛せよ‥‥プラントコントロール!」
アルノールとシャルディのプラントコントロールが発動、地面から飛び出した木の根がミノタウロスの手足をがんじがらめに縛る。
「おお、この臨場感っ! 迫力がまた‥‥」
食い入るようにして見つめるオーガスタス、彼が思わず身を乗り出して数歩進んだ時‥‥
「危ないっ!!」
ミノタウロスがその豪腕を振るうと彼を縛り付けていた草木が千切れ飛んだ。
同時に魔法が切れてミノタウロスを閉じ込めようとしていたその大地もミノタウロスは力任せにこじ開けると這いあがる。
「くっ! 俺が抑えるっ!」
突進してきたミノタウロスに立ち向かったのはケインだ。
異国渡来の刀と十手を手に、ミノタウロスの斧をかろうじてしのいでいる。
「下がってて!! これ以上は命の保障が出来ないわよっ!」
同じく飛び出そうとするのはロヴィアーネ。しかし、彼女が護衛していたオーガスタスはさらに近寄ろうと無謀なことをしている。
そこで、彼はアルノールへと目配せ。するとアルノールは、がしっとオーガスタスの肩を掴む。
「だめですー。約束したじゃないですかっ。危険がなくなるまでは近づかないって!」
「しかし、今を逃してはっ!!」
じたばたとアルノールから逃げようとするオーガスタス。
「うわぁっ! しょうがない‥‥スミマセン! 草木よ、彼を縛り付けろっ! プラントコントロール!!」
ざざっと地面から飛び出した根に絡みつかるオーガスタスであった。
「疾風の傭兵の名を甘く見ないことねっ!」
轟風と共に繰り出された斧の一撃を華麗に回避するロヴィアーネ。
彼女は回避しながら居合いの一撃。太刀風と共にミノタウロスの腕に一条の刀傷が。
「長引くとこちらが不利だな、一気にカタをつけるっ!」
ロヴィアーネに注意が向いた一瞬、ケインは刀を振るって更なる一撃をくわえる。
そして前衛の2人に投げかけられる声があった。
「これは同じ男として使いたくなかったのですが、早期決着のためです‥‥いきますっ!」
シャルディが地中の根に命令するかのように手を大きく振り上げる。
地中から飛び出したのは3本の根。それが一本に纏まるとそのまま鞭のように下からミノタウロスの“股間”を一撃する!!
「!!!」
声にならない叫びを上げて一瞬動きが止まるミノタウロス。
思わず冒険者の男性人も“うわぁ‥‥あいたー‥‥”という顔になるが、そこは歴戦(?)の証、一瞬早く立ち直ると怒濤の連続攻撃!
「いまだっ! 穿て雷撃っ! ライトニングサンダーボルト!!」
ミノタウロスの真上を取ったレイニーが雷撃の一撃を放つ!
「止めを刺すわよっ!」
「応っ!!」
苦し紛れの斧の一撃を2人とも華麗に回避し、受け流すロヴィアーネとケイン。
そして2人の刀の一撃がカウンターでミノタウロスの胴体に突き刺さる!!
‥‥その一撃でようやくミノタウロスは動かなくなったのであった。
●芸術って‥‥
「で、観察はしっかり出来たかい?」
細かい傷も癒え、帰路につく冒険者たち。その道中でケインがオーガスタスに問いかける。
「ああ、いい作品が出来そうだ‥‥まぁ贅沢を言うならもうちょっと近くで‥‥」
微妙に恨み言を呟く依頼人、しかしそれに対してはロヴィアーネが応える。
「貴方が死んでしまったら貴方の作品は二度と見られなくなってしまう‥‥それだけは避けたかったの」
「う‥‥まぁ、たしかに‥‥」
さすがのオーガスタスもそういわれては返す言葉も内容である。
言い訳成功とばかりにぺろっと舌を出すロヴィアーネをアルノールが見てぷっと吹き出したり。
妹を彫刻にしたらどうだろうと持ちかけたフェザーを再びレイニーが蹴り飛ばしたり。
「オーガスタスさん、作品を楽しみにしていますね♪」
シャルディが言うと、任せろとばかりにオーガスタスは笑みを浮かべたのであった。