呪われた屋敷

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月16日〜06月23日

リプレイ公開日:2006年06月28日

●オープニング

 キャメロット近郊にひっそりとたたずむ古びた屋敷。
 とある貴族が以前本宅として使用していたその屋敷は、現在では引き払われてただただ朽ちる時を待っていた。
 しかし今年の春になって、その屋敷に新たに越してきた者がいた。
 持ち主である貴族の血に連なるが家督を継ぐことのできない三男が引っ越してきたのである。
 三男は30代後半の男盛り、妻と息子、娘を連れてこの屋敷に越してきたのだ。
 しかしその屋敷には秘密があったのだ。

 屋敷の主人である男、名をリーク・ラッセルというのだが、彼はある日二階に隠し部屋があることを発見する。
 書棚の裏にこっそりと隠された小さな扉。壁板をはずすとそこには小部屋が。
 その中には、古びてはいるものの価値を失っていない宝石と一枚の肖像画。
 肖像画に描かれていたのは、病死した三代前の当主。宝石も彼の隠し財産であると考えられた。
 これだけなら、少々幸運な出来事なのだが‥‥悲劇が起こった。

 どこから聞きつけたのか、一人の盗賊が屋敷に忍び込んだのだ。
 社交界で話題となったことを聞きつけたのか、彼はその宝石を狙ったのだろう。
 確かにこの屋敷は人も少ないため忍び込むには好都合。
 また盗賊は他にも隠された財宝があるのではないかと考えていたのかもしれない。
 しかし次の日、盗賊は無残な姿で発見された。
 苦悶の表情を浮かべ、死んでいた盗賊は隠し部屋があった書斎で死んでいた。
 地面に倒れている彼の視線の先には、あの肖像画が‥‥

 その日から屋敷では不思議な出来事が起こるようになった。
 書斎では風も無いのにカタカタと物が揺れ、棚から落ちる。
 夜中には音も無く廊下を歩く白く透き通った人影。
 しかも悲劇はそれだけでは収まらなかった。
 仲間が死んだことでますます価値のある宝が眠っていると核心を深めた盗賊たちが屋敷を狙っていることが分かったのである。
 彼らは屋敷での怪奇現象を知らないため、屋敷の人間が宝を守るために盗賊を殺したと考えているようだ。
 そんな状況を打開するために、屋敷の主のリークは冒険者に依頼を持ちかけたのだった。

 ・彼ら家族が旅行に出かけている間に、盗賊たちから屋敷を守ること。
 ・同時に、屋敷の中で起こっている怪異の原因を取り除くこと。
 
 この二つがリークの依頼である。そしてギルドはこの依頼をのみ、冒険者たちを募集するのだった。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea1753 ジョセフィーヌ・マッケンジー(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7528 セオフィラス・ディラック(34歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 一度手に入れたものは、手放したくない。
 そう考えてしまうことは誰にでもある自然なことである。
 手にしたものの価値が大きければ大きいほど、そしてそれに付随する責任が大きければなおその思いは強まっていく。
 昔、とある貴族が自らの屋敷を築いた。
 仕事に心血を注ぎ、名声を得、幾度も報奨を得たことでやっと自分の屋敷が完成したその日、彼は涙を流すほどだった。
 それほどまでに、その屋敷は彼にとって大きいものであったのだ。
 数十年の後、彼は病の床に伏していた。
 彼の周りには、彼の家族たちが集まっている。老いた妻に息子たち。
 遠くには孫たちの姿も見えるなかで、彼は自分の人生を思い返した。
 彼は、この屋敷で生活し子供たちを育て、その子供たちもこの屋敷で成長していった。
 孫が生まれ、子供たちがそれぞれの道を歩き出しても、この屋敷は常に頼れる拠り所であった。
 老いた貴族にとってはこの屋敷こそが、帰るところであったのだ。
 病が彼の魂の灯を消さんとするとき、彼は思った。
 私はこれからも子供たちを守らねば‥‥この屋敷を守らなければ、と。
 そして数十年の時が流れた。

 キャメロット郊外の森の中、その屋敷はひっそりと建っている。
 貴族の邸宅としては少々小ぶり。それに立てられてから既にかなりの年月がたっていることを思わせる外観だ。
 現在の持ち主はリーク・ラッセル。この邸宅は彼の祖父が建てたものであり、彼はこの屋敷を受け継いだのである。
 そしてリーク氏が受け継いだその屋敷が今回の依頼の舞台。
 依頼を受けた冒険者は4名、それぞれが腕に覚えのあるものたちばかりだった。
 彼らは依頼を持ち込んだリーク氏と一緒にキャメロット郊外の屋敷へと戻り、そこで改めて説明を受ける。
 そしてリーク氏の家族が出発し、屋敷には冒険者たちだけが残されて‥‥いよいよ依頼の開始である。

●屋敷にて
「泥棒とお化けね‥‥なんだか面倒な組み合わせね」
「まったくだ。まぁ、俺はアンデッドに効く武器を持ってないから盗賊担当をさせてもらうがな」
 一階ホールでぐるりと屋敷を見回しながら言うジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)。
 そしてそれに答えたのはクロック・ランベリー(eb3776)だ。
「お、クロック君は魔法の武器を持っていないのであるか!」
 きょろきょろと調度品を調べていたリデト・ユリースト(ea5913)はクロックの言葉を聞いてぱっと戻ってくる。
「ああ、今回はクレイモアしかもって来ていないからな」
「そうであるか。それならば私の持ってきた月桂樹の木剣を貸すのである。しばし待つのであるよ」
 外につないだ愛馬アップルの元へと向かい満載された荷物をごそごそと漁るリデト。
 しかし目当ての木剣を取り出そうとするも引っ張り出すのに四苦八苦していると、
「ああ、私が取ろう。少々重過ぎるようだしな」
 セオフィラス・ディラック(ea7528)が横合いから手を伸ばして木剣を引っ張り出す。
「おお、ありがとうである! 良ければそのままクロック君に届けてもらえれば嬉しいのであるが?」
「‥‥了解」
 なんとなく釈然としないままセオフィラスは剣を運び、その後をリデトがぱたぱたと追いかけるのであった。

「おそらく屋敷に取り付いている怪異の正体はポルターガイストであるな」
 夕刻、屋敷の会議室に集まって話し合いをしていた冒険者は今後の対策を練っていた。
 その中で、もっともモンスターの知識に長けるリデトがそう分析する。
「私は遭遇したことは無いので分からないのだが、そのポルターガイストというのはどういう相手なのだ?」
 セオフィラスがそう問うと、他の2人もリデトに視線を向ける。
 するとリデトは、ひょいと卓の上に立ち上がると、てくてく左右に歩きながら説明を始めた。
「それでは説明するのである。ポルターガイストは別名騒がし幽霊と呼ばれているアンデッドの一種で、ゴーストやレイスといった実体を持たない幽霊の一種であるとされているのであるな」
 そこまでいってリデトはクロックに視線を向ける。
「魔法か銀の武器でしかダメージは当たらないので、クロック君には月桂樹の木剣を使ってもらわねばならないのである」
 そして再び卓の上を歩きながら続ける。
「ポルターガイストは家屋や物に取り付いていることが多いのである。今回の状況から考えれば、怪異が始まった時期に符合することは‥‥」
「隠し部屋の財宝を狙った盗賊‥‥なるほど、ポルターガイストに呪い殺されたってことか」
 ジョセフィーヌがそう
「おそらくそれが正解である。なので怪しいのは隠し部屋から出てきた物であるな」
「それじゃあ、すぐにポルターガイストの方を退治するかぃ?」
 問うクロック。しかしその提案にジョセフィーヌが首を振った。
「いや、ポルターガイストのほうは逃げないだろうが、泥棒たちは何時来るか分からないからな。その準備を先にした方がいいんじゃないか?」
「ふむ、それもそうだな」
 どうやら行動は決まったようである。

「こうしてしならせた枝で作った輪を引っ掛けておけば、足を引っ掛ける罠になるのだ」
「へー、ウサギ用の罠の応用ってことか。なかなか効果がありそうだね」
 屋敷の周囲の林で罠を作っているのはセオフィラス。そしてそれを見て感心の声を上げたのはジョセフィーヌだ。
「ジョセフィーヌ殿の罠もなかなか効果的だと思うが?」
「お、ジョセフィーヌなんて堅苦しいのはやめてくれないかな? そうだね、ジョーって呼んでくれるかな?」
「ふむ、頼みとあらばそうしよう。で、ジョー‥‥あなたの罠は狩猟用では無さそうだな」
「ああ、ご名答。私の罠は戦場のもんで対人用の罠ってところだね。こうしてロープを張っておいて‥‥」
「む? それではすぐにばれてしまうのではないか?」
「ああ、わざと見つかるようにしてあるのさ。それで、その罠に気付いたことで油断させて‥‥」
「‥‥なるほど、そのすぐ後に落とし穴か。手伝おう、力仕事なら私のほうが向いているようだしな」
「助かるよ、セオ」
「‥‥セオ?」
「ん? セオフィラスだからセオだ」
「‥‥‥‥なるほど‥‥」
「そうだ。さっきぐるっと屋敷の周りを見たら隠れやすそうなところがいくつかあったんで、先手を打って罠を仕掛けておこう。セオにも手伝ってもらえるかな」
「‥‥了解」
 どこか飄々としたジョセフィーヌと女性には優しいセオフィラス。2人はもくもくと罠作りに励むのであった。

●ちょっと休憩
「む、誰も料理はできないのであるか‥‥残念である」
「‥‥確かに、貴族の屋敷で保存食をかじるとは思わなかったな」
 夜になって、とりあえずは作業はひと段落。現在の見張りはセオフィラスで、その他3人は休憩中である。
 屋敷内の設備は全て使っても良いといわれていたのだが、料理の出来る者が皆無だったために少々味気ない晩餐となったようだ。
「しっかし、さっき奥さんの部屋を見たら随分と高級な香水があったねぇ」
「ああ、さっきジョーが見てたのは香水の容器か。道理であの部屋はすごい匂いだったんだな」
 眉をしかめながらジョセフィーヌにクロックが言うと、ジョセフィーヌはクロックに視線を向ける。
「む、香水の香が分からないなんて無粋だと思うけどねぇ。男ぶりを上げるためにも香水ぐらい知っておくべきだよ」
「ふん、俺のような古強者はそんなちゃらちゃらしたことなんか知らなくてもいいのだよ」
 からかうように言葉を向けるジョセフィーヌとにやりと余裕のクロックの会話。
 そんな後ろでごそごそしているリデトは食料保存庫で何か見つけたようで、
「おお! プディングがあったのである! ‥‥むむ、なかなか旨いであるな♪」
「‥‥それってこの屋敷の奥方あたりが寝かせてる途中のプディングじゃないのか?」
 美味しいお菓子に目が無いリデトはそこではっと気がついたようで、手に持っていた切れ端をあわてて見つめた。
 そして、一言。
「でも、もう齧っちゃったのである‥‥」
 最年長のはずなのにそうは見えないリデトであった。

 この国において一般的なプディング、そのなかでも寝かせるタイプのプディングもあり寝かせれば寝かせるほど旨いという俗説があるのだ。
 つまり、寝かせてる途中のプディングをつまみ食いをすると怒られるということ。

「あ、そうである! ポルターガイストの被害にあったということにすれば!!」
「‥‥多少無理があると思うぞ?」
 クロックが思わず言うと、リデトはさらにおろおろ。
「‥‥まぁ、食べちゃったものは仕方ないし、全部食べちゃえば分からないだろうね。私も少し貰おうかな」
 思わずジョセフィーヌが助け舟をだすと、渋い顔をしていたクロックも笑みを浮かべるのだった。
「‥‥そうだな、しかたないか。ああ、セオフィラスの分も一緒に蒸しといてくれ」
「了解。ちょいと待ってくれよ〜」
 ジョセフィーヌがキッチンから答える。
 こうして、彼らの食事になし崩し的に一品、プディングが追加されたのであった。

「ふむ、なかなか旨い‥‥」
 徹夜で見張り継続中のセオフィラスはジョセフィーヌから借りた彼女の犬のトニーと一緒に見張り中。
 届けられたプディングをぱくつきながら辛抱強く見張りを続けるのであった。
 可愛いものに弱いセオフィラスは犬のトニーのつぶらな視線に見つめられて、プディングをあげようかあげまいか悩んだというのはここだけの話。

●泥棒たちの侵入
「やはり原因は肖像画か宝石のどちらかにあるようだが、どちらが本命かわかったか?」
「正確なところはまだであるが‥‥私もそのどちらかなのは確実であると思うな」
 どこか薄ら寒い気配を漂わせるの隠し部屋。既に宝石はべつの部屋に移されており、そこには肖像画だけが残されていた。
 その絵を見上げているのはリデトとセオフィラスだ。
「ところでそれぞれ、どういったいわくのものなのだ?」
「んー、リークさんが言うところには宝石は隠し財産で、この肖像画はこの屋敷を建てた昔の当主だという話であるな」
「ふむ、いかにも屋敷に執着がありそうだな。だが‥‥どういう基準で怪異がおこっているのだ?」
「おそらく、屋敷に危害を加えるものを選択的に襲っているのであるな。 ただ‥‥」
 口ごもるリデト、しかし視線を向けてセオフィラスが促すとリデトも重々しく口を開いた。
「人に在らざるものになったアンデッドを放置するわけにはいけないのであるな。われわれが決着をつけないといけないのである‥‥」
「ならばそのためにも憂いを取り払ってやらねばな‥‥」
 静かにセオフィラスも言うのだった。

「さぁ、トニー。変な奴が来たら大声で吼えるんだよ」
 屋敷の前庭、ジョセフィーヌは彼女の愛犬に声をかけていた。
 それに対してボーダーコリーのトニーはふさふさのしっぽをぱたりぱたりと振りながら静かに聴いている。
 番犬代わりとしてトニーは前提に残され、彼女は屋敷内へと戻っていくのだった。
「さてと、久しぶりの依頼だし、今日も気合を入れないと‥‥」
 今日は彼女が夜間の見張り担当であり、彼女はそのまま二階の定位置へとやってくると、静かに森へと視線を向けるのだった。

 そして同時刻。ようやくそろそろ日が沈もうとしていた。
 ジョセフィーヌたちが守る屋敷の周りをぐるぐると飛び回る大きな影があった。
 その影は人ぐらいなら軽く掴み上げそうな巨大さの烏だ。
 悠然と翼を広げて風に乗り、屋敷の周りを偵察するように飛んでいた。
 その影は、ミミクリーでセオフィラスが変化した烏であった。
 眼下に広がる屋敷周辺の林。季節柄青々と樹木は生い茂り、その中を進む人影が居てもその判別は難しいように思われる。
 しかし巨鳥とかしたセオフィラスの目は、林の中を小さな明かりをもって進む一団の影を見逃さなかった。
 人数は6人、先頭だけが小さな松明をもって、静かに林の中を進んでいる。
 それを見やってセオフィラスは翼を翻すと、矢のような速度で屋敷へと帰っていくのだった。
 そのまま開け放たれた窓の一つから屋敷内に音もなく飛び込むセオフィラス。
 そして数分後、屋敷内の廊下を進むセオフィラスが居るのだった。
 彼は、クロックとリデトが休んでいる所へとやってくると、静かに告げる
「‥‥みんなおきてくれ。先ほど林の中を進んでくる一団を見た。どうやら泥棒たちは今夜襲撃してくるようだ」
 その言葉を聴いて、クロックとリデトはすぐさま身を起こす。
 いつでも出れるように身支度をしたまま仮眠をとっていた2人と共に、彼らはそれぞれの配置につくのだった。

 ゥウォーーーン!! 日が沈んでから数時間、トニーが長く長く遠吠えを上げた。
 屋敷の近くで、しばらく潜伏し潜んでいた盗賊たちがついに屋敷の近辺へとやってきたことにトニーが気付いたのだ。
 おそらく屋敷の中に見張りや用心棒が居た場合の時を考えて、深夜になるまで待っていたようであるが、今回に限って言えばそれは逆効果。
 冒険者たちは万全に迎え撃つ準備を整えていたのであった。
「あらら、どうやら彼らはことごとく罠にかかってくれたみたいだね」
 ふっと笑みを浮かべながらジョセフィーヌが言う。
 彼女の鋭い視力でとらえた彼らの姿が、随分とぼろぼろになっていたからである。
 セオフィラスとジョセフィーヌの罠に嵌ったのであろう。彼らは土に塗れ、足を引きずっている者までいる始末であった。
「ま、それこそ好都合さね‥‥さて、それで隠れてるつもりかな〜。このジョーさんの弓の前じゃ無駄さね!!」
 ライトロングボウに矢を番えて引き絞るジョセフィーヌ。
 彼女の鋭い目は薄暗い夜の闇を見透かして、屋敷へと近づいてくる盗賊たちを見据えていた。
 集中力が極限まで高まり、一瞬が永遠に感じられるほどの瞬間、矢は放たれた。
 音もなく月下の空気を切り裂く一本の矢、それは盗賊の1人の肩口へと突き刺さった。
 その一撃でもんどりうって倒れる盗賊、一瞬何が起こったのかわからなかったのかきょとんとした表情を浮かべる周りの盗賊たち。
 しかし、倒れた盗賊の肩口に突き立つ一本の矢を確認した瞬間、全員が驚愕の表情を浮かべたのだった。
 まだ、彼らは樹木の間を進んでいる途中だったのだ。しかし矢は性格に仲間に命中したのだ。
 ここが開けた草原ならまだしも、この暗闇のなかを無数の障害物が存在する林の中に放った矢を命中させるとは。
 それはジョセフィーヌの腕前があってこそ可能になる神業であった。
 次々に飛んでくる矢の雨、とっさに木の陰に隠れてやり過ごすのだが、肩口に矢を受けた盗賊は、続く矢の攻撃が命中して、どうやら致命傷。ぴくりとも動かなくなる。
 無駄撃ちをしないために、ジョセフィーヌは矢を番えたままで次なる獲物をうかがう。
 しかしながら、補足されていることに気付いた盗賊たちの動きも早かった。
 味方がやられたと分かるや否や、分散して一挙に館の正面入口に向けて疾走したのである。
 見つかっているのなら、隠れながら進む必要は無い。そう考えたのか、速度を優先して一気呵成に挑んできたのだが‥‥。
「ふん、走っていれば当たらないとでも思っているのかな? でもそれじゃ、まるで狙ってくれって言ってるようなもんさね♪」
 再び二階の窓から見下ろして、矢を番えるジョセフィーヌ。
 ちょうど良いタイミングでのこった5人の盗賊のうち1人がセオフィラスの仕掛けた罠に足を取られて、転倒する。
 あわてて起き上がろうとしたその男の手の甲。そこに狙い済ませた矢が突き刺さる!
 手を地面に縫い付けられて慌てふためく男、そこでやっと激痛が走る。
 矢を抜こうとしてじばたばする男、そこにさらにもう一本。今度は太ももを的確に射抜く矢が飛来する。
 さらなる激痛に男は意識を失い動かなくなるのだった。
「みんなっ! 奴らは乗り込んでくるよっ!!」
 ジョセフィーヌが屋敷内の仲間に声をかける。
 2人の盗賊を射撃で打ち倒した時には既に他の4人の盗賊が屋敷の正面入口にたどり着き、内部へと入ってこようとしていたのである。
 そして盗賊たちが内部に飛び込んだ瞬間、そこには2人の男が待ち構えていた。

「くそっ! 冒険者を雇いやがったのかっ!! いいから全員ぶっ殺せっ!!」
 そう声を上げたのはリーダー格の盗賊。その言葉に鼓舞されたかのように彼らはいっせいに、襲い掛かってくる。
 それを正面ホールで迎え撃つのは、セオフィラスとクロックだ。
 セオフィラスは、ナイトレッドのマントをなびかせ、手には剣と盾を。
 クロックは軽装の鎧だが、とてつもない威圧感を持つ巨大な剣を両手で構えて盗賊たちを迎え撃つ。

「命と欲、どちらを取る?」
「うるせぇ!! これでもくらいやがれぇ!!」
 静かに言葉の刃を向けるセオフィラス。しかし相手にはその言葉は届かなかった。
 月並みな台詞をはきながら、セオフィラスに切りかかってくる盗賊。
 どうやら剣の心得があるようで、なかなか鋭い剣筋。古びた剣が振り下ろされるのだが難なくセオフィラスは盾で受ける。
 渾身の一撃をあっさり受けられた盗賊は驚愕の表情を浮かべるが、あきらめず再び剣を振るう。
 しかし今度はセオフィラスの剣に阻まれる。彼の磐石の守りは小動もしないのであった。
 セオフィラスの修めた流派はウーゼル。それはイギリスでもっとも正当な流派だとされる騎士の剣術である。
 かのアーサー王の父ウーゼルが創始したとされる古き流派で、騎士として修めるべき全ての能力が備わっているとされる。
 渾身の一撃を軽くいなされてしまい、攻撃の手がとまってしまう盗賊の男。
 その瞬間、十字の飾りがついたセオフィラスのクルスソードが一刀両断に振り下ろされた。
 武器の重量を生かしたスマッシュ。肩口を深々と切りつけられた男は、その一撃で倒れ伏すのだった。

 一方、クロックは2人の相手と対峙していた。
 1人はファイター崩れと思しき体格の良い男。もう1人は、短いダガーだけを手にした盗賊らしい男。
 この2人の攻撃を、なんとクロックは軽々と回避し続けていた。
 装甲は無いに等しい皮鎧、しかし武器は超重量級のクレイモアだ。
 自らの身長を超えるような長大な剣を手に、2人の攻撃を回避し続けることはその技量がなせる技であった。
 埒が明かないと思ったのか距離を置くファイター崩れと盗賊。
 その瞬間、クロックはクレイモアを肩口に担ぎ上げると、一言。
「覚悟はいいか‥‥盗賊ども」
 巨躯を誇るクロックの腕にみしりと力が篭る。筋肉質で丸太のような二の腕に筋肉が盛り上がると、クレイモアが一気に振りぬかれる!
 その軌道上には相手は存在していない。
 しかし、その斬撃は真空の刃としてファイター崩れへと直撃する!
 ソニックブームの一撃で吹っ飛ばされるファイター崩れ。その胸板にはざっくりと斬撃の傷跡が口を開いていた。
 とっさに盗賊は、退路を確保しようとして身を翻すと、背中を向けていたセオフィラスへと襲い掛かった。
 逃げる途中できりつけようとする算段か、無防備なその背中へと凶刃が迫るのだが‥‥。
 硬い音と共にそのダガーが受け止められる。
 セオフィラスは後ろも見ずに背中に回したクルスソードでそのダガーを受け止めていたのだ。
 バックアタック。高いレベルの剣技を習得した剣士は見ずに背後や死角からの攻撃に反応できるようになるのだ。
 盗賊は驚愕に目を見開く、その一瞬の間隙にクロックの剛剣が盗賊へと振るわれて、彼は二度とさめない闇へと落ちていくのだった。

「くっ! ‥‥」
「あっ! ボスが逃げるであるよっ!」
 リデトの警句が響きわたる。
 部下の三人が次々に討たれて行く。その様子を見たリーダーはとっさに二階へと駆け上がった。
 目的だけでも果たそうと思ったのか。もしくは1人だけ逃げようと思ったのか。
 しかし彼の思惑は果たされることは無かった。
「な、なんだこりゃっ!!!」
 突如として二階廊下に沸きあがったのは白い霧。
 一瞬にして広がると、その霧は生あるもののように蠢きながら盗賊のボスを飲み込む。
 闇雲に手を振り回すボス。しかしそんなことは何の効果もなく、ただ空気をかき回すだけ。
 やがて盗賊のボスは苦しげに胸を押さえると‥‥そのままどさりと床に倒れ伏すのだった。

「ちっ! ここで登場か!!」
 思わず声を上げるクロック。手元には武器はなく、絶体絶命かと思われたそのとき。
「セオ! クロック! これを!!」
 飛び込んできたのは二本の木剣を手にしたジョセフィーヌだ。
 彼女は、白い霧に触れないように二階の廊下から飛び降りると2人に木剣を投げ渡す。
 そして木剣を手にした2人は、広がり始めた霧に向かって木剣を振るうのだった。
「ポルターガイストは、霧のような姿をとることがあるのである!」
 そう告げるのはリデト。しかし相手は霧だけに、なかなかつかみ所がなく決定打を与えられないようだ。
「‥‥主よ、かの者を清め給え‥‥ピュアリファイ!」
 リデトの手から真っ白な光が広がると白い霧が交替する。
 しかし、神聖魔法が効果的なアンデッドとはいえ、ポルターガイストは魔法全般に対しての高い抵抗力を持っているため、なかなか決定打を与えられないのだが‥‥。
「こんなのはどうだろうね?!」
 ジョセフィーヌが取り出したのは、はるか東洋の国の弓だ。
 鳴弦の弓という名の弓は魔を払う力を持つというこの矢は神事に用いられる弓であり、その力はアンデッドにも及ぶのだ。
 ジョセフィーヌはその弓に矢を番えず、引き絞るとびぃん、と弓を鳴らす。
 するととたんに白い霧の動きが鈍くなり、木剣が振るわれるたびにますます小さくなっていくように思えるのだった。
「もう一度であるなっ! ‥‥ピュアリファイっ!」
 リデトが祈りと共に唱える清めの呪文、満ちる白い光の中でその霧は吸い込まれるようにして消えていくのだった。

 そして一同がその先を追うと、そこはくだんの隠し部屋で、そこにはただ肖像画が残されているばかりだった。
「‥‥この屋敷の主はきちんと血を受け継いでいる者だし、泥棒は私達が退治したから、安心してあの世に行くが良いである」
 粛々と告げるリデト。こんどはどこか禍々しい気配を放つその肖像画に向かって清めの呪文を唱える。
 ピュアリファイで放つ白い光に照らされて、厳格な表情のその肖像画がどこかやわらかさを取り戻したようにみえたのだった。
 そして同時に、屋敷に満ちていた重い気配が綺麗に消えさる。
「‥‥ふむ、これでとりあえずは依頼の目的は達成だな‥‥」
 こうして冒険者たちの満足行く結果として依頼は終わったのだった。