●リプレイ本文
●老人と熊
「ようこそおいでくださいました!」
明るい娘の歓迎の声、そんな声に導かれるようにして冒険者たちは老人の家へと向かうのだった。
「はん、冒険者なんぞに頼りおって‥‥」
「そんなこと言わないでよ、おじいちゃん!」
家から杖をついて出てきた老人は開口一番そう言った。
その言葉を聴いて思い思いの表情を浮かべる冒険者たちに、孫娘は頭を下げる。
そしてそんな老人をなだめすかしながら、冒険者たちは熊の情報を聞き出していくのだった。
「‥‥で、爺さん。その熊にはなんか癖とかなんか無いのか?」
ぶっきらぼうに話しかけているのはロイ・ファクト(eb5887)。老人もぶっきらぼうに返事をする。
「ふん、お前さんがたが奴を倒せるとは思わんがな。奴は古い木を倒して遊ぶ癖があるから見りゃわかるじゃろ」
「えっと、その熊には名前がついてたりはしないんですか? レッドヘルムとか」
他の名のある熊を思い出したのか、ルンルン・フレール(eb5885)がたずねたのは名前とその特徴。
「ここらのもんなら森の主で通じるわい‥‥しかも優にほかの熊よりふたまわり大きいから、見りゃぁわかる」
一方孫娘と挨拶を交わしている冒険者も。
レドゥーク・ライヴェン(eb5617)とカーシャ・ライヴェン(eb5662)である。
「私はレドゥーク・ライヴェン。レッドでもかまいませんよ」
「私はレドゥークの妻、カーシャ・ライヴェンです」
「これはご丁寧にどうも‥‥お2人はご夫婦で冒険者なんですね」
そして挨拶もそこそこ冒険者たちは準備を整えて森へと踏み入るのだった。
●森の中
「熊さんか〜‥‥怖いねえ。強暴だよねえ? あたいなんか一撃でコロリっていっちゃいそうだよね〜」
ぱたぱたとはばたきながら進むのはシフールの揚白燕(eb5610)。
昼なお薄暗い森の中、障害物にとらわれない彼女は一行の先頭を進みながら周囲を見回してそういった。
「俺だって一撃でいっちまうかもしれねえしなぁ。まったく、今回は手ごたえありすぎだな」
アッシュ・ロシュタイン(eb5690)が熊の痕跡を探しながら白燕に言葉を返す。
そうして一同が森を進むとそこにはへし折られた巨木が。古い木とはいえ、それをなぎ倒したことに冒険者は驚くのだった。
そしてそれにさらに追い討ちをかけるようにロイがあることに気づいた。
「おぃ、これって爪の跡じゃないか? ‥‥根っこから数えて軽く4メートル以上あるんじゃ‥‥」
冒険者たちの身の丈のおよそ三倍近い高さにある爪の跡。
「‥‥ということはこの熊はそれだけの体長があるってことでしょうか」
アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)がぐっと唇を噛んでそう呟いた。
しかし冒険者たちは逃げるわけにはいかないのである。
熊が爪あとを残した場所、そこは熊が縄張りの巡回コースとして移動範囲に入っているはずの場所である。
その場所に程近い少し開けた場所に一行は罠を張ることにしたのだった。
罠の場所はゆるい傾斜のある場所。下り坂が苦手な熊の弱点をつこうというアーデルハイトの案である。
木にロープでつるした投網に落とし穴、巻きつけるロープとさまざまな罠が数多く準備された。
嗅覚に優れた熊はおそらく罠に気づくだろう、しかし熊を怒らせて罠にはめるのであればそれは問題ないはずである。
そして準備が整い、あとは熊を待つだけ‥‥火も焚かずに野営すること数日。ついに決戦の時がやってくるのだった。
●王者との戦い
ばきばきと山の上のほうから木が倒れる音がする。
「‥‥動物たちが次々に逃げてます‥‥来ました、もうすぐで近くにやってきます!」
警句を告げたのは、スクロールを使ってブレスセンサーを使っていたルンルン。
冒険者一同はそれぞれの武器を構え、そのときを待つ中、アーリア・アウラ・サーレク(eb5657)が呟く。
「縄張りをあらされ退治される熊さんは可愛そうですが‥‥私たちに出来ることは、熊さん一匹と村人の命を比較して村人を選ぶことだけなのです」
槍を構えてアーリアは、近づいてくる音の方向を見つめ、息を吐く。
「熊さん、悪いですが生存競争の理屈において、全力で排除させていただきます」
静かな決意が告げられるのだった。
そしてついに森の王者が姿を現した。なんとここまでひきつけてきたのは白燕。
「いーやー! 食べられる〜!」
全速力で木々の間を抜けて飛んでくる白燕、その真後ろをぴったりと追ってくる巨大熊。その姿は予想以上に巨大であった。
黒の毛皮が全身を覆う巨大なその姿、くっきりと白い半月の模様がその喉元にあった。
ジャイアントベア。大月輪熊と呼ばれるその巨大熊であったが、このクマは通常の大月輪熊よりさらに巨大であった。
縄張り争いの頂点に立ち、森の王者として君臨し続けた暗黒の森の支配者の威容。
のしのしと進むその威風堂々とした姿にはさすがの冒険者たちも息を飲むのであった。
しかし、彼らの使命はこの帝王を打倒すること。恐れおののいてはいられないのだ。
「もー無理っ!! 早く〜!!」
必死で逃げる白燕。気を抜けばあっという間に追いつかれてしまうことがわかっているからだ。
導かれるようにして一直線に冒険者たちに向かって突進する巨大熊!
そのとき身を潜めていた影が二つ起き上がった!
「いまだっ!」
アッシュとロイ、猟師としての技術を持つ二人のファイターはぴったりのタイミングで罠を解き放つ!
輪が絞られて後ろ足に絡みつくロープと、頭上から落ちてくる頑丈な網。
冒険者たちは、絶好のチャンスと思ったそのとき‥‥再び帝王が咆哮を上げると、なんと後ろ足のロープを引きちぎる!
かなり頑丈につくられた冒険者御用達のロープ、そのロープが二本束ねてあったにも関わらずそれを引きちぎる巨大熊。
「そんなっ! でも、やるしかないですね」
自分の作った罠があっさりと破られたことに対して呆然とするカーシャ。だが落ち込んでも居られない。
「今が好機です。弓矢を!」
弓使いの2人にオーラパワーをかけた矢を渡すレドゥーク。
それに応えてショートボウを構えるカーシャとライトロングボウを構えるルンルン。
2人はほぼ同時にその矢を放った!
狙いは見事、放たれた矢はまっすぐに森の主へと突き刺さるのだが、しかしその分厚い毛皮のせいかまったく効いていない。
しかしかすり傷はかすり傷、自分に危害を加えようとしている存在がいることを知った森の帝王は咆哮をあげるのだった。
ますます接近する熊を見据え、疲れきった白燕を後衛の守りであるレドゥークに任せて前に出たのは前衛の面々。
「私の名、アウラはそよ風ではなく暴風だと知りなさい‥‥」
身の丈にして3倍はありそうな巨大熊を見据えて槍を構えるアーリア。
「すまねぇな、だが人を襲うものをそのままにしておくわけにはいかねぇんだ‥‥やれやれ、割りにあわねぇ仕事だ」
異国渡りの名刀の鯉口をちきりと切り、すらりと構えて苦笑を浮かべるアッシュ。
「さぁ‥‥乗り切れるかしら?」
すらりとショートソードのみを構えて構えるアーデルハイト。
「まぁいいさ、やってやろうじゃないか」
日本刀と盾を構え、ぎりと奥歯をかみ締めるロイ。
そして、熊が落とし穴に足を踏み込んだ瞬間、アーデルハイトの“今!”の声に一斉に距離をつめる4人!
真っ先に狙われたのはアーデルハイト。豪風とともに振るわれた熊の前足が迫るが、それをかろうじて回避する。
しかし二度連続で狙われたらさすがに避けれないと思ったそのとき、追いついたロイが盾で次なる攻撃を受ける!
続く冒険者たちの攻撃。ロイの日本刀、アッシュの太刀、アーデルハイトのショートソードに、アーリアの槍。
どれもが熊に命中するのだが、ほとんど決定打を与えられない。
「ちぃ、なんて頑丈なんだっ!」
自慢の太刀の一撃がたいした傷を与えられなかったことに驚いたアッシュは思わず声をあげた。
戦いは続き、腕を振り回す熊の一撃は致死の一撃。それをかろうじて避けているが、隙を作ろうとアーリアが前へでる。
「私の鎧ならっ!」
右腕の一撃は盾で受け、左腕の一撃はなんと体で受けるコナンの使い手らしいアーリア。
しかし、巨大熊はそのままアーリアを抱え込む!
「し、しまっ‥‥がっ!」
そのまま締め付けられてしまうアーリア、逃げようともがくも鎧の上から締め付けられて血の混じった咳をする。
彼女を救おうと、3人は果敢に攻めるのだが巨大熊はアウラを放して今度はロイへ!
カウンターを狙うロイ、しかし一瞬差で防御が遅れ爪がその胴体をなぎ払う。
弾き飛ばされて倒れるロイ。レザーアーマーを着ていなければ胴体が千切れていてもおかしくない一撃だ。
2人が満身創痍になりながらも戦いはなお続くのだったが‥‥。
「これでっ!!」
矢に気をとられている隙に回りこんだアーデルハイトが手にしているのは、倒れたロイの刀。
それを後ろから熊の体に突き刺すと、痛みに吼えて後ろの敵を一撃しようと手を振り回す熊。
その一撃を受け止めたのは血にまみれて起き上がったロイ、盾をかざして腕の一撃を受ける。
続く一撃を受けたのは満身創痍のアーリア。
「もらったっ!!」
3人が作った決定的なチャンス、アッシュはその太刀を高々と掲げると重さを乗せてスマッシュの一撃!
深手を負った巨大熊は、4人の連携の前にゆっくりと崩れ落ちるのだった。
●熊殺したち?
冒険者たちは村へと凱旋した。
怪我は辛うじてカーシャが癒せる範囲であったため大事には至らず、無事冒険者たちは依頼を完遂。
「こんなに立派な毛皮を‥‥」
孫娘をはじめ村人たちは目を丸くして喜び、村では冒険者たちを労う宴会が行われたのだった。
あるものは熊殺しを名乗り、あるものは静かに村人たちの歓待を喜んで受ける。
そんな中、老人はどこかむすっとしながらも、冒険者たちに感謝するのであった。