●リプレイ本文
●異国のおしゃれ
お屋敷にて、来客用のサロンを特別に空けて貰って、冒険者たちから話を聞いているのは長女ナターシャ。
今はちょうどディアルト・ヘレス(ea2181)の話を聞いているようだ。
「綺麗なヴェールですね。パリではこういったものが流行っていたのですか?」
「ええ、ほかにもとある髪型が流行ったこともありまして‥‥」
話題の内容はどうやらパリの流行。髪形や服、流行の小物なんかの話をナターシャは興味津々で聞いている。
しかしやっぱり盛り上がるのは女の子同士。
「イギリスではこんな形のドレスが一般的でしたよ。まぁこれはあまり高級なものではないんですけどね」
「やっぱり国ごとに結構違うものなのですね。これは去年私がお父上に買ってもらったものなのですけど‥‥」
アリシア・ウィンストン(eb6021)が故郷の衣装の話をすれば、自分のドレスを見せたり。
「ジャパンの衣装はもっと違っておりますよ。私の着ているこれはジャパンの聖職者の服ですが、若い娘さんが着る服はそれはもう綺麗な模様が御座いまして」
朱鷺宮朱緋(ea4530)もそういってジャパンの着物の話をすれば、どんな模様が素敵だのと会話が弾む。
そしてしばらく衣装やアクセサリーなんかで盛り上がる女性陣、そこでアリシアがふと何かを思い出したかのよう。
「そうそう、そういえばイギリスの社交界にはとても有名な方がいましてね」
「有名な方?」
「ええ、ラーンス・ロット卿といって騎士の華とも呼ばれる方。私も直接お目にかかったことはほとんど無いんですけどね」
「騎士の華‥‥どんなお方なのでしょうか?」
「たしか、槍試合では無敗を誇る優秀な騎士でありながら、とても凛々しいお方で貴族の女の子達に大人気だとか」
「さぞかし立派な方なんでしょうね‥‥」
こうしてかしましく騎士の話なんかで大いに盛り上がるのだった。
●騎士の卵と先輩たち
一方そのころ、屋敷の裏で遠乗りの準備をするいくつかの姿が。
「ジャパンから来た武士の真幌葉京士郎(ea3190)と言う。短い間だが、俺の出来る限りの事を教えようと思うので、どうか宜しく頼む」
「えっと、こちらこそよろしくお願いします! ‥‥でも、ブシってなんのこと?」
きょとんと応えたのは次女レナータ。当年とって11歳のお転婆娘である。
しかし、真っ向からブシってなに、と聞かれてとっさに出てこない京士郎、そこで助け舟を出したのは隣の女騎士であった。
「ブシというのはだな、ジャパンの騎士たちのことなのだよ。‥‥で間違っていないだろうか?」
声をかけたのはエイリア・ガブリエーレ(eb5616)。ちょっと自信なさげであるが、京士郎は首肯する。
「へー、ジャパンにはキョウシロウのような姿の騎士がたくさん居るんだ‥‥いちど行ってみたいな」
そんなことを話しながら、一行は乗馬の訓練へと出かけるのだった。
まだ11歳とはいえ、レナータは小さいころから馬には乗りなれているよう。
「キョウシロウの馬はなんという名前なのだ?」
「こいつか? こいつは真九郎というのだ」
「ふーん、やっぱり異国の名前は響きが面白いね」
そんな会話をしながら軽く周囲の野山を遠乗りする一行、そして帰ってきた彼らが次に始めたのか剣の練習であった。
「さて、疲れているとは思うが、まずは俺が相手になろう。さぁ、どこからでも打ち込んでくるんだな」
青のサーコートを風になびかせて、レナータに対峙したのは京士郎だ。こうして剣術の練習がはじまった。
休憩には冒険者同士で剣を交えて型を見せてみたりもしながら練習。
「私の流派はノルドといって、ノルマンに興った新しい流派でして‥‥」
「俺の流派はエンペラン。バランスのよさが売りかな」
エンペランを使うレイブン・シュルト(eb5584)と切り結ぶディアルト。
紙一重でかわしてみせるディアルトや目まぐるしい剣戟にレナータは目を丸くしてみたり。
「ところで、なんで騎士を目指しているんだ?」
京士郎のそんな質問に、レナータは女騎士のエイリアを目で追いながら答える。
「やっぱり女性で騎士をしている人はみんなかっこよくて‥‥あたしもあんなふうになりたいなって」
そういう彼女は、先輩たちによる訓練をとても楽しそうにこなしていくのだった。
●屋敷の中で
時刻はそろそろ夕方、灯りで明るく照らされた屋敷の中。
「私の知っているステップでよければ少々‥‥いいですか、ここで足を引いて、手を差し伸べて‥‥」
アリシアの手引きで屋敷のホールではダンスの練習である。アリシアの相手はレイブン、ナターシャの相手はディアルト。
アリシアの教えるイギリスのダンスに加え、ディアルトはノルマン。レイブンはロシアである。
「いろんなダンスがあるんですね‥‥もう一度教えていただけますか? あの足を引くところがどうしてもあわなくて」
「もちろん、できるまで頑張りましょうね」
そんな風にダンスの練習が続く。一方そのホールの隣のサロンには輪になって座る冒険者たちと三女ソーニャが。
剣の訓練を終えたレナータも混じって冒険者たちから伝えられるいろいろな話に耳を傾けているのだった。
エイリアが弟から聞いたというジャパンの話。盗賊退治の話を聞いてそれでどうなったの、とソーニャも身を乗り出したり。
ジャパンの都市、京都での事件や江戸での大火の話を聞いて、ぐっと目に涙を浮かべるソーニャ。
しかし朱緋の伝える優しい人たちの話を聞いて、安心した笑顔を浮かべてみたり。
そしてその次に話し出したのはレイヴァン・テノール(eb5724)だった。
「まだまだ、冒険者として活動した回数は少ないのですけど‥‥この前受けた冒険の話をしましょうか」
こっくりと頷くソーニャ。それを見てレイヴァンは語り始めた。
「この前の依頼では、ソーニャ様のお姉さまと同じぐらいの年の少年が依頼主でしてね」
ちょっと目を丸くしながらこくこくと再び頷くソーニャ。
「敵はスケルトンウォーリアーだったのですが‥‥あ、歩き回る骨の戦士ですね」
それを聞いてじわぁとなみだ目になるソーニャ。あわてる一同。
「ああっと、それで、少年の志の高さに感銘を受け自分もまた冒険者として騎士として見直すことが出来たということなのですが‥‥」
箱入り娘のソーニャはやっぱり少し怖かったよう。やはり一般人にとってはモンスターの異形は恐ろしいものなのである。
こうして、あっという間に日々は過ぎ去っていく。
●思い出に残るもの
「キャメロットの町並みでやはり目立つのは街の中を走る河ですね」
「河の近くに町があるの?」
「いいえ、町の真ん中を大きな河が走っていて、いくつも橋が架かっているんです」
ジゼル・キュティレイア(ea7467)はソーニャに物語を聞かせるように話しかけているのだった。
「そこで私が受けた依頼の話をしましょうか。その依頼で私は人魚に会ったのですよ」
とある夜、ジゼルの物語には少女たちをはじめ、みんなが聞き入っていた。
「依頼主は宿屋の女将さんでしたね。その依頼は怪我をした人魚の夫婦を逃がしてやって欲しいというものでした」
「怪我をしてたの‥‥」
思わず不安げな顔になるソーニャ。しかしその頭をくしゃりと撫でる。
「途中で人魚を狙っていた人達に襲われたりもしましたけど‥‥ちゃんと無事に逃がして差し上げることができました」
ぱっと明るく笑顔を浮かべるソーニャ。思わず身を乗り出す。
「それで、人魚さんたちはどうなったの?」
「海に帰っていきましたよ。とても仲睦まじいお二人でしたけど、今はどうしていらっしゃるやら‥‥」
「でも、人魚さんが元気だといいな」
「ええ、幸せでいるといいのですね」
そしてソーニャはこの話が気に入ったようで、なんどもジゼルはせがまれるのだった。
「それでレナータ殿は‥‥これからどういった戦い方をしていきたいと考えているのかな?」
素振りをしながら会話しているのはエイリアと次女レナータ。
質問をされたレナータは困ったように眉をしかめると、ポツリと呟いた。
「かっこいい騎士になりたかったんだけど‥‥あたし背も小さいし、なれるのかな?」
一生懸命練習はしていても、不安はあったよう。それに対してエイリアは素振りをやめずにしばしの沈黙。
そしてゆっくりと答えるのだった。
「‥‥自分は騎士の心得として剣と弓、槍と何でも使えるようになりたいのだ」
あまり関係の無さそうな話にレナータは静かに耳を傾ける。
「主力となるのはやはり剣であろうが、やはり体力が無い私にとっては軽量級の剣が必要でな」
「そうなんですか‥‥」
「うむ、そんなときに弟から聞いたのだが、ジャパンには『カタナ』というすばらしい武器があるそうなのだ」
エイリアは手にした剣に目をやって言う。
「いずれそのような武器を握り、敵より先に粉砕するような力強く勇ましい騎士になりたいと自分は思っている」
力強い決意の言葉、エイリアはぽんとレナータの肩に手を置いて告げた。
「騎士になろうとするその心意気こそが大事なのだ。騎士たる者、その人柄も練らなければ!」
小さい声で、自分もほどほどだが、とこっそり付け加えつつエイリアは言う。
「やることは多く迷ってる暇は無い。やろうと思って出来ないことはないと思うぞ」
「‥‥ん、ありがとう! あたしやってみるね」
にっこり笑うエイリアに、レナータもにっと笑いかえすのだった。
「ジャパンは‥‥そうで御座いますね。他国に比べますと社交界と申し上げるような場は難しいかもしれません」
「ダンスとかは無いのですか?」
長女ナターシャと会話しているのは朱緋だ。
「ええ、殿方中心の傾向が御座いますし、欧州の様な男女での“ダンス”は基本的に御座いませんね」
「男女でのダンスがないというのは‥‥」
「はい、ジャパンでの舞踊は他の方々に“見せる”舞で御座いますね」
「そうなのですか‥‥いつか見てみたいですね」
「‥‥それならば楽もなく形のみになりますが、お目汚し程度でもよろしければ一指しいかがでしょう?」
その提案に、ナターシャは大いに驚き喜ぶのだった。
しゃりしゃりとなる鈴の音、緩やかに舞う朱緋をナターシャは感嘆のまなざしで見つめていた。
この踊りとジャパンの話はナターシャを強くひきつけたよう。
朱緋に教わった色の合わせ方を実践したり、どうにかしてジャパンの着物が手に入らないかと相談したり。
どうやらナターシャに大きな影響を与えることになったようであった。
こうしてあっという間に依頼の期間は過ぎ去った。
ソーニャは大好きな話を教えてくれた不思議な目をしたお姉さんに精一杯の贈り物をして。
レナータは憧れの騎士に少しでも近づくために、自分のリボンを彼女に預け。
ナターシャは彼女に新たな世界を開いた相手に自分のアクセサリーを渡す。
少女たちは、帰っていく冒険者たち全員にいつまでも手を振り続けていたのだった。