●リプレイ本文
●お茶会の準備
「わしはジャパンのカリスマ理容師で‥‥と。こんなところかのう、シオンちゃん?」
「うーん、忍者ってどう説明したらいいんだろうなぁ? 忍法って変わった術を‥‥」
「挨拶の発音は裏に書いておくわね。 まあ、シフールの通訳も居るみたいだし、大丈夫だと思うけど」
場面はお茶会の始まるちょっと前にさかのぼる。
言葉が通じない仲間のために羊皮紙にメモを作っているのはシオン・アークライト(eb0882)。
ドワーフのホアキン・ゴンザレス(ea3745)と忍者の羽鳥助(ea8078)の手助けのようだ。
と、そこにやってきたのはシオンの恋人の雨宮零(ea9527)だ。
「あら、零は着物で行くのね」
「うん、やっぱり着慣れた服のほうがいいしね。さて、そろそろ時間だよ」
零の言葉を合図に皆はお茶会の会場へと向かうのだった。
●挨拶
「ああ、やはり場所が違えば景色も違うもので、なかなか貴重な経験でな」
「ははぁ、キャメロットにお住まいだったのですか‥‥それではこちらのお茶はお口に合わないのでは?」
若い司祭と話しているのはレイブン・シュルト(eb5584)。
ハーブのお茶を飲みながら静かな会話を楽しんでいるようだ。
そして隣の卓では、なにやら騒動が。
「あら、とげにすそが‥‥きゃー!」
すこーんと転げているのはルーニャ・ラーニャ(eb6491)。
なにやらどたばたとしているようだが、そのグラマーさもあってか妙に周囲のクレリックが世話を焼いている模様。
‥‥クレリックたちの修行の妨げになるんじゃないかと思うが、まぁそれはそれ。
とりあえずお茶会は楽しんでいるようだ。
「まぁ、きれいな花が‥‥きゃー!」
ルーニャは再び段差に躓いて転げているようである。
「どどど、どうでしょうか? お口に合うと良いのですが」
珍しくもあわてまくっている凛々しい騎士はイリーナ・リピンスキー(ea9740)。
彼女たちの居る卓には一人の老人の姿が、キエフの最高司祭であるニコラ・ブラジェンヌイである。
「ふむ、このブリヌイも良く出来ておるよ。普段からよく作られるのかな?」
「は、はい、実家の父が甘党でして、いろいろ作らされていまして‥‥あ、あのこのブリャーニクもどうぞ!」
かなり動揺しつつも最高司祭と談笑するイリーナ。その卓にはいろいろな料理が並んでいた。
ブリヌイは薄く焼いたパンケーキ、積み重ねて纏めて切り分けるのがおいしい食べ方である。
今日はそのほかにも林檎やベリーを入れたパイであるピローグや糖蜜菓子のブリャーニクも。
教会の菜園で取れたハーブティをジャムと一緒に食べながら進む会話。
イリーナたちの作ったお菓子類は好評なようであった。そしてその卓にはぞくぞくと冒険者たちが。
彼らは次々に最高司祭へと挨拶を述べていく。
「あ、司祭様。先日はお世話になりまして。ありがとうございました」
「お招きいただき心より感謝を。本日は特によい天気に恵まれて‥‥それにお菓子もおいしいです」
「お二方ともようこそいらした。今日は楽しんでいってもらえると私としても嬉しい限りであるよ」
思い出の碧のドレス姿はキラ・リスティス(ea8367)。通訳をされながらもぺこりとお辞儀を。
そしてキラに連れ立ってやってきたのは新しい礼服姿のエイリア・ガブリエーレ(eb5616)。
イリーナに挨拶をしながらクワスとお菓子でお茶会を楽しんでいる様子だ。
「わしはジャパンのカリスマ理容師ホアキン・ゴンザレスぢゃ。こちらにはつい先日観光に訪れたばかりなのぢゃ」
「ジャパンから来た羽鳥助です。忍者といって、ええと‥‥どう説明したらいいんだっけ?」
「これはこれは、遠いところから良くぞいらした。ロシアは今いい季節でな。精一杯楽しんでくだされ」
ジャパンから来た二人は、メモを見ながらなんとか挨拶しているようだ。
「『白』のクレリック、ユキ・ヤツシロと申します。お茶会にお招きいただきありがとうございました」
ウィンプルをかぶって清らかないでたちはユキ・ヤツシロ(ea9342)、クレリックの正装姿である。
こうして挨拶を終えた一同、それぞれがいろいろな相手とともに会話に花が咲くのだった。
●話に咲く花
「ふむ、お2人は恋人同士とな。善き哉善き哉、親しき相手とお互いに高めあう絆というものは尊いものなのだよ」
そんなことをニコラ司祭から言われている二人は零とシオン。
零にとっては新鮮なロシア、いろいろとシオンから説明されながらお茶会を楽しんでいるようだ。
「はちみつ漬けの生姜‥‥へー、こういう食べ方もあるんだね」
「うん、これが濃いハーブティーに結構合うのよ。口に合うかは分からないけどね」
仲むつまじく卓の間を歩き行く2人。零は目を引く着物姿のために、2人は方々から声をかけられたり
「ジャパンの情勢とかなら‥‥ええ、恋の話題? えーっと‥‥何を話したらいいかしら?」
「う、僕に聞かれても‥‥えーっと、ジャパンでは2人でお祭りにいったんだけど‥‥」
若いシスターたちから、なにやら恋の話をせがまれている様子の2人。
ともあれ、仲がよさそうなことにはニコラ司祭もご満悦の様子だ。
「では、招かれてこちらに‥‥」
「ああ、ケンブリッジからは月道がキエフにつながっているし‥‥」
イリーナが会話しているのはどうやら招かれたケンブリッジの教師。
ところがその姿に気づいて、急にあわあわ動揺し始めるキラ。そしてエイリアの影にささっと隠れるキラ。
実はキラ、先ほどニコラ司祭に「先生に何も告げずにキエフに来てしまってちょっと後ろめたい」と言っていた。
ところがなんと件の先生がキエフに来ていたらしく。
「いったいどうしたのだ、リスティス殿」
「えとえと、実は先生がさっきまでそこに‥‥あぅぅ、気づかない振りをしてもえーとえーと‥‥」
「あー‥‥リスティス殿、非常に言いにくいのだが、後ろを向くことをお勧めするぞ」
ぴきっと固まったキラの肩をぽむぽむ叩く手。後ろにはやっぱりアラン・スネイブル先生が。
彼はマジカルシードにおいてのキラの先生にして、恋人だとか。
「ふむ、こんなところで会うとは奇遇であるな、ミス・リスティス‥‥さて、とりあえず説明を聞こうか」
「あのあの、異国で先生にあえてとても嬉しい‥‥ではなくて、あのお留守番をせずにこちらに来てしまいまして」
なにやらじたばたしているキラであったが、なんとか先生のご機嫌は損ねずにすんだとか。
その様子を楽しそうに眺めながらくぴくぴクワスを飲むエイリア。エイリアからの紹介もそこそこに話が弾む。
「それであの、アラン先生。こちらでも私がお手伝いできるようなことはあるでしょうか?」
「ふむ、我輩とて一人で何事でもこなせるわけではない。ここでも冒険者たちに依頼を出すことがあるはずだ」
ロシアでのこれからの活動について話が咲いたり。実はとっても親しいアラン先生とキラ。
目をきらきらさせて、お役に立たせていただきますというキラの頭をわしわし先生は撫でるのであった。
「これは浴衣といってのう。ジャパンの夏の装束なのじゃが〜」
ジャパンから持ってきた衣装や装飾品を広げているのはホアキンだ。
こちらはどうやら教会にやってきて、お茶会に招かれている貴族の子女に人気の様子。
「なに? お嬢ちゃんはこっちの櫛が気になる。うむ、なかなかの目利きだのう。これはジャパンの細工物で‥‥」
ジャパンの文物を説明しているホアキンであったが、逆に彼はロシアの知識を蓄えるのにも貪欲であった。
「ふむ、これがスメターナ‥‥なかなか無い味であるな」
サワークリームを焼き菓子に塗りつつ、筆記用具にメモをするなど、忙しいホアキンであった。
「さあ、ニコラ司祭の許可も得たし忍術を見せるぞー!」
そういっているのは忍者の助だ。こちらに集まっているのは、教会で預かられている子供たち。
客の子供たちも孤児院の子供たちも分け隔てなく興味津々である。
「それじゃー、そこの柴わんこと瞬間で入れ替わります! それ〜ってな〜♪」
ぼわーんと煙が巻き起こり、一瞬にして入れ替わる忍者とその飼い犬、銀河。
子供たちがやんやと喝采を送り、東洋の神秘だと助は親指をぐっ!
子供たちに年齢が近いせいもあってか、なにやら人気者のようだ。
「何かすっぱい匂いがする?? これが噂のパン? 米は食べないの?」
クワスを飲んだり、黒パンを食べたり。言葉は分からなくてもなんだか妙に通じ合う助と子供たちだった。
イリーナはニコラ司祭の座る卓で会話に華を咲かせている。
聖書の写本の一ページに、司祭の手で一節を書いてもらったりして、ご満悦のイリーナ。
そのとき、同じ席にいてずっとのんびりと話を聞いていたユキがゆっくりと語りだした。
「あの、ニコラ最高司祭様。伺ってみたいことがあるのですが‥‥」
言って御覧なさい、と先を促す司祭。そこでユキが話し始めたのはハーフエルフについてだった。
「神が異種族間を禁忌と定め忌み嫌うのならハーフエルフという種族を最初から創造しないのではないでしょうか‥‥」
つまり、ハーフエルフが生まれることには何らかの意味があるのでは、ということである。
そして狂化やそれがもたらす偏見、迫害。この試練には意味があるのかという問いであった。
「‥‥ニコラ様のお考えをお聞かせ願えませんでしょうか?」
すると、同席のイリーナ、
「わたくしの意見を述べる事をお許しくださいますか、司祭様?」
「ああ、もちろん構わんよ」
「わたくしは‥‥ハーフエルフとは賢人が現れる瞬間まで、世の人間が受け止めきれぬこの世の災難や罪を受け止める存在だと思っています」
イリーナは述べる。
「だからこそ肉体は勿論、心も鍛えねばと思うのです。時にその重さに悲鳴をあげることがあっても‥‥」
それらの言葉を聴いてニコラ司祭はゆっくりとかたる。
「私たち黒のジーザス教徒は賢人を選び出すことを志とする。優れた人物こそがいずれ来る神の国の住人足りえるのだ」
ハーフエルフ至上主義が掲げられるこの国においても、いまだハーフエルフに関しては問題が絶えない。
明るくにぎやかなお茶会の一角に影を落とす話題になったが、それでもニコラ司祭はかたる。
「貴方の生まれは不幸で会ったかもしれないが、我らはそれを乗り越え向上することが尊いと考えているのだよ」
教義の根幹に触れるだけでとどめた司祭は、おそらくお茶席の雰囲気に考慮してだろう。
やがてルーニャの踊りなどでお茶会は再びにぎやかさを取り戻すのだった。
キエフの短い夏を謳歌するようなお茶会。
それは恋人との絆、異国での出会い、憧れや決意や悩み。いろいろな思いが交差するお茶会であった。
ニコラ司祭はこれからの冒険者たちの道行を祝福し、祈りをささげるのだった。
「冒険者たちの未来に、幸多からんことを‥‥」