誇りと剣
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■ショートシナリオ
担当:雪端為成
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月04日〜09月09日
リプレイ公開日:2006年09月13日
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●オープニング
これは、若い騎士たちの物語。
月が明々と照らす夜の庭園、その月明かりの元に対峙する2人の騎士があった。
一人は美しい容姿の優男。しかしそのほっそりした容姿から漂うのは蛇のような残忍さ。
一人は真面目そうな青年。実直そうなその姿に騎士然とした誇りが満ちているように思える。
その2人は、真正面から向かい合ってなにやら声を張り上げている。
「はてさて、奇妙なことを仰る‥‥この私がそのようなことをしたなぞという証拠がおありなのかな?」
優男があざ笑うかのように言えば、青年のほうが顔を真っ赤にして怒鳴り返す。
「おのれ、そこまで言い逃れをするのかっ! 直接かの者から聞いたのだぞ!」
「ふん、あのような一介の侍女の言をこの私の言葉より信じるとは‥‥ははは、貴公も懲りないお人だ」
「公の行い、少々ひどすぎる! 侍女をモノのように扱うなぞ騎士のすることでは無いと思わぬのか!」
「まったく、貴公はつまらぬ男だ‥‥それで、一体どうするというのだ?」
「‥‥公に決闘を申し込む‥‥」
「それはそれは! ‥‥せいぜい父譲りの田舎剣術で私の目を楽しませてくれたまえ!」
拳を握り、奥歯をかみ締めて侮辱に耐える青年。その彼の姿を侮蔑の視線で見下ろす優男。
月は変わらず二人を照らすのであった。
「聞いたぞヴィクトル! あの野郎に決闘を申し込んだんだって?」
あくる日、真面目そうな青年騎士ヴィクトルは友人から詰め寄られていた。
「ああ、決闘は認められた‥‥パヴェルの行いにはさすがにもう我慢ができぬのだ」
「‥‥気をつけろよ。パヴェル自身の剣の腕はたいしたこと無いはずなのに、あいつは決闘で負けたことないからな」
「知っているさ。あいつにはずいぶんと仲のいい“友達”がいるらしいからな」
「じゃ、じゃあどうするつもりだ?」
「‥‥一人で全員片付けてやる、といいたいところだが‥‥ここは協力を仰ごうと思っている」
「でも、相手はパヴェルだぞ? 俺はこの通り怪我をしてて役に立たないと思うし‥‥」
「‥‥実は先ごろ冒険者ギルドにこっそり依頼を出してもらえるように頼んできたのだ」
「ああ、なるほど! それならパヴェルの卑怯な手を封じることが出来るかもしれないな」
「私の考えに賛同してくれるものも居るかもしれないと思ってな‥‥」
そういうと、ヴィクトルはぐっと拳を握る。それを見た友人は励ますように肩を叩くのだった。
さて、どうする?
●リプレイ本文
「そのパヴェルとかいう奴、話を聞く限りどうしようもない奴のようだな‥‥」
「私もそう思ったからこそ決闘を申し込んだのだ。‥‥今回は冒険者の方々に協力していただいて心強い限りだ」
「なに、実力を伴わない輩は嫌いでな」
依頼人のヴィクトルの所にやってきているのはレオニード・ケレンスキー(eb3961)。
どうやら情報収集の模様である。
「時に、パヴェルとの決闘について妨害に関する詳細や、人数などはご存知か?」
「んー、うわさに聞いただけだからな。それなら私より詳しい奴がいる、紹介状を用意するとしよう」
「ああ、そうしてもらえるとありがたい。よろしく頼む」
こうして紹介状を手にしたレオニード。彼が訪れたのは、とある青年貴族が住む邸宅。
「失礼、私は少々ここのご主人にお話が聞きたいと思ってやって来たのだが‥‥これはヴィクトル殿から紹介状だ」
扉を開けていぶかしむ家人に向かって紹介状を見せると、レオニードは邸内へと招かれるのだった。
「ヴァイス様、護衛はお任せください」
崔璃花(eb5792)がそういって、送り出したのはヴァイス・ザングルフ(eb5621)。
彼が向かう先はキエフの酒場だ。一日で数件の酒場を回るヴァイス、かれの目的はうわさを流すことだった。
エールを飲みながら彼が声をかけるのはカウンターの客たちである。
「この前、酒場でちらっと聞いたんだが、近々派手な決闘があるらしいな」
「本当か? そりゃぜひ見にいかねぇとなぁ!」
酒も入っているのか、決闘の話題で盛り上がる男たち。
誰が強いだのなんだのと気炎を吐く男たちをしりめにヴァイスはひっそりと席を立って次の酒場へと移動していくのだった。
「まったく、なんでわしはヴァイスと一緒に行ったらいかんのじゃ。つまらんぞー」
なにやら文句をぶちぶち言っているのはティート・アブドミナル(eb5807)。
それはもちろん、筋肉マニアなシフールが付きまとっていたら怪しいことこの上ないからである。
しかしそれでも納得行かないのがマニアの心情、ぶーぶー不満を言いながらヴィクトルの家の周囲を見回るティートであった。
「お食事はご自分で用意なさっているのですか?」
「ん? ああ、貴族とは言えまだ若い身であるしな。あまり余裕がないのだよ」
苦笑しながらそういうヴィクトル、たずねたのは香月睦美(eb6447)だった。
「それでしたら、お食事は私がご用意させていただきます。万が一、なにかされていると困りますから」
甲斐甲斐しく食事の世話から、衣服まで用意してもらうヴィクトル。照れてはいるもののまんざらでもないようだ。
黒パンにスープと魚といった簡素な食事をみんなで取りながら、明日の計画を練る一同。
そこに帰ってきたのは、レオニードとヴァイスだった。
「おお、レオニード殿。なにかよい情報は得られたかな?」
「ああ、幾人かパヴェルとつるんでいる奴らの話が聞けた。向こうの出方も大体予想がついたぞ」
レオニードがヴィクトルに、パヴェルのやり口を説明し、
「ヴァイス様、お帰りなさいませ。首尾のほうは?」
「結構うわさも広がってきているみたいだし、そろそろ大丈夫だろう。ま、あとは向こうの闇討ちを警戒するって所だろうな」
帰ってきたヴァイスを暖かく迎える崔にヴァイスも首尾を報告したり。
「ヴァイス〜! 遅かったのじゃ〜」
なんていいながら、ヴァイスの胸板をぺたぺた触っている妙なシフールも居たり。
そんなこんなで次の日。仕事の帰り道で遅くなったヴァイスを迎えに来たのは香月だった。
一緒に帰ろうとする異国姿の香月に対して質問を投げかける同僚も居たが、
「ああ、彼女は異国の知り合いの娘で、修行を兼ねて観光に来ているのだ」
とヴィクトルが言えば、そんなもんかと納得する同僚たち。
そして帰路に着く香月とヴィクトルだが、この日はなにやら不穏な空気が漂っていた。
薄暗い路地を通ったそのとき、暗がりから躍り出る幾人かの人影。
「ちっ! 曲者っ!!」
とっさに抜き放った刀で人影のナイフを受け止める香月。ぎりぎりとつばぜり合いから力任せに相手を打ち倒す。
同時に、こっそりと護衛をしていた崔が「喧嘩よ!」と大きく声を上げ、人を集める。
「さて、物騒なオトモダチにはちょっと痛い目を見てもらおうかな!」
さらに駆け寄ったのはヴァイス。ナイフの一撃を紙一重で受けて、そのままつかんでブン投げる!
石畳にたたきつけられて悶絶する相手、香月とヴァイスに仲間が打ち倒され、残る二名も逃げ出そうとする。
しかしいつの間にか一人の後ろに立っていたのは崔。首筋に手刀を打ち込めば相手は悶絶し、
「逃がさん!」
がきんと一撃で武器を弾き飛ばしたのはレオニード。こうして闇討ちは不発に終わるのだった。
そして決闘の日がやってきた。
とある場所で決闘を行うためにやってきた2人であったが、なんとかなりの数の野次馬が。
それを見てかなり顔色を悪くしているパヴァル、対するヴィクトルは堂々たる様子。
そしてそれを見守る野次馬のなか、冒険者たちがひっそりと混じって最後の護衛をしているのだった。
「俺たちに出来るのはお膳立てまでだ。だが、決して邪魔はさせないから、安心して任せてくれ」
レオニードの言葉に笑みを浮かべて鎧甲冑を見につけるヴィクトル。
形式にのっとり執り行われる決闘、今回は剣の試合で決着をつけるようだ。
盛り上がる野次馬、そんななか不穏な動きをしている奴らが何人かいた。
しかし、それを見逃す冒険者たちではなかった。
少々はなれたところから、こっそりつぶてで狙いを定めていた怪しい男。
その背中に押し付けられたのは、刀の柄であった。
「‥‥邪魔をするようであれば、どうなるかわかるな?」
ひっそりと耳元でささやかれる言葉に男はつぶてを落し。
そしていよいよ決闘も終盤、やはり実力では勝てないパヴェルは防戦一方。
そんなときに、突然野次馬から飛び出した人影が二つ。
予想していたように乱入があったのだ! しかし冒険者たちはそんなことは予想済みだ。
「卑怯ですよ! 助太刀させて頂きます!!」
手の包帯を解き、敵の攻撃をかわしての手刀で相手を昏倒させる崔。
「邪魔はさせんぞ! ほれ、ヴァイス。ボコってしまうのじゃ〜」
「邪魔はさせない!」
目の前に飛び出してきたティートに気を取られた瞬間、天地さかさまに投げ飛ばしたのはヴァイス。
こうして2人の刺客もあっという間に打ち倒される。
そして、決闘の場でもパヴェルは剣を弾き飛ばされ、ヴィクトルが突きつける剣の元、敗北をかみ締めるのだった。
「貴方たちの助けが無ければどうなっていたことか。心から感謝している」
冒険者たちに深々と礼をするヴィクトル。無事決闘が終わり、冒険者たちの依頼も終わったのだ。
「ヴィクトル殿にはこれからも騎士の誇りを大切にして欲しい。私も影ながら応援しているぞ」
香月の励ましの言葉を聞き、あらためてヴィクトルは冒険者たちに深く感謝するのだった。