苦悩する好事家
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■ショートシナリオ
担当:雪端為成
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:7人
サポート参加人数:4人
冒険期間:09月18日〜09月23日
リプレイ公開日:2006年09月26日
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●オープニング
変わった物事に興味を抱く人。そういう人は意外にどこにでも居るものだ。
さまざまな分野で、わが道をひた走る物好き、それが好事家。
いわゆるディレッタント、今回はそんな好事家の一人からの依頼であった。
「とってきてほしいものがあるのですよ」
年のころは20代後半、栗色の巻き毛の人のよさそうな人間の青年が依頼人。
彼の名前はキリーロ・ガブリロフ。年若いながら成功を収めた商才あふれる青年貴族である。
あまり爵位の高くない貴族の家に生まれ、幼くして両親とは死別。
ところが、彼は商業の才能があったらしく、開拓で使われる木材の流通で一山当てたとか。
今では立派なお屋敷をキエフ郊外に立てて忙しい日々を送っているとのうわさなのである。
そしてうわさがもう一つ。彼はかなりの好事家だとか。
「はぁ、一体どんなものをどこでとってくればいいのでしょうか?」
「それでは説明いたしましょう‥‥とって来て貰いたい物は彫像なのですが、作者は40年ほど前に活躍したドワーフの彫刻家で‥‥」
とうとうとまくし立てられる説明。受付は自分のうかつさを呪ったとか。
「‥‥彼の作風は豪快にして繊細、作品数こそ多くないもののその強烈なイメージは‥‥(中略)‥‥悪魔と契約を結んでいたといううわさもあるほどの技のさえ、その作風は晩年に近づくにしたがって‥‥(中略)‥‥見るものを恐怖に引き込み、狂気すら感じさせる強烈なイメージ。その作品の中で今回のは‥‥(中略)‥‥その場所にその作品が置かれた逸話について説明しましょう。そこに教会が立てられたのは‥‥(中略)‥‥そこでは大きな火事があり、打ち捨てられたらしいのですが、石だったため最近、たまたま残っていることがわかったのだが、どうやら長年打ち捨てられていたせいか、ゴーストがいたとか。そうそう、ゴーストといえば、彼の作品については伝説があって‥‥(あと全部略)」
「ちょ、ちょちょちょっと待ってください!」
「む? まだまだ序盤だが」
「いえ、そうではなく‥‥えーっと、とにかくそのうち捨てられた教会に行って石像をとって来てほしいと。ただゴーストが居るらしい、ということでよろしいのでしょうか?」
「うむ、そう説明したと思うが? では続きを話そう。彼の晩年の評価は真っ二つに分かれるのだが‥‥」
がっくりとうなだれつつ、右の耳から左の耳へとキリーロの言葉を聞き流す受付の青年であった。
さて、どうする?
●リプレイ本文
●キエフからの道行き
「はぁ‥‥くちばしが鋭く捻じ曲がった頭部の角が“先進的でざいん”であると‥‥」
「うむ、また聞いた話ではかっと見開いた目と折れ曲がった足の様子が‥‥」
依頼人に話を聞いているのは緋野総兼(ea2965)だ。
「では、依頼のほうは承った。安心して待っているのだ♪」
「頼んだぞ〜!!」
そして一行はキエフのギルド前で集合した。
挨拶もそこそこいよいよ出発である。
「さて、行きますかぁ〜」
元気良く第一歩を踏み出したのは鷲尾出海(ea2330)。幾度か武道大会で腕を磨いたものの、冒険は初めてなのである。
「おお、鷲尾殿。行きましょう〜!!」
応えるのは総兼。ジャパンからはるばるやってきて、元気に第一歩だ。
そしてジャパン組の2人が歩みを進めた方向、なぜかそれはとんでもなく見当違いだった。
そう、2人ともとんでもない方向音痴。他の3人は彼らを置いてすたすた先に進む2人に思わず唖然。
「‥‥ちょっと待て、そこの2人、何処へ行く?」
突っ込んだのはエイリア・ガブリエーレ(eb5616)、愛槍の石突でごすっと2人を小突いてみたり。
「ありゃ、こちらではなかったのか」
「ははは、総兼殿、ドンマイ、ドンマイ!」
ちなみに先に歩き出したのは出海であるが、なぜか彼はぽむぽむ総兼の肩を叩いていたり。
ともかく一同は依頼人のつてで借りた荷車を引いて、依頼の場所へと向かうのであった。
●道中にて
「‥‥やっぱり依頼品を運ぶのはは僕の仕事ですかね。他に力仕事出来そうな人は‥‥いないようですね」
のしのし進むアルバ・シャーレオ(ea8003)は一行を見回してそういうのだが。
「ははっ、そうふてくされるなって。頼りにしてるよ、アルバ!」
チルレル・セゼル(ea9563)はかっくりと肩を落としたアルバを励ますように応えた。
「まぁ、これも試練です。しかし‥‥綺麗な像ならまだしも、悪魔的デザインとは」
「ま、これも仕事仕事。文句言わずにやらないとな」
眉間にしわを寄せて呟くアルバだったが、チルレルの言葉に苦笑を浮かべて晴れた空を見上げるのだった。
「いやぁ、はるばるロシアまで来たのだし、魔法はまだ使えないがやるだけやってみるのもよかろうて」
「なるほど〜。しかし私も世界中をふらふらしていますが、こんなところで同郷の方に会うとは思いませんでしたよ」
図らずもこのような異郷でめぐり合ったジャパンの同胞同士のんびり思い出話に花が咲いたり。
「よしよし、スラーヴァ。お前は働き者だな」
そしてそんな彼らの言葉を聴きながら馬を労うエイリア。
荷車をごろごろ引くのはエイリアの愛馬スラーヴァと出海の馬。
こうして何事も無く進んだ一同は、無事依頼品があるという教会跡地へとたどり着くのであった。
●教会にて
教会跡についたのは次の日の午前。
野営をした一同は、朝も早いうちから移動を初め、早々に場所へとたどり着いたのだ。
「もう使う人の居ない教会とはいえ‥‥教会のこの惨状は痛ましいな」
敬虔な信徒であるエイリアはそうぽつりと呟く。教会の跡地はいまは無残な廃墟と化していたのだ。
外壁は残っているものの、天井は落ち装飾品も根こそぎ持ちされているのだろう。
がらんとした空虚な空間に、一同は静かな寂しさを感じ取ったのであった。
「‥‥まぁ、悲しんでばかりもいられまい。さっそく石像を探すとしようか」
「あ、わたくしが依頼人のキリーロ殿から聞いたところでは‥‥」
いざ探し始めようとするエイリアに、依頼人から聞いた話を告げる総兼。
話によればいかにもガーゴイルといった様子の石像だとか。
「あれ? ガーゴイル風? 本当の意味で、ガーゴイルだったら、屋根の上にあるんじゃ‥‥んー‥‥降ろせない重さじゃ、ない、よな?」
ともかく、一同は日の高いうちに手分けして石像を探しはじめるのだった。
数時間が過ぎて、太陽がじょじょに下がり始めた昼過ぎ。
「あ、みなさん! ありましたよっ!!」
アルバの声が響く。場所は崩れかけた教会の壁面のすぐそば。
おそらくは物置のようにして使われていただろう。
はずれのほうの部屋の跡にて崩れた壁の破片に埋もれるようにしてその石像はあった。
「ふむ、あまり傷とかもありませんね‥‥しかし不細工な石像ですねぇ」
きぱっと言う出海。まぁ、全員同感のようだったのだが。
「それじゃ、みんなで積み込むかい? ま、これだけ人数がいりゃ楽だと思うがね」
繋いである馬たちと荷車を親指で指ししめすチルレル。それにはエイリアが応えて、
「そうだな。早々に積み込んでしまえば‥‥」
「あ、そのまえに大事なことを忘れていますよ」
声を上げたのは出雲だ。指を一本立てて彼は言うのに総兼が疑問をはさむ。
「ん? なにか忘れてたことがあったかな? ああ、鷲尾殿はゴースト退治も‥‥」
「いえいえ、お昼ご飯をまだ食べていません」
にっこりと出海は笑顔でそうきっぱりと言ったのであった。
そして積み込む前に一同はご飯を食べることにした。
場所はちょっと気味が悪いが石像の近くにて。料理は出海お手製である。
保存食もこうすればうまくなるんだなぁ、なんてチルレルが感心していたり。
肝心のメニューはというと、保存食を戻してボルシチ風の料理に仕上げたりとなかなか手が込んでいる。
そうして一同は石像を積み込むのに備えて、英気を養いつつ料理を食べるのであった。
「これでゴーストがスプーン持って現れたら仲良くできるんですけどねぇ」
出海の言葉にみんなが笑顔を浮かべたり。でも、なにか忘れたままである。
突然日の光がかげった。大きな雲が太陽をさえぎったのだ。
ふっと暗がりが生じる廃墟、そこにうめき声のような音が響き渡った!!
ぉぉぉぉぅぅぅぅぅっ!!
ぶわっと姿を現したのはレイス。凶暴化した幽霊が二体、ゆらゆらとゆれながらやってくる。
そしてそこで出海が一言。
「オメェに食わせるボルシチはねぇ!!」
もちろん、レイスは何も言わずに襲い掛かってきた!! 戦闘開始である。
「うーん、冗談が通じないなぁ。まぁ、仕方ないから相手してあげましょうか」
「そんな悠長なことを‥‥まぁ、とりあえず僕は石像を守りますので」
のんきな出海に一言言うとアルバはホーリーフィールドを唱える。そしてそのまま、なんとなく石像とにらめっこ。
負けませんよ、なんて言ってるアルバもずいぶんと悠長な気もするが、まあそれはそれ。
「さーって、『鋭!』」
ゆらゆらと近づいてきていたレイスにソニックブームを放ったのは出海。
それで注意を引かれたのか、一体が寄ってくる。
「では、こちらは私が相手するとしよう。さて、さまよう亡者には引導を渡してくれよう!」
ぴしっと槍を構えるのはエイリア。もう一体へと向かうと魔力を帯びた槍を両手で振るう。
2人の前衛は、ときには回避されつつもダメージを与える。
そんななか、戦いの場を見守っているチルレル。
「うーん、この場じゃファイヤーボールは使えないな‥‥よし、総兼も頑張れっ!」
「はい! ‥‥て、わたくし?!」
突然チルレルから指名されて慌てふためく総兼。
しかし、チルレルからじっと期待の視線で見つめられて、総兼はトロイツカヤを腰で構えると突貫!
「魂とったらーっ!」
「ヤッチマイナー!」
なんだか妙なノリである。そしてともかく総兼はエイリアが相手しているレイスへと突進。
そして見事にドス‥‥もといトロイツカヤはレイスへと突き刺さる!
ぃぃぃぃぃ‥‥静かな叫びを上げながら空気に霧散するレイス。
「おお、もしかして止めを刺したの、わたくし?」
「うむ、いい一撃であったぞ」
一方出海はどうなっていたかというと、ちょうど場面は至近距離までひきつけたレイスに渾身の一撃。
「これで止めです、『絶!』」
うなりをあげて旋回するメイスは至近距離から衝撃波を生み、それがレイスを四散させる。
こうして二匹のレイスは両方とも無事に退治されたのだった。
「さて、準備はできましたし明日には帰れそうですね。依頼人さんに渡したいものもありますし」
出雲がなにかいたずらを思いついたかのように笑顔を浮かべて言った。
一行は無事荷車に石像を積み終わり、野営をしていた。
「そうですね、私は依頼人にコレクションの話でも聞かせてもらいましょう。ちょっと興味もでましたし」
アルバがそういって空を見上げる。夜空には満点の星空が広がっていた。
「んー、とりあえず帰ったら一杯やりたいね。どうだい、誰か一緒に飲むかい?」
チルレルがそういうと、どうしようかと一同も顔を見合わせたり。
「ふむ、ともかくわたくしは初依頼が無事に終わって一安心だ。依頼品もこのとおり無事だし」
ぺしぺしと石像をたたいて感慨にふけるのは総兼。
「ま、なるようになったな」
にっこりとまぶしい笑みを浮かべるエイリア。これにて依頼は無事終了であった。