霧の中の影

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月03日〜10月08日

リプレイ公開日:2006年10月11日

●オープニング

 キエフの街路、夕日が地平線の向こうに沈んだ後の路地はひどく暗い。
 そんな道の一つを手にランタンを下げて進む一人の男。
 彼は今日、仕事が少々遅くなったために急いで家へと帰る途中であった。
 少々夜風が寒さを帯びてきたキエフの夜。

 そんな彼が人気の無い路地を進んでいると‥‥。
「‥‥霧?」
 さぁっと視界がさえぎられる。突然霧が出てきたのだ。
 数歩先も見通せない濃い乳白色の霧。一瞬にして周囲は真っ白な霧に覆われてしまったのだ。
 あわてて男は足を止める。
 ここは霧が出るような場所じゃないし、突然こんな濃い霧が出るなんて‥‥
 その瞬間、霧の向こうからひゅっと音がした!
 肩口に生じた熱。鞭のようなもので男はしたたかに打たれたのだ!
 つぎつぎに襲い来る一撃。
 男は悲鳴を上げながらとにかく走って逃げ出したのだった。

 ‥‥ききっ

 ネズミが鳴くような、人の押し殺した笑い声のような音が霧の向こうから聞こえた気がする。


 何週間のあいだ、この怪異は続いた。
 その場所の周囲には人が寄り付かなくなったのだが、困ったのはその近くにある職人街の住人。
 噂が広まったおかげで、人が寄り付かなく商売上がったりだとか。
 こうして、ギルドにはこの怪異の源を排除してくれという依頼がでることになったのだった。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea2965 緋野 総兼(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb5616 エイリア・ガブリエーレ(27歳・♀・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 eb5724 レイヴァン・テノール(24歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb5976 リリーチェ・ディエゴ(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb6447 香月 睦美(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb6842 ルル・ルフェ(20歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb6853 エリヴィラ・アルトゥール(18歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

バードル・ジャヤ(ea4108)/ リマ・アティール(ea5397)/ キラ・リスティス(ea8367)/ アドムン・ジェトルメン(eb2673

●リプレイ本文

●昼、冒険者たちの風景
「あの、お聞きしたいことがあるのですが‥‥」
 キエフのとある職人街。不可解な霧が多発するその場所で職人に聞き込みをしているのはルル・ルフェ(eb6842)とルンルン・フレール(eb5885)だ。
「ん、ああ。依頼を受けてくれた冒険者さんたちか。ありがとうなぁ」
「人通りが絶えてしまっては、皆さんも食いっぱぐ‥‥いえ、お困りでしょうし。少しでもお力になれればと」
 ルルが言う。その職人さんから聞き出しそうとしている情報は霧が発生する場所だ。
 話によれば、場所は決まらず被害者によって異なっているらしい。
「ということは、人を狙って移動しているというところでしょうか。それではやはり悪魔の仕業‥‥」
「皆さん、安心してください、私達が必ずこの怪異をはらしてみせますから!」
 ルルが思案すれば、職人を励ますようににこっと笑うルンルン。
 そして2人は話をしていた職人に礼を言って、他の冒険者たちのところへと戻るのだった。

「ふむ、やはり場所は不定のようだな。だが時間の方は目星がついた」
 冒険者たちは今晩、怪異の元に向かうために情報交換を行っていた。
 そこに戻ってきた2人の話を聞いて、そう答えたのは香月睦美(eb6447)、彼女は続ける。
「襲われた時間は、深夜過ぎに集中しているらしい」
「うーん、やっぱりこっちの依頼もクルードの仕業かな。キエフも色々治安が大変だなぁ」
 睦美の言葉を聞いて、応えたのはエリヴィラ・アルトゥール(eb6853)だ。
 彼女は最近ほかの依頼でもデビルと遭遇したらしく、その知識を元にいろいろと助言しているよう。
「あ、そうだ。これ渡しておくね」
 エリヴィラが睦美に渡したのは一振りの日本刀。
「む、かたじけない‥‥これがあれば悪魔に対抗できる筈だ。有難く貸していただこう」
 そしてほかの冒険者はというと。
「霧の立ち込める街角ー♪ ‥‥には何か危険な物が潜んでいるようですねー」
 リリーチェ・ディエゴ(eb5976)は弓を整備しながら隣の女性に話しかける。
「うむ、なにか特殊な趣向の迷惑さんかと思ったら、どうもデビルらしいな。これは成敗せねば」
 隣の女性はエイリア・ガブリエーレ(eb5616)だ。彼女は愛用の槍を脇において静かにクワスを飲みながら。
 その隣では、男性陣が会話をしていたり。
 男性は奇しくも2人とも女性と見まごう容姿、そのため華やかな一同であるが、まぁそれはおいておいて。
「んー、悪魔か、悪魔ねぇ……わたくしはお話でしか聞いたことがないから本当にいるものなのかとちょっと吃驚」
 緋野総兼(ea2965)はそう言いながらどの武器が良いか、と選びつつ。
「私もあまりデビルと遭遇したことはありませんね。ですが、騎士として人々の平和を守るのが務め。皆様が安心して暮らせるように頑張りませんと」
 応えたのはレイヴァン・テノール(eb5724)、指に嵌めた指輪を眺めながら。

 彼らが動く予定の時間は夜。そのために昼は仮眠を取ったり情報収集をしたり。
 そして今の時刻は夕刻。日がキエフの町並みの向こうに沈もうとしていた。
 行動開始まではまだ数時間。思い思いの行動で彼らは英気を養うのだった。
「みんな! みんな! 発見発見、クルードは陽魔法が苦手みたいですよ、このサンレーザーがあれば!!」
 スクロールをばーんと出して胸を張るルンルン、すると総兼が。
「おお、それはすごい! ‥‥だが、その“さんれぇざぁ”とやらは夜も使えるのかな?」
「あ‥‥出るの、夜でしたね」
 ぺろっと舌をだして、ルンルンはスクロールを仕舞い込んだり。
 ともかく、そうこうしているうちに月が町並みを照らす時間となり、彼らは動き出すのだった。

●夜、霧と影
「今回の騒動の元凶‥‥おのれ悪魔! この聖書で成敗してくれましょう!」
 ぐっと聖書を握って呟くのはルル。
 冒険者一行は職人街をぐるりと回り、方々で住人たちに声をかけて回った。
 今日は危険だから外にでないでくれ、この怪異は我々が必ず解決するから、と。
 そうこうして数刻。月が微かに辺りを照らす中、赤々と燃え上がり闇を切り裂いているのは松明とランタン。
 冒険者は纏まって静かなキエフの路地を行く。響くのは自分たちの足音だけ‥‥。
 と、そのとき。遠くから聞こえる音。何かがこそこそと動き回る音と微かな笑い声。
 一斉に冒険者たちの持つ魔法の指輪、石の中の蝶が羽ばたく。
 きぃきぃとネズミの鳴き声のような笑い声に混じって響いて来たのは、悪意に満ちた声だった。
「かかった、かかった。またマヌケな奴らがひっかかった‥‥」
 足元を這い上がる微かな冷気。見る見るうちに視界が霧に侵されていく。
 そしてあっという間に霧が周囲を覆い、冒険者たちは自分の足元も見えないほどの濃い霧に包まれた。
「不便だね、不便だねェ‥‥お前たちは霧の中じゃなぁんにも見えない‥‥」
 風切り音が弾ける。そして彼らは思い思いの形で体勢を整え攻撃に備え、戦闘が始まった!

「夜霧といえば風流なものだが、今回ばかりはそうも言ってられんな‥‥」
 松明を掲げた睦美は霧の向こうに見える二つの人影に近づく。
 その影は弓を使うリリーチェとルンルン。3人は背中合わせに立つと辺りをうかがう。
 そしてその2人の弓の射線に入らない後方に二組。
「エイリア殿、石の中の蝶がさらに激しく‥‥」
「ふむ、やはり予想通りクルードで正解だったようだな。さて、ルル殿。離れぬように気をつけて‥‥」
「わかりました。回復は任せて下さいね。命大事に作戦でございます!」
 総兼とエイリアはルルをかばいながら。
「背中を取られないよう互いに背を合わせて戦いましょう」
「ええ、そのほうがいいね‥‥でも、なんだかたくさんいるみたいね」
 レイヴァンとエリヴィラも背中合わせに立ってそれぞれ獲物を構えて周囲をうかがう。
 そして、霧の周囲でクルードたちが動く気配がして‥‥一斉に鞭のような攻撃が周囲から一斉に降り注いできた!

 びしびしと降り注ぐしなる一撃。それはクルードの尾の一撃だ。
 霧の向こうから霧を裂いて襲い来る一撃が冒険者たちの体につぎつぎにまきついた!
「く‥‥まだやられるわけには行きませんよ!」
 声を上げるレイヴァン。鞭の一撃の攻撃はそれほど強烈なものではない。
 しかし、反撃が出来なければ負けるのは冒険者側、冒険者たちは我が身を犠牲にしての決死の反撃に移る。
 飛来した鞭の一撃を片手で受けて強く引くレイヴァン。そして霧の向こうにクルードの本体が見えた瞬間。
「そこです!」
「ぎぎぃっ! 歯向かうとは生意気なっ!!」
 即座にレイヴァンが放ったのは高速詠唱のオーラショットだ。その一撃を受けて声を上げるクルード。
 初級のオーラショットが効いている。それはクルードたちの生命力はそれほど高くないということだ。
「これでもう離さないよ!」
 鞭がまきついた左手。その手で相手の尻尾を握りこむと、ぐいと引くのはエリヴィラ。
 魔力の篭った守りの指輪で防御を固めた彼女に鞭の攻撃はほとんど効いていない。そしてその装甲を活かして反撃だ。
「姿さえ見えれば‥‥覚悟しなさいっ!」
 そういってエリヴィラは霧の向こうに見えた本体に向かって刀を振るう! 手には確かな手ごたえ、悪魔の声が響く。

「ききっ!! 反撃はしないのか?!」
 響くクルードの挑発、鞭の乱打を刀で捌きながら睦美はひたすらチャンスを待つ。
「幾ら攻撃しようと‥‥こちらが倒れる前にお前たちを倒せばすむことだ。安い挑発には乗らん」
 そしてその瞬間、睦美の後ろから飛び出して霧の向こうに弓を向ける2人。
「‥‥位置を掴ませない為だろうけど、攻撃する時の一瞬の気配は消せないんだから!!」
「喋ったりしたら、幾ら霧の中でも場所ぐらい分かりますよ〜」
 ルンルンとリリーチェが、弓を引き絞る。そして鞭の攻撃と体で受けとめた睦美が言う。
「‥‥幾ら見えなくても何度も攻撃をされていれば、大体の方向と距離はつかめる‥‥逃がさん」
 霧の向こうに微かに見えた影を狙って放たれた二条の矢。その両方ともが的確にクルードの体を射抜く。
 そして矢を追うように飛び出した睦美、彼女は矢を受けたクルードへと肉薄し刃が閃く。
 倒れる2匹のクルード。睦美の斬撃は見事に霧の中でクルードを仕留めていた。

「弱そうなのを庇いながら戦えるのか、女ぁ!! いい加減諦めちまえよぉ!!」
 下卑た声を上げて嘲笑するクルード。その攻撃を受けているのは総兼とエイリアだ。
 実は2人とも鎧兜を着込んで着ているためクルードの攻撃はほとんど効いていない。
 しかし、後ろのルルを庇っているため思うように動けないと思われたのだが‥‥。
「ふむ、そこまで言うなら反撃してやろうではないか‥‥はっ!」
 エイリアは腕に巻きついていた尻尾を豪快に引っ張る。剛をもって名を馳せるコナンらしい豪快な力技だ。
「それでは、わたくしもひっぱろう。せぃ!」
 渾身の力を込めて尻尾を引っ張ったのは総兼。こうして強引に引っ張り出された2匹のクルード。
 霧の中からやっと引きずり出されたクルードは牙を剥き出しにすると反撃に移り、1匹が総兼へ。
「人間ごときにやられてたまるかぁ!!」
 その攻撃を金属の小手で受ける総兼! がっしりと受け止めると、手にした魔力の篭ったナイフを振りかぶる。
「ふむ、鼠のような風貌なだけに、窮鼠猫を噛んだというところかな? ならば、猫の一撃受けてもらおう!」
 トロイツカヤの一撃はクルードを路面に叩きつける。そこに手をかざしたのは今まで神への祈りを唱えていたルル。
「不義なる悪魔よ、裁きの一撃を受けなさい! ホーリー!!」
 その声と共に、クルードの体が白い光に包まれ、やがて動かなくなった。
 そしてもう1匹のクルードはエイリアへと襲いかかったのだが。
「甘いな。その程度の攻撃では、かすり傷すら負わんよ?」
 身をもってクルードの爪を受けたエイリアはその一撃を鎧の表面で弾く。
 驚愕したかのようにクルードが動きを止めたその刹那、身を沈めたエイリアはクルードと交差するようにしてカウンターを放った!
 魔力の込められた槍はなんと一撃でクルードを真っ二つに切り裂く!

 周囲をうかがう冒険者たち。どうやら動く気配が無い所からもう周囲にはクルードはいないようである。
 霧がゆっくりと消えていく‥‥
 
 これ以降、この場所では霧の怪異が発生することは無いという。
 依頼は無事終了、冒険者たちは勝利の祝杯をあげ、依頼の成功を祝うのであった。