裏切りの騎士

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:7人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月17日〜10月22日

リプレイ公開日:2006年10月25日

●オープニング

 闇夜、キエフのとある貴族に仕える騎士たちの詰め所にて口論する影。
 ろうそくの揺らめく明かりに照らされた影。
 片方の影がもう一方の胸をどんと突くと、よろける片方。
 突き飛ばした片方がさらに言い募ると、なにか反論するもう一方。
 その瞬間、突き飛ばした方が剣を抜くと相手を切りつける!
 すると切りつけられた影は剣の一撃を受けながら自らの剣で反撃の一撃!

 その時突然、風が吹きろうそくが消えてしまう。
 闇の中、響くのは走って逃げる足音‥‥。

「裏切った同僚を探して捕まえて欲しい」
 ギルドを訪れた30代の男はとある貴族に仕える騎士。どこか調子が悪いのか青い顔をしている。
「実は先日、その同僚が雇い主から預かっている金を使いこんでいるのに気付いて、問い詰めたのだが‥‥」
 そういうと肩口を撫でる依頼主。
「奴は俺のことを斬りつけたんだ。それでも、なんとか反撃したのだが‥‥まんまと逃げられてしまった」
「なるほど、お怪我の方は大丈夫なのですか?」
「ああ、傷は魔法で塞いだのだが‥‥まぁ、まだ本調子ではないが。それで、逃げた同僚の所在だが‥‥」
 そこで依頼主は声を潜めて受付に言う。
「どうやらキエフ市街の貧民街あたりに逃げ込んだらしい‥‥血のあとを追ったところ方角からの推測だがな」
 そして依頼主は依頼料の入った皮袋を受付に渡すと、静かに付け加えた。
「逃げた同僚は傷を治せないはずだから、かなり衰弱してるはずだ。もしかすると既に死んでいるかもしれん」
 だが、と前置きして続ける依頼主。
「奴のしたことは許されない。見つけ次第‥‥殺してくれ」
 その言葉に、ぎょっとして依頼主を見やる受付。
 すると依頼主は血走った目で受付の視線を受ける。なぜか依頼主の表情には焦燥が漂っているようであった。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea2965 緋野 総兼(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb5616 エイリア・ガブリエーレ(27歳・♀・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 eb5724 レイヴァン・テノール(24歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5887 ロイ・ファクト(34歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb6447 香月 睦美(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb6842 ルル・ルフェ(20歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb6853 エリヴィラ・アルトゥール(18歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

キラ・リスティス(ea8367)/ アド・フィックス(eb1085)/ ガラハド・ルフェ(eb6954)/ エマニュエル・ウォード(eb7887

●リプレイ本文

●行方を追って
「冒険者ギルドはいつから殺し屋になったのでしょうか? いかに罪を犯したといっても殺してしまっては‥‥」
 ルル・ルフェ(eb6842)がそういいながらあたりを見回す。
 現在彼女は、キエフのとある貧民街にやってきていた。そこに隠れているだろう騎士を追って。
 昼なお薄暗い貧民街でルルは心細げに周囲を見回すのだが。
「うむ、たしかに。それに露骨に怪しい依頼人だし、やっぱり逃げた騎士を捕まえて詳しい話を来た方が良いな」
 ルルと行動を共にしているのは緋野総兼(ea2965)。彼も周囲を見回すのだが、その様子は楽しんでいるような。
「しかし、貧民街って言うと、あれかな? 金目の物を持って行くと「飛んで見ろ」とか言われちゃったりしてちゃりちゃり鳴ると「おら、金持ってんじゃねーか、出せやぁ」とやられるところだったり?」
「うーん、それは随分とおバカなカツアゲですが‥‥そのようなことが無いことを祈りましょう」
 ルルは苦笑すると、隣にいる彼女の犬の頭をわしわし撫で。
「そこでですね、緋野様。私にアイディアがございます!」
「む? あいでぃあですか‥‥それはどのような?」
「それはですね、騎士様の血の跡を、私の駄‥‥こほん、愛犬に辿らせ跡を追います!」
 ナイスなアイディア! とばかりに胸を張るルル。それを見て、総兼はふと。
「おお、それはいい考え。‥‥それでその血の跡はいずこに?」
 ‥‥‥‥2人はしばし硬直。貧民街のごちゃごちゃとした雑踏にはゴミやらなにやらが散乱している。
 こんなところではとてもじゃないが血の跡は追えそうにも無く、ボルソイのボル太もどこかいやそう。
「‥‥ま、まあ気を取り直して、貧民街捜索つあー!!」
 こうして2人は、とにもかくにも貧民街の奥へと乗り込んでいくのだった。

「‥‥あからさまに怪しいよね、依頼人。胡散臭いなぁ」
 貧民街に捜索のため乗り込んだチームのもう片方、エリヴィラ・アルトゥール(eb6853)が言えば。
「うむ、露骨に怪しいというか、おかしいというか、変な依頼人だったな。‥‥ん、一つ食べるか?」
 もう一人はエイリア・ガブリエーレ(eb5616)。手にはなぜか焼き菓子が。
「ここらで怪我をしている男の人をみなかったか? ‥‥ふむ、見てないと。あ、菓子はまだあるからな」
 ひもじそうな子どもたちに焼き菓子を分けてあげつつ情報を聞くエイリアだったがなかなか見つからず。
「‥‥なかなか見つからないのよね〜‥‥せっかくお金も握らせたのに」
 エリヴィラはお金を渡して幾度か話を聞いたのだが、特に収穫はないようだった。
 数刻に渡って探しているのだが、見つからずそろそろイライラと2人が焦れ始めたとき‥‥。
「おいおい、ねえさんたち。ちょいとあそんでくれねぇか?」
 いかにもな悪党の登場である。その数4名、どれも薄汚い男である。
「‥‥ここがどんなトコだかわかったてんだろぼふぁぁぁ!!」
「あ、あにきーーー!!!」
 ぶっ飛んでいったのはなんか喋っていた男。原因は鳩尾ど真ん中に蹴りを見舞ったエイリアのつま先だ。
「て、てめぇら!!」
 一斉にナイフやらを抜き放つ男たちだったのだが‥‥。
「ねえ、エイリアさん。この人たちからも情報が聞けると思わない?」
「うむ、アルトゥール殿。私もちょうどそう考えていたところだ」
 エリヴィラは刀を抜いて刃を返し、エイリアは槍を構えて石突を向け、そして数分後。
「す、すいまふぇんでした‥‥ぎゃー、踏まないでー!!」
 鼻血をだくだく流しながら謝り倒す4人の男たちは、偶然その逃げた騎士を思しき男を見たとか。
「ふむ、ではルル殿と総兼殿を読んでこなければな」
 最後にエイリアは不埒な輩を踏んづけると他の2人を呼びにいくのだった。

「‥あと、半日遅れていれば危ないところでしたが‥‥おそらく大丈夫でしょう」
 ふぃーと額を拭うルル。応急処置は総兼とルルの手によって為され、新しい布で傷口は覆われていた。
 ルルの魔法が無ければ危険なところ。なんとか逃げていた騎士は命を取り留めたのだが‥‥。
「き、君たちは‥‥」
 息も絶え絶えの様子で問いかける騎士。それを前にしてエイリアが。
「我らは貴殿の同僚から、貴殿が横領を働いたので捕まえて欲しいと頼まれたのだ」
 ぴしりと言い放つと、男は動かぬ体を無理に起してぎりと一行を睨みつける。
 それを慌てて押さえつけるルルと総兼。そしてルルが言う。
「たとえ貴方が罪人だとしても神は慈愛の手を差し伸べます。それに‥‥我々はまだ貴方が犯人であると決め付けているわけではありません」
「‥‥今、私たちの仲間が情報を集めている。もちろんあなたも容疑者だけど‥‥」
 エリヴィラが言えば、総兼も付け加えて。
「ということで、とりあえず話を聞こうと思っているのだが‥‥本当に横領したのは貴殿なのか?」
 総兼の問いに口をつぐんでいた騎士がゆっくりと答える。
「‥‥我が剣と、神に懸けて‥‥私はやっていない!」

●本当の悪は
「借金? ‥‥賭け事に嵌っていたといったな?」
「ああ、そうだな。同僚からも結構金を借りていららしいし‥‥」
 依頼人のほかの同僚や、普段を知る酒場の亭主などから話を聞いているのは香月睦美(eb6447)だ。
「それでは、いま行方知れずになっている彼については‥‥」
「‥‥あの人が逃げるなんてことはありえないと思うんだけどなぁ。責任感も強くて‥‥」
 そうこうして、いろいろと話を聞いた彼女はとある人物のところに。
 その相手はレイヴァン・テノール(eb5724)だ。
「香月さん、どうでした?」
「ああ、どうやら予想は当ったようだ‥‥おそらく本当の犯人は依頼人の方だ。依頼人には借金があるらしい」
「やはり‥‥では、私はこれから依頼人の上司との面会なのですが、その話も含めて伝えておきましょう」
「では私はこのままロイ殿のところに行く。あとはよろしく頼む」
 そして香月は去り、レイヴァンは一人依頼人の上司であり雇い主である貴族への面会へと向かった。
 ルルの父親やギルドからの保障などによって、それほどの問題も無く面会にこぎつけたレイヴァン。
 彼が語ったのは、現時点で冒険者が得ている情報と、依頼人について。
 そのことを聞いてその貴族は言った。
「私が横領の報告を聞いたのは、お前たちの依頼人である騎士からだ‥‥そうだったか」
 静かに俯く貴族、部下の恥は自分の名誉にも泥を塗ることになる。
 そしてその彼が下した決断は‥‥。
「‥‥私から別に依頼を追加させてもらおう。依頼内容は本当の犯人の捕縛、そして‥‥」
 貴族が差し出したのは、金貨の入った皮袋。もちろん、この金貨にはこの件に対しての口止めの意味も含まれるのだ。
 冒険者がすることは、それは命令に従う事ではない。彼らはそれぞれの正義を元に動くのだ。
「ちなみに‥‥テノール殿といったか。貴殿は、このたびの彼奴の行いに対してはどう思っている?」
「騎士である以上、騎士である事に誇りを持ち‥‥清く正しく自分の行動に恥じない様に振舞うべきだと思いますね」
 静かに先を促す貴族。
「そもそも、騎士は君主の為‥‥そして守るべき民、信じる仲間、愛する者の為に‥‥戦う者だと‥‥私は思います」
 その言葉を聞いて、貴族は頷くと皮袋をレイヴァンに渡して、頭を下げるのだった。
 こうして、冒険者たちには新たな目標が出来た。

 依頼人が寝泊りしている場所に程近い場所で、寒風吹きすさぶこの季節にも関わらず身じろぎもせずに立つ男がいた
「‥‥ふむ、やはりか」
 香月の言葉に応えたのは、ロイ・ファクト(eb5887)。彼は依頼人の監視を行っていたのだ。
「ああ、エイリア殿たちが無事逃げた騎士を見つけて保護したそうだ、やはり真犯人は依頼人だという可能性が高いな」
「双方傷を負っていると‥‥それならば先に仕掛けたのはおそらく依頼人の方だったのだな」
「そうだったんだろうな。それでやはり私も依頼人を雇い主のところに連れて行って引導を渡したいのだが‥‥」
「ふむ、それなら私に任せてくれ」
 そうロイは言うと、彼は依頼人の元に直接向かったのだった。そのあとを香月は慌ててついていく。
 依頼人は彼らを見ると勢い込んで。
「おお、無事倒せたのか?」
「いや、見つけたのだが、すでに口も意識が戻らないほど衰弱しているのでな。一応捕まえてあるので、確認を願いたい」
 そう言ってロイは踵を返す。もちろん、依頼人は誰もいなくなった自分の部屋で笑みを浮かべたのだった‥‥。

●屋敷にて
「き、きさまっ! 騙したな!!」
 雇い主の前に引き出された依頼人は、そこに無事な姿の逃亡した騎士を見つけるとロイに向かって叫んだ。すると、
「依頼内容は捕獲だったと記憶しているが? 無事、犯人が捕まったのだ、なにをそんなに焦っているのだ?」
 しかし、依頼人はすでにさとっていた。全てが明るみに出ているということを。
 彼に対して失望と怒りの混ざった視線を向ける雇い主と同僚、それが全てを表していた。
 そして依頼人がとった行動は、剣を抜いて、近くのロイに切りかかったのだ!
 一瞬の交錯、そして弾き飛ばされたのは依頼人の方だ。
 盾で相手の一撃を防ぎ鞘に収めたままの刀で、依頼人を殴り飛ばしたロイは言う。
「俺も反撃の一撃はそこそこ得意なんでな‥‥どうだ? 実際に受けて比べてみた感想は」
 慌てて、立ち上がろうとした依頼人、そこに突きつけられたのは。
「怪我もして更にお金を出して冒険者を雇わなければと言う、何とも間抜けな状況だったな。悪いことは出来ぬと言うことだ」
 籠手で依頼人の剣を抑えて、総兼は言葉の刃を振るい。
「罪は隠しきれるものではない。しっかりと償うのだな」
 喉元に突きつけられた香月の日本刀で、依頼人はついに諦めるのだった。
 本当の犯人を捕えた彼らには口止めも含めて、雇い主である貴族から依頼料金が支払われた。
 罪を犯した騎士は、もちろんその償いをさせられ。罪を被せられた騎士は無事に快方へと向かっているとか。
 こうして、無事に依頼は解決したのであった。