fighting road――強くなりたい

■ショートシナリオ


担当:切磋巧実

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:03月21日〜03月26日

リプレイ公開日:2007年03月29日

●オープニング

●空っ風が吹きそうなギルドに少年は姿を見せた
 ――擦り傷や殴られたような痕を色濃く刻みながら‥‥。
「だ、大丈夫!?」
 さっきまで頬杖を突いていた受付の娘は慌てて駆け寄る。見たところ致命傷という訳ではないが、あまりにも華奢で少女に見紛うような少年の痛々しい姿に、母性本能が擽られたのかもしれない。キラリと零れる涙に思わず、きゅん☆ としてしまう。
「どうしたの? お姉さんに言って御覧なさい」
「お、お姉さんっっ!」
 外見年齢13歳位の容姿の少年は、受付嬢の豊かな二つの膨らみに顔を埋めて左右に頭を振った。ジジイやオヤジ、またはヘンタイの類なら悲鳴でもあげるものだが、そのまま包み込むように抱き絞める姿に、依頼を探しに訪れた冒険者は羨んだ事だろう。
 思わず受付の業務を忘れて数刻‥‥少年は落ち着いたらしく、受付娘に口を開く。
「‥‥冒険者を雇ってくれませんか?」
「え? あ、悪い奴等をズタボロにしちゃうのね♪」
 ピッと人差し指を見せて微笑む娘に、少年はサラサラと髪を横に振る。
「僕を襲った連中は倒してくれました。けど、僕は強くなりたい! 強くなった姿をあの娘に見せたいんです!」
 ――はい?
 少年の話に因ると‥‥。町を歩いていたら3人位の若者にあれよあれよと路地へ連れ込まれてしまい、金をせびられたという。余裕のある金など無い彼が僅かしかない勇気を振り絞って拒否すると、殴る蹴るの暴行を受けたとの事だ。恐らく身動き一つ出来なくなってから奪うつもりだったのだろう。
 ――痛みで朦朧とする意識の中、威圧的な連中の声が聞こえたんです。
『なに見てやがる小娘! 自警団にでも知らせるつもりか?』
『顔を見られたぜ、どうする?』
『何も言えねぇようにしちまえば問題ねぇよ』
『何かと物騒な世の中だ。町娘に何かあっても小さな事件の一つさ』
 瞳に映ったのは、僕と年齢的に大きく離れていないような女の子でした。ショートヘアーに円らな瞳の彼女は、愛らしい風貌をしていたと記憶しています。身体つきは衣服から窺うに、ふくよかというか‥‥むっちりしていて、きっと柔肌はぷにぷにしている感じでした。僕としてはお姉さんのような大きな胸が好きなんですが、ちょっと胸元は膨らんでいて、やたらと蕾のような色香を漂わせていたと思います。
 ――恐らく何人かの冒険者はツッコミたくて仕方がなかった事だろう。少年の妄想‥‥否、報告は続く。
 ジリジリと少女に連中が迫る中、恐怖で立ち竦んでしまったのかと思い、僕は何とか声を出そうとしたんです。
 その時でした――――。
 いかにも俺は襲い掛かりますみたいに両手を突き出して肉迫した男に踵を返すと共に、腰を捻って横薙ぎの後ろ廻し蹴りを放ち、次いで腰を低くすると男の脚を蹴り払い、もう1人には軸足を切り替え様にどてっ腹を貫く如き横蹴りを叩き込んだんです。連中は瞬きする間に全員崩れていました。
 ――恐らく何人かの冒険者はツッコミたくて仕方がなかった事だろう。お前は記録係かと‥‥。
 僕は立ち去ろうとする少女を呼び止めて、お礼を言ったんです。すると――――。
「気にしないで‥‥1人だけ残すつもりだったから」
 春風のような甘い声で、肩越しに凛とした眼差しを向け、僕を射抜いて言いました。
 ――恐らく何人かの冒険者は‥‥まあ言うまい。
 僕は、せめて名前を! と、どこかの円卓の騎士を呼び止める生娘のように訊ねたんです。彼女は――――。
「‥‥どうして? ゲロみたいに何の役にも立たない屑に名前を言わなきゃならないの?」
 そして彼女は去って行きました――――。

「ひっどいッ! だからその娘に強くなった姿を見せたいのね?」
「ひっどい? そんな事ないですよ。確かに僕はゲロみたいに何の役にも立たない屑だったと思います。だから、強くなって、彼女の名前を教えてもらえるようになれればと‥‥そして‥‥‥‥まあ今はいいです。‥‥だから冒険者に僕を鍛えて欲しいんです! お願いします! お姉さん!」
「分かったわ! お姉さんに任せなさい!」
 ――恐らく何人かの冒険者は受付娘にもツッコミたくて仕方がなかった事だろう。

●今回の参加者

 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea4164 レヴィ・ネコノミロクン(26歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6159 サクラ・キドウ(25歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb9534 マルティナ・フリートラント(26歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

カファール・ナイトレイド(ea0509)/ ジョージ・グレン(ea5212)/ 才谷 鷹真(ea5562)/ リィ・フェイラン(ea9093

●リプレイ本文

●ランティスを前にして
 とれすいくす虎真(ea1322)は線の如く細い目を和らげ、『ランティス君特訓(改造)計画 一日の流れ』を伝えてゆく。主に体力と精神に分かれており、講師を紹介されると共にランティス少年の視界が追う。先ずはミネア・ウェルロッド(ea4591)を捉え、愛らしい少女の微笑みに安堵したものである。
「ミネアはいちおー柔術の指南役だし、教えるのは上手いんだ♪ 訓練の間は師匠って呼んでいいよ♪」
 次いでサクラ・キドウ(ea6159)。愛らしさの中に凛とした雰囲気を醸し出す少女は、獣耳ヘアバンドもキュートだ。冷ややかながらハッキリと声を響かせる。
「‥‥胸の大きさなんて飾りです‥‥エロい人にはそれがわからないんです。‥‥という訳で、その根性きっちり修正しましょうか」
 円らな青い瞳にランティスが映り込む。一瞬の沈黙。何が、という訳なのだ――――。
「そして私こと虎真も出来る事で手加減無く抜かり無く誠心誠意全力無慈悲に鍛えようではありませんか。続いて精神鍛錬を方を」
 待て‥‥のほほんと何を言った浪人青年。しかし刻は無情に流れてゆく。
「ゲロみたいな屑‥‥なんとも言われましたね。動機はどうあれ、頑張る人は嫌いじゃないですよ。ビシバシ、行きましょうか」
 にっこりと笑むミカエル・テルセーロ(ea1674)。ふわふわの金髪は少女に見紛う風貌だ。否、少年は未だ同性と気付いていないだろう。ランティスは視界を流すと、快活そうなおねえさんの姿に瞳を歓喜させた。レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)が屈託無く微笑む。
「女の子ナンパする為に強くなりたいだなんて‥‥少し動機が不純かもね? なんにせよ、頑張ろうって思える原動力があるのは良い事だわ。あたしも『これが終わったらお酒が飲めるぞー』って思うと、必死にお仕事するしね☆」
 続いて紹介されたのは忍者の青年、陰守森写歩朗(eb7208)。ランティスは挨拶すると視界に育ちのよさそうな風貌の少女を捉える。マルティナ・フリートラント(eb9534)が感情を浮かべず口を開く。
「私は体力面で人を鍛えられる程の腕も技能もありませんので、自然と精神面の修養になりそうですね」
 聖者の法衣故か、少年には眩しく感じた事だろう。最後にロッド・エルメロイ(eb9943)に視界を運ぶ。上品そうなエルフの青年が瞳を研ぎ澄ました。
「彼女を振り向かせる為の強さを身に着けたいとは、若いながら感心ですが、動機の方は、頂けない。その当たりも含めて、育てる事にしましょう」
 野郎3名。女子5名。どんな猛者が訪れるかと不安を抱いていた少年にとって嬉しい誤算である。
 しかし、ランティスは未だ過酷なスケジュールを知らなかった‥‥。

●血と汗と涙の記録
 朝5時。僕は朝食の支度をするべく叩き起こされます。今朝の担当はロッドさん。あれ? サクラさんが徐に現れ「‥‥手伝おう」と、不思議オーラを放ちながら一緒に調理してくれたんです。
「‥‥‥‥むぅ‥」
 今まで一切した事がないらしく‥‥って、指を咥えて落ち込まないで下さいっ。
 なんとか紅茶をメインに、パン、サラダ、ウィンナー、ミルク、バター、ジャムを用意できました。初めはロッドさんが、今まで出来なかった事をやり遂げる達成感を与える為に、努力と根性を誘発する魔法を掛けてくれたみたいですけど、自力で踏ん張る根性を育てるって事で、今は掛けてくれません。
 瞳を閉じて香りを嗅ぐと、優雅に口へ運びます。
「ふむ、まだ合格点は与えられませんが、いいでしょう。‥‥お、美味しそうですね。い、いただきますか」
 彼は紅茶に厳しいですが女性には優しいみたいです。見習うべきかな。複雑な味の朝食を済ませて身嗜みを整えると、6時から朝の特訓です。
 順番だとレヴィおねえさんかな。イギリス語の読み書きとモンスターの知識を教えてくれるけど『書道』は精神修行なんだとか。相変わらずお酒の匂いがします。
「ん? リィに忠告されたからセーブしたんだけどダメかしら? ま、いいわ、出掛けるわよ」
 出掛ける? まさか朝から酒場に付き合わされるんじゃ‥‥。
 辿り着いたのはギルド。何やら受付と話すと、一冊の記録書を半分手で隠しながら見せてくれました。彼女は頬杖を突いたまま、悪戯っぽい視線を流します。
「ここまでよ。モンスターがどんなモノか分かったかしら?」
 僕が答えると悩ましげに眉をハの字に微笑みました。
「一朝一夕で完璧に覚えるのは無理よねぇ。でも、記録係って凄いと思わない? あたし達冒険者が受ける依頼に同行するけど、邪魔にも足手まといにもならないのよ(その代わり助言や手助けもしてくれないんだけど)。だからこそ、あたし達は安心して依頼の解決に打ち込めるんだもの☆」
 何か一つでも特技が見つけられたらいいんじゃない? とレヴィさんはウインクしたんです。
 戻ると、腕を組んだ陰守さんが待っていました。シャキンと音を放つかのように、解いた手に持つは『家小人のはたき』と『キキーモラの布巾』です。流石忍者!
「今日は掃除だ。ん? 不満そうだな?」
 陰守さんは訝しげな色を浮かべると、ズィと耳元に近付き囁きます。
「家事ができる男はお姉さんにもてるぞ。ほら、手伝うことで親密感が増すだろ?」
 なるほど! 『金の煙草入れ』も貸してくれて洗濯もやらされましたが、ただの家事好きのコレクターではなかったのですね。
 床を駆け回っていると、虎真さんがチェックに訪れました。微笑みながら指を床に擦りつけて口を開きます。
「駄目ですね、もっと体重を掛けて拭かないと埃は取れませんよ。体力特訓メニューを追加しましょう」
 ライニングダッシュの上に追加ですか!?
 掃除が終わると『荒布の杓子』『鉄人の鍋』『鉄人のナイフ』を借りて昼食作りです。流石コレクター家事!
 でも、慣れて来るとロッドさん同様に、家事コレクションを貸してくれなくなりました――――。

 ――昼の1時〜夕刻の6時までは体力特訓です。
「鍛えて欲しい、かぁ〜♪ 強くなりたいっていう気持ちは分かるんだけどね、ミネアも今だってそうだしさ。でも‥‥人に媚びるその根性を、まず治さないとね?」
 物凄く背筋が冷たくなるような微笑みを後に浮かべたのは、ミネアちゃん。
「ミネアは組手で脚しか使わないから、ミネアに手を使わせたらランティスくんの勝ち。謎の女の子にも一番歳が近いミネアが相手するんだし、やりやすいでしょ?」
「はい(ぺったん)師匠!」
 鼻歌が途絶えると顔色が変容しました。読まれている? 格闘の達人は心まで――――。
「あはははは♪」
 無邪気に笑いながら、容赦ない蹴り技を叩き込まれました。これは僕がギルドで説明した同じ動き。くそぉ、ぺったんじゃなければ近付いて鷲掴みにして手を使わせるのにッ‥‥ひ、ひいぃっ! レヴィさんから初日にカファールちゃんてシフールを紹介されて追いかけっこしたけど‥‥。
 無理だ! 僕が一気に踵を返して駆け出すと、痛烈な一撃を背中に浴びました。視線を流すと、クルリと腰の捻りから返るミネア師匠のしなやかな脚が映ります。
「また逃走したら容赦無く後ろ廻し蹴りのソニックブームを当てるからそのつもりで♪」
 ――鬼ッ!!
 特訓が終わるとボロボロになった僕の瞳に映ったのはミカエルさんでした。スとハーブティーを差し出し微笑みます。
「闇雲に体をいじめてるんじゃないですから、頑張ってくださいね☆」
 美味しいですっ。こんな時こそ女の子からの言葉と気遣いに癒されます。
「強くなるには先ず自分を知らなければいけません。腕力タイプから、知で助ける強さなど千差万別ですからと教えましたよね。行ってらっしゃい☆」
 嫌と言えないオーラを放ち、ニッコリと送り出されました。待っていたのはサクラさんです。
「とりあえず‥‥どんな方法でもいいので私から一本取ってください‥‥。そしたら終了‥‥。取れなければ‥‥時間一杯までしごきます‥‥」
 ハーブティーパワーは玉砕。木刀を使う模擬戦も微妙ですが、ミネア師匠が叩き込み教えてくれた急所を突く技が太刀として唸ると、僕はスタンアタックという技に何度も意識を失いました。気絶する度に頬を叩かれ起こされます。刹那、サクラさんはジッと視線を交錯させました。
「どんな方法でも‥‥といったでしょう。‥‥私が起こした瞬間にでもかかって来ていれば簡単に一本取れていました。‥‥強くなりたいのであればこういう時でも頭を使わないと‥‥いつまでも屑のままです‥‥」
 なんて言いながら、期待は時に腹を抉り、時に脇腹に薙ぎ放たれる刀身に切り裂かれました――――。

 ――夜の6時半〜7時半まで夕食や汗を拭く時間が与えられると夜の特訓です。
「疲れましたか?」
 虚ろな視界に映るマルティナさんが腰を屈めて覗き込みます。ランタンの灯りに照り返す金の三つ編みと風貌が神秘的で‥‥僕は逃げ出したいと言ってました。鍛えて欲しいと頼んだけど、こんなハードスケジュールだなんて‥‥。
「‥‥そうですね、『勝つ』のではなく『負けない』事を教えましょうか」
 ――負けない事? 
「町で不運にもならず者にお金をせびられた時、勇気を振り絞って拒否したと聞きました。渡すお金がなかったにしても、そこで屈せずに立ち向かえたのは立派なこと‥‥その気持ちを大切にすれば、あなたは何の役にも立たない存在ではないのですよ」
 ふわりとマルティナさんが僕を包み込むと、彼女に抱きしめられていました。大きな膨らみに埋まる悦びと違う柔らかな温かさを感じて、心地よさの中で涙が頬を伝います。
『自信を持って下さいね』
 勝とうとしないで負け(逃げ)ないようにしよう。10時になったら‥‥眠らな、きゃ‥‥。
 これからの特訓で僕はきっと変わっていると思います――――。