【陽動鎮圧】defense――最後の盾
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■ショートシナリオ
担当:切磋巧実
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 81 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月31日〜04月03日
リプレイ公開日:2007年04月07日
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●オープニング
●激戦
――すべては最初から謀られていたものであったのか‥‥。
真実はどちらか分からぬが、この戦い、国王として一歩も引く訳にはいかぬ――――。
「‥‥全軍進軍せよ! デビルの軍勢に、この王国の底力を思い知らせてやるのだ!」
陽光にエクスカリバーを照り返らせ、掲げた剣と共にアーサー軍が迎撃へ向かってゆく。
各隊の円卓の騎士と冒険者達が打ち破るは、凶悪なデビルと醜悪なモンスターの軍勢だ。
次々と異形の群れを沈黙させてゆく中、マレアガンス城から駆けつけた軍勢と対峙する。
アーサーは不敵な笑みを浮かべた。
「よいか、小競り合いを続け、グィネヴィア救出までの時間を稼ぐのだ」
そう、アーサー軍の攻防は陽動だったのである。
マレアガンス城から敵軍を誘き寄せ、手薄になった所を冒険者達で城内戦を繰り広げ、王妃グィネヴィアを救い出す。
円卓の騎士トリスタンがこの攻防に参戦していなかったのは、少数精鋭による偵察を担っていた為だ。先の王妃捜索時と同様にシフールを飛ばし、様々な情報を送り届けていたのである。
――この時、既に戦線を離脱した者達がいた。
マレアガンス城攻略に志願した冒険者達だ。共に深い森を円卓の騎士と王宮騎士達が駆け抜けてゆく。
王妃救出を果たす為に――――。
――マレアガンスの城が目視できる距離まで近付くと、一斉に息を殺した。
城周辺には未だ少数の兵が待機していたのである。最後の砦を担う精鋭か否かは判別できないが、騎士の姿や弓を得物とする兵も確認できた。軽装の出で立ちは魔法を行使する者だろうか。更には醜悪なモンスターも混じっている始末だ。
トリスタンに偵察を任されていたシフールが、顔色を曇らせながら伝える。
「見ての通り、未だ簡単には近付けません。‥‥ですが、城に入れそうな扉を幾つか確認しました」
情報は限られているものの、扉の場所は何とか把握できそうだ。城の規模から判断するに、各班が連携できる程それぞれの扉が近い訳でもない。
冒険者達は『城周辺陽動鎮圧班』と『マレアガンス城突入班』に分かれる事となる‥‥。
●万が一の為に
「俺達の役目は取り逃がした敵兵がいた場合、戦場まで連絡へ行く道を妨げる事だ。まあ、陽動班が巧くやってくれれば役割は回って来ない。最も安全が保障されているって訳だ」
不敵な笑みを浮かべて王宮騎士は冒険者達に伝えた。無事に済めばこの道を塞いだまま、立っていれば役目は終わる。しかし、万が一の場合は最後の盾と化すのだ。
「いいか? 遊んでいても、寝ていようと、世間話に花を咲かせたり、戦場の絵を描いていても構わねぇ。俺だったら、色っぽいねえちゃんを口説いて場を温めておくがな。‥‥だが、絶対に敵を逃がすんじゃねーぞ! 死ぬ気で止めろ! 死んでも阻止しろ!」
さて、最後の盾なるこの役目を退屈とみるか重要と考えるか――――。
●リプレイ本文
●集う盾
「今のメンバーを格闘や攻撃に秀でた者、補助魔法や視力と聴覚が優れた者で分けてみましたがどうでしょう?」
クリス・クロス(eb7341)が分担を説明してゆく。生真面目そうな青年の話に因ると交代で警戒と見張りを行うべきとの事だ。
「警戒と見張りねぇ。そこのお嬢さん、そんな離れていたら聞こえないんじゃないのか?」
王宮騎士は集まった冒険者を一通り眺めると、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)に声を掛けた。少女は銀髪を揺らして円らな青い瞳を逸らすと、上品な風貌に氷の如き冷たい色を放つ。
「仮に敵方の危険が少なくても味方に危険がないとは限らないわ」
「(やれやれ‥‥それにしても娘5人に野郎3人とは集まったもんだ)あ? いーんじゃねぇか? クリス君に任せるぜ。それにしてもあんまり張り切らない方がいいぞ。作戦が巧く運べば出番なし。取り敢えずB班は警戒と見張りに出るとして、残ったA班は軽く親睦でも‥‥」
「御遠慮させて頂きます☆ 最後の砦が気を抜くと一発逆転もありうるのですからね」
たおやかに微笑んだのはソフィア・スィテリアード(eb8240)。物腰柔らかいものの、伝えているのは警告だ。金髪のエルフに次いで、アフリディ・イントレピッド(ec1997)が腕を組みながら釘を刺す。
「こう言う任務が楽とは大きな誤解だ。いつ来るか分からない敵に備えるのが一番大変だからな」
「そうよ、応援としての役割が回ってこなかったとしても何かやることはある筈よね」
手袋をはめ直しながらヒルケイプ・リーツ(ec1007)が銀髪を靡かせ、育ちのよさそうな風貌で振り返った。B班としてクリス等と共に見張りに向かうらしい。続く初老の風格を醸し出すランデル・ハミルトン(ec1284)が鋭い碧の瞳を王宮騎士に流す。
「備えあれば憂いなしともいうぢゃろう」
「スポーツにおいても、味方が優勢だからといって何もせずに遊ぶことはありません。私たちもそうでなければなりません」
エルディン・アトワイト(ec0290)がたおやかな物腰で森へ向かう中、アーシャが「エルディンさんがんばってね♪」と熱い声援を送る。優麗な金髪を揺らし、微笑み応える姿は女性と見紛う風貌だ。
バツが悪そうに王宮騎士は頬を掻き、苦笑しながら瞳をサラ・シュトラウス(ec2018)へ流す。幼さをローブ越しの肢体に浮かび上がらせる女性は、赤い瞳を伏せると胸元で手を組んで口を開く。
「聖なる母の御名によりて祝福を――母は願われた。万人の幸せを。誰一人欠ける事なく笑い合える。そんな日々をもたらすのがわたくし達の役目というものですわ」
「まったく‥‥あんた達は勿体無い位の最後の盾だよ」
遠くから剣戟や戦の声が流れて来る。陽動作戦は開始されたのだ。
●警戒と見張りの中で
「それでは、私は前衛として上空から見張ります。‥‥エルディンさん、どうかしましたか?」
愛馬ペガサスに跨りクリスは訊ねると、エルフの青年が微笑む。
「素晴らしいペガサスですね。じつに羨ましいです。いつか私も‥‥いえ、思っているのは事実ですが‥‥何も起きなければいいと思う一方、私も戦場で役に立ちたいという気持ちもあり、複雑な気持ちです」
碧の瞳に射抜かれ、エルディンは心境を告げた。神聖騎士が僅かに眼差しを和らげる。
「最後の盾となるべく敵の侵攻阻止。それが私達の務めです。地上は任せました」
多くは語らずクリスを乗せたペガサスが天に舞う。エルフの青い瞳に力が漲る中、ヒルケイプがはにかみながら口を開く。
「私は戦闘が得意ではないから、土地勘や優れた視覚を活かして敵の隠れていそうな場所や見張りに良いポイントを探すわ。忍び歩きの技能を活かして偵察なんかを行うつもりだけど、こういった戦いは初めての経験だから‥‥問題ない‥かしら?」
ちょっと上目遣いで小首を傾げる仕草が初々しい。
「私もコアギュレイトで動きを封じる事ぐらいです。視力には自信がありますので、何かあればお互いに分かるよう警戒しましょう」
「ふむ、そういう班分けな訳ぢゃな」
納得したように頷くランデル。
「わしのできることは魔法をぶっ放すことだけぢゃが、知識は蓄えておくものよのう」
彼は手短にモンスター、アンデッド、デビルについて説明した。もし遭遇したとしても対策が迅速に行える確率は高くなる。
「よいか? デビルはまっこと厄介な存在じゃからのう。今回の発端は‥いや、全てのデビルがらみの事件は人間側に問題があるのじゃ。デビルは人間の鏡なのかもしれんのう‥‥」
しみじみと初老の男は城の方角に顔を向けた。様々な音や声が戦の鮮烈さを醸し出しながら流れる中、ヒルケイプは愛らしい風貌に円らな瞳を研ぎ澄まし、クリスに借りた縄ひょうをぎゅっと握り締める。
「これが戦争なのね‥‥」
●最後の盾として
クリス達の警戒任務は何事もなく終了した。ヒルケイプが炊事の支度に移る中、ランデルがA班にモンスターの特徴を教示してゆき、いよいよ警戒と見張りを担う番となる。
「レティシアちゃーん、気をつけてねー」
「クリスさん、それでは私はここで。無事を祈っています」
陣営地の防衛に策を施したレムリィや戦況を告げた陰守等が帰路へ向かう中、王宮騎士はレティシアに視線を流す。
「本当に行くのか? 戦況は有利って話じゃないか。俺はお嬢さんの歌を聞いていたいね」
「あなたに聞かせる為に唄ったんじゃないんだよ」
相変わらず警戒心を解かずそっけない。しかし口調の変化に仲間達は微笑んだ。彼女とソフィア、そしてB班のクリス、エルディン、ランデル以外は経験も浅い。呑気な態度の騎士とて、戦が長引けば顔色に不安を浮かべていた。
そんな中で冷たい態度と裏腹に紡ぎ出された歌声だったのである――――。
「ホルアクティお願いね。逃走、連絡ができそうな所は重点的に監視しましょう。人間だけでなく、シフール、デビルなど飛行できる伝令もいる筈ですので注意していきましょう」
ソフィアは腕から隼を放つと、担う3名に配置と警戒を促した。サラが手を組んで口を開く。
「あの、優れた視覚と土地勘は役に立たないでしょうか?」
「そんな事は無いだろう。戦場の本隊へ連絡に行かせないのが趣旨だからな、進路を塞ぐ位置を取る事を優先する為にも、視覚と土地勘は大いに役立つ筈だ」
龍叱爪を左手に嵌め、魔剣の刀身を僅かに抜いて鞘に収めながらアフリディが結った黒髪を揺らした。エフも自分の優れた視覚を武器に、得物で一気に切り込む算段である。
かくして、4名はそれぞれ警戒と見張りを展開し、五感を研ぎ澄ました――――。
隼が空で高らかに鳴く中、サラとソフィアが同じ方向に視線を疾らす。同時にレティシアが瞳を研ぎ澄まし、エフがサラと合流して駆け出した。銀髪の少女がサウンドワードを唱える。
「‥‥男が森を走る音って事は‥‥! 方角が変わったの? 距離的に近いのは‥‥サラ!」
4人が微かな音を立てる森のざわめきに集う中、深緑から傷を負った騎士が現れた。頑丈な鎧に身を固めた、壮年というべき騎士だ。震える声でサラが敵兵を指差す。
「あ、あなた! それでも騎士ですか! 恥ずかしいとは思わなくって?」
「‥‥女? 恥ずかしいとは何だ! 援軍を呼びに行って愚弄される云われは無い!」
一気に抜き身の切っ先を構えて騎士が跳び込む。戦慄くクレリックに割って入るのは淡いピンクの光を放つエフだ。三本の鉤爪が叩き込まれた刹那、騎士は躱せないと察するや盾で弾いた。次いでラハト・ケレブが薙ぎ振るわれる。
「こっちの剣が本命だ! なにッ!?」
「なかなかの腕だが未熟だな、娘ッ」
不敵な笑みと共に盾で弾いた騎士の切っ先が唸り、エフの白い肌に鮮血が舞う。悲痛な声をあげたのはサラだ。
「アフリディさんッ! 皆さん早くッ!」
「他にもいるのか、ここまで逃れて来たのだ。娘、人質になって貰うぞ!」
「え? そ、それでも騎士ですかッ‥せめて、傷の手当てを‥‥」
させるかとばかりに男の手が伸びる。刹那、生い茂る草や蔦が蛇の如く騎士の四肢を拘束した。足掻く眼差しが捉えるのは、プラントコントロールを行使したソフィアだ。
「B班達へ連絡して下さいますか? どうしても抵抗するようなら、怪我くらいは覚悟して頂かないといけないですね」
たおやかに微笑むが、瞳は笑みを浮かべていない。次いでレティシアが姿を見せ、冷たい眼差しを放つ。
「観念するんだね。次は闇の目隠しが逃がさないよ」
――私はチャンスを待った。
どうやら敵は戦闘に長けた者も少なければ経験も浅いらしい。あの神聖騎士の若造さえ倒せば何とかなる。否、このローブの男も刻まれた皺から油断できぬか。どんな魔法を使うのだ。長髪の娘は武器を所持していないが、赤いサーコートだと? まあいい。距離は十分だ。悟られぬように詠唱すれば‥‥オーラアルファーで一気に。
『コアギュレイト』
‥‥な、なにッ!?
●笑顔の中で
「小さきものの痛みにより添い、祈りを捧げる。私はそんな担い手でありたい。負けないで欲しい、運命に。愚かでも奴隷の身でも、立ち向かう人を‥‥母は愛してくれるから」
サラの紡ぐ詠唱により、エフの傷が癒えてゆく。
騎士の最終手段は、エルディンの魔法で未然に防がれた。彼の高速詠唱によるコアギュレイトが無ければ、軽症程度の傷を負い、ヒルケイプの世話になっていた事だろう。
そんな中、城の方で大きな噴煙が舞い上がり、マレアガンス城は崩壊した。戦は終焉を迎えたのである。
生き残れた喜びを露に見せたのはサラだ。仲間たちに次々と飛びついては無邪気にハシャぐ姿は、例え幼児体形といえど子供がじゃれているようには見えず、クリスやレティシアを戸惑わせ、ソフィアやアフリディを苦笑させると、エルディンとランデルに微笑みを浮かばせた。
ヒルケイプとサラは意気投合したように満面の笑みで跳ね回っていたという――――。