ambition――新年だから聞きたいッ!
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■ショートシナリオ
担当:切磋巧実
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月14日〜01月17日
リプレイ公開日:2008年01月22日
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●オープニング
●ギルドに現れた目元涼しげな青年は
「今年の目標なんかを冒険者に聞きたいのだ」
単刀直入に切り出した。受付係は複雑な色を浮かべ、躊躇いがちに訊ねる。
「‥‥あのー、それは依頼でしょうか?」
「勿論だ! ギルドに依頼以外なんの目的があるという」
「‥‥仰る事は御尤もです。もはや新年なんて言うのも時期外れで甚だしいですが、新年を祝うパーティに招くという感じですか?」
受付係が見る限り、青年は端整な風貌をしており、凛とした雰囲気は高貴な身分を漂わせていた。貴族の道楽で冒険者の話でも聞きたい所だろうか。
「パーティだと? 粗末な小屋で構わないなら誰にも振る舞った事のない料理くらいは出そう」
「‥‥貴族の方ではないのですか?」
「誰がそんな事を言ったかな」
暫しの沈黙が流れた。受付係は軽く溜息を洩らしつつ口を開く。
「‥‥誰にも振る舞った事のない料理とは珍しい食材という事ですか?」
「何を言っているのかな。言葉通り、毎日自分で作っているが僕以外の誰にも食べさせた事がないという事だ。あえて言えば、焼き過ぎたり焦げついたりしてしまう程度だろうか。食えない事はない」
青年は徐に防寒着の合わせを結んである紐を一つずつ解きながら淡々と続ける。
「火を使っていると身体が熱くなって集中できなくなってしまうのだ。こうして思い出しながら話しているだけで汗ばんでくる」
受付係の瞳に映ったのは防寒着の中から覗く白い裸体だ。慌てて青年の行動を止めるべく視線をあげると、依頼主は恍惚にも似た表情を浮かべていた。
「(なに? 新手のヘンタイ?)‥‥いいからそんなもの見せないで下さいっ」
「! そんなものとは失礼なお嬢さんだな。そもそもキミが思い出させるから」
「私が悪かったですっ。申し訳ありませんっ」
「抑揚のない感情も篭っていない口調だな。で、受けてくれるのか?」
「‥‥今年の目標を聞いてどうするのですか?」
「キミは色々と詮索するね。そんなに僕に興味があるのか?」
いいえ! キッパリと告げた受付係は仕事上冒険者に聞かれた時の為にと事情を促した。
「うむ、僕には目標が無いのだ。否、見つからないと言った方が正しいだろうか。ソツなく何でもこなせる僕は道に迷った憐れな子羊なのだよ。勿論、悪事は未経験さ」
長い前髪を掻きあげながら青年はのたまった。「なら何か極めなさいよ」と言いたい所を呑み込み、さっさと先に進める。
「‥‥分かりました。依頼金はお幾らですか?」
「僕が様々な仕事で稼いだ大切な血と涙と汗の塊を捧げよう」
なんかイヤだ‥‥。
「では、依頼主さまの小屋に冒険者を招待して調理や色々と足りない部分を学びながら今年の目標を聞くという事でよろしいですね?」
「何か引っ掛かるが良いだろう。僕の名前はパイセンだ。宜しく頼む‥‥ああ、どんな冒険者の話が聞けるか楽しみだ」
あっはははは‥‥と張りのある笑い声を響かせながら青年は去っていった――――。
●リプレイ本文
●混沌への出発
「よいか、おぬしに話したのはさわり程度だからな」
見送るグリセルダが告げる中、老エルフは手をあげ応えた。パイセンがマギー・フランシスカ(ea5985)に訊ねる。
「何の事だね? ご婦人」
「あたしはマギーじゃ。こう見えてもゲルマン語を極めた言語学者じゃて、こちらの話ぢゃ。ところで‥目標が見つからんとは、いい若いもんが嘆かわしい事じゃのう」
青い瞳がクッと細められると、青年は高らかに笑って長髪を掻きあげた。そんなパイセンの背中を生暖かく見つめ、森里霧子(ea2889)が溜息を洩らす。
「春の風物詩『変態』に備え、工作戦場の技術を磨いてたンだが‥‥冬なのに予備軍なんてのが出てきちゃったなぁ。疲労を溜め込まないよう、今は観察するか」
「年の初めにちょっと戻ってみたら、こっちは相変わらずみたいね。あ、マギーさんに叩かれたわ。服を肌蹴させたんじゃない?」
女忍者の嘆息に同意を示すは、豊満な胸の谷間も露な巫女装束のステラ・デュナミス(eb2099)だ。エルフ娘の隣を歩く杜狐冬(ec2497)は顎を引き、円らな瞳を潤ませパイセンを見つめる。
「人前で服を肌蹴るなんて‥‥お、思ってませんッ、私はちっとも羨ましいだなんて思ってませんからっ!」
思わず洩らした言葉に赤面。慌てて黒髪を振るものの、ステラの眼差しは冷たい。
そんな一向の最後尾。まるごと龍一歩々夢風なる防寒着に身を包む青年は、長い金髪から青い瞳を研ぎ澄ませて成り行きを見守っていた。まるで自分の出番は未だと悟ってさえいるような静けさを漂わせながら‥‥。
(「この自称『元気な裸』こと龍たんに今年の目標をききたいだなんて、センパイクンったらなかなか恐ろしい子★」)
●錯綜する中で
1日ほど歩くとパイセンの山小屋に辿り着いた。
「‥‥なんでもソツなくこなす? 物が無いだけじゃないの?」
「毎日往復しているからな。食事と眠りに戻る位のものだろうか」
パイセンが張りの有る声で笑う。ステラとしては家事諸々が出来ているかを見極めた上、思い込んでいるだけで、実は『こなせていない』のではと推測していたのである。狐冬がテーブルに指を滑らす。
「掃除を怠っていますね?」
「掃除だと? 見た目には問題ないではないか」
あっはっはっ! と美貌を綻ばす中、マギーの眼光が鋭く輝いた。躾や教育に煩い性格に火が滾る。
「たわけがッ! ソツなくこなすとは手落ちなくやっている者の言葉じゃ! 来客をこんな不安定な椅子に座らせるつもりか?」
「汚れたら掃除はしているさ。それに椅子は腰を下ろせれば十分ではないか」
どうやら機能が果たせれば十分である事で、ソツなくこなしていると解釈しているらしい。
「まあよい、あんたのもてなしを見させてもらおうかのう」
きちんと負けた事も、挫折から立ち直った事もなく、負けそうになったら言い訳して逃げ出していた男だろうとマギーは推測していた。こういう輩は一度きっちり負けさせてから、スパルタ式に立ち直らせるのが良い。『負かす』役は放っておいても他の冒険者がしてくれるだろう。
「あ、私もお手伝いしてよろしいですか?」
「私も調理を見させて貰うわ。‥‥って、えぇっ!?」
狐冬に次いで身を乗り出すステラが驚愕の声をあげた。育ちのよさそうな顔立ちの娘は新巻鮭を抱えており、豊満な谷間に大きな魚身が挟まっている様相が衝撃的だ。
「折角なので皆さんと食べられるモノをと思いまして‥‥宜しければパイセンさんにも調理法をお教えしますよ」
火を焚いて肉を焼き始めるパイセン。室内に香ばしい香りが漂い出した。徐に青年の手が衣服の紐を解いて恍惚とした笑みを汗と共に滲ますと、狐冬が瞳を研ぎ澄ませて拳を振り上げる。
「(わざと肌蹴るだなんて、そんな表情で‥‥気持ちいいのですか? はっ、私はそんな事考えもしませんっ)自分の衝動に打ち勝つのです! ‥‥ひッ、ひやあぁんッ!」
忽ち娘の声は悲鳴と化した。ステラが汗を浮かべる中、クリエイトウォーターの洗礼で濡れ鼠の様相を呈したパイセンと狐冬が浮かび上がる。
「まさか狐冬さんが近付くなんて‥‥。こ、これで少しは冷えるでしょ?」
「あ、ああ‥‥料理も水浸しだが‥」「さ、寒いです‥‥」
苦笑で誤魔化しながらエルフ娘がズイとパイセンに身を乗り出す。
「いきなり人前でこんな季節に服を脱いだりするのは、暑がりのせいとしても露出好きと思われても仕方ないわよ? ‥‥って、私は指輪のおかげで寒くないからこういう格好してるだけだってばッ」
注がれる眼差しに頬を染め、はちきれそうな膨らみを両腕で庇うステラ。そんな中、問題を解決すべく霧子が姿を見せる。
「ズバリ! 調理中に脱衣していて料理を焦がすとみた。火を使わなければいいんだが、血と涙と汗など男汁の塊を提供されるのも厭だ。要は、脱衣の上で調理中は専用衣類を着ければいい!」
さあ、これを裸の上からでも着るがよい! と手頃な布で作ったエプロンを差し出した。
「おお、これは良い! このままでは二人とも風邪もひく。出来ればもう一着欲しいところだな」
「えぇっ!? それって私も裸でエプロンをッ!?」
何気に嬉しそうだぞ狐冬。しかし、事態は最後の伏兵に因って更に錯綜を極める。
「オウノンノン! そんなチラリズムで真の変態を名乗れるかあ!」
声を響かせたのは龍一歩々夢風(eb5296)。今がその時だ、と言わんばかりの登場だ。
「いい? 漢ならこうガバっと! スパっと! 潔く!」
青年はガバっと着ぐるみ防寒着を脱ぎ、スパっとエロスカリバーを構えた。そして潔く禁断のフンドーシをヒラリと放り投げポーズを決める。
「いい? お料理で一番大切なのはLOVE(裸舞)つまり愛なの! 全ての生きとし生けるものに注ぐ愛こそが裸舞! 愛があれば黒コゲの料理なんて作らない! センパイクンには裸舞が足りないんだよ!」
ビシッとピンクの靄を股間に漂わせながら青年を指差す歩々夢風。
衝撃を受けているものの、これがマギーの言う『負かす』役なのか‥‥。
●交錯する思惑の果て
狐冬クンの作った新巻鮭の香草焼きに舌鼓を打ちながら、僕は冒険者達に今年の目標を切り出す。やはり年長者は後として‥‥うん、ステラクンにしよう。
「ん〜‥色々身辺落ち着けたい、かしらね。ジャパンで関わってる悪魔妖怪も追い払わなきゃいけないし、そうしないと自分の幸せ追えない知り合いもいるから。自身の幸せもそうなんだけど、どうも胸とか見て暴走する変態に襲われる事が多いような‥‥」
「胸を見られて変態に襲われるのですかっ」
ふッ、嬉しそうだね狐冬クン。
「私は‥‥妙な集団が各地で事件を起しているのを、友人達と共に解決するのが私の目標です。その為にも高潔な精神を保たねば‥‥け、決して私は変質的な趣味など持ち合わせてはいませんっ!」
呆れたように見つめると頬を染めるのは何故だ? 彼女は、もっと大きな目標として素晴らしい僧侶になり、街の平和を護る手伝いがしたい。その為にも公共良俗を乱す変態の存在は許す訳にはいかないと言った。心と目標のせめぎ合いを感じるよ。
次は霧子クンだ。
「あ、私の目標はトラップの修業に引きこもりしてたから、冒険本格復帰かな☆ 春に向け、変態がホイホイ捕れる仕掛けを作り上げたい! 餌が無いけど‥‥ッ!?」
ふと彼女の表情が閃きの色を放った。顎に手を運び、神妙な面持ちを浮かべる中、歩々夢風クンが口を開く。
「でも、真の変態になるには根性や覚悟や信念その他色んなものが必要なんだヨ? まずは葱リストになること! 葱を知らざるは変態を知らざるが如し! それから、究極のフンドーシを作りあげること! あ、センパイクンの今日の下着は何なのカナ? 褌は漢の正装だヨ!? そして最後に‥‥ハンパな変態さんを撲滅するコト!!! 龍たん、変態さんのフリして実はハンパな変態さんって許せないんだ! たくさんのエセ変態さんを退治してきた経験を活かして今年も頑張るゾ!!」
彼はフライング葱とフンドーシに関する蘊蓄を並べてくれた。最後にマギー婦人の目標を聞こう。
「あたしの抱負じゃの? ゲルマン語を極めたことじゃし、次は古代の言語に手を出そうと思うておるのじゃ。今年こそは古代魔法語を修めるのじゃ!」
どうやら見送りの方から無謀と言われているが、古代魔法語を学んでいるらしい。冒険復帰や新しい目標か。それにしても変態に関わる事柄が多いと感じるのは気の所為か。そんな中、霧子クンが口を開く。
「いっその事、歩々夢風殿を目標にするのはどうだ?」
「おうッ! 龍たんと一緒にハンパなエセ変態さんを退治して裸舞(ラブ)を極めよう!」
「ちょっと待ってよ!」
慌ててステラクンが制止すると、僕に視線を合わせた。それにしてもこの谷間は目に毒だ。
「本当にそれでいいの? 自覚さえ出来れば、それを直すのを目標にしてみたらどう?」
調理時や人前でつい脱いでしまう事を直せと。僕は霧子クンに頂いたエプロンを見せた。
「違うわ! 裸にエプロンだって変態と同じよ!」
「そんなハンパなエセ変態さんは龍たんが退治するゾ!」
「何を言う! 変態ではなく立派なファッションだろう。完璧だ!」
「どっちなのですか? 変態趣味が直らない時は‥‥最終手段です。毒を持って毒を制す‥窒息寸前まで私の胸に‥‥」
悩ましげな吐息で紅潮しながら胸元を肌蹴るのは何故だね。というかキミは同類ではないのか?
「直すも何も、暑くなるのだから仕方がな‥」
「ええい、甘えるでないのじゃ、この根性無しめが!」
収拾の付かない様相にマギー婦人が一喝を入れた。
「できぬ事があれば、努力してできるようになれば良いのじゃ! あたしが帰りまでみっちり躾けてやるわい」
待ってくれ! 今年の目標を聞きたかっただけなのだが‥‥。
あれから僕の中で何かが変わった気がする――――。