GH――あなたは興味がありますか?

■ショートシナリオ


担当:切磋巧実

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月05日〜03月10日

リプレイ公開日:2008年03月13日

●オープニング

 ――私はユゥリィ。元記録係の何処にでもいるような小娘です。
 突然ですが、皆さんは霊現象に興味はありますか? 私はメ一杯ありますっ。
 色んな霊に関する事柄を調べている内に仕事が煩わしくなり、記録係を辞めちゃった位ですから。
 あっ、いまバカって思いました? 思いましたね? ‥‥否定は、しません、よ。
 でも、なかなか良い噂話に巡り合えないんですよね。
 知らないと思いますが、私は町や村で聞き込みをしながら情報を集めているんです。
 大抵の方は「知らない」って言うのですが、偶に「タダって訳にゃいかねぇなぁ」とか「教えてやるから付いてきな」なんて言われて廃墟に連れられ大変な目に合ったりした事もありました。
 ‥‥これではいつ私が恥ずかしい姿で発見され、幽霊の立場になってしまうことか。
 だから割と身の危険がない子供に訊く事にしたんです。
 大抵は「知らない」って言うのですが、偶に「お金頂戴」とか「明日また来たら教えてやるよ」なんて言われて森の落とし穴に招かれたり大変な目に合ったりした事もありました。
 あっ、いまバカって思いました? 思いましたね? でも、こんな地道な努力が実を結ぶのです。
「村はずれの誰も住んでいない空き家で人形が動く、ですか?」
 それは幼い子供たちが教えてくれました。窓から見える位置に人形が置いてあるそうなのですが、暫く眺めていると動いたというのです。子供たちはビックリして直ぐに走り去ってキノコ狩りをしていた家族の許に戻ったのですが、軽く笑い飛ばされたとか‥‥。折角の摩訶不思議が勿体無い話です。

「それで、元記録係のユゥリィさんは何ゆえギルドへお越しなのですか?」
 受付係は頬に掛かる左右で結った髪のみモミアゲのように長い、ショートヘアの個性的な少女に訊ねた。均整のとれた容姿はおとなしそうな雰囲気を醸し出しており、いかにも騙されやすそうな隙が彼方此方に窺え、夢見がちな瞳が拍車を掛けている。
「はい、同行人を募集したいのです♪」
 聞けばキャロットから2日の村はずれにポツンと一軒の空き家があるらしい。彼女もバカではない。真冬に2日も費やして一人で赴く事に、これまでの経験が警鐘を鳴らした訳だ。

 こうして、私は依頼を引き受けてくれる冒険者を待つ事にしたんです――――。

●今回の参加者

 eb2779 ロルフ・ラインハルト(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb5808 マイア・イヴレフ(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec3660 リディア・レノン(33歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4179 ルースアン・テイルストン(25歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4491 ラムセス・ミンス(18歳・♂・ジプシー・ジャイアント・エジプト)

●リプレイ本文

●その温かさに包まれて
「いやぁ、両手に花どころか花束といった風情で嬉しい限りだね。お化けを怖がりしがみつく‥‥なんて事になりそうにないのは若干残念ではあるけれど。なに、好奇心旺盛だったり勇壮だったり、そういうレディもいいものさ♪」
「霊に何故それだけの思い入れがあるのやら‥‥。まあその辺りは人それぞれ、とやかく口出しをすることでもありませんか。霊の仕業にせよ、他の何かが原因にせよ、確認して納得させる。それだけです」
 ロルフ・ラインハルト(eb2779)さんの声が届いていないかのように、マイア・イヴレフ(eb5808)さんが細い腕を組み俯きました。サラリと耳元を覆う白髪が揺れ、愛らしさの中に凛とした雰囲気が漂います。
 気さくそうな男性の赤い長髪から覗く朗らかな笑顔は一寸苦そう。
「誰もいないのに動くのですか、不思議ですね。ポルターガイストかもしれませんし、偶然かも‥‥」
 同じく彼を無視してルースアン・テイルストン(ec4179)さんが落ち着いた穏やかな声を紡ぎました。猫耳な帽子を被っているお洒落なエルフさんは、たおやかな仕草が大人の女性って感じです☆
 何かの原因? 偶然? 信じてないのですか? と私が訊く中、軽くロルフさんをあしらっていた地のウィザードであるリディア・レノン(ec3660)さんが、深い溜息と共に呆れたような碧の眼差しで上品に微笑みます。
「それだけの状況じゃどんな判断も下せないわよね‥‥。はあ‥‥話を聞くだけでもう危なっかしい娘ね‥‥なんだか妹を思い出すわ‥‥できるだけ危ない事に首をつっこまないよう注意しておく事にしましょう‥‥」
「ふ、ふつつかものです‥‥」
 エルフの金髪お姉さんができたみたい☆ 妹さんて私みたいなのかな? 一寸親近感♪
「ユゥリさん、初めましてデス。今回は宜しくお願いするデス」
 片言のイギリス語が頭上から聞こえました。見上げた瞳に映ったのは魔女風な帽子から寝癖茶髪が覗く褐色のジャイアント――ジプシーのラムセス・ミンス(ec4491)さん。彼はバックパックからお化けを模したヒラヒラな衣を差し出し微笑みます。
「防寒着代わりデス、暖かいし中々可愛いですよ」
「有り難うございます☆ はふー、陽だまりの衣に包まれているようで魂が抜けそうな程にほんわかですー♪」
 貸しただけじゃないかしらー? と後からお姉さんに言われたけど、心地良い温かさに骨抜きの私はお別れするまで気が付きませんでした。いつ再会してもいいように着て歩こうと思います‥‥。

「失礼ですが、こちらからお話を伺う以外、用はありません」
「ユゥリィ? 不用意に応えたら駄目でしょ!」
 危うく人攫いの罠に陥る中、ルースアンさんが威厳の響きで追い払い、私はリディアさんに注意を受けました。やっぱり旅に危険は付き物です。流石にラムセスさんを見て力づくという事はありませんが、十人十色。猫耳な帽子から覗く眼差しを鋭く研ぎ澄ますと、ロルフさんが不敵に微笑みます。
「ねぇ、あの連中危なそうじゃありませんか?」
「うん、そうだね。人相は俺と違って悪そうだよ」
「得物を抜いたわ! 先手を打ちます! ユゥリィを後ろに下げて! ま、これもお仕事よね」
 視力に優れるリディアさんが呪文を紡ぎ、茶の光に包まれた刹那、人影達は駆け出しました。
「やれやれ‥‥疲れますね」
 マイアさんが鞭を撓らせて身構える中、グラビティーキャノンの黒い帯を描く重力波が標的へと放たれます。山賊が派手に転倒すると、ラムセスさんの紡いだサンレーザーの洗礼が1名の衣服を焦がし炎を纏わせました。尚も怯まず肉迫する連中に魔法の鞭が唸り、サイコキネシスのサポートの中で切っ先が薙ぎ振るわれ、護衛の皆さんは鮮血の華と共に山賊を撃退したのです。
「占いの凶兆はこれだったのかな?」
 ジプシーの巨漢さんは呟きましたが、真相は定かでありません。

●その話を聞く為に
「ユゥリィさんは、前に教えてくれたお子さんがどこにいらっしゃるか御存知ですか? お人形がどんな動き方をしたのか、もう少し詳しく聞かせていただきたいですね」
「はひ? 子供達の家ですか? 知りませんよー‥‥って、マイアさん?」
 ルースアンさんに答える中、村に近付くとマイアさんはフェイスガードで愛らしい素顔を覆い隠し「この辺りで幽霊に繋がりそうな事件や話を聞いた事があるかの確認もお願いします」と託しました。
「私は下手をすると騒ぎの原因になりかねませんので村へは入れません‥‥村外れで待っておきましょう」
 なんか寂しそう‥‥。
 子供に話を聞くという行動は、冒険者全員の提案でした。ロルフさんは「冒険者が出張ってくるほど危険なものがいるのかと勘ぐらせても申し訳ないしね」と大人達からの情報収集に危惧を浮かべ、ラムセスさんも「同じ子供デスし、僕が聞いたほうが大人の人よりいろいろ教えてくれるかもデス。けして一緒に遊ぶのが楽しいとか、年が近い子とあんまり遊べなかったからすごく嬉しいとかはないデス‥‥」と満面の笑み。
 ‥‥子供!? 摩訶不思議はこんな所にも隠れていたのです――――。

「いっちゃうのー?」
「あ、はい、も少しいるからまた遊びましょ〜♪」
 でっかいお子様は子供達に人気がありました。はしゃぐ姿は年相応の少年です。口調も砕けていて楽しそう。あの時に会った子供達に再会できたのも彼のお陰かもしれません。私も色んな話が聞けてドキわくです☆
「えー? 本当? どこどこ?」
「待ちなさいユゥリィ。依頼人が目的変えてどうするのよ」
 溜息と共にリディアさんが暴走を食い止めてくれました。はうぅ、お手数お掛けします‥‥。

●その廃屋の中で
「危険な霊がいるかもしれない処、女性達だけ行かせて黙って見ていたとあっては騎士の名折れだ」
 ロルフさん達と教えられた場所に辿り着いたのは夕刻でした。
 空き家はポツンと建っており、彼方此方の痛んだ様相がミステリアスです♪
「時間も今頃だね。見たのはこの窓からで、動いていたものは‥‥!」
 人形は直ぐ見つかりました。まるで外の景色を窺うように汚れた壁を背に佇んでいたのです。窓から指す茜色の陽光に照り返す様が雰囲気を高揚させました。裏腹に皆さんは神妙な面持ちです。
「シフールや小さなものの出入りは可能だけど、火を起こしたり食事をした痕跡はないね」
「さて‥‥動くかどうか確認するぐらいしか思いつきませんが‥‥」
「前にエレメンタルフェアリーが人形に間違われた事件もあったデスよ」
「本当のところなんなのかしらね?」
「本当に幽霊ならば、ユゥリィさんはどうされたいですか?」
 それぞれが小さな窓を注視する中、ルースアンさんが穏やかな眼差しを向けました。
「お話しがしたいです☆ 幽霊って元は人間じゃないですか、どんな気持ちか訊いたり、お友達になりたいですね♪」
 彼女は複雑な色を浮かべながら「私も、おともだちになれるような愉快な霊だとよいと思います☆」と微笑んでくれたんです。
 あぁ、共感できる人に出会えるなんてステキ☆
「おいッ!?」
 驚愕の色を放つ声に再び視線を戻すと、私達は瞳を見開きました。人形が動いたのです。まるで覗かれている事に気付かぬよう緩慢に右往左往して、ピタリと止まった次の瞬間、瞳を交錯させるようにコチラを向きました。
 胸の高鳴りを抑えずにいられませんっ!
「待ちなさい! ユゥリィはラムセスと待ってなさい!」
「え〜〜!?」「分かったデス、ロルフさん一応これを!」
 小太刀を騎士が受け取ると、一斉に入口に向かいました。靴音が床を鳴らす中、人形は硬直したまま私を見つめます。
 あっ、転んだ――――。
「さて‥‥本当に幽霊であった場合、その証明は難しい筈ですが‥‥」
 マイアさん達が部屋に駆けつける中、人形はピクリと動かずうつ伏せに倒れたままでした。用心深く近付くものの反応はありません。切っ先を向けても動く気配はなさそうで、私は窓から訊ねます。
「ロルフさん、まさか切ったりしませんよね?」
「え? まさか、本物だったのか‥‥?」
 青年が困惑の微笑を描く中、白髪のウィザードは顎に手を当て怪訝な色を浮かべます。
「‥‥危害を加えるつもりはなさそうですが‥‥幽霊なのですか?」
「幽霊さん、おりましたらお話いたしませんか?」
 あー、ルースアンさんズルイです! でも人形は死んだように動きません。怖がらないから逃げたんじゃないのかな?
 その後、検証は続きました。調理場や寝室等で寝泊りした形跡もなく、サイコキネシスで動かしてみても何も仕掛けは見当たりません。ラムセスさんの占いは吉凶の繰り返し‥‥。沈黙の中、リディアさんが叫びます。
「あーっ! もうっ、スッキリしないじゃないッ!」
「さて‥‥ユゥリィさんは納得しましたか?」
 マイアさんが細い腰に手を当てながら口を開きました。私は胸元で手を組み答えます。
「はい☆ 憑依していただけで逃げちゃったのかもしれません。私は霊だと信じています♪」
「村の方は幽霊のことを知らないようでしたが、悪質な霊でない場合は、言わなければ今まで通りの生活が続くのではないでしょうか。きっとまた戻って来るかもしれませんね☆」
 そうですね、ルースアンさん♪

●そのお別れのあとに
「今回はとても楽しく有意義な時間だったのデス」
「はい、私も楽しかったですラムセスさん」
「空振りか大当たりか分からなかったけど‥‥ユゥリィ嬢のような可愛らしい女性の頼みなら、いつでも駆けつけよう。よろしくお願いするよ」
「またまたぁ♪ はい、私の幽霊探しは続きます☆ 護衛お引き受け頂き有り難うございました!」
 私は冒険者の皆さんと別れ、家に戻ってからお姉さんに武勇伝を話したんです。
「ふーん‥‥楽しくて良かったじゃない♪ 色んな魔法や道具があるけど、使わない方が幸せな事もあるのねぇ☆」
 はひ? お姉さん、それはどんな意味ですか――――。