one armed hunter――新たなる序章

■ショートシナリオ


担当:切磋巧実

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月14日〜03月19日

リプレイ公開日:2008年03月24日

●オープニング

●僕は思ったのだよ
「キャミアくんは自分の行動を否定して欲しかったのではないかと」
 端整な風貌の青年は生暖かい眼差しで薄く微笑む受付係を前に紡いだ。この結論に達するまで冒険を延々と聞かされていた訳だが、記録係の内容と大きく異なるのが嘘っぽい。
「‥‥演説ならどっかの道端でやってくれると嬉しいのですが、パイセンさん」
「またしても失礼だねキミは、僕は依頼を述べる前に経緯を親切に説明しているのではないか」
 布袋に貨幣の音を鳴らし、机に置いて客である事をさりげなく(本人的に)アピール。
 彼は冒険者から教えられた『変態』というものに興味を抱き、先の依頼でキャミア達と行動を共にしたのである。
 ――導き出された道標はキャメロットから15日以上は掛かる町『ボトムストン』への復讐の旅路。
 しかも私的な復讐であり、現状は冒険者が関与できない。
「キャミアくんの二つの言動から復讐が何なのか判断できないが、問題は他にある。分かるかね?」
「‥‥さっぱり分かりません」
 パイセンは受付係の反応にフッと爽やかな(本人的に)笑みを浮かべる。
「彼女は単独で旅に行くつもりだという事だよ。目的地は掴めた。冒険者に依頼するつもりはない。否、出来ない! しかし、僕から見てもキャミアくんの技量はあまりにも低い。辿り着く前に目的を果たせない可能性もある」
「‥‥確かに‥‥報告書を見ても剣の腕は優れていないようですね」
「そこで僕はキャミアくんを探したのだよ。彼女は今、キャメロットから2日程度の小さな町で冒険への資金を貯めている事を掴んだ。しかしまあ、あの性格だから1日で辞めさせられ転々としている訳だが‥‥小さな酒場で何とか長続きしているらしい。何日も背中を見守っていただけに僕も目頭が熱くなる思いだよ」
「‥‥何日も追い掛けていたのですか? ‥‥それ、彼女にとっては有り難くもなく気持ち悪いだけですよ」
 害虫でも見つめるような眼差しで受付係は戦慄いた。帰り道は背後に気をつけようと‥‥。
「さて、本題に入ろう。冒険者と話がしたい。ボトムストンへは僕が単独で赴く予定だが‥‥勿論同行者がいれば嬉しいがね。おっと、本題だ」
 彼の依頼は二つ。
 冒険者は必要とあればボトムストンへ赴く覚悟はあるのか等の話がしたい。
 キャミアに会って単独での旅を引き止めて欲しい。
「キャミアくんは恐らく自分の欠点に全く気付いていない。それに説得なら馴染み深い友人の方が適しているだろう。いや、決して『煩い』とか『近寄らないで』と言われた訳じゃないぞ」
「ああ、そういうことですか〜」
 頬杖を突きながら、受付係はニタ〜リと哀れげな笑みを浮かべた――――。

●今回の参加者

 ea2889 森里 霧子(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9436 山岡 忠信(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0207 エンデール・ハディハディ(15歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1999 スティンガー・ティンカー(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec4647 サラ・クリストファ(26歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

小 丹(eb2235)/ 木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

●脅威の予感
「新年ぶりだなー。変体予備軍‥‥じゃないパイセン殿。冒険者に登録したんだって? それは結構」
 パイセンの部屋を眺めながら森里霧子(ea2889)は腕を組み頷いた。青年は前髪を掻きあげながら微笑む。
「出だしから失礼だな。フッ、僕もキミ達のお陰で目標を抱く事が出来たのでね」
「フンドーシはともかく、エロスカリバー購入のアテはあるのか? アテが無いなら私が提供するけど値は時価だ」
「冒険を重ねて稼ぐ! その為に冒険者となったのだからね。‥‥なに! 持っているのか? 取り敢えず幾らだね?」
 金額を聞いてパイセンは驚愕すると次第にヒクヒクと痙攣気味に微笑んだ。
「時価という事は、値が下がる場合もあるという訳だな?」
「上がる方が高いが、そんな場合もあるかもしれんな」
「うむ、ならば霧子クンと出会った時は、マメに値段を聞こう。今回はパスだ! 安く手に入れてこそ悦びも大きいものッ」
「ちょっと、本当に売る気なの? 渡さない方が平和の為と思うわ」
 サラ・クリストファ(ec4647)が不安げな色で囁いた。霧子は薄く微笑み、視線を投げる。
「まさか、絶対にエロスカリバーに手を届かせない為の方便だ。あ、ボトムストンへは状況が許せば行くよ。キャミア嬢についてギルドの記録を参照したが、パイセン殿が首突っ込んでいいものか、私もツッコんでいいものか‥‥」
「キャミアさんの復讐の相手は、キャメロット最大の敵と言われる、変態達に近い気がします。その様な相手は必ずや恐るべき脅威になるでしょう。何度か変態退治依頼を受けている事から見過せません」
 事情を聞いたロッド・エルメロイ(eb9943)は、ボトムストンに同行する意思はあると伝えた。
「その事でござるが‥‥」
 山岡忠信(ea9436)が太い腕を組みながら口を開く。
「キャミア殿のボスというのが、どんな人物でいかなる経緯があったか気になるでござった故‥‥先の一件で騒動に加担していたコボルト娘に面会して来たでござる‥‥」

「キャミアの過去? 森でリーダーに拾われたって聞いた覚えがあるかなぁ? ボク達は過去を詮索しないから☆」
 少女は牢獄で薄く笑う。どうやらリーダーに誘われ、仲間となったらしい。
 誰もが世間と馴染めない性癖を持った者達。ロッドが推測したように、所謂『ヘンタイ』に属する。狂化して思考が幼児退行した少女を慰み物にする人物にも忠信は心当たりが有った。
「つまり、ボスは‥‥その、キャミア殿には何もしなかったのでござるか?」
「親子みたいだった‥‥見てて腹が立つ位ね。溺愛って感じ? だから腕をいきなり切った時は驚いたけど嬉しかったかなぁ。まさか解散を告げられるとは思わなかったけど‥‥」

「キャミアについてはいいとして‥‥貴方はなんでここまでする訳?」
 スと端整な美貌がサラに注がれた。金髪の娘はキョトンとしながらパイセンの視線を追い、眼差しを胸元に下ろす。チラと瞳を交錯させても彼は大きな膨らみに釘付けだ。否、そこしか見ていない。
「人と会話する時は、相手の顔を見て話して欲しいけど‥‥」
「うむ、未熟な冒険者の行く末が気になったという感じかな? ロッド君が言うようにヘンタイに繋がるなら見過ごせない」
 サラの注意を流すパイセン。霧子が呆れたような深い溜息を吐く中、スティンガー・ティンカー(ec1999)は「なるほど、良くも悪くも世話好きという事ですか」と呟く。彼は旧知のエンデール・ハディハディ(eb0207)に協力すべく参加した一人だ。
「その気持ち、分からなくはないですよ。では、村へ移動しますか?」
「所でその場所ってハーフエルフが警戒されてるとかあるの? くれぐれもって頼まれてるしね」
 なんとなくコイツ大丈夫か〜? と豊かな胸元を両腕で庇いながら訝しげな視線をパイセンに投げつつ訊ねた。キャミアと行動を共にした経緯の長い侍の青年が応える。
「キャミア殿もハーフでござるよ。そう簡単にバレるものでもないでござろう?」
 金髪を弄りながら何とか耳を隠そうと努める娘に、忠信は穏やかに微笑みながら扉を開けた。
「遅いデスぅー!!」
 入口の前で滞空しながら頬を愛らしく膨らましているのは褐色のシフール。彼女はパイセンの確認は愚問とでも判断したのか、小屋に入らず外で話が終わるのを待っていた訳だ。スティンガーが苦笑しながらエンデを宥める。
「ですから、パイセン様の家にお邪魔してはと」
「エンデは早くキャミアちゃんに会いに行きたいデスぅー!」
 傍から会話だけ聞けば使用人とお嬢様の会話のようだ――――。

「あなたがキャミア? 私は友人の使いで来た、サラ・クリストファ。宜しくね」
「初めて見る顔もいるけど‥‥まさか冒険者を雇ったとか言わないでしょうね? お金に余裕があれば私が依頼したかったわ!」
 髪を掻きあげるパイセンにキッと視線を研ぎ澄ますキャミア。今が好機と霧子が視界に割り込む。
「個人的な復讐に友人を巻き込めないのは判る。この、見ず知らず野郎なら尚の事。が、かの問題人物は依頼対象に成り得ると聞く。依頼で一緒になれば、知己かは関係無しに協力し合うのが冒険者だ。キャミア嬢もパイセン殿も我々も冒険者なんだから、協力に遠慮が要るものか」
「なに? まさか説教する為に来たって訳?」
「初めて出会ってから、1年が経ちました。キャミアさんにその様な事が有ったとは、今まで力になれず申し訳有りません。今まで力になれなかった分、キャミアさんの力になりたいと思います」
 ロッドが上品な風貌を曇らせた。流石に少女は怒りを鎮め戸惑う。
「い、いいのよ。謝る必要なんてないわ。そう、もう1年なのね‥‥でも、あの娘が言ったように、これは私の」
 私個人の復讐の旅と言う理由でしたら――と、エルフの青年は紡ぎ出す。
「冒険者は、困難や様々な事情に対し、共に力を合わせ自らの力だけでは太刀打ち出来ない相手を打倒します。団結と結束こそ冒険者の真の力であり、苦しみや悩みを助けるのは仲間として当然! 団結と結束の力は、国をも救う大きな力になるのです!」
 強く語り掛け力に為らせて欲しい事を告げた。伝えている事は霧子とロッドも間違っていない。キャミアが視線を逸らし沈黙する中、挨拶の後にスティンガーが口を開く。
「剣の腕前はキャミア様に比べたら、私などはお話にもなりません。ですが、レンジャーはレンジャーとしての技量を発揮できます」
「だから? なに?」
「キャミア様の向かわれる相手が真っ当に勝負をするなら勝ちは必然かもしれません。が、果たしてどうでしょうか? 偵察もせずに敵の地に向かわれるなど、目隠しで戦場を歩くのと同義。それは勇敢とは言わず、未熟と言われる行動かと私は思う次第ですが、いかがですか?」
 うっ、とキャミアは痛い所を突かれたように呻いた。動揺の色を浮かべた少女に青年は畳み掛ける。
「冒険者の技能は、大なり小なり欠けているのですから、お互いに補って困難に立ち向かえるから素晴らしい事と思うのです。勝てもしないのに向かうのは、彼我の差も判らない未熟と言うものかと」
「う、煩い、五月蝿い、うるさーい! 山岡! あなたもそんな事を言いに来たの!?」
「復讐など無意味‥‥とは言わぬでござるが、無謀な真似はさせられぬでござる。このまま冒険者として、拙者らと過ごすという道も選べるでござるよ? 失った物を戻す事は出来ぬが、新たに得る事は出来るでござる。どうしても行くというのなら、拙者も共に行くでござる。惚れた女を一人で死にに行かせるなど出来ぬでござる」
「ほ、惚れたって‥‥な、なに言い出すのよ! 死ぬって‥‥さ、触らせないわよ! これでもお皿を落としたり何度か仕事を辞めさせられたけど、気配を窺う訓練になったんだからッ!」
 キャミアがグッと拳を固めて身構える中、哀しそうな少女の声が飛び込んだ。
「周りの人が言ってる事、エンデにはよくわからないデスぅ。でも、ひとつだけ、なんとなく分かったデスぅ。キャミアちゃん、1人でどっか行っちゃうデスか? これ、もう、いらないデスか?」
 ホルスに括り付けたヒュージクレイモアの柄を覗かせ、褐色のシフールが瞳を濡らす。
「キャミアちゃんが行くときは、あたしも連れてって欲しいデスぅ! それとも‥‥エンデのパパママみたく、エンデを置いて行っちゃうデスか‥‥?」
 真実か定かでないが、両親に連れられて来た時、キャメロットに置き去りにされたらしい。
「エンデ‥‥馬鹿ね、直ぐに会えるわ」
 レインボーリボンを崩さぬよう少女の髪を指で撫でながら、キャミアは戸惑いつつ微笑んで見せた。背後でサラが声を紡ぐ。
「友人からの言伝よ」
 ――貴女の望むままに。ただ手が必要な時には頼って頂けないのは寂しいと言う事もわかって下さいね。
 脳裏に浮かぶのは育ちのよい風貌を曇らす赤い髪の少女。
 キャミアは侍に警戒しながら伸びた髪を翻すと、踵を返して口を開く。
「わ、分かってるんでしょうね? ボトムストンは遠いのよ? 私なんかに構って時間を無駄にしても知らないんだからッ! き、来たければ‥‥く、来ればいいわ」
 小さな呟きで少女は説得に応じた。きっと頬を赤く染めているに違いない。
 冒険者達が様々な色を浮かべる中、霧子がパイセンの肩を叩く。
「ああ、パイセン殿はいいダシだね。ずっとキャミア嬢と友人達のダシになってるといいよ」
「ダシとは味の決め手、ダシなくして料理に味はつかないか。こんな風に思ってくれるとは僕も嬉しいよ」
 髪を掻きあげ悦を浮かべる青年と背中を向けたままの少女に、スティンガーは鋏を取り出しウインクする。
「それはそれとして、仕立て職としての血が騒ぐお二人ですね。出来れば、何か仕立てたいのですが一着どうでしょうか?」
「いらないわ。今は貯めるので精一杯なんだからっ」
「うむ、ただなら構わないぞ」
 どうする? 仕立て屋の青年よ――――。