MoonRoad――旅立つ者達

■ショートシナリオ


担当:切磋巧実

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:

サポート参加人数:15人

冒険期間:09月15日〜09月17日

リプレイ公開日:2004年09月24日

●オープニング

 ――人生は出会いと別れの連続である。
 新たな希望を胸に旅立つ者もいれば、現状のイギリスに落胆して離れようとする者もいるだろう。
 そんな旅人の手助けになるのが、毎月15日に開かれる月道である。それは月の精霊の力によって、遥か遠い異国との間を刹那の刻で飛び越える魔法。
 だが、その便利さ故に利用する額は高い。貴族や商人なら兎も角、庶民が簡単に利用できるものでは無かった。

 そんな或る日の事。
『月道移動に伴う護衛兼下働きを求む。報酬は現物払い』
 つまり、商人の荷物を護衛しながら、無料で月道利用が出来るという訳だ。
 そんな依頼がギルドの掲示板に貼り付けられたのである――――

 ここは月道のある区域。
 長蛇の列が並んでいた。友人と別れの挨拶をする者、大切な人と見つめ合い、遠い異国の地に想いを馳せる者、新たな地でも冒険に拳を握り締めてギラギラと眼光を研ぎ澄ます者‥‥。そんな列に慌てて駆け込んで来るのはパラの少年か‥‥。
「‥‥なんてね」
 ふぅ〜と溜息一つ、頬杖をついた格好の少女は瞳を開いた。今までの人込みは月道管理官である彼女の想像だったようだ。
「今回の月道利用者は何人来るのやら、だわね」
 うーんと背伸びして道の遠くを見つめる。
 そう、先月の月道現物依頼に名乗り上げた者は――誰もいなかったのである。
 イギリスで仕事に務める者として、それはそれで喜ばしくもあるが、月道管理官としては、少し寂しいとも思うものだ。
「確かに片道の料金しか肩代わりしないけどさ。冒険者の皆にも「よい旅を☆」とか「あなたの幸せを祈っているわ♪」とか言って見送りたいわよ」

 ――果たして、彼女の望みは叶うのであろうか?
 全ては冒険者の英断に懸かっているのかもしれない――――

●今回の参加者

●サポート参加者

ユキネ・アムスティル(ea0119)/ ルーラス・エルミナス(ea0282)/ ヘルヴォール・ルディア(ea0828)/ ガフガート・スペラニアス(ea1254)/ ケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)/ ティアリス・レオハート(ea2396)/ 矛転 喪之起(ea3197)/ ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)/ 世羅 美鈴(ea3472)/ リンナ・シュツバルト(ea3532)/ ベェリー・ルルー(ea3610)/ 御剣 桜(ea3836)/ ユミル・ヴィンドスロート(ea4586)/ リュミエル・フォレストロード(ea4593)/ トゥルーレイル・スゥーレイムスト(ea6003

●リプレイ本文

 一日の終わりと始まりの境の時間。
 刻を告げる鐘を鳴らす為に梯子を登る若者が、ふとキャメロットの街を見下ろす。漆黒の闇に一箇所だけ松明の灯りが連なる区域が浮かんでいた。
 ――ああ、今夜は月道が開かれる日か‥‥。
 旅立ちと別れを司る搭――月道。
 今夜もイギリスを離れる者が集おうとしていた――――

●旅立ち――想い遥かに
「息子達、孫達‥‥元気での」
 壮年と思わせぬ肉体のドワーフ――ガフガート・スペラニアスは、詰めるだけの鍛冶道具一式をサックに、棲み慣れた宿と残す者に別れを告げる。見送りは辛いのか、彼はひっそりと外へと出たのだ。ワシ鼻ドワーフの表情が小刻みに歪む。思い起こされるは幸せな日々。
 だが、ジャパンへ行く目的がある。彼は重い荷物を逞しい肩に背負い歩き始めた。
「うぬ? 何事じゃ?」
 暫らく歩いた時である。視界に浮かび上がったのは、俯いたまま立ち止まっている人影だ。

「なに、してるの?」
 若い女は豊かな膨らみを両腕で挟むように膝を支え、小首を傾げる。碧い瞳に映るのは、荷物をズリリ、ズリリと僅かに引き摺っては荒い息を吐く、未だあどけなさの残るシフールの少女だ。
「ハァハァ、僕、月道に、行かなきゃ、いけないんだ‥‥向こうには迎えの白犬さんがーっ、待ってるはずなんですーっ! ハァハァ‥‥」
 どうやら大量の荷物で飛べない所か進む事も難儀しているらしい。
「これじゃ、朝日が昇っても辿り着けないわ。私も月道に行くの、肩に乗せてあげるから落ちないでよね」
 ひょいとシフールの少女を掴んで、肩に乗せる。多少乱暴に扱われているようだが、がさつなのだから仕方あるまい。
「あ、ありがとう☆ 僕はベェリー・ルルー、よろしくね♪」
「そう、ヘルヴォール・ルディアよ」
 屈託のない笑顔と対象的に、彼女の表情は掴めなかった。

●月道の門
「わぁわぁわぁ☆ 今夜は沢山の人が来ているわぁ♪」
 月道管理官の少女がウキウキとはしゃぐ。見渡せば商人や馬車と共に、彼方此方に冒険者の出で立ちの者達が覗えたのだ。
「賑やかな娘‥‥」
 そんな管理官を冷めた瞳で見つめるのは若い女。彼女は腕を組み、落ち着き払って周囲を見渡していた。
 ここは月道へ繋がる搭への門。夜盗が闇に紛れて盗みを働く事に警戒しなければならない。その為の冒険者でもあるのだ。依頼である護衛に茶色の瞳を走らせるユミルの耳に、少女の声が流れて来る。
「イギリスでの私の役目は終わり、私は愛する者の待つ故郷ジャパンに帰ることになりました。いつかきっとまた会える日を楽しみにしています‥‥兄上様‥‥本当にありがとうございました」
 ぺコリとお辞儀をし、顔をあげて相手を見上げているのは、御剣桜だ。約束とはいえ、待ってくれる者がいるとしても別れは辛い。意思の強そうな瞳が潤む。
「やだ‥‥目にゴミが入ったみたいだ‥‥あっ」
 俯いて目を擦る少女が、ふと字の口調を洩らし俄かに微笑を浮かべた時だ。紅いリボンで結った黒髪が舞い、大きな腕に抱き締められた。桜の顔が真っ赤に染まる。

「旅立ちと別れか‥‥」
 そんな一つに重なった影を見守るのはウェントス・ヴェルサージュだ。ピンと背筋を張った精悍な青年の表情は、僅かに和らいでいるように見える。
「ここには様々な想いを胸に多くの者が集まっている。護衛として任務は果たさねばならないな‥‥」
「はーい、受付が未だの方は並んで下さ〜い☆」
 管理官の甲高い声に青い瞳を流すと、数名の影が集まり出していた。

「聞いて下さる? パリから船でキャメロットへ。と思いましたら早速ムーンロードでジャパン!? ハードスケジュールにも程がありますわ! 仕方ありません。私の役目はジャパンの主にクレイモアを届けることですもの! でも私はイギリスでの冒険を一つも引き受けていないのですのよ! この気持ちお分かりになります?」
「は、はぁ‥‥」
 ずいっと顔を寄せ、受付の前でリンナ・シュツバルトは愚痴を零し捲っていた。上品で育ちの良さそうな顔立ちは、一見貴族のお嬢様かと思えたが、どうやら役目で旅立つ冒険者らしい。パッと金髪を手の甲で優雅に払うと「ごめんあそばせ☆」と立ち去る。多少スッキリしたのかもしれない。
 次に受付に顔を出したのは、僧の着衣を纏った壮年の男、矛転喪之起だ。長髪を結い、髭を蓄えた険しい風貌のジャイアントであるが――――
「故郷に戻られるのですね?」
「ノルマンに漂着してから苦節十年、遂にジャパンの地に戻れる日が来たのだ! 聞いてくれるか、拙者は――」
 などと感涙をダラダラと流しながら、切々と語り出すものの、時間は待ってはくれない。「うむ、致し方ない」とアッサリ身を退くのも良識を重んじる故か。
「ジャパンの芸術品とも言われる日本刀を作る技術や、その他ヨーロッパとは全く異質な文化について、僅かながら興味を引かれた為に移動する事にしたリュミエル・フォレストロードだ」
 順番を待っていた長身のエルフは、見下すような青い瞳で少女に告げた。金色の長髪をお洒落に纏め上げた青年だが、端整な風貌はどこか冷たい。
「勉学に行かれるのですね☆ 頑張って下さい」
「フッ、勉学になれば良いのだがな」
「はいはい、次は私ね☆」
 ずいっと管理官の目の前に豊か過ぎる二つの膨らみが飛び込んで来た。圧倒される少女に、胸を張った若い女性が人差し指を口元に当てウインク☆
「私はティアリス・レオハートよ。んーっと、護衛をすればいいのよね? でも、何も起こりそうもないから、のんびりとできるわねー♪」
「その場合は下働きを務めさせて頂きます。アチラに夜食の屋台があるでしょ? あそこで手伝いをして下さい」
「えぇっ? そんなーっ、お料理なんて出来ないわよ。‥‥はい、おとなしく皿洗いしてます‥‥」
 冷や汗ダラリ、手をパタつかせて困惑するものの、依頼は依頼だ。彼女は諦めたように歩き出した。束ねた茶髪のポニーテールも些か元気を失ったように感じられる。
 ――その時だ。
「きゃあぁぁぁぁっ!」
 突然甲高い少女の悲鳴が響き渡った。何事かと冒険者達が得物を構え、商人の馬車へと即座に走る。
「どうしたの!?」
「あの、あの、この子が!」
 たたっと両手に何かを抱えて駆けて来るのは、柔らかな銀髪を舞い躍らせた世羅美鈴だ。
「この子が倒れていたんです!」
 ズイッと差し出されたのは、やや細身のシフールの青年だった。茶色の髪や背中の羽根にクッキリと靴跡が浮かんでいる。
「踏まれたのかしら?」
「荷物は軽装だが‥‥」
「なんで飛んでいなかったのだ?」
「お腹が空いていたのではないでしょうか?」
 様々な憶測が巡る中、当人のシフールがゆっくりと瞳を開く。
「もう〜、飛んでジャパン入りするのも味気ないから、歩いて護衛しようとしてたのにぃ、もう踏んじゃ嫌デスヨ?」
 彼の名はケヴァリム・ゼエヴ。昨日ノルマン旅行から戻ってきて、次はジャパン旅行なのだ〜☆ と意気込んでの旅立ちだったが、暗い夜中に小さなシフールが歩いていては踏まれても仕方あるまい。
「もう、脅かさないでよね」
 ユキネ・アムスティルが溜息を吐く。怒っているのか、呆れているのか、心配しているのか、艶やかな銀髪ロングヘアに覗く表情からは窺い知れない。
「ん? 男の子? それとも女の子かな? いてっ!」
 胸元に明らかな視線を向けて訊ねたシフールに、無言で杖を振るう少女だった。彼女は未だ12才。膨らみを気にする事はないが腹は立つ。
「はいはい、受付を続けますよ。えっとユキネちゃんですね?」
「個人貿易とかで資産の強化できるかな? と思ってジャパンに行くの。その為の護衛も務めさせてもらうわ」
「しっかりしているのね☆ 成功を祈っているわ♪ はい、次の方〜」
「これが月道ですか」
 管理官の瞳に映ったのは、馬にライトシールドを4つも載せている短い黒髪の青年だ。辺りを見渡し感嘆の声をあげている。
「あのぉ、この盾は商売で?」
「ジャパンで、祖父の古き友人が盾を求めているのです。祖父の為にも届けねば為りません。それにしても、この奥に月道があるのですね、早く見たいものです」
「もう直ぐ見られますよ♪」
「私はルーラス・エルミナス、お見知り置きを」
 少年の面影を残す青年は、微笑んで見せた。

●解き放たれる刻
「この景色も見納めじゃな‥‥」
 トゥルーレイル・スゥーレイムストは、紅色の右目と碧色の左目を凝らして、闇に包まれたキャメロットの街並を見渡していた。口調と裏腹に、その声は少女の響きがある。彼女は顔にあどけなさが残る少女だ。
「お元気で☆ よい旅を♪」
 シフールのバードが奏でる『旅立ちを祝福するメロディー』の中、月道の門が開かれる。管理官が見送る中、人々が潜って行く。
「長年住み慣れた場所じゃが鍛冶の見聞を広めるためじゃ。お嬢ちゃん。一月か二月で戻ってくるから覚えといてくれると嬉しいぞい」
「まさか私がジャパンに行く事になるとはね‥‥ま、ノルドの基礎にもなったと云うジャパン剣術、間近に拝めるだけでも善しとしますか」
「新天地と僕達に祝福がありますように〜☆」
「ショータイムの始まりですわよ♪」
「待っていろ盾! お前の捻じ曲がった性根、この父が正してくれようぞ!!」
「さて、どこまで楽しませてくれるのか‥‥」
「頑張るわネ♪」
「それじゃあ行ってきま〜す♪」
「あ、そだ。門番さんにも祝福と平安がありますように☆」
「ノルマン行ったり、ジャパン行ったり‥‥私、外交官みたい」
「褌の故郷ですか‥‥楽しみですね」
「さらばイギリス。そしていざ行かん。師匠の故郷ジャパンへ」
 ふと立ち止まり振り返る少女。風が吹き抜けて長い銀髪を揺らす。彼女はキャメロットの景色を瞳に焼きつけると門を潜った。
 様々な表情と言葉を残し、冒険者は旅立つ。
 待つのは成功か否か。
 それは新たな地での記録が語ってくれる事だろう――――