voice――可能性は歌の中に
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■ショートシナリオ
担当:切磋巧実
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月28日〜12月03日
リプレイ公開日:2004年12月07日
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●オープニング
――学園都市ケンブリッジ
幾つもの学び舎が建てられ、様々な人々が勉学に勤しむ町である。
この巨大な学園都市はハーフエルフを受け入れる事を宣言した。
――ハーフエルフ
少なくともイギリスの民は、彼等が迫害の対象とされている事を知っている。
ジ・アースでは、混血種を禁忌に触れた存在として忌み嫌う傾向があり、狂化という身体的特徴が神の摂理に反した呪いといわれているからだ。
では、ケンブリッジに何故ハーフエルフが暮らしているのか?
「学問を受ける者に例外はないのです!」
――生徒諸君よ、平等であれ!
学園理事会の言葉であった。ケンブリッジは寛大な町として、評価される事となる。
しかし、学校とは閉鎖された小社会だといわれるものだ。
光の当たらない場所で、ハーフエルフ達は苦汁を舐めているかもしれない――――
――学園ギルド『クエストリガー』
「あ、あのぅ‥‥い、依頼をしたいのですが‥‥」
受付の前でオズオズと口を開いたのは一人の少年だった。見るからに気弱そうな依頼主に、受付嬢は先を促がす。
‥‥あ、あれは3日前の事です――――
「何だよ、ハーフエルフっていっても、耳がちぃと長いだけで普通の身体してんじゃねぇかよ」
「おい、なんかハーフらしい特徴みせて見ろよ! 躯に変化が出んだろ?」
校舎の屋上に上がった時です。大きな煙突の影から、男達の声が飛び込んで来ました。どうやらハーフエルフを虐めているようでした。僕は巻き込まれるのが怖くて、隠れていたんです。
暫らく男達の怒声や布の破られるような音が続くと、3人の男が煙突の影から戻って来ました。僕はジッと見つからないように息を潜めて彼等が消えるのを待ちました。すると、彼女がゆっくりと煙突の影から姿を見せたのです。
ボロボロに破れた制服を胸元に抱いて、空を見上げて――――
「歌を、唄ったんですか?」
「はい、とても綺麗な歌声だったんです。僕は引き込まれるように彼女に近づきました」
――歌が僕の足音と共に消えました。
「‥‥なに?」
代わりに僕の耳に飛び込んだのは、彼女の澄んだ声でした。
「き、綺麗な声だね、皆に聞かせれば、‥‥きっと虐められなくなるよ」
「‥‥見ていたのね‥‥見ていただけなら今更構わないで‥‥」
一瞬だけ怒りの篭った紅い瞳で僕を鋭く睨んだんです。後は哀しい青色に瞳は戻っていました。そして、彼女は再び口を開いたんです。
「‥‥これ、適当な歌なの‥‥私は歌を作る事もできないし‥‥曲を奏でる事もできない‥‥何も、できないのよ‥‥」
「ならさ、仲間を集めれ‥‥」
「ハーフエルフの私が? できる訳ないじゃない! あなただって、皆の前では知らない顔するんでしょ!? もう、構わないで! 私は‥‥生まれて来てはいけなかったのよ‥‥」
――クエストリガー受付前
「あの娘に協力して下さい! 皆の前で歌を唄わせたいんです! 5日、5日間だけ引き受けて下さいッ!! 彼女に笑顔を与えるチャンスが欲しいんです!!」
少年の依頼とは、ハーフエルフの少女にステージをセッティングして欲しいというものだった――――
●リプレイ本文
――ねぇ、この噂きいた?
――どこの学校か知らないけど、綺麗な声なんだってさ。
●変わる日常
朝を告げる鐘と共に学園は動き出す。季節は既に冬。そんな中、背筋をピンと張る長身の少女が一人。制服からケンブリッジ魔法学校の生徒のようだ。
「おはよう、シュリデヴィ」
「ああ、おはよう‥‥」
僅かに表情を和らげ、シュリデヴィ・クリシュ(ea7215)は抑揚のない声で返す。フードから覗く黒髪と褐色の肌が他国出身だと窺わせる。
「どうしたの、誰か探してる?」
「いや‥‥皆、寒そうだなと思ってな‥‥!!」
言葉を返した刹那、彼女の瞳が鋭さを増す。瞳に捉えたのは縫い合わせた制服を纏う銀髪の少女だ。その耳は僅かに長く尖っている。
――あの娘がレインだな‥‥なるほど、アイツも動くか‥‥。
更に手前に視線を流し、シュリデヴィはフッと笑みを浮かべた。
「おはよう」
「‥‥えっ?」
擦れ違い様に挨拶され、レインは思わず素っ頓狂な声をあげた。チラリと青い瞳を流すと、映ったのは白髪の女性だ。
「何を驚いている、挨拶は嫌いか? 私はFOR騎士訓練校のヴァレリア・フェイスロッド(ea3573)だ」
「‥‥お、おはよう‥‥レ、レインよ‥‥そ、それじゃ」
戸惑いながら返すと、ハーフエルフの少女は駆け出した。ヴァレリアは碧の瞳で後ろ姿を追う。
「生まれてきてはいけない、か‥‥その言葉を聞くと、古傷が痛む‥‥」
――昼。
学園で学ぶ生徒達で賑わうのは学食だ。ケンブリッジ全校の食事を担う為、遅れれば簡単に有り付けるものではない。それ故に学食一番乗りはステータスでもある。
「隣、良いかな?」
「‥‥他も空いてるわ‥‥別に、構わないけど」
ヴァレリアは学食のトレイをレインの隣に置いた。誰もが、彼女の隣に座ろうとしなかったのだ。ヒソヒソとした小声が耳に流れて来る。
シジは特等席と化した二人だけのテーブルを見つめていた。
「どうしたの? 手がお留守ですよ〜」
気怠そうな声で彼の隣にトレイを置いたのは若い女性だ。腰まで伸びた艶やかな銀髪が印象的だった。彼女はイリア・ルゥ(ea8803)と名乗り、シジに話し掛ける。どうやら教師らしい。
「気になるなら、席空いてるわよ。都合の良い時だけ関わって、そうでなければ見て見ぬ振りは感心しないわね」
「‥‥分かってますけど‥‥」
「そう? なら先生は何も言わないわ」
頬ずえをついたイリアは俯いて応えた少年を青い瞳で見つめ、パクパクと食事を口に運んだ。チラリと二人に視線を流す――
「今日の学食は先週と同じだな。なに、匂いで分かるものだ」
「そう‥‥」
「私は遠乗りと詩吟が好きだ‥‥。‥‥レイン殿は?」
「え? ‥‥別に‥‥何も‥‥私、先に‥‥行くから」
――種は捲いたが、まだ先は長いな‥‥。
「ちょっと、ヴァレリアさん?」
レインが食堂を出て行くと同時、騎士訓練校の制服を纏った少女が数名近づいて来た。高圧的な響きに瞳が険しさを湛える。
「何か?」
「あれはハーフエルフですのよ! 少しは騎士学園の生徒としての威厳と格式を持って頂きたいものですわ。ハーフエルフと隣の席で食事なんて‥‥キャッ!」
ガタンと腰をあげると同時、瞬時に短剣を突きつけられ、少女が短い悲鳴をあげた。
「これ以上なにか言うなら、フェイスロッド家の長女として相応しい態度を取らせて貰うが?」
●突きつけられる命題
――おい、謎の歌姫の噂きいたか?
――そうそう、誰かが夕暮れに歌を聴いたって噂よ。
「お前がレインだな?」
廊下を歩くレインに声を掛けたのはシュリデヴィだった。背を壁に預け、数珠を弄びながら視線を流す。
「‥‥そうだけど‥‥なに?」
来てくれ――そう言って歩き出す少女をレインは拒みやしない。憂いを帯びた瞳で彼女について行く。どうやら屋上に向かうようだ。
「レイン、お前は努力したか?」
「えっ? 努力って‥‥なに?」
戸惑うレインの肩を掴み、ズイッと顔を寄せる。
「そもそも、お前は虐められないように努力したのか? 『自分はハーフエルフだから』という言葉を逃げ道にしていないか?」
「‥‥何が、言いたいの? 努力したって変わる訳ないじゃない」
クッと顎を引き、研ぎ澄まされた瞳でシュリデヴィを射抜く。
「『努力しても無駄』なんて言うのは努力を続ける者の言葉だ。一度、本気で現状を変える為の努力をして見ろ。それでダメなら、もう一度努力すれば良い。それでもダメならもう一度だ! その努力の過程はお前の力になる。無論、お前を助けてくれる仲間もな」
「‥‥仲間?」
レインの脳裏に過ぎる女性と少年の顔。2日前から共に食事をしたヴァレリア。昨日の昼からはあの時に出会った少年だ。
――あの人たちが‥‥仲間‥‥?
「お前には気遣ってくれる者がいるのだろう? それはお前の力となるはずだ。その力を、信じてみても良いのではないか?」
「レイン殿ッ!」
私が言いたい事はそれだけだ――そう告げると屋上から立ち去るシュリデヴィ。同時にヴァレリアがレインに駆け寄る。交差する二人の視線――――
「そうか、直球で言われたものだな」
シュリデヴィとの一件をレインは話した。既に出会って3日目。彼女の警戒心も解けて来たのかもしれない。
「‥‥私は‥‥歌が、好き‥‥なの」
少し照れたような表情で告げるレイン。
「聴きたいものだな、レイン殿の歌声」
「でも、歌詞なんて適当なの‥‥」
「構わないさ、私に告げたのは聴かせる覚悟もあったのだろう?」
顔を上げ、空を見上げると、レインはメロディを紡ぎ出す。透き通った歌声が空に響いていった。
チラッと視線だけをヴァレリアに流す。どう? そう瞳は訊ねているようだ。
「ああ、気持ちの良い歌声だ。授業の疲れが癒される‥‥っと、スマヌ、今日は当番だった。レイン、聴かせてくれて有り難う」
「うん‥‥」
レインは嬉しかった。歌を聴いて褒めてくれる人がいる。彼女は歌を唄い続けた。
――パチパチパチ☆
突如、鳴り響く拍手。瞳を開くと、ローブを纏った少女がニッコリと笑みを浮かべて手を叩いていた。金髪から覗く長い耳、エルフのウィザード――リト・フェリーユ(ea3441)だ。
「わ‥‥凄い綺麗な歌声‥‥。ね? 私も一緒に歌っていい? 人のざわめきと広〜い空の間にいるとね、そのまま飛んでいる気分になるんだぁ‥‥」
「うん‥‥いい、よ」
照れたように頬を紅潮させ、レインは頷く。そして響き渡る二人の歌声。レインが紡ぎ、リトがハーモニーを合わせる。雪が降り出したのも気にせず、白い息を吐いて少女達は歌い続けた――その時だ。
「おい、一人増えてるじゃねぇかよ。レイン、お友達が出来たと勘違いしてねぇか?」
「‥‥かん、ちが、い‥‥?」
姿を見せた男子生徒達に、レインの表情は曇る。
「同情されてんだぜ? 可愛がってるのは俺達しかいねぇんだよ」
「‥‥先に行って‥‥我慢すれば済むから」
レインはしっかりとした足取りで三人の男達に歩み寄る。煙突の裏に行くのだろう。肩を震わせ、リトの碧い瞳が怒りに研ぎ澄まされる。
「あ、貴方達ッ最ッ低!!」
「ヒッ!?」
刹那、男の横を鋭利な疾風が掠った。真空の刃が疾りビリビリと制服が舞散る。青年の瞳に掌を翳した少女が映った。リトが『ウインドスラッシュ』を放ったのだ。
「冒険者や騎士になったら色んな種族の人と依頼をこなすのよ? 何山賊の様な事をしているの? また同じ事をするなら‥‥今すぐ制服脱いで学校辞めなさい! いる資格なんて無いわ!」
怒涛の剣幕に男達は立ち去る。リトはレインに近づく。
「諦めちゃ駄目だよ? そうだ! 私、秘密の場所知ってるの今度そっちに行って見ない? それに私‥‥この学校の生徒じゃないからバレたら怒られちゃうし、ね☆」
クスッと笑いウインクするリト。レインも釣られて微笑んでいた。
「聴かせてもらったわ、とても良い歌だと思うわよ」
姿を現わしたのはイリアだ。彼女は続ける。
「やる気がある子には、協力を惜しまない方だから。‥‥これでも歌と演奏と踊りを一通りこなせる方なのよ。ここから先は、貴女の選択。全てを諦めてここで残りの数年を過ごすか、少しでも足掻いてみるか」
●可能性は歌の中に
「さあ、レイン唄おう☆」
リトがウインクして微笑むとレインは頷く。聴衆はヴァレリアとシュリデヴィ、そしてシジだ。少女は空を仰ぎ、息を吸い込み、リトが作詞した歌を紡ぎ出す。歌声が天空へと解き放たれた。
「♪見上げた空 誰にも変わらぬ青♪」
〜♪〜〜♪♪〜
リズムに合わせてイリアが竪琴を弾きながら登場、自慢の舞いを披露してウインク☆ 少女は一瞬驚きの表情を見せるが、頷くと唄い続けた。
「♪歌は祈りと共に 光に解けて降り注ぐ♪」
外にいる者や窓の開いた校舎から、校門近くの建物屋上に視線が集まってゆく。
――噂の歌姫よ!
――あの建物だ!
レインがリトに視線を流す。二人の歌声が地上に降り注ぐ。
「「♪誰もが同じ空の下 笑顔でいられますようにと♪」」
――歓声と拍手の波が地上から沸き上がった。
屋上から見下ろすと、建物を囲んだ人、人、人‥‥。
「レイン、皆が貴方の歌に拍手を送っているのよ」
「私もレインさんの歌声、大好きよ」
「イリア先生‥‥どうして‥‥」
「昔の自分にそっくりな娘がいるのを見れば、放っておけないって事もあるかな。自分から変わる事を恐れて、周囲が変わる事を望んで。‥‥結局、変わらない現実に諦めを抱く。少なくとも、貴女の歌は一人の少年の心を動かしてたみたいだけどね」
「!! 先生‥‥」
イリアが流れるような銀髪を掻き揚げると、レインと同じ耳が覗く。その事実に驚いたのはレインとシジだ。
――都合の良い時だけ関わって、そうでなければ見て見ぬふりをされる事ほど辛い事って、私達からしたらそう無いから――――
「レイン、大丈夫かなぁ?」
「シジには伝えた。レイン殿の信頼できる友になって欲しい。彼女が虐められていたら怯まず助けに行ってくれ、とな」
「このまま自分の殻に閉じこもるのも、世界に戦いを挑むのも、レインの自由だろう。まあ一人じゃなければ、切り開ける事もある」
「シジ君なら、きっと大丈夫よ。傷だらけだったけど、レインに手当てしてもらっていたわ」
虐げられるハーフエルフ。それはレインだけではない。
しかし、彼等が証明するように、人は変われるのだから。
可能性を与えた冒険者達は、次の可能性へと旅立つ――――