まったく、どうして‥‥

■ショートシナリオ


担当:切磋巧実

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月31日〜06月05日

リプレイ公開日:2006年06月08日

●オープニング

 ――平穏を取り戻したキャメロット近郊。
 冒険者ギルドへの依頼も訪れる事がなく、半年が経過した。
 しかし、モンスターが絶滅した訳ではない。何処かで静かに生息しているのだ。
 最近になり彼方此方でモンスターや悪漢の事件が降り注がれ、ギルドに集う冒険者達も見掛けられるようになった。
 だが、未だ平穏な村に住む少女達はそんな事実を知らない。
 好奇心という厄介なものに動かされた3人の少女達が訪れたのは――――。
「ねぇ、やめようよぉ?」
 ブロンドロングヘアをサラリと揺らし、発育も良好な一見年上のお姉さん的な娘が、不安の色を浮かべた表情と仕草で哀願した。瞳に映るは自分の豊かな胸元位の背丈しかない赤いセミロングヘアの少女だ。
「何を言ってるのよ! あなたのこの無駄に大きな胸は探求心で高鳴らないの?」
「探求心じゃなくて不安で高鳴ってますよぉ」
 無駄に大きなを自覚しているのか、金髪の少女は不安ばかりを説いて涙目である。勝気そうな眼光をギラつかせ、赤毛のちっこい娘は不満げに瞳を反らす。これ以上、話しても泣き言ばかりに違いない。
 3人の少女達は更に森の奥へと踏み込んでゆく。その時だ――――。
「何かいるわね!」
 森がざわめきだした。一気に空気が緊張感に包まれる中、ロングヘアの見た目だけお姉さんが短い悲鳴をあげる。身体を戦慄かせ、交錯させた視線の先に映るは、褐色の肌に、潰れた鼻、下顎から伸び上がるは鋭い牙だ。貧相な子供のような体格をしたモンスターの集団が、眼光をギラつかせていた。
「いたじゃない☆ モンスター♪ さあ、逃げるわよ!」
「えぇっ!? ま、待って下さいよぉ」
 不敵な笑みを浮かべた後、一気に逃走を開始する2人の少女。見た目だけお姉さんは蛇に睨まれた蛙状態だ。慌てて追うものの、胸が重荷か友人達との差は広がるばかり。
「ひいぃぃぃっ‥‥きゃん!」
「ちょっと、カウチー!? うそ‥‥」
 悲鳴と共に転倒した少女に群れ飛び込む醜悪なモンスターが、振り向いた瞳に映った。既に引き返して助け出せる距離ではない。流石に勝気な風貌が戦慄く。
「‥‥ど、どうしよう‥‥ッ!?」
 刹那、瞳に映ったのは弾き飛ばされるモンスターの群れだ。悲鳴を響かせ、次々と蹴散らかされてゆく。それは赤褐色の巨人。遠くて分からないが2mはありそうだ――――。
 周囲に静寂が戻り、少女達は恐る恐る引き返した。
「あれ? カウチーがいないわ! 足跡? これを辿れば‥‥っ」
 巨大な足跡を追おうとする少女の肩が掴まれる。視線の先に映るは、短めの銀髪少女だ。鋭い瞳が物語る――行くな! と。
「そ、そうね。‥‥あんっ、ちょっと!」
 ショートヘアの少女は勝気な娘をグイグイと引っ張り、森を後にした――――。

「まったく、どうしてこんな事を‥‥」
 受け付け係は深い溜息を吐いた。少女が訪れたのは冒険者ギルドである。
「モンスターがいるかいないか確かめたかったのよ! もう、それよりはやくしてよ! カウチーがあんなことやこんなことされてたらどうするのよ!」
 ――いや、それは無いと思う。寧ろ命の方が心配だ。
「えーと、それでは依頼金などは‥‥」
 申し訳け無さそうに受け付け係は頬を掻く。勝気な風貌の少女は不敵な笑みを浮かべ、スと背後に手を回すと、ショートヘアの少女が無言で皮袋を小さな掌に乗せた。あたかも自分の金の如く、受け付け係に差し出す。
「これでカウチーを助け出して! 現場まではあたし達も同行して道案内するわ!」
「同行? まぁ、道案内は必要ですけど‥‥」
 こうして、身から出たサビ的な事件は羊皮紙にて公開されたのである――――。

●今回の参加者

 ea0999 サリエル・ュリウス(24歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1582 メリル・ジェネシス(29歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea1910 風見 蒼(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1731 ケイオス・ヴェトレイヤー(46歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb2766 光城 白夜(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3327 ガンバートル・ノムホンモリ(40歳・♀・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)

●リプレイ本文

●集いしは6人の冒険者
「久しぶりの依頼ですわね。感覚を忘れていないか心配ですわ‥‥」
 頬に手を当て、サラリと赤い長髪を揺らして僅かな不安を呟くのはメリル・ジェネシス(ea1582)。上品な仕草と色っぽい表情に、少女は羨望の眼差しを送っていた。
 そんな少女を軽く睨むのはガンバートル・ノムホンモリ(eb3327)だ。
「それにしても‥‥まったく、無茶をしたものだな? 往時に比べて平穏になったとは言え、まだまだ危険な所は危険なものだぞ‥‥」
「好奇心旺盛なのは悪くないが‥‥まったくもって軽率な行動をとったもんじゃな」
 赤い髭を撫でるドワーフの女性に次いで、風見蒼(ea1910)が腕を組み、溜息を吐いた。
「んむっ、3人だけで危険に踏み込むとは良い度胸だ。私が鍛えてやった挙句途中で逃げ出した冒険者見習いよりよっぽど肝が据わってる!」
 対して褒め言葉とも思える事を口にしたのは、サリエル・ュリウス(ea0999)。ツルペッタンな胸元で腕を組み、黒い長髪の少女は愛らしい風貌に微笑みさえ浮かべていた。赤毛の少女が髪を掻いて照れ出すや否や、微笑みを浮かべた唇は、邪に捻じ曲がる。
「だが、その結果お仲間一人が墓に入って帰ってくるのを待つ覚悟はできてるんだろうな。くふふふふふふふふふ」
「止めて下さい、不謹慎ですよ。確かに子供にしてはいい根性ですが‥‥」
 ケイオス・ヴェトレイヤー(eb1731)が堪らず口を出した。2mの長身を少女達は思わず見上る。そんな中、光城白夜(eb2766)が、長めの金髪から覗く瞳を向けると、端整な風貌に気さくな微笑みを浮かべた。
「まぁ、ちょっと高い勉強代になったんじゃない?」
「大丈夫、心配するな。自分たちはプロだ。お前たちの友達は必ず救い出す」
「同行するからには、わしらの指示に従ってもらうが、良いかの? 取り敢えず、名前を聞こうかの? いざという時に名を知らねば指示も出せんからの」
「それもそうね。あたしはエレン・スタンスよ。で、この娘がキャレーヌ・シモンズ。可愛い名前でしょ☆」
 勝気な少女が腕を組んで名前を告げると、背後に顔を向けてショートヘアの娘を示した。キャレーヌは僅かに頬を染めて視線を逸らす。どうやら名前に抵抗があるらしい。
 かくして、置き去りにした少女救出の為、冒険者一行は森へと向かうのであった。

●しかし‥‥
「保存食? あら、何か準備が足りないと思ったら忘れてましたわ!」
「3つなら残っているが‥‥」
「‥‥足りんじゃろう。嘆かわしいぞ! 森まで2日、戻るのに2日。最低でも5日分は必要じゃろう‥‥のぅ? 光城殿?」
 蒼が深い溜息を吐いて額を押えた。サリエルは3つ、メリルに至っては感覚を忘れていたらしい。振られた口数少ない白夜が頷くものの、実は1つしか持っていないのは秘密だ。
「攫われたのは事実じゃし、急がねばいかんのぅ」
 幸い馬は3頭。サリエルのドンキー、白夜のライディングホース、そして蒼のノーマルホースだ。便乗させれば森までの距離は稼げるだろう。問題はジャイアントのナイトか‥‥。
「按ずる事はありません。我が輩なら長距離を休まず走り続ける術があります」
 こうして保存食節約という‥‥否、少女を早急に救出する為、一行は森へ駆け出したのである。

●モンスターテリトリー
 カウチーなる少女を置き去りにした森に到着すると、サリエルは戦場工作の知識を駆使して、エレンとキャレーヌを葉っぱ等で軽いカモフラージュを施した。2人が狙われ難いようにする為である。ついでにとガンバートルに頼まれ、彼女の顔に森林と溶け込む様、ペイントも施した。
 前衛を担うはケイオス、白夜、蒼、後衛にサリエル、間に少女達、ガンバートル、メリルと編成される中、2人の道案内により、冒険者達は鬱蒼と茂る森深くへと踏み込んでゆく。
「こら、キャレーヌ、勝手に動くでない!」
 スーと誘われる如くパーティーから離れようとする少女の襟首を掴み、ガンバートルが引き止めた。これには蒼も注意を促がしたが、赤毛のドワーフやウィザードの娘が護衛に瞳を光らせていなかったら早速1名行方不明になったかもしれない。まったく、どうして危険を分かってくれぬのか。冒険者から溜息が漏れる。
「まぁ、敵倒してれば‥‥遺品くらい出てくるかもね‥‥」
 金髪の浪人が脅しを掛けるが、さて、分かってくれた事やら‥‥。

 ――そんな一行が暫らく進んだ時だ。
 静寂の中、周囲で微かな物音が聞えた。否、耳障りな茂みを掻き分けるような音は次第に溢れ出す。
「‥‥風見殿、光城殿」
 ケイオスがヘビーヘルムとフェイスガードから覗く真紅の左目を研ぎ澄まし、ジャイアントソードの柄を握る。ナイトの声に2人の浪人が頷き、ロングソードとライトソードに手を運んだ。レンジャーの少女が周囲に瞳を研ぎ澄まし、ファイターが背中の筒から矢を引き抜き、メリルが少女達を庇う。
「どうやら様子を窺っているようじゃな」
「相手がゴブリンなら憶病なモンスターよ。無防備な者を狙うとすれば‥‥」
 蒼の呟きに呼応するように赤毛のウィザードが口を開き、茶の瞳を背後に流した。詠唱する中、一斉に飛び掛って来たのはゴブリンの群れだ。ローブを翻し、メリルが精霊魔法を行使する。
「マグナブロー!!」
 単純に武装が貧弱に見えるのは後衛であり、ナイフしか装備していない娘は最良の獲物と映ったのだろう。地面から吹き上げたマグマの炎に、醜悪なモンスターの数匹が紅蓮に包まれた。
「クフッ★ その目もらったぁッ♪」
「下劣な輩め!」
 続いて、サリエルがスリングを薙ぎ振るい、礫による目潰しを叩き込むと、ガンバートルが弓に2本の矢をつがえて放った。洗礼を叩き込まれ、激痛にゴブリンが呻き声を響かせる。しかし、魔法や射撃武器は隙が少なくない。狡賢い小柄なモンスターは、次々と包囲網から飛び出し、あわよくば少女を掻っ攫うつもりのようだ。
「好きにはさせんぞ!」
「楽しませてもらおうじゃねーの♪」
 蒼が少女達を庇うよう行く手を阻み、長剣を叩き込むと、白夜が嬉々と眼光をギラつかせ、ライトソードでフェイントを駆使しながら相手を翻弄させた後、一気に間合いを詰めて切先を横に薙ぎ振るった。モンスターの肉が切り裂け、鮮血が舞い荒れる。
「指一本触れさせぬぞ! 下劣な獣め、貴様らには名乗る名さえ持たぬわ!」
 ヘビーシールドとジャイアントソードを薙ぎ振るい、次々と豪快に蹴散らしてゆくはケイオスだ。
 再びマグマが地面から洗礼を吹き、目潰し攻撃と矢が風を切る! 次々と鮮血を舞い散らせ、地面に倒れる仲間を窺うと、ゴブリンの群れは恐れをなして茂みへと引き返してゆく。
「無益な殺生は好まんからな」
 浪人の青年はモンスターが戦意を消失したと見ると、長剣を腰の鞘に収めた。そんな中、苦悶に似た呻き声をあげるゴブリンに瞳を流す。
『ゴブッ! ごふっ!』
「あぁん? ちゃんと喋りな! それッそれッ♪」
 視界に飛び込んだのは、ゲシゲシと踵で踏みつけたり顔面に蹴りを薙ぎ放つ少女の姿だ。無邪気そうに笑みを浮かべ、抵抗する意志さえ掻き消えたモンスターに制裁を加える光景はあまりにも残酷である。流石にエレンとキャレーヌも不憫そうな表情を浮かべていた。堪らずメリルが注意を促がす。
「サリエルさん、ゴブリンに尋問は無意味よ?」
「あれ? そうだった? でもカウチーを攫ったのはコイツらかもしれないぞ! このッこのッ♪」
 キョトンとした円らな碧の瞳を向け、確信犯の少女はスッ呆けて見せた。愛らしい風貌なだけに残酷さが鮮明に映る。敵にしたくないタイプだ‥‥。

●追跡の先に
「ここよ! この先はこの娘に止められて進んでないわ」
「‥‥話によれば、ゴブリンが集まって来たところに現れたという話じゃから‥‥この辺りが縄張りなんじゃろうな」
「攫われてから相応の日数が経っています。急ぎましょう」
 蒼の言葉にケイオスが追跡を急かす。口には出せないが、無事だとしてもかなりの衰弱が予想される。メリルに至っては最悪の事態も考慮し、端整な風貌に精悍さを湛えていた。
「ふむ、足跡は未だ残っているな」
 ガンバートルが貴重な手掛かりを慎重に確認してゆく中、白夜が周囲に鋭い視線を流し、警戒と手掛かり発見に瞳を研ぎ澄ませる。その時だ。
「おい! あれじゃねぇの」
 指し示した先に瞳を向けると、不自然に木々が折り重なり、大きな葉を被せたようなものを捉えた。人工物には程遠く、かといって自然のものとも思えない。
「我が輩が見て来ます。オーガと戦闘になった場合、我輩一人で勝つことは無理でしょうが足止め程度の役目は果たせましょう。救出を頼みます」
 ジャイアントのナイトがラメラアーマーを軋ませ、一歩を踏み出す。重厚な鋼のカチ合う音が静寂の中に響き渡った。しかし、何か釈然としないものがメリルの胸を巡る。
 ――なぜ巣穴に運ばなかったのかしら? 
 自分のテリトリーでありゴブリンが襲い来る事は無いと仮定しても、まるで目印のようにしているのは何ゆえか?
『オォォォォーガアァァァーッ!!』
 その時だ。ケイオスの行く手を阻む如く、木々のそそり立つ深い茂みから幾つもの枝を撒き散らし、赤褐色の巨人が飛び出した。筋骨たくましい体格と凶悪な形相の上に生えた角。大きな金棒を叩き下ろすは正しくオーガだ。渾身の一撃に地面が土埃をあげて陥没した。
(「‥‥外した? これを食らったら無傷とはいきませんね」)
「今じゃッ! 近付くぞい!」
「残念、僕も一戦交えたかったかも」
 ジャイアントソードをゆっくりと引き抜き、慎重に間合いを取り対峙するケイオスの瞳に、オーガの背後を忍び歩きで抜ける蒼と白夜を捉えた。ガンバートル、サリエル、メリルは茂みに隠れて警戒及び援護体勢だ。慎重に音を立てず葉を退かせてゆく2人を見守るウィザードは胸元で手を組む。
「このまま無事に運べば良いわよね‥‥オウガが助けに入った可能性もあるのだから‥‥」
 オーガは強暴なモンスターばかりではない。人間と仲良く付き合いたいと考える者もいるらしく、自分のテリトリーに入り込んだ人間を助けてやったりする話も聞かれるのだ。
 しかし、どう判断すれば良いのか明確に浮かんで来ない。敵意が無いなら兎も角、事実、ケイオスと睨み合っている現状だ。
 そんな中、2人の作業は続き、ぐったりと仰向けで横たわる金髪の少女を発見していた。口元が黄色い液体に汚されており、頭を傾けると、蕾のような唇から唾液と共にコポと零れだす。
「これって‥‥」
「詮索は後じゃ‥‥ふむ、外傷は見当たらぬし息もある。運ぶぞい」
 少女を抱えて踵を返した時だ。
「カウチー!!」
 ――マズイッ!!
 静寂を切り裂くような少女の声が響き渡った。直ぐさま顔を向けたのはオーガだ。唸り声をあげ、一気に地を蹴ると、2人に向けて棍棒を薙ぎ振るうべく大きく振り被った。ガンバートルが矢をつがえ、サリエルがスリングを構えた手をあげる。刹那、護衛が緩くなったと見るやスルリと擦り抜ける影があった。両腕を左右に広げて割って入ったのは銀髪の少女だ。突然、戦線に現れたキャレーヌに、間合いを詰めた白夜も進路を遮られる。
「だめッ!!」
 鋭い少女の視線はオーガではなく、その背後から一撃を浴びせようとしたジャイアントのナイトを射抜く。
 ――その瞬間、刻が止まったような錯覚が襲った。
 それぞれが予期せぬ状況に一瞬硬直する中、薙ぎ振るわれた棍棒はピタリと止まっていたのだ。
 銀髪の少女が視線をメリルに向ける。
「(あっ)皆さん、待って下さい! 武器を下ろしましょう。そうですわ、オーガには人を区別する事は出来ないもの‥‥。武装した者がテリトリーに入れば、悪意のある者か分からないのだから威嚇するものですわ(キャレーヌさん、わたくしの呟きを聞いていたんだわ‥‥)」
「だけどさ! このオーガは」
「あれ? これ、森の果物じゃない?」
「‥‥えっ? 果物?」
 怒りを露に反論しようとした刹那、エレンの声に唖然とした顔を向ける。瞳に映ったのは、果実を搾った後のような乾いた物体を指で抓んでみせる少女の姿だ。
「カウチーを助けてくれたのよね♪」
 微笑む少女達にオーガの瞳が和らいだ気がした。赤褐色の巨人はゆっくりと背中を向けると、森の中へと去って行ったのである。

●教訓
「‥‥何はともあれ、これでも食べて今はゆっくり休むのが良いじゃろ」
 森を抜けた後、蒼は少女達に保存食を駆使した料理を振る舞った。カウチーは衰弱していたものの、気を失っており、その間オーガが果物の実を搾り与えていた事で回復も早かったと推測される。
 因みに果物は数個確保し、保存食を忘れた者達も帰路まで凌ぐ事が出来そうだ。
「‥‥助けて頂き、ありがとうございました。私、カラベアチル・カルオールと申します」
 ――エレン、何ゆえカウチーなのか?
「無事だったから良かった様な物の‥‥」
 軽く溜息を洩らして、ガンバートルが少女達に歩み寄る。
「とりあえず、お前たちはカウチーに『ごめんなさい』だ。カウチーはこいつらに『助けに来てくれてありがとう』だ。いいか、仲間と言うものは、大切にせねばならん」
「今のイギリスは再び危険な状態になりつつある。好奇心を持つのは良いことだが、節度というものも心得なさい」
 滅多に説教などしないケイオスも今回ばかりは注意を促がした。
「はぁーい‥‥カウチーごめんなさいっ!」「‥‥ごめんなさい」
「ううん! こちらこそ、助けに来てくれてありがとうございました☆」
 何とも人騒がせな依頼ではあったが、少女達の微笑み合う姿を見つめ、冒険者達も安堵の笑みを浮かべていた――――。
 その後、ケイオスは自分の報酬は受け取らず少女らに返還を希望した。依頼は騎士道を修める為の試練と考えており、騎士となるまでは『清貧の誓い』を自らに課している為だという。
 エレンは布袋を受け取ろうと手を伸ばしたが、キャレーヌがその手をパシと掴んで制した。
「‥‥報酬は報酬です。ケイオス様が寄付しようと勝手ですが、私達は受け取れません」
「あのぅ、差し出がましいですが‥‥私もこのお金で装備をより整えて頂けると嬉しいです☆ より大きな試練に立ち向かう為にも、お使い下さい‥‥なんて、生意気ですね。では、失礼します」
 丁寧に挨拶すると、カラベアチルは2人の背中を追って駆け出した――――。