【ジューンブライド】想いの強さって‥‥
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■ショートシナリオ
担当:切磋巧実
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 36 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月29日〜07月04日
リプレイ公開日:2006年07月07日
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●オープニング
「兄さん、本気なのですか!?」
若い娘の不安に彩られた声に、見るからに生真面目そうな青年が爽やかに振り向く。
「あぁ、どうしてもあの森を抜けた丘に生えている花とハーブをブーケにしたいんだ」
「‥‥だって、あそこには最近モンスターが出るって噂で、誰も近づかないじゃない。結婚式を控えた今、そんな危険な場所まで行かなくても‥‥」
両手で顔を覆い肩を震わす少女。妹の嗚咽に青年は屈託の無い微笑みを浮かべて頭を撫でた。
「結婚式に捧げるブーケだから欲しいんじゃないか。これが彼女への愛の証、僕の想いなんだ。どんな危険が待っていようとも僕は彼女を守る! その決意にぴったりのブーケだと思わないかい? イレーヌ」
「‥‥いつ行かれるのです?」
――冒険者ギルド。
「あ、あのッ、冒険者をお願いしますッ!」
ギルドに恐る恐る入って来たのは一人の少女だ。受付係が先を促すと、辺りにキョロキョロと巡らせた視線を戻して、深呼吸すると依頼理由を話し出した――――。
「‥‥なるほど。つまり、結婚式に花嫁に捧げるブーケを作る為に花やハーブを摘みに出掛けるお兄さんを護衛して欲しいという訳ですね?」
この村でのブーケは一輪の花とハーブで作られるらしい。主に香りの強いハーブやガーリックなどを使用し、悪魔たちから身を守るという『魔よけ』の役割も果たしているとの事だ。
「そ、その護衛なのですが‥‥兄に気付かれないようにお願いしたいのです。‥‥兄は自ら困難に挑んで、想いの強さを体現しようとしています。きっと誰かに助けられたら、想いを貫けなかった自分を責めると思います。それに、私が冒険者を勝手に雇ったなんて知られたら‥‥」
つまり、護衛する青年に気付かれずにモンスターに対処して欲しいと言うのだ。
「分かりました。それで、その森にはどんなモンスターや危険があるのですか?」
「う、噂ですが、 森には狼が出るとか、犬のような顔をしたモンスターに矢を打たれたとか。あ、それと噂が出る以前に兄と行った事があるのですが、花は断崖絶壁の崖下に咲いていたんです。きっとあれを摘むつもりなんです! もし落ちたりしたら怪我どころか命の危険も‥‥」
円らな瞳を潤ませると、わぁッと少女は両手で顔を覆って泣き出した。
「落ち着いて下さい。そうならない為に冒険者がいるのですから。纏めさせて頂きますよ、お兄さんに気づかれなければ良いのですよね? 間接的に魔法で守る事も問題はありませんか? または旅人として同行とか」
「‥‥そうですねぇ。兄は村でも真面目で通っていますから、モンスターと戦ったり、魔法を使って助ける姿さえ見せていなければ多分、疑いません。どこか抜けているって申しますか‥‥」
――それで崖下の花を摘もうと?
少女は涙を指で拭い、クスッと微笑んで見せた。
●リプレイ本文
●出発の刻
「依頼人の兄を、影ながら護衛すれば良いのでござるな?」
逞しい体格の背筋をピンと張り、山岡忠信(ea9436)が太い腕を組む。
「気付かれず、というのは難しそうでござるが、心意気は天晴れでござる故、やってみるでござるよ」
「想う人に自分のよいところを見せたいというのは誰しもが持つ望み。私とてそう思っているから、他人事とは思えない。ここは彼の望みが叶うよう尽力しよう」
黒い長髪の隙間から黒い瞳を覗かせ、端整な風貌の青年が隣に佇む魅惑的な美女に視線を流した。磐猛賢(eb2504)の眼差しに気付き、フィーネイア・ダナール(eb2509)が微笑む。
「好きな人にいいところを見せたいってのは男の人なら誰でも一緒よね。ここは私も一肌脱いで、いい結婚式を挙げられるよう頑張りましょう」
「あ、兄の為に力を貸して頂き、有り難うございます!」
少女が緊張気味に集まった三人の冒険者に礼を述べた。
「それで妹殿‥‥」
「あっ、イレーヌと呼んで下さい。山岡様」
「そ、そうであったな、イレーヌ殿、護衛がしやすくなるよう、この辺りの地理や怪物の種類、出そうな場所を知っていれば教えて欲しいでござるよ」
●早朝の狩人
簡易テントの前でイレーヌの用意してくれた保存食を頬張りながら、忠信が口を開く。
「当日は兄の先回りをして目的地の近くに向かい、狼や怪物のでる場所へ行くでござるよ」
「そうだな、気づかれぬよう護衛ということだが、やはり彼に先んじて出発し、できるだけ障害を排除するのがよいだろう」
「私は猛賢と一緒に出発して、行きは2人で障害排除と猛賢の罠設置の手伝いをするわ☆」
侍の行動予定に同意を示した猛賢に、ピッタリと寄り添ったフィーネイアが微笑みを浮かべた。よほど鈍感で無ければ二人のハーフエルフが恋人同士らしいと悟れる雰囲気が漂う。外見年齢的には忠信と近いだけに、時折吹く風が身に染みる。
「そ、そうでござるか。イレーヌ殿から聞いた地理だと、この辺とその辺が怪しいでござるな。拙者はこっちを受け持つ故、猛賢殿達はそちらを頼むでござるよ」
地面に石や枝を置き、イレーヌの話と合わせて予想を立ててゆく。青年達は猟師の知識を持っていたので打ち合わせも順調だ。
「‥‥分かった。しかし、本当に一人で大丈夫か? 確かに時間が限られている故、二手に分かれるのは間違いではないが‥‥」
「モンスターはウルフとコボルトと予想されるわ。コボルトは頭も良くないと思うけど、武器を使って来るわよ?」
サラリと白いロングヘアを揺らして訊ねる褐色の娘に、忠信は不敵な笑みを浮かべて茶の瞳を研ぎ澄ました。
「武術の腕を磨くには丁度良いでござる! ‥‥それに、拙者とて無粋なマネはしたくないでござるよ」
首の後ろをポリポリと掻いて爽やかに微笑む侍。どこか微笑みに哀愁を感じたのは気のせいか。
そんな中、村付近の草原に設置した簡易テントにイレーヌが駆けて来た。荒い息を吐きながら胸元を手で押さえ、呼吸を整える。
「ハァハァ、あ、兄が起きました。私はなるべく時間を稼ぎますので、宜しくお願いします!」
冒険者達が力強く頷く。
●いざ参る!
森に入った忠信は慎重に行動した。不意を打たれぬよう、死角や物陰のある場所へはあまり近付かず、五感を最大限に研ぎ澄ます。侵入者を獲物と判断して襲って来るだろう。
――生い茂る草木が耳障りな音を響かせた。
(「来たでござるな?」)
侍の青年は瞳を研ぎ澄まし、腰の日本刀へ手を忍ばせる。左の親指で鍔を押すと、乾いた音を響かせて刀身を引き抜く。その時だ、獣のシルエットが茂みから三つ姿を現した。低い唸り声をあげて威嚇する狼へ瞳を流し、悠然と近付きながら左手に短刀を引き抜き逆手に構える。
(「さぁ、どうするでござるか!?」)
茶の瞳が強さを渇望する眼光を放つと、狼は前足を低く構え、唸りながら周囲をゆっくりと動き回った。隙を窺っているかのようだ。尚も忠信が間合いを詰めた刹那、狼が一斉に飛び掛かる!
鋭い牙の生えた口を大きく開き、涎を撒き散らして青年へ噛み付こうとする中、侍はスと体捌きと共に短刀で牙の洗礼を防ぎ、続けて右手の刀身を薙ぎ放った。短い悲鳴と共に鮮血が舞い散り、一匹が地面に倒れる。しかし、相手は残り二匹。鋭い牙が忠信の足に鮮血を散らす。
「クッ! 少し位は我慢でござる!」
二本の刀身で攻めと受けを巧みに行い、多少の痛手は負ったものの獣を容赦なく切り倒した。刀身に風を切らせて鮮血を払う。
「取り敢えずは安全でござるな。先を急がねば」
●パートナーと共に
二人のハーフエルフは森の獣道に罠を仕掛けながら移動していた。
「ねぇ、猛賢」
「どうした? フィーネイア」
「依頼が成功したら結婚式に呼んでもらえるみたいだけど、どうする気なのよ?」
「我らはハーフエルフ。丁重に辞退させてもらうつもりだが‥‥」
「そうよね、出席は辞退して、新しい夫婦の幸せを祈っておく方がいいわよね。‥‥結婚式かぁ。ホント、誰かさんもいい加減私を妻にしてくれないかしら?」
チラリと顔色を窺う褐色の娘。しかし、猛賢は黙々と作業の手を動かした。
「‥‥‥‥ちょっとッ、聞いて」
腕を横に開き、言葉を途中で制する猛賢。静寂の中、アリオトの唸り声が森へ響き渡った。
「ウルフ? それともコボルトかしら?」
フィーネイアがスピアを構えて青い瞳を研ぎ澄ます。青年はロングロットを腰の後ろへ回し、腕の間に挟むと、左手を突き出して歩幅を開く。刹那、茂みから放たれたのは剣の雨だ。白髪と豊かな胸元を揺らし、褐色の肢体を躍動させながらスピアで次々と弾く中、端整な風貌に鋭い眼差しを浮かべた猛賢が棒術を駆使して飛び込んでゆく。薙ぎ振るったロングロットの洗礼に、犬のような顔をした全身が鱗に被われているコボルトが衝撃に吹っ飛んだ。付近では仕掛けた罠に嵌まって苦痛の咆哮を響き渡らせた。
「まだヤル気? 力の差を知らないモンスターは長生きできないわよ♪」
「無益な殺生は好まぬ。この森から去らぬなら、容赦はしないがな!」
数体のコボルトを血祭りにあげると、モンスターは茂みへ逃げ出した。
「‥‥後は来た道を戻り、途中で旅人を装って護衛対象と擦れ違うようにすれば冒険者に守られたとは気づかれないだろう。戻るか?」
「猛賢は帰っていいわ、私は未だ戻らないわよ。ここは時間差で確実にしましょう♪」
どうやらフィーネイアには何か考えがあるようだ。
●侍、影になりて働く
――忠信もコボルトと遭遇していた。
放たれる剣を刀身で弾き、返す刃で確実にダブルアタックで切り伏せてゆく。斬撃の切り口から鮮血を吹きあげ、次々とモンスターが沈黙すると、犬のような顔をした小型のオーガは逃げ出した。
「手強い相手ではなかったでござるが、少しばかり時間を費やしたか‥‥!?」
辺りに人の気配を感じ息を殺す。草葉の陰から視線を流すと、視界に映ったのは一人の青年だ。装備からして冒険者ではない。
(「むむ、もう来たであるか! 急がねば!」)
忍び歩きで気配を悟られぬように離れると、一気に森の茂みは駆け出した。打ち合わせが無かったら、二人の罠に嵌まっていたかもしれない――――。
「おや? おはようございます! 早いですね」
ケインは森を歩いて来た猛賢と擦れ違う。装備をバックパックに入れて、ロットを突いて歩いていれば、森を越えて来た旅人と思わせる事ができる。青年は擦れ違った長身の旅人に振り返り、小首を傾げたものの、再び歩き出す――――。
――その頃、忠信は森を抜けた崖に辿り着いていた。
用意したロープを太い幹に結び、崖下へ垂らしておく。幸い長さは足りているようだ。
「これで花を摘む時に少しは安全やも知れぬ。助けではなく、偶然誰かが忘れていったと思わせるでござるよ」
因みにロープはキャメロットに戻る前に回収予定である。
●踊り子との遭遇
ケインが何事もなく(茂みで獣の悲鳴のようなものは聞いた気はするが)森を抜けると、前方に人影を捉えた。フィーネイアは護衛対象が訪れたと知ると、白い長髪を軽やかに揺らして褐色の肢体を向ける。青年は僅かな布地を纏う魅惑的な娘に、頬を染めて視線を逸らした。彼女の傍で尻尾を振る一匹の犬が映る。
(「エルフ? 犬の散歩かなぁ? 今朝は珍しいほど人が多い」)
「おはよう☆」
「あ、おはよう、ございます」
目のやり場に困りつつ、ケインは返した。
「早いのね、私はキャメロットへ向かう一座で踊り子をしているフィーネイアよ☆」
「僕はケイン、直ぐ近くの村に暮らしています」
「ねぇ、ケインは早朝から何しに森へ?」
「僕、今日結婚式をあげるんです。その為にハーブと花を詰みに‥‥」
「まぁ、おめでとう☆ 私も同行して構わないかしら? ぜひ協力したいわ♪」
「お気持ちだけで嬉しいです。これは僕の力だけでやらなきゃならない事なんです!」
フィーネイアに告げると青年はハーブ採取を開始した。何か危険があればアリオトが知らせてくれる。
「これはラッキーだ! 崖にロープが垂れている。きっと、擦れ違った人が忘れたのかな?」
早速崖下へ降りるケイン。「しっかり握って慌てないでよ!」と褐色の娘が忠告しなければ、途中で落下していたかもしれない。こうして彼は想いの強さを示す一輪の花を手に入れたのだ。
帰りの道中もフィーネイアは護衛に徹する。アリオトが危険を察して吠えれば、「怖いわ、急ぎましょう」と、ケインの背中を押して急がせた。
一人は身を潜め、一人は擦れ違い、一人は最後まで付き添う事で、不自然さも感じさせず依頼は果たされたのである。
●村の結婚式
「あなたの愛を受入れました」
花嫁はブーケから一輪の花を花婿に渡し、胸につけた。これが村の結婚の儀式なのである。
結婚式の招待を受けた忠信は、田舎料理に舌鼓に打ちながら見学していた。‥‥が、侍とて結婚していても可笑しくない年齢だ。その表情は何処か哀愁が漂っていた。
「山岡様、有り難うございました。あら? 料理が口に合いませんか?」
「い、いや、そんな事はないでござる。‥‥ううむ、拙者も早く所帯を持ちたいでござるなあ。何処かに良い相手は居ないものでござろうか」
「まあ☆ 山岡様なら焦らずとも良いお相手が見つかりますよ。どうしても見つからない時は‥‥村に遊びに、来て、下さい‥‥」
イレーヌは視線を逸らすと、瞳を潤ませて、頬を染めた――――。