momentary――夢見る頃を過ぎたあと

■ショートシナリオ


担当:切磋巧実

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:01月31日〜02月05日

リプレイ公開日:2007年02月08日

●オープニング

 ――俺はやるぜ。待ってろよ、イセンナ。
 男はキャメロットの門で携えた剣の柄を握り締めた。ボムトズは決意の篭った眼差しを研ぎ澄まして先へと続き道を睨む。刹那、彼の瞳は訝しげな色を見せた。視界に映ったのは、フードの付いたマントを風に靡かせる小柄な人影だ。
(「なんだ? こんな夜更けに旅人かよ? 女? 小娘か?」)
 次第に近付く人物が月明かりに照らされてゆく。刹那、突風にマントが暴れた。曝け出されたのは褐色の肢体を最低限の衣に包んでいる少女の姿だ。男は驚愕しながらも頭から下へと視線を流す。
 乱れる長髪から覗く風貌は端整と例えるよりは愛らしく、布切れからは豊満だが固そうな二つの膨らみの谷間が覗いていた。腹筋は鍛え抜かれたように硬そうで、局部を覆う腰布からカモシカの如き引き締まった脚が伸びている。同様に腕も少女のような容姿から不釣合いなほど筋肉質で太い。所謂マッスルレディである。否、それよりも目を疑ったのは、左腕が見えなかった事だ。
(「気のせいか? ‥‥!?」)
 少女のギンと研ぎ澄まされた円らな瞳が睨んでいた事で、ボムトズは困惑の色を浮かべた。
「な、なに見ているのよ‥‥べ、別にアナタに見せたい訳じゃないんだからっ」
 ――いや、何も聞いてないんだが‥‥。
 少女は舌足らずな響きで告げると、頬を染めながら視線を逸らし、男の傍を擦り抜けてゆく。振り返った彼の視線に映ったのは、身の丈ほどはある長剣を背負った後ろ姿だった‥‥。

●イセンナからの依頼
 赤毛の一房を結った少女が冒険者ギルドへ駆け込んだ。イセンナは依頼の記された羊皮紙を慌てた素振りで眺めてゆく。しかし、その行動は失意の元に掻き消えた。教養のない彼女に文字は読めない。深い溜息の後、受付へ足を運ぶ。
「ねえ、ラーンスさまのキシがムラでワルさしてるってイライない?」
「‥‥これですか? 付近の村からの依頼ですが、ラーンス様の騎士と名乗る約8名の者が村で山賊紛いの行いをしているとありますが‥‥時期からして嘘の‥‥」
「それよ! ボムトズをたすけて!」
 つまり、本物の山賊が村人を威圧する為に謀っているのだと受付係は説明すると、言葉を途中で断ち切ってイセンナは身を乗り出した。受付係が困惑の色を浮かべると少女は続ける。
「いってたもん! そいつらやっつけてウリにするんだって!」
「はぁ? しかし、依頼は未だ募集中で‥‥ボムトズさんは冒険者登録しておりませんが‥‥」
 イセンナはぶんぶんと首を横に振った。
「ちがうちがう! ボムトズは‥‥えーと、じけーだんをつくるとかいってたの」
 事情はこうだ。男は冒険者達に説得され、自暴自棄な生活から一心奮起し、自警団を設立しようとしていたのだという。当然、実績も無いのに声を掛けても誰も参加する者はいない。手っ取り早い実績を築く為、彼はギルドの依頼から勝手に行動したのである。当然それは許される行為ではない。しかし、男は実績が欲しかったのだ。
「おかねはだすから、このイライにボムトズをたすけることもつけくわえて!」
 住み込みで働いて稼いだ僅かの蓄えを机に叩き付けた。
「依頼内容が変わる訳ではありませんから、問題はありませんが‥‥先に出発したのですよね?」
「いってたの!」
 ――証人は多い方が良いからな。冒険者達が村に着くタイミングを見計らって解決するのさ!
「技量も分からないのに? 無茶な事を‥‥でも、それなら最悪でも命は‥‥あ、ごめんなさい」
 俯いたイセンナの円らな瞳が潤む。
「‥‥あたしがかんちがいさせたのがいけないのよ。ケンのつかいかたをおしえてやるっていわれたトキに、そうしとけばよかった‥‥」
 少女の夢は魔法使いだった。てっきり冒険者になりたい=ファイターと安易に解釈したボムトズは、目的をイセンナの夢実現に傾けたのかもしれない。しかし、返った答えが魔法使いでは、彼にはどうする事も出来なかった。
 ――夢は形を変えてゆく。意図はどうあれ、変容した夢が自警団設立だったのかもしれない。
「分かりました。依頼として承りましょう」
 安堵にも似た微笑みを浮かべて涙を指で拭うと、少女は上目遣いで言い難そうに口を開く。
「あたしも‥‥つれてってくれるかな?」
「‥‥冒険者の方々に任せる事になりますから、同行できるかは分かりません」
「‥‥うん、そっか‥‥そうよね」
 イセンナはギルド内を見渡す。フードを被った人影や沢山の冒険者が映ったが、果たして単純な山賊退治という依頼を引き受けてくれる者がいるだろうか?

●今回の参加者

 ea8311 水琴亭 花音(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9436 山岡 忠信(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1440 秋朽 緋冴(35歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb6621 レット・バトラー(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb7358 ブリード・クロス(30歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb9637 コーデス・アルナーグ(31歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec0340 コウロ・ゲーリス(31歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

シエラ・クライン(ea0071)/ ミル・ファウ(ea0974)/ 夜桜 翠漣(ea1749)/ アルヴィン・アトウッド(ea5541)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451)/ クリス・クロス(eb7341)/ 陰守 清十郎(eb7708

●リプレイ本文

●わぁ☆
 ――信じられないっ!
 あたしは水琴亭花音(ea8311)さんが貸してくれたセブンリーグブーツで冒険者と夢のような刻を走っているの。無言で渡された時は困っちゃったけど、瞳で語るって感じの娘さんかな。顔を覗うと黒い眼差しが見守っているような気がするわ。
「いかがですか? イセンナさん、セブンリーグブーツの履き心地は」
 ブリード・クロス(eb7358)さんの声に視界を移す。この人も表情が固いんだけど、気配りしんしって感じだわ。だって、急ぐ足が無いコウロ・ゲーリス(ec0340)さんやコーデス・アルナーグ(eb9637)さんの分まで用意してたんだもの。
「ステキ☆ 馬と一緒に走れるなんて♪ ものすごい速さで景色が過ぎて‥‥あたし、馬に乗った事もないから、こんな経験はじめてなの!」
「なぁ、ボムトズとはどういう関係なんだい?」
 一緒に走っているレット・バトラー(eb6621)さんが訊ねてきたの。どういうって‥‥。
「あ、あたしが働いている宿屋のお客さんよ」
「‥‥そうなんだ。そいつがどれほどの腕か分からないが、山賊退治は俺たちに任せてくれ。イセンナにはボムトズがおかしなことをしないように説得して欲しい」
 真剣な青い切れ長の瞳があたしを射抜いたわ。そう、ほんとはハシャイでちゃいけないのよね。ボムトズが行動する前に間に合うよう、急いでいるんだから。
「うん‥‥わかった‥‥わッ!?」
 つい驚いて声をあげると、一斉に視線が集中したわ。だって、コーデスさんが身振り手振りであたしに何か伝えようとしながら目の前で微笑んでるんだもの。あ、黒髪を掻き揚げた。そういえばブリードさんにブーツ借りる時もジェスチャーしてて、聞き慣れない言葉で話したっけ。
『コーデスさん、自分が伝えましょうか?』
 うん、こんな響き。何かな? きっとジェスチャーが好きなのね☆
 こうして、愛馬で続く、山岡忠信(ea9436)さん、秋朽緋冴(eb1440)さん、導蛍石(eb9949)さんと共に、村へ向かったの――――。

「へっ、冒険者の諸君、遅かったじゃねーか。ラーンスの騎士達は俺が全て倒したぜ」
 驚愕に呆然と立ち尽くす8人の冒険者達。そりゃそうだぜ。なにせ俺1人で解決したんだからな。これで俺の名前も‥‥。

●夢と現実
 ――おいおい、話が違うんじゃねーか?
 ボムトズが村で情報収集を行っていた時だ。聞き慣れた少女の声と共に姿を見せた冒険者に、男は驚愕も露に立ち尽くす。彼を見つける事は容易だった。蛍石が村人に依頼を果たしに来た冒険者だと告げ、予めシエラが描いた人相書きを花音が見せた上で、先行した仲間としたのである。後は聞き込みを行いながら、村人に尋ねれば良い。
「イセンナ!? また冒険者を連れてきやがったな!」
 描いた情景が崩れ、ボムトズは声を荒げた。ピクンと肩を跳ね上げる少女を庇うように、レットが口を開く。
「何考えてるんだ、自分の力量わかってるのかよ。そもそも、たった一人で山賊倒すなんて無理だろ。イセンナの気持ち、少しはわかってやれよ」
 赤毛の青年を皮切りに、緋冴、忠信が畳み掛ける。
「無謀な戦いを挑んでそれが実績になるのですか? 実績を得て信頼されたいのでしたら、それなりのやり方があるでしょう。まずは物事の順序を踏まえて進めなければ」
「ボムトズ殿の常に何かを目指すという姿勢は素晴らしいとは思うでござるが‥‥何とも一足飛びでござるなあ。夢を実現させる為には、日々の努力と鍛練の積み重ねが重要なのでござる‥‥何事にも近道という物は無いでござるからして。少なくともイセンナ殿に心配をかけるようでは、まだまだでござるな」
「‥‥チッ、若年寄りがッ! やってみなきゃわかんねーだろーが!」
 男の言葉にブリードが一歩前に出ると同時、口を開いたのは蛍石だ。
「諦めないと言うのだな? ならば護衛しよう。だが、その前に謝らねば」
「護衛だと? 謝る? 何を‥‥ッ!?」
 ボムトズが訝しげな色を見せた刹那、「これだ! 少林寺流、蛇絡!」の声と共に、月桂樹から削りだされた木剣を振るうと、独特の動作で瞬く間に男を転倒させた。振り下ろされた切っ先が彼の目前でピタリと止まる。
「これが現実。私が山賊だったら、この時点で君の首は飛んでいる」
「ふ、不意打ちじゃねーか! ゆ、油断しただけだぜ」
 冷や汗を流しながら不敵に微笑むボムトズ。納得していないようだ。
「ふむ、少し手合わせしましょうか」
 ブリードが槍を構える。立ち振る舞いから察するに騎士か。ボムトズはニヤリと笑むと剣を構えて間合いに飛び込んだ。甲高い音が弾け合うものの、イセンナから見ても技量の差は明らかだったろう。
(「まぁそこそこ戦えるようですね‥‥しかし」)
 槍の穂先が喉元で止まる。再び男はダラダラと冷や汗を流した。
「‥‥おとなしく待っていて下さい、戦闘以外にもできることはあるはずです」
 青年は冷ややかに告げると踵を返して仲間達と情報交換を始めた。クリスや清十郎がギルド等で調べた情報と現地での聞き込みから、計画を立ててゆく。
「俺は徹夜に強いから多少は長く起きていられる。危険に敏感なコイツと一緒に番をしながらダモクレスの剣で警戒するとしよう」
 レットが誘き寄せ策を提案しながら、愛犬ハサウェイの頭を撫でた。ブリードも頷く。
「そうですね。数名の賊が現れたら捕らえてアジトを聞き出しましょう。しかし、ボムトズさんに動き回る時間を与えたくないですね」
「それなら水琴亭殿が拙者達の情報を元に探っておるでござろう」
 忠信の言葉通り、忍者の娘はいない。尤も、何も告げずに行方を晦ましたのだが‥‥。

 ――あたしはボムトズがこれ以上情報収集しないよう努めたわ。
 引き止め役を何故か買って出てくれたコーデスさんのおかげで、何とか行く手を阻む事が出来たの。剣と鉄の鋲付きの棒を鎖で繋いだ武器で対峙するコーデスさんは強かったわ。‥‥時々、大袈裟に見えたり、髪を掻き揚げたり、ウインクしたり微笑んだりしたけど‥‥。「この野郎! 自分の年齢わかってんのか? イセンナ気をつけろよ!」なんてボムトズが言ってたけど、何だろう?
 そんな中、アジトを突き止めたらしくて、冒険者の皆は奇襲に向かう事になったの。あたしはキャメロットで花音さんに無言で渡された魔法少女の枝を握ったわ。ミルさんが使い方を教えてくれたけど、踊ならきゃダメなのよね‥‥が、がんばらなきゃッ!!

●他人の名を騙る者に鉄槌を
 ――メグレズ、イセンナの専属護衛は必要ないようだ‥‥彼女にも役目があるからな。
 仲間の助言を思い出しながら、蛍石は洞窟付近で身を潜めていた。
 風の如く花音が風上へ向かい、見張りへと手を翳して春花の術を放つ。急激な睡魔により崩れる中、アジトへと突入してゆく。
 レットが忍び足で背後を取り、冷気の残像を描きながら霊剣で賊を倒す中、同じく忠信が忍び寄って不意打ち後、太刀の二連撃を食らわせて一人ずつ確実に仕留める。
「リーダー格を見つけるでござるよ! 大将さえ倒してしまえば、他の者も観念するでござろう!」
 リーダーが誰かは分からぬものの、戦況は有利に進んだ。花音が賊の切っ先を巧みに躱しながら回り込んで当て身を叩き込み、ブリードが盾で賊の洗礼を弾き、槍の洗礼を与えてゆく。
「少林寺流、蛇絡!」
 蛍石はボムトズと対峙した時と同様に、賊を無力化させる中、コーデスのダブルアタックが唸る。イセンナが見ていないのが残念だ。冒険者の襲撃に山賊が震える声で叫ぶ。
「ラーンスの騎士と知っての行いか! 俺達は補給を‥‥チィッ!」
 敵わぬと悟ったか、山賊は洞窟の奥へと逃げてゆく。忍者の娘は円らな黒い瞳をクッと細めた――――。

 ランタンの僅かな灯りの中を賊は突き進むと、視界に光を捉える。
 山賊といえど逃げ道くらいは用意していたようだ。背後を振り向きニヤリと笑む。
「へッ、馬鹿な冒険者だ! この屈辱は次に‥‥!?」
 光の中に人影を二つ確認。結った黒い長髪を風に揺らす女と、銀髪の青年エルフだ。赤い瞳が愉悦に緩み、口元に不敵な笑みが浮かぶ。
「来たべ来たべ♪ わしが先にやらせて貰って良いだがや?」
「‥‥楽しそうですね。先ずは私にやらせて下さい」
 待ち伏せる冒険者の得物は女の小太刀のみ。逃げ延びた賊が吼える。
「どきやがれ女ーッ!!」「ぶっ殺すぞー!!」
 刹那、地面からマグマの炎が吹き上がり、灼熱の洗礼が賊を焼いた。しかし、緋冴のマグナブローは致命傷に至っていない。ヒィヒィと這いずり出て来る山賊を、コウロの凶悪な赤い眼光が捉える。
「紅蓮の炎に泣き叫ぶがいいべさ!!」
 手中から次々と放たれるファイヤーボムの爆炎に、山賊達の断末魔が響き渡った。
 後に山賊は捕らえられ、威圧する為にラーンス派の騎士と名乗った事を泣く泣く告げたらしい。

●あ、しゃべった
「俚諺にも案ずるよりは産むが易しとあるが‥‥。まずお主に必要なのは、目標の為に何が必要なのか、筋道立てて考える事じゃろうな。ついでに聞くが、お主の目標とは自警団を作る事なのかの?」
 縛り上げられたボムトズを前にして口を開いた花音の声に、踊り疲れてペタンと腰を落としていたイセンナは驚愕の色で顔をあげた。実は初めて声を聞いたらしい。傍に駆け寄り労わるコーデスにも気付いていないようだ。
「ああ‥‥今更この歳で冒険者なんてやってられねーからな!」
 その言葉は自ら力量差を感じている故だったのかもしれない。年齢と実力のギャップを見破られる怖さなのか。悔しげに視線を逸らす男にブリードが声を掛ける。
「今回の件でどう思いましたか? それでも貫く意志があるのなら、今度は応援しますよ」
 ――さすが気配りしんしさん☆
「さ、ボムトズ帰ろう」
「先に‥‥行ってくれ。少し、一人にしてくれないか‥‥」
 冒険者とイセンナは帰ってゆく。彼らの背中を見つめる視界は霞んでいた――――。