鬼より恐ろしきは‥‥

■ショートシナリオ


担当:鹿大志

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月08日〜06月13日

リプレイ公開日:2005年06月19日

●オープニング

 森の奥でバグベアの夫婦が生息しているのが発見された。人家から遠いため、切迫した危険はなかったのだが、なんとも言いようのないばかげた事件が発生してしまった。
 ある村に手のつけられない悪童がいて、親は敬わない、先生は尊敬しない、ジーザス様までバカにするという好き放題をしていたのだ。
 もてあました父親が、バグベアにさらわせてしまうぞと脅しつけたのだが、当然言うことを聞かない。
 そこでなにを思ったのか、父親は本当にバグベアの元まで連れて行ったのだ!
 近くまで行って見せるだけのつもりだったのだが、なにせするなと言われさえすればなんでもする子で、バグベアを追いかけて飛び出してしまった。
 父親は恐くなって逃げ帰ったのだが、母親から怒られて、多量の食物を持って様子を見に行った。
 すると怖い者知らずで育った子だから、バグベアにも恐れず回りではしゃぎまわる。怯えて逃げ回るのが普通の人間だからとバグベアも思っているもんだから、気味悪がって今は様子を見ているようだ。
 父親が食料を運んでいるので(バグベアは、あんなにはしゃいでいるのは何か毒を持っているのだと思っているのか、務めて無視している)今のところは子供も無事でいる。しかし、悪童のいたずらはエスカレートするばかりで、悲劇は近いだろう。
 この子があって親が悪いのか、この親にしてこの子ありなのかはわからないが、ともかく防げる事故を見逃すわけにもいかない。
 バグベアは2匹で手強いかもしれないが、戦意は低いだろう。そして、倒す必要性も今は薄い。
 無知からくる愚かさにも限度はあるが、命を失うほどではないだろう。それに、母親の悲しみは本物だ。
 危険もわからず火遊びしている愚かな子供を、村まで連れ戻してはもらえないだろうか?

●今回の参加者

 ea1332 クリムゾン・テンペスト(35歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea8773 ケヴィン・グレイヴ(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0001 ルーファス・ゲインズブール(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb0431 サラ・ヴィテランゼ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb1133 ウェンディ・ナイツ(21歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2276 メルシア・フィーエル(23歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

シャムロック・ホークウインド(ea9738

●リプレイ本文

 ウィザードのクリムゾン・テンペスト(ea1332)は、バグベアまでの案内もかねて父親を連れてくる。
 そして、子供の姿が見える前に話し始めた。
「私は魔法使いだ。依頼人。君の職がなんであれ、この件に関して君の立場は父親だ。私は父ではないから分らないがあえて言おう、父親。私は、魔法使いとしての役目を果そう。君は父としての役目を果したまえ」
「は、はあ。そう言われましても」
「考えろ。子供は君の方を向いているかね? 君は子供の方を向いているかね?」
「わたしはともかく、なにぶん言うことを聞かない子でして。私としては子供の面倒を見ているつもりなのですが、でもどうしたらいいか‥‥」
「別に深く考える必要は無い。ただ、必要な時に思い出してくれ。それだけだ」
 同じウィザードでも、教師を生業とするサラ・ヴィテランゼ(eb0431)になると、もうすこし手厳しい。
「そもそもこの子供に手綱をつけられぬ貴方がたにも原因はございますわ。もし、バグベアが暴れたら村は滅んでしまったでしょうね」
「ひえ、まさか。そんなつもりは全然。でも‥‥あなた方がそうならないように、取りはからってくださるんでしょう?」
「もちろんですわ。でも、今後貴方様方から変わらねば何度でも同じことは繰り返されますわ。さぁ、親御様としてこの責任は如何様に果たしてくださいますの?」
 具体的な回答ができずに父親がまごまごしていると、ギャンブラーを生業とするルーファス・ゲインズブール(eb0001)が割って入った。
「そのガキが将来どうなろうとどうでもいいんだけどよ。バグベアに向かうのは急がねえか? それとも、俺達が着くまで生きているかどうか‥‥賭けてみるか?」
「もちろん。必ず救い出しますわ」
 サラから開放されて、父親が安堵の息をつく。しかしサラは、すぐにビシッと言い渡した
「でも、あとで回答は必ず頂きますわよ。今は宿題にしておいてあげますわ!」
 バグベアの喚く声が聞こえてきた。様子を見ると、子供が周りを飛び回り、近づいてはバグベアの毛をむしろうと手を出している。むしられると痛いので、バグベアは腕を振り回して子供を追い払った。太い腕から伸びる爪が、きわどいところで子供をかすめる。
 父親はヒィと短い悲鳴をあげるが、子供はそのやり取りを楽しんでいるようだ。バグベアに追う気が無いのでいまは無事に済んでいるが、当たったりしたら、酷いこととになるだろう。
 バグベアの気を逸らそうと、サラがヴェントリラキュイであらぬ方向から囁く。
 バグベアはそれで、子供と逆の方向を向いた。だがあろうことか、子供はそれをチャンスと思って、バグベアの尻毛をむんずとつかむと、一掴み引っこ抜く。
 ぎゃんとバグベアは悲鳴をあげると、子供を向いて吠え猛った。
 子供はバグベアの反応が面白かったのか、げらげら笑っている。
 シフールのメルシア・フィーエル(eb2276) は、慌ててバグベアの目を眩ませようとする。
「皆行くよ、シャドゥフィールド」
 バグベアの周りが、突然黒い球に包まれた。
 さっそくルーファスが子供を捕まえようとするが、子供は面白がって、メルシアの作った闇の中に姿を消す。
 なかでバグベアの暴れる、がつんがつんと言う音がするたび生きた心地がしない。しかし子供はそのたびに、ぎゃははははとけたたましく笑うのだった。
「うわ、とんでもないガキだ。信じられん」
 ハーフエルフのレンジャーであるケヴィン・グレイヴ(ea8773)はそう毒づくが、子供に注意が向かないよう、ミドルボウで牽制した。木に登ったり跳ねでもしない限り、子供に当たる高さにはないはずだ。
 自身も子供の親である明王院浄炎(eb2373)は、追えば逃げる天邪鬼な子供の性格を利用できないかと考えた。
「俺たちは、おまえの父からバグベアに食われるところを見届けてくるように言われたのだ。ちょろちょろせずに、そのまま食われてしまえ」
「ボクのパパにそんな度胸があるわけないじゃないか。バーカ」
 真剣さが足りなかったのか、それとも口実がもっともらしくなかったのか、狙っていたようにはいかなかったようだ。
 浄炎は最初の計画の失敗を悟ると、オーラボディを発動して、自分の身も盾にする覚悟で少年を救いに行った。
 浄炎の踏み込んでくる足音を聞きつけたのか、少年がしてやったりという顔で飛び出してくる。
 外で待ち構えていたレイムス・ドレイク(eb2277)は、浄炎たちほどは甘くなかった。
 力づくで少年をひっつかみ、人攫いよろしく口を塞ぐ。
 しかし、本当に怯えた少年は噛んだり爪を立てたり、四肢をばたつかせて抵抗する。このまま強引に連れて行けなくもないのだが、時間がかかるとバグベアをひきつけている仲間が危ない。
 レイピアを持ったウェンディ・ナイツ(eb1133)が、問題を解決した。
 スタンアタックを使い、柄で少年を気絶させたのだ。
「子供の安全は確保しました。撤退します」
 レイムスの掛け声で、仲間はバグベアとの戦闘を中断し、後退し始める。だが、興奮しているバグベアは追ってくる。
 逃げる仲間とバグベアの間に、クリムゾンがファイヤーウォールを発動した。炎の壁に阻まれて、バグベアは足を止める。
 持病で咳き込み喀血したあと、クリムゾンは血の汚れを拭い、少年を心配そうに追いかける父親の背につぶやいた。
「俺が助けられるのは、ここまでだ」
 意識を取り戻したとき、少年はツタで縛られて、地面に転がされていた。
 ケヴィンが、ニヤニヤ笑いながらダーツを弄んでいる。
「好きに動いていいぞ。もしかしたら手元が狂って当たるかもしれんがな。俺は気にしないからお前も気にするな」
「そんなこと大人にできるもんか」
 さっそくダーツが掠め、頬に傷がつく。垂れて来た血に危険を悟り、少年は逃げようともがく。だが、ケヴィンのダーツは前に後ろにと少年を翻弄する。
 少年を気絶させた張本人であるウェンディが現われると、少年の恐怖は頂点に達した。
 ウェンディは戒めを解き少年を助け起こすと、聞き入れるかどうかはわからなかったが諭した。
「モンスターは危険な生物であり、下手をすると大怪我‥‥死亡もありえます」
「ふんっ。そんなこと言ったって、助けて欲しいなんて言ってないもんね。せっかく面白かったのに」
 すると、バグベアから与えられた傷から血を流したままの浄炎が、少年に近づいていった。
「皆にどれほど心配を掛けたか‥‥わからないのか。そして、これほど両親に愛されているのになぜその様なバカな事をするのだ‥‥」
「ボクの知ったことじゃないもん」
 浄炎は逆手を上げ、平手で少年を叩いた。
 少年は最初きょとんとしていたが、叩かれたことに気がつくと火がついたように泣き出した。
「うわーん。パパー、この人が叩いたよー。ひどいよーっ」
「ちょっとあんた。なんでうちの子を叩くんですか。私だって叩いたことはないんですよ」
 父親が文句をつけにくるが、浄炎は父親も叩いた。父親の腫れた頬に血がつくが、それは浄炎が少年をかばおうとして、バグベアにつけられた傷から流れた血だった。
 それに気づくと、父親ははっとした表情になって、浄炎へ頭を垂れる。
「すいません。私が叱れないばかりに、この血が息子のものになっていたのかもしれないんですね。どうか、叱れるようになるまで叩いてください」
「俺も子供を持つ身だ。親の気持ちはわかる」
 そうは言うが、浄炎は父親を叩く手に加減はしなかった。まぶたが腫れて鼻血が吹き出て、父親の顔はみるみる2倍3倍に腫れあがっていく。
 少年は最初驚いて見ていたが、次には浄炎に怒ってつかみかかり、二人がそれでもやめないとやがてすがり付いて泣き始めた。
「ごめん、ごめんよぉ。ボクが悪かったんなら、謝るよ。だからもうパパを殴らないで。いい子になるから、このままじゃパパが死んじゃうよ」
 浄炎はようやく手を止めた。直視できないほど酷い顔になった父親は、不器用に微笑みながら少年を抱き寄せる。
「パパも悪かったんだよ。まずママを安心させてあげて、それから村のみんなへ、心配かけたことを一緒に謝りに行こう」
 様子を見ていたサラは、肩をすくめてつぶやいた。
「ま、満点とはいいませんけど、今日のところは合格にしてあげますわ」
 かくして冒険者は、バグベアばかりではなく、ひずんだ親子関係からも少年を救い出して村を去ったのであった。