きれいな娘

■ショートシナリオ


担当:鹿大志

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月29日〜07月04日

リプレイ公開日:2005年07月09日

●オープニング

 とある村で、美しい村娘が恋をしました。恋の相手は、同じ村に住む、真面目だけがとりえのような青年です。
 しかし彼女の父親は強欲で、娘の美しさを利用して豪商に嫁がせるか、貴族の側室に入れたいと思っていました。それで、結婚に反対していたのです。
 しかし娘は頑なで、青年と別れることを承諾しません。娘の強情さに手を焼いた父親は、ひとつ条件を出しました。
 村のはずれに、打ち捨てられた古い教会がありました。娘の結婚相手は、ここで式をあげられなくてはならないと言ったのです。
 打ち捨てられた教会では、手入れが行き届いていないせいか、ズゥンビが出没していました。
 父親の考えはこうでした。ズゥンビたちを排除できる冒険者を、雇えるような金持ちが娘を見初めてくれないか、すくなくても真面目な青年が、血気にはやってズゥンビへ挑み、死んでくれるのではないかと企んだのです。
 父の考えに気づいた娘は、貧乏でもいいからと恋人を説き伏せて、コツコツ溜めたお金で冒険者ギルドに依頼を出させました。
 ズゥンビさえ倒してしまえば、父の出した条件を満たし、はれて青年と結婚できるのです。

●今回の参加者

 ea0604 龍星 美星(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0674 イオニス・ツヴァイア(19歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 eb1061 キシュト・カノン(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb1293 山本 修一郎(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1641 ゼロ・イリーヴァ(25歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2435 ヴァレリア・ロスフィールド(31歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb2665 ジーン・メイスフィールド(30歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 教会に巣くうズゥンビ退治の依頼を、冒険者が解決しにやってきた。
 だがよくばりな父親のせいで、結ばれることのできない恋人たちも、ついでに助けようとする。
 依頼者である二人へ会いに行き、あらためて細かな事情を確認する。訥弁そうな青年が口ごもるぶん、娘が倍も話して補完する。
 聞き終えると、ジャイアントのナイトであるキシュト・カノン(eb1061)は、青年の肩をつかみ静かにつぶやく。
「‥‥その心意気‥‥十分に伝わった」
 そして、今後の生活があるだろうから、自分の報酬だけでも返そうと申し出る。
 そこまでしてもらえるのは悪いと、青年は言い出そうとしたが、なにせ2メートルを越える相手に両肩を捕まれてしまっているのである。娘の方が「悪いわよね? ね?」と問い掛けるが、目を見開いて硬直するだけで動きもしない。
 エルフのファイターであるイオニス・ツヴァイア(ea0674)が、そんな青年に声をかける。
「あ〜いう偏屈親父には、ガツンとやって見せてやらないとだめだ!」
 本人も初冒険のせいか、元気のいいイオニス。
「ズゥンビを倒すのは俺達の仕事だからいいが、あんたの本当の所の気持ちはどうなんだ?」
 と、ズゥンビ退治に同行する気があるかと提案する。
 娘の顔には不安がよぎるが、青年はしっかりと頷いた。
 キシュトは温かく微笑むと、予備のシルバーダガーを青年に手渡した。
「‥‥我が身‥‥盾として使うが良い‥‥」
 たくましいキシュトがそう請け負うと、娘も少し安心したようだ。
 イオニスも安心させようと、娘に言う。
「俺はまだ新米だけど〜、一緒に来るなら魔法が使える先輩がしっかり守るから!」
 不意に紹介されてしまったエルフのクレリックであるジーン・メイスフィールド(eb2665)だったが、そつなくにっこりと会釈した。
「安心して、結婚式のことを考えておいてください。村の聖職者に頼みにくいようでしたら、私が神父役を務めますから」
 結婚と聞くと、娘と青年は頬を薔薇色に染める。落ち着かせるのは済んだと判断したジーンは、目的地の教会の方を見やる。
「それに、安全を期して先に向かってくださってる方たちも居ますし」
 2人が式を挙げる教会を壊してはまずいというところまで気を回して、華仙教大国出身の武道家である龍星美星(ea0604)は、ハーフエルフのレンジャーであるゼロ・イリーヴァ(eb1641)と一緒に、ズゥンビをおびき寄せに向かっていた。
 頑ななゼロは、依頼人を幸せにしようと盛りあがる美星に半ば関心し、半ば呆れていた。
「そこまでして、手伝ってやる義理があるのか?」
「愛シ合う二人を欲得勘定で引き裂こうだなんて許ッせないアル! 真の武侠を目指す者として見過ごせないネ!」
「ブキョウ?」
「武侠ッてイウのワ、エート‥‥簡単にイウと、強クて優しィ武道家の事アルヨ!」
「なら武道家でいいじゃないか。ほら、ズゥンビを見つけたぞ、戦闘開始だ」
 なにやらこだわりがあるような美星だったが、ゼロは取り合わずショートボウを引く。
 ズゥンビたちは教会から離れたくなさそうだったが、ゼロに攻撃されるのでは迎え撃ちに来ないわけにはいかない。
 しかしゼロに近づこうとすれば、素早い美星が間に入り、その隙にゼロは後退し、また弓で牽制を続ける。
 2人のチームワークで、ズゥンビを教会から引き離すことに成功した。オーラ系の魔法などを準備していた仲間も、満を持して合流した。今まで防戦して下がる一方だった美星も、逆襲を開始する。
 素早さを十全に発揮して、でき得る限りの連続攻撃を加える。防御を考えない猛攻に仲間もぎょっとするが、その視線に気づいた美星は不敵に笑う。
「ヲオット! ノロマな死人憑きの攻撃なんか、この美星にはアタラないアルよ! アチャ、アチャ、アチャ。龍星鳥爪蹴! ホアチャー!」
 軽いフットワークのキックがズゥンビの前進を阻むように繰り出され、最後に更に速く重い鳥爪撃がズゥンビの即頭部にヒットする。 それはまるで、小さな旋風が愚鈍なズゥンビたちを翻弄しているようだった。
 先頭のズゥンビを美星が足止めすると、ジャイアントであるミラ・ダイモス(eb2064)とキシュトが大柄な体格を利用して、左右にわかれて戦線を形成する。そしてそれぞれ別のズゥンビを相手にした。
「聖なる教会に住まう死人共、命が欲しくば、掛かって来い」
 ミラはオーラパワーの効果を宿したジャイアントソードを軽々と振り回し、力任せにズゥンビを横薙ぎに振り抜く。命中すると果実の潰れたようなグジャアと言う音がして、腐汁が飛び散り肋骨が腐肉を貫き中から飛び出した。
 ゼロから援護射撃の支援を受けつつ、ミラはズゥンビにダメージを溜めていく。勝負が見えると他の仲間の支援に早く駆けつけるため、スマッシュを組み合わせた重い振り下ろしを放った。
「地に帰れ、オーラクラッシュ」
 ズゥンビの頭を胴体に打ち込むかのように、ズゥンビが動かなくなるまで、ミラは仮借ない攻撃を続けていく。
 キシュトも重装備でズゥンビの攻撃をキッチリ防ぎ、熟練したシルバーダガー捌きでズゥンビにダメージを募らせていく。
 イオニスも青年に付添いフォローを意識しながら、隙あらばショートソードで美星と同じズゥンビに切りかかる。
「キモイのは嫌いだ!」
 突出すれば4体目のズゥンビが手を出してきそうなところを、退いて隊列に戻る。イオニスの牽制で、4体目は回りこむことも気づかずに、1体目の後ろでうろうろし続ける。
 打撃力にかける中央の攻防に、侍の山本修一郎(eb1293)が切り込んだ。オーラーパワーのかかった一太刀が、ズゥンビが退くほどの深手を負わせる。
 口笛を吹くイオニスに、修一郎はいつもと変わらぬ涼やかさでつぶやいた。
「オーラを習得しておいてよかったですよ」
 中央のズゥンビを囲んでしまうと、神聖騎士のヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)はピュアリファイで援護を始める。
 アンデッドでは回復しようのないダメージが、ズゥンビの存在を削っていった。
 ジーンのホーリーフィールドの防護もあって、いちおう青年もシルバーダガーで応戦した。しかし、これは言及するほどもない。
 周囲の活躍に責任を感じたのか、突出しそうになる青年の肩を、ジーンが止めた。
「勇気を示すなら、同行し、剣を持ち、一撃でも食らわせることで十分です。身に余る活躍を、あなたの恋人さんは本当にお望みですか?」
 青年は焦るのを止め、無理のない攻撃に戻った。
 4体目のズゥンビを、修一郎からのオーラーパワーを受けたイオニスのショートソードが、沈黙させる。
「ほ、本当にコレで終わりか?」
「二人の門出が邪魔されないようにしないといけないアル」
 はしっこい美星は、他にズゥンビが隠れていないか、教会内を探索し始める。
 ズゥンビの不在が確認されると、今度はヴァレリアの独壇場だった。
「好き合っている二人が、親の反対で結婚できないのは神の教えに反しています」
 と、荒れた教会の内装を整え、補修の必要なところは修繕して回る。
 仲間もヴァレリアの指揮の元、ミラは掃除から大工仕事まで精力的に働き、ゼロは醒めた態度ながらも言いつけられたことはこなしていく。
 遠巻きに見たときからは想像もつかないほど、打ち捨てられた教会は立派になった。望外の喜びに、娘は涙を浮かべるほど喜んでいる。付添い役を買って出たヴァレリアが、背をぽんと押してなだめる。
「さあ、中でジーンさんが待ってます」
「神聖騎士の方に先導して頂けるなんて、私、感激です」
 粗末な設備と、列席者は冒険者だけの挙式となったが、二人はとても幸福そうだった。
 誓いを済ませて教会を出ると、冒険者たちから祝福の声が浴びせられる。
 特にイオニスは、歌ってはやして、2人分も3人分も騒いでいた。
「めでたい事は、地味でも派手に祝福してやるんだ! あの親父に見せ付けてやれ!」
 対照的に、修一郎は静かに拍手を送っている。目の前を通ったときに、控えめに声をかける。
「お二人の幸せのために」
 ミラはまるで疲れなどを知らないように、準備のときと同じ熱心さで、二人の周りを回り、雨のような祝福を浴びせる。
「お二人に永久の幸いが訪れん事を、結婚おめでとうございます」
 教会からジーンも出て来て、神父役を終えて声をかけた。
「平凡と平穏こそが得がたい宝。お幸せに」
 最後は美星が祝福を与えた。
「オメデトウアル! 障害を超えて一緒になったカラ、生涯一緒アルネ!」
 不意に顔を抑えて、娘がうつむく。美星は心配して、その顔を覗き込んだ。
「‥‥面白ク無かったアルか? イギリスのヒトは冗談通じないネ〜」
「皆さんの優しさが嬉しくて、声が出なかったんです」
 ぽろぽろと喜びの涙を流しながら、娘は青年に伴われ、教会近くの新居――あばら家といってもいいんだが――に入っていった。
 あまりの貧しさにキシュトは一個人として、娘の父親に和解するよう申し入れにったが、残念なことに父親は頑固で、娘夫婦を認めようとはしなかった。
 しかし何はなくとも、愛し合う二人は親切な冒険者の助力によって、晴れて結ばれたのであった。