●リプレイ本文
オークが住んでいた危険な森を、うっかり売ってしまった間抜けな商人。
彼の依頼で、オーク退治の冒険者がやってきた。
オークを発見した森番からおおよその地形を聞くと、罠に誘い込もうと先遣部隊を出した。
シフールのバードであるメルシア・フィーエル(eb2276)は、身の軽さを利用して先行する。
自信があるのかのんきなのか、まだ見ぬオークに同情していた。
「居るのに居ないことにされてしまうなんて、オークさんもすこしかわいそうです」
罠設置役として同行するハーフエルフの武道家である壬鞳維(ea9098)が、メルシアを呼び止める。
「あんまり急いでは、逆に不意をうたれる可能性もあります。一人でそう急がないでください」
同じく罠設置役であるエルフのレンジャーであるヒューイ・グランツ(ea9929)が、朗らかに諌める。
「そうですよ。それに、森番から話を聞いているとはいっても、初めての森では迷うかもしれませんしね」
「いや、ヒューイ殿。早速違いますから」
言うなりあさってのほうへ向かおうとしたヒューイの服を、鞳維はつかんで引き止めた。
「こ、ここで迷っては、いかんな‥‥」
うろたえるヒューイを見て、鞳維は先行き不安な気持ちに襲われた。
しかし心配性ゆえかしっかりものの鞳維が用意していた狩猟罠なども使って、罠の設置は順調に進んでいく。
だがついに、浮かんでいるメルシアがオークの注意を引いた。メルシアは計画通り、仲間が待つ罠の近くへ飛びながら誘導した。
このオークたちは縄張り意識が強いのか、仲間を呼び寄せると、メルシアを追って走ってくる。
メルシアの誘導どおり、鞳維たちが仕掛けた罠に順調に引っかかっていき、傷つきながら仲間の前にまで誘導された。
メルシアは仲間の顔を見ると振り返り、 シャドゥフィールドを発動する。
「えーい!」
オークの踏み込んだ一帯が、闇に包まれた。
混乱するオークたちに、ムーンアローを射込んでいく。
ヒューイもダーツを構えたが、数に限りがあるので姿が見えるまで温存した。
すると前衛のレイムス・ドレイク(eb2277)が、更に前へ進み、闇に立ちはだかるようにする。
「オークを逃がしても、別の土地で、苦しむ人が出る以上、見過ごすわけには行きませんね。殲滅します」
そしてメタルクラブを振り上げ、渾身の力で振り下ろす。武器の重さの乗った強打が、衝撃波となって扇状に広がり、闇の中のオークに襲い掛かる。
悲鳴があがり手ごたえがあった気配がしたが、一撃が目印になったかオークたちはレイムスに向かって飛び出してくる。
武器を振り下ろして無防備なレイムスに、オークの棍棒が襲い掛かる。
そのオークの目へ、ヒューイのダーツが飛んだ。
「よし、そこが弱点だ!」
ダーツの針が眼球に突き刺さり、オークの一撃はレイムスを逸れて空を切る。
ヒューイの手には、すでに次のダーツが構えられていた。
際どく一撃を逃れたレイムスはすこし後退し、他の前衛たちもかばうように前進する。
鞳維、ハーフエルフのファイターであるアザート・イヲ・マズナ(eb2628)に挟まれたレイムスのすぐ後ろで、余る1体が後衛にちょっかいかけぬよう、ハーフエルフの神聖騎士カノン・ギガキャット(eb2988)が、クルスソードを手に警戒した。
ラテン語しか使えないため、仲間との連携は、エルフのクレリックであるジーン・メイスフィールド(eb2665)に通訳を頼んでいた。
「回り込んでくるぞ。あれを抑えればいいのか?」
「それで結構です。ただ、ホーリーフィールドを発動しますので、うまく利用してください」
「わかった」
ジーンの魔法が発動し、カノンは結界の境界面越しにオークと対峙した。
前衛たちも結界内に後退する。
鞳維は素早いステップで前後に翻弄したあと、パンチで足元に隙を作り足払いで転ばして、横たわるオークの頭に強烈な鳥爪撃を見舞った。
流れるような三連撃に仲間からも感嘆の声が漏れる。
「せ、殺生は望む処ではありませんが‥‥こ、後顧の憂いを断つのもまた、か、肝要かと‥‥」
意外な注目に、鞳維はすこし照れていた。
アザートも、力強くライトハルバードを振るう。
そして鞳維を見ている仲間を見渡し、妙な感慨に耽った。
「今回の冒険者‥‥半分がハーフエルフ。そしてエルフとシフール。‥‥人間がいない‥‥はじめてだな。‥‥この国に来てから、人間以外の種族を目にするようになったな」
言葉のわからないカノンが、アザートのつぶやきを気にしてジーンへ訊ねる。
しかし、ジーンは物静かに言った。
「いまのは私にもわかりませんでしたから、きっと意味の無いことだったのだと思いますよ」
言葉がわからないと何かと勘ぐりがちになるものだが、不思議とカノンは気にならなくなっていた。それは言葉が通じなくても、偶然カノンもアザートと同じ感慨を抱いていたせいかも知れないし、そうではないかもしれない。
なんにせよ「見聞の為」と依頼への参加を促した師の見解は、正しかったようだ。初めて知り合う仲間たちとの、馴染んでいく感覚が心地よかった。
力任せのオークの攻撃を左右に捌き、返す刀で深手を与える。
後衛の攻撃が集中していたせいか、カノンが相手していたオークが最初に悲鳴をあげて逃げようとする。
「行ったぞ! 逃すな!」
間を置かず、ジーンが通訳する。
特に行動が素早く、また相手を転倒させていて余裕のあった鞳維が反応した。
「結界を出ます、リカバーで援護を」
逃げるオークの足に足払いを放って、転倒させる。
続いてリーチのあるライトハルバードを使っていたアザートが、目の前のオーク越しに、転倒したオークを突き刺した。
追いすがったカノンが、大地に立てよとばかりにクルスソードをつきたてて、絶命させた。
回り込む形で、ホーリーフィールドの外に出た鞳維にオークの攻撃が集中する。
大概は素早くかわすが、当たると行動に支障が出ないように、ジーンが気を配ってリカバーを使う。
オーク側の前衛が1匹減り、バランスが崩れた。アザートの相手をしていたオークを、レイムスとカノンが挟み、鞳維が背後を断つ格好になり、攻撃も集中させる。
劣勢に悲鳴をあげてオークは逃げようとするが、鞳維がなかなかそれを許さない。
しかし、ついに鞳維が一発貰った隙に押しのけて逃走しようとする。
「させんよ!」
抜く手も見せないヒューイのダーツが飛んでいき、耳の穴に命中してオークは倒れた。
2匹目の犠牲者を出し、オークたちは全面撤退する。
鞳維から指示が飛ぶ。
「足止めの罠に追いつめます。場所は、木々に目印がついています」
ジーンに通訳してもらい、カノンはアザートと、レイムスが相手していたオークを追うことになった。
メルシアが空に飛び上がり、追いつめる先へ案内する。
鞳維は最初の相手へ向き直り、執拗な足技で転倒させ、逃走を妨害する。レイムスは鞳維の補佐に回り、転倒を続けるオークへダメージを募らせていった。
ヒューイもダーツを回収して、援護射撃をする。
ついに鞳維の鳥爪撃が、オークの頭蓋を踏み割った。
レイムスと顔を見合わせると、森の中へオークを追っていった仲間を追う。
森へ追っていったメンバーは、長柄のライトハルバードが災いしたか、アザートが引っかかってすこし出遅れる。
しかしメルシアの先導で罠に踏み込んだオークは転倒し、果敢に追いすがったカノンに後を断たれ、追いついてきたアザートに挟まれてオークは屠られた。オークはカノンを倒して逃げようとしたが、反撃を受けてより傷を広げ、カノンに打撃を与えてもジーンのリカバーの援護を受けて大過なかった。
勝負がついてから、鞳維とレイムスもたどり着いた。鞳維は他の人が怪我しないように罠を回収して回り、レイムスはオークの死体を運んで4体まとめて火葬にした。
メルシアも参列して、祈りを捧げる。
「可哀想だけど、これも掟、安らかにね」
罠回収を済ませた鞳維も、埋葬を手伝った。
「天路が清く穏やかでありますように‥‥こ、公主様の受売りですが」
恥じらう鞳維に、レイムスたちは微笑んだ。
全てが済んで帰り支度をしていると、カノンは悩んだ末に提案した。
「戻ったら、街を案内してはくれないか? すこし散策してみたいんだ」
時間の空いているものは、カノンの提案を喜んで承諾した。