招かれざる客

■ショートシナリオ


担当:鹿大志

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月29日〜07月04日

リプレイ公開日:2005年07月09日

●オープニング

 キャメロットから2日ほど離れたところに、とある美しい森がありました。そこに棲む動物たちはよく人に馴れていたので、動物好きや詩人などから、散策するのに適した場所として人気がありました。
 しかし、森は招かれざる客を迎えます。オーガです。
 人と動物たちが仲よくするのを妬んだオーガが森に踏み入り、面白半分に警戒心の薄い動物を叩き殺して回ったのです。
 オーガの襲撃が2回、3回と繰り返されるたび、前は擦り寄って来た動物たちも森の奥へと姿を隠し、息を潜めて怯えるようになりました。いまでは人も、危険であまり立ち寄りません。
 静まり返った森で、オーガたちは我が物顔に歩き回り、打つ動物が居なくなると、今度は花を踏みにじり木を打ち倒して遊んでいます。
 いつしかその森では、オーガを恐れて鳥も歌うのをやめました。
 楽しい散歩ができなくなった愛好者たちは、お金を出し合って、冒険者にオーガ退治を依頼します。
 はたして勇敢な冒険者が現れて、かつての美しい森は、触れ合いと平和を取り戻すことができるのでしょうか。

●今回の参加者

 ea1435 ノリコ・レッドヒート(31歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea1745 高葉 龍介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8321 国定 京香(38歳・♀・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea8984 アレクサンドル・ロマノフ(23歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9037 チハル・オーゾネ(26歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0020 ルチア・ラウラ(62歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 eb0884 グレイ・ドレイク(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

イフェリア・アイランズ(ea2890

●リプレイ本文

 旅立ちの日、ファイターの明王院未楡(eb2404)はイフェリア・アイランズが集めていた、森に棲むオーガたちの特性や行動範囲などの情報を聞き、見送られた。
 冒険者たちは、森に到着すると未楡の情報を元に、オーガの出没地域に罠を仕掛けに行った。
 向かったのはレンジャーのノリコ・レッドヒート(ea1435)と未楡、そして護衛役としてハーフエルフのナイトであるグレイ・ドレイク(eb0884)とジャパンの浪人、高葉龍介(ea1745)だ。
 ノリコは草や蔓などを結んで行動を阻害するような罠を作り、未楡は枝のしなりなどを利用して、発動すると痛みを与える罠を仕掛けていく。
 その間グレイと龍介は、オーガからの奇襲を受けないように、女性2人が罠作りに専念している間、周囲を警戒していた。
 ノリコが三つめの罠を仕掛けに草むらを掻き分けたとき、打ち殺されたまま放置されている、蝿のたかった死骸を目にした。
 黄色いリボンで後ろにかわいくまとめられたブラウンの髪を揺らして身体を引くと、顔をしかめる。
「動物好きとして、ちょっと見過ごせないよね」
 未楡は枝を曲げようと手は離せなかったが、視線だけ向けると悲しそうに柳眉を寄せる。
「草木‥‥動物たちも‥‥皆悲しんでいます。これで、オーガたちが森を立ち去ってくれるといいのですけど」
 護衛のグレイも死骸を目にすると、拳を握って怒りをたぎらせた。
「いいや。連中はやり過ぎた、打撃騎士の名に掛けて、奴らを打ち砕く」
 2人が罠を仕掛け終わったとき、遠くでうめきが聞こえた。未楡が仕掛けた罠にかかった、オーガの悲鳴のようだった。
 4人がどうなるかと耳を澄ませていると、墓場のように静まり返った森を、ドンと揺るがすような大きな音が響いてきた。オーガが力任せに近くの木立に八つ当たりをしたようだった。
 存在を気取られては居ないが、オーガは4人の方角へ向かっているようだった。
 仲間の待機している森の入り口とだいたい同じぐらい離れていたので、未楡が仲間を迎えに行き、ノリコはグレイと龍介に見守られながら、弓の使いやすそうな樹上を探して登り始めた。
 仲間たちと合流するのと、ロングボウを引き絞ったノリコが、射界にオーガを捕らえたのはほぼ同時だった。
 弦上に二本つがえられた矢が、ヒュンと空気を裂いて飛び出していく。
 二本とも肩口に突き刺さり、オーガが再びギャっと声をあげる。しかし射手の存在を見つけると、今度は樹木への八つ当たりではなく、冒険者の一団に迫ってきた。
 冒険者は隊列を敷き、オーガの突撃を迎え討とうと構える。接敵寸前で、先頭のオーガがノリコの罠にかかり、転倒した。後続のオーガは、仲間を踏まないよう立ち止まる。
 ハーフエルフのウィザードであるアレクサンドル・ロマノフ(ea8984)は、小鳥のように小首を傾げた。
「ん? これってもしかして、チャンスなのかな?」
 二の腕の素肌がのぞくおしゃれなローブに包まれた、アレクサンドルの両腕が軽く持ち上げられると、黒い光の帯がオーガたちへ直線上に伸びる。
 グラビティーキャノンによって、転倒を警戒していた残りのオーガたちも大地に打ち倒された。
 無様に転がったオーガの一団を目の前にして、戦闘が開始された。
 盾を手に防御に専念しようと考える未楡と、メタルクラブを手にして猛るグレイが正面に展開する。
 グレイは倒れているオーガに一撃くれると、挑発した。
「此処がお前達の終着点だ、掛かって来い」
 そして攻撃が来るのを待って、打ち合いざまに力任せの一撃を見舞う。
 命中力の落ちる大振りを、相手の攻撃を待つことによって補ったのだ。
 渾身の一撃は、バカ力のオーガにも勝るダメージを生み出した。
 正面は大丈夫だと判断した龍介はかつて敵同士として戦いライバルと見込んだ国定京香(ea8321)に、どちらがオーガを先に倒せるか勝負しないかと持ちかける。
「どうだ。俺の挑戦を受けないか?」
 オーガを目にしたときよりも敵愾心に燃える龍介を、京香は面白がりゆっくりと頷いた。
「ただの鬼退治だと思っていたが、そういう趣向も面白いか」
 2人は、それぞれの獲物を求めて左右に分かれた。
「「助太刀無用!」」
 そう言って、お互いに別の無傷のオーガに向かって馳せる。
 龍介は明王彫の剣を振り回し、オーガに躍りかかった。蜂の羽音のようにブンブン唸る剣先が、オーガの体表に赤い線を刻んでいく。
 京香は十文字槍を油断なく下段に構えて、オーガへ迫る。褐色の肌に幽玄の趣がある白髪を棚引かせてオーガに近づく姿は、ジャイアントゆえの巨躯とあいまって狩る者と狩られる者の立場が入れ替わったのを、如実に示していた。
 交互に打ち合いオーガにダメージを与えていき、オーガが弱って動きが鈍れば、恵まれた上背を利した突き下ろしを行い、更に大きなダメージを狙う。
 二人の鬼気迫る戦いに、ハーフエルフのバードであるチハル・オーゾネ(ea9037)は困っていた。
「‥‥手出ししたら怒られてしまいますよね」
 ノリコの援護射撃に苛立って、登った木に迫るオーガに向かい、チハルは牽制のムーンアローを放つ。
 淡い光の矢が、前衛を器用にすり抜けてオーガに命中した。新たな射手の登場に、オーガは怒り標的を変える‥‥が、一度ひっかかったノリコの罠に、もう一度かかって転倒してしまう。追い打ちのように、ノリコの矢がまた二本突き刺さった。
「ふふふ☆」
 チハルは樹上のノリコと目を合わせ、いたずらっぽく微笑んだ。
 龍介の猛攻を受け、血だるまになったオーガが猿のような悲鳴をあげた。そして算を乱し逃げようとする。
 龍介は返り血にまみれた凄惨な姿で、京香を振向く。京香のオーガは、まだ戦っていた。
 叫び声に京香もまた龍介を見て、勝負の決着を知る。
「今回は、おまえの勝ちだ」
 隙を見せた京香にオーガが襲い掛かるが、京香は振向きざまに攻撃時の隙を狙った一突きを見舞う。
 十字の別れ所まで突き刺さった槍を引き抜くと、ぬるりと赤い血で染まった穂先が姿を現した。こちらのオーガも、腹を押さえながら情けない声をあげて、逃げようとした。
 オーガの一撃を一度ならず受けている二人へ、エルフのクレリックであるルチア・ラウラ(eb0020)が、すこし咎めるような調子で近づいた。
「もう、治療を行なってもよいですか?」
 2人の勝負に遠慮して見守っていたようだが、ルチアとしてはオーガの振り回す棍棒が、癒しがたい深手を与えはしないかと気が気でなかったらしい。龍介と京香は苦笑して顔を見合わすと、ルチアに謝罪して改めて治療をお願いした。
 グレイはルチアや未楡、そしてノリコやチハルの援護もあって余力が残っていた。オーガの半数が逃げ出して戦闘の趨勢が決まったと判断すると、今まで相手していたオーガを未楡に頼み、チハルが罠に誘い込んで転倒したオーガを踏み越えて、龍介や京香から逃げようとするオーガの退路を塞ぐ。
 逃げ場を失ったオーガは逆上してグレイに打ちかかるが、深手が災いして片方は死に、もう片方は強引にグレイを押しのけて逃げ出した。
 ルチアの手当てを受けた順番で、龍介や京香もまだ戦闘意欲の残るオーガの掃討に加わるが、グレイは殲滅を目指したので、討ち漏らしたオーガを単身追って行く。
 射程が届く範囲ではノリコも援護したが、グレイの姿が森の奥へ消えると、少し心配した。
「これに懲りて、もう来ないでくれればいいけど」
 グレイは結局一匹を仕留めきれなかったが、あれだけ追われれば二度と森には近づかないだろうと、ノリコは確信した。
 オーガの脅威がなくなったことを確認すると、未楡が提案した。
「出来れば‥‥少しでも、元の安らぎと温かみに満ちた‥‥平和で美しい森を取り戻したい‥‥と言う、依頼人達の気持ちを汲んであげれたらいいなって思うんです」
 ルチアが嬉しそうに、協力を申し出る。
「私にできますことがあれば、力の及びます限り」
 そう言って、踏みにじられた草花や、痛めつけられた木々にルチアは植物について知る限りの手当てを施す。
 傷ついた動物がいればその手当てもしてあげたかったのだが、オーガは去っても恐怖は残っているのか、やはり森の中に気配を現さない。
 グレイも倒したオーガの埋葬を済ますと、森の動物のために食料を置いたが、寄ってくる気配は無かった。
 チハルは鳥の声がしない森を淋しく思い、悲しみで胸が満たされた。チハルの考えでは、小鳥たちはどんなバードにもまさる森の歌い手なのだ。
 そう悲しみにひたっていると、未楡から声をかけられる。
「チハルさん一曲お願い出来ませんか。あなたの優しくて温かい旋律で‥‥鳥や動物たちの心を癒してくれませんか」
 癒せる自信はなかったが、森に歌を取り戻す最初の一羽になろうと、チハルは歌い始めた。
 傷ついた森への悲しみ。消えてしまった動物たちへの追憶、そしてかつての森を取り戻そうとする仲間たちの献身。
 チハルの気持ちが盛り上がり歌声が高まっていくと、唱和するように小鳥のさえずりが加わった。やがてそれに誘われるように、動物たちも冒険者を見に来たように、森の奥から姿を現してくる。
 手を触れても逃げず、ルチアは魔力の及ぶ限り、傷ついた動物たちへ治療を施していった。
 歌い終えて初めて、異変に気づいたチハルは、森の散策を楽しんでいた依頼人に、素敵な歌をもう一つ届けられそうだと喜んだのだった。